064
午後からルドルフと一緒にギルドへ向かった。
正式な依頼がどうなっているのか詳細を確認するためである。
昨日の時点では、夜会・酒宴か領地間移動か、という程度の話だったが、どうやら支部長はもう夜会や酒宴の方で話を進める気らしかった。
まあ異論もないのでそのまま進めておいてほしい。
「今回の依頼は夜会の護衛となっていますが、…酒宴に近い小規模な夜会での護衛ですね」
依頼票を手に、キャサリンちゃんが説明してくれる。
レコルナス領主家と縁のある商会を招いた顔合わせの席で、主催は領主の寄子にあたる男爵家だそうだ。
黒竜騒動で街に妙な熱気が残っているため、念のため冒険者護衛を追加したいという話らしい。
「念のため」
「ええ。念のためです」
念のためって何。
「お二人には、会場内で主催者側の近くに控えていただきます」
「背景に溶け込む感じ?」
そう、時代劇の用心棒のように。後から出てきて偉そうなやつ。
「いいえ。見える位置です」
「溶け込んだら駄目だろ、特にお前」
「黒竜討伐に関わった高ランク冒険者が護衛に入っている、と分かることにも意味がありますので」
「そういうものなんだ?」
貴族社会難しい。
「ところで、夜会と酒宴の違いって何?」
いまいち区別がわからないんだよね。
私の中ではどちらも貴族や商人が集まって飲み食いする会みたいなイメージだ。
「夜に行われる多少の飲食をともなった社交の場が夜会、飲食を中心とした集まりが酒宴です」
なるほど。やっぱりわかんないね!
「酒宴と夜会の区別がつかないよ!」
「どっちも大差ねえだろ。夜に貴族と商人が集まって飲み食いする場所って覚えとけば良いんじゃね?」
「そうだね」
「貴方がたならもう、その認識でよろしいかと思います」
なんだか匙を投げられた感があるんだが。
「武器の持ち込みは主武装の一点のみと指定されていますので、そこだけは厳守をお願いします」
「私の主武装、双剣なんだけど…」
二本で一組なんだが。
……駄目なんですね。
「一点で、お願いします」
「はぁい…」
仕方ないなぁ。
「ね、ルドルフ。後でブルーノさんにも話聞きに行かない?」
「あー。元Aランクだもんな。聞きに行くなら今すぐだな」
確かに夜の仕込みに入るまでがタイムリミットだね。
私たちは急いで銀麦亭に戻り、休憩中だったご主人、ブルーノ氏に相談しに行った。
「そうだな……。酒宴とか夜会の護衛はな、だいたい戦いもしないくせに疲れる」
「嫌な情報だな」
「立ちっぱなし、飲み食いできねえ、話しかけられても余計なことは言えねえ」
「拷問なのかな?」
耐えるためには前日あたりにルドルフと飲んでおくべきか。
「お前、前日しこたま飲んでおこうとか考えてねえか?」
「アルフレート。冗談だよな? 駄目だからな?」
「…わかってるよぉ…」
*
「ねー、ロザリン。私ね、夜会の護衛をすることになりそう」
その夜。ルドルフと相談して決めたことを、ロザリンにも情報共有した。
ちなみにノアのおやすみコールは先程終えたところ。
「予定はいつ?」
髪を梳かしながらロザリンが問う。
「まだ正式には。夜会自体は前から予定されてたやつだったらしいんだけど、黒竜騒動のせいで追加の護衛が欲しいんだって」
「そう。急な夜会ではないのね」
「急に夜会って開けるものなの?」
「余程の事情がなければ難しいわよ。招待、料理、酒、楽師、使用人、警備。準備することはとっても多いのよ?」
さすがロザリンである。
そういった事情にも妙に詳しい。
「ね、服装ってどうしたらいいと思う?ルドルフはいつもの白竜装備で行けって言うんだ」
浮き具合が気になるんだが。
「でしょうねぇ」
「でしょうねって言われた!?」
「護衛なら防具を優先するものよ。けれど、少し整えましょう」
「整える?」
マジックバッグから装備一式を出して並べてみる。
「汚れや留め具、髪、襟元。見られる場所は多いのよ」
「そっか。綺麗にしとかなきゃ」
コートと手袋は白竜革でほぼ傷まないせいでほぼ新品。一応毎日魔法で洗浄しているので綺麗なままだ。
中に着ている耐刃繊維のシャツとボトムは少々くたびれてきている。
先日のロザリンとの外出で買ったものにそろそろ替えようか。
靴はちょっと問題かな?いつものミスリル板の補強の入った靴も若干傷んでる。まだ実戦には使うけど見た目は良くない。
予備のブーツにしようか。ユニコーン革なので色合いはコートにも合うだろう。
「ね、武器って、夜会の間、没収されると思う?会場には主武装一点だけは持ち込み可って言われたんだけど」
思い浮かべたのは水蜜の館。入った時点で腰に下げてた剣は預けることになってた。マジックバッグは没収されないのでルール緩いなって思ってた。
「爆発するとか妙な効果のある武器でもなくて、数を指定されて護衛として入るのなら、取り上げられることはないと思うわよ?」
なるほど。
「じゃ、剣は新しいのを買おうかな…」
普段使っている主武装の剣が高ランク冒険者にはありえない低品質だってのは自覚してるんですよ。わかってるんですよ。
「そのへんはルドルフにでも相談したほうがいいんじゃないかしら?」
「うーん」
「いつもみたいに安物は駄目。見た目だけのものも駄目」
「駄目かな?見た目だけのでも充分イケると思ってたんだけど」
まさに飾り用の剣を買おうとしてたよ!
無駄にお金掛かるねぇ。
「私には剣のことは解らないけど、詳しい人なら見抜くと思うわよ?」
「そっかー…。でもこれから打って貰うには時間が無いな…」
…仕方がないな。
「剣は…、仕方がないので自分で作ります」
そう言ったら、ロザリンが何かを諦めたみたいな溜息を吐いたのが、視界の隅に映った。
無駄なところにお金を使わない、いい夫を目指すよ!
もう原料は黒竜の肋骨でいいんじゃないかな。
早速、丁度よさげなサイズの肋骨を選ぶ。
強度的には鉄の剣よりは薄くできそうなので、小さめの肋骨で良さそう。
魔法で削り出していく。
形自体は現在使っているものに極力寄せて。
刃ができたらその表面をミスリルで薄くコーティングし、魔法が通りやすいように加工。ついでに防汚と補強の魔法も掛けておく。壊れた剣から外しておいた柄をつけ、余ってた白竜革を巻いてみた。若干の装飾も施しておこう。
…うん。見た目は高そう。
明日ルドルフに見せてみよっと。
「これで武器はおっけー」
あ。剣帯が浮くなぁ。これも十年以上使ってるし。いつもの剣を下げるにはめっちゃ合うんだけど。
「剣帯だけ明日買おう」
試しに着てみようかな。
寝衣代わりの上下を脱いで、着てみる。
新しい防刃繊維シャツ、まだ繊維が固いなぁ。
「ね、ロザリン。これでどうかな?」
「…すごく似合っていて格好良いとは思うんだけど、本当に飾り気がないわね」
「意匠だけならまるで初心者装備との評を頂いております」
見栄えが必要になる場面は想定していなかったからね。
「飾り…」
何かを思いついたのか、ロザリンがクローゼットから何かを持ってきた。
お顔が真っ赤だ。
「アル、これね?襟につける飾りなのだけど…。アルにどうかなって思って」
ロザリンが差し出してきたのは真っ赤な宝石のついた襟留めだった。
ロザリンの色だねぇ。そこが恥ずかしかったのかな?
白竜革のコートの襟につけてみると、その鮮やかな赤がとてもよく映えた。
…いいじゃないか。かなり良い。
この石、詳しくもない私から見てもかなり良い石に見えるんだけど。
「ロザリン、ありがとうー!」
礼を言うと、ロザリンからキスをされた。
抱きしめたいが、私の服装がちょっとよろしくない。
装備のままではロザリンの肌を傷つけそうだ。
そんなことを考えているうちに、パッと離れてベッドに飛び込んで行った。恥ずかしかったらしい。かわいい。
ひとまず、当日の服装に関しては何とかなりそうだね。
もしこういうのが今後も増えるようなら、実用品と夜会等の護衛用で別の装備を用意しておいてもいいかもしれない。
実用品はどうしても傷むからね…。
なお、礼装を仕立てる気はない。
私は貴族社会に馴染むつもりはない。いち冒険者でありたい。
そのあと普通に寝ようとしたら、また怒られた。
人族の誘い方、気づくの難しい。
めっちゃ搾り取られたあと、泥のように眠った。




