061
集落から戻った翌日、私はギルドに行ってみることにした。
昨日の商人ローレンツ氏から話を聞いて、方々に迷惑をおかけしたのでは?と思ったせいもある。
それより何より、朝食時にリィナから苦情を申し立てられたためでもある。
「もー!私はもう黒竜肉なんて持って無いんだってばぁぁ!」
リィナはとても憤慨していた。
今日は朝から目深に帽子を被っていてかわいい。
フォークで突かれたスクランブルエッグが、さらにスクランブルになった。
「なんか、ごめんなさい?」
「なんで疑問形なのよぉぉ!」
「いや、私が悪いのかなーって」
「エルフの冒険者が黒竜肉を持ち込んだって噂になってるせいで、私にとばっちりが来てんのよっ!!」
ほう?
「黒竜肉を持っているエルフの冒険者はお前か、なんてそこらじゅうで聞かれるのよ!?」
「リィナ、エルフじゃないのにねぇ」
「あんたが言うなぁぁ!」
めっちゃガルガルしてる。
見た目が人族の13歳くらいなせいで妙に微笑ましい感じだけど。
「実際に一度でも純粋なエルフに会ったことがあれば分かりますけど、普通はハーフエルフだってエルフに思えますよ」
…なるほど!
フェイの説明には説得力があるな。
確かにリィナは物語に出てきそうというか、尖った耳に弓持って華奢で森が似合いそうな感じだもんな。
ディー◯リット様みたいな。
そっか。種族が目印になってしまっているのか。
せめて、そのとばっちりだけでも止めたい。
実際に探されているのは私なのだから、正しく私に行き当たるようにすればリィナへの付き纏い等は減らせるだろうか?
私への付き纏いが増える可能性については、まあ、後で考えることにしよう。
そういう理由もあって、ギルドを訪れたのだった。
種族が目印になるならポチさん連れもまずいかと思い、ポチさんは銀麦亭で待機してもらっている。
ギルドの受付広間はいつもより一般人率が高めに見えた。
何も知らなかったら、『今日は依頼人が多いんだなぁ』なんて、呑気に思ってたに違いない。
ただし、依頼人だったとしたら護衛依頼を出すタイプの、妙に身なりが良い人が多い。
それから、冒険者を見る目が獲物を探すそれに近い。
あ、これみんな商人だ。
やべえ。流石にこの人数全部が来たら無理だわ。
そう思った瞬間、私は認識阻害の魔法を自分に掛けていた。
リィナへのとばっちりを減らしに来たはずなのに、私は最速で隠れた。
リィナすまん……。
でもこれは無理だ。
ちなみに今掛けた認識阻害魔法は見えなくなるわけではない。
ただ、私のことが気にならなくなる程度だ。
人混みの中で、なんとなく素通りされる感じである。
商人らしき人々の近くには、それぞれに護衛らしい冒険者も何人か立っていた。
レコルナスの冒険者とは少し雰囲気が違う。
なんか豪華だな。装備に装飾とかもあって綺麗。王都だと流行ってんのかな。
ベテランっぽい剣士は立ち位置や目の配り方が対人の護衛に特化したような感じだね。
王都の冒険者かな。
そのうちの一人と目が合った。
向こうは一瞬だけこちらを見て、それからすぐに視線を外した。
見なかったことにされた気がする。
私の認識阻害魔法は掛ける強度にもよるけど、自分が困らない程度、知り合いには発見してもらえる程度に抑えると、『そこに居るはず』と考えて探されてしまった場合に、見つかってしまうことがある。
先程のは後者だね。
ちなみにキャサリンちゃんには完全にバレていて、ぐぬぬ、って顔をされている。
キャサリンちゃん美人なのに。
「……小会議室へどうぞ」
キャサリンちゃん、笑顔が怖いです。
お説教部屋? お説教部屋なの?
いつもの小会議室へ通されてキャサリンちゃんの向かいに座らされて支部長を待つ間、つい背中が伸びる。
支部長が出てくる案件になってたのか…。
「待たせたね、アルフレート君」
「お手数をおかけしております」
「いや、君には恩もあるからね…。普段なら注意するところだが、今回に限っては認識阻害魔法を掛けていてもらえて助かった」
「本当に、お手数をおかけしておりますぅ…!」
ごめんよ、迷惑を掛けるつもりはなかったんだ。
「あの、これ遅くなったけど、黒竜討伐部位の魔石です」
「はい。確かにお預かりしました。さて、どうやらある程度は話も伝わっていると判断していいのかな?」
「えーと…。私が不用意に知り合いに渡した黒竜肉で騒動に発展してしまった、とか…」
ガルガルしてたリィナの話からすると、そういうことらしいね。
「概ねその通りだ。正確には、君が黒竜肉を第三商業区の串焼き屋に持ち込み、それがギルドを通す前に市中で売られたことで、君個人がそれなりの量の黒竜肉を保有していると知れ渡ってしまった」
「そっ…そうですね」
「しかも、子竜ではなく親竜の肉をね」
「ぅあ…」
認めざるを得ない。完全なやらかしだ。
「ギルドを通さない流通経路は、儲けも大きくなるし、それはそれで構わないんだが、そうするとギルドとしては所属する冒険者を守ることもできない。ご理解いただけるかな?」
めっちゃわかった。追い回されて自力で何とかしなきゃならなくなるんですね。大店の商人や貴族からでも。
こくこく頷いておく。
「さて、ギルドから質問だ。黒竜の素材、及び肉。それを市場に流す気があるのか無いのか。商人たちはその情報を求めて連日ギルドへと押し寄せている」
それはそれは、大変なご迷惑を…。
「子竜の肉は、ルドルフたちから三百キロほども納めてもらったので、これから順次流していく予定だ。まずは保存費の嵩む肉から。骨や鱗はその後になるね」
親竜のほうの黒竜肉も今ならたくさんあるので百キロくらいは出してもいいし、肋骨の2〜3本は換金してしまってもそれほど惜しくはない。
どうしよう。
丁度いい量というものの見当が、さっぱりつかないよ…!
「正直、どの程度出せばいいのか分からないんだ…」
ここは正直に伝えて探ってみる。
「市場が混乱しない程度に出そうと思うよ」
「アルフレートさん。白竜のときよりかなり少なめで大丈夫ですよ?」
具体的な数字ではないが、キャサリンちゃんがアドバイスをくれた。
確かあの時は100キロほど出したんだったか…。
考え込んでいると、キャサリンちゃんはジェスチャーで何かを伝えようとしてくる。
ふむ。
手で輪を描いている。
そのくらいのサイズ、ってこと?
ちっちゃくない?バーベキュー1回で消えちゃわない?
「何回も流すのは面倒なので、今回だけで取引きも終わらせたいです」
「……なるほど。数回に分けたりせず、一回きり、ということだね?」
「はい。市場に流す分はこれだけです、って言える量を一回だけ出して、あとは売りません。革は私も使いたいし」
肉は身内でも楽しみたいし。
「なら、親竜肉を十キロ。肋骨を一本。売ってもらえないだろうか。ギルド預かりで競りにかける。それをもって、親竜の肉と素材については市場流通分を終了とする」
そんなでいいの…?
白竜のときは、はからずももげてしまった脚一本を流したんだけど。
「そうだ。以後、君に直接交渉しても追加は出ない、とギルドから告知する」
「それでお願いします。…そんな少量で商人さんたちは納得してくれるんですかね?」
「量としては少ないが、目的は需要を満たすことではない。市場に流れる分を確定させることだからね。それに、一般的な冒険者であれば本来持ち帰れる肉は僅かだ。肉よりは革、骨、魔石、肝。冒険者ならそっちを優先するし、持ち帰った素材は売らずに自分の装備増強に用いるものだ」
そ、そうだったのかーー!?
「なんだかその驚いた表情が妙に腹立たしいわ」




