006
この串焼きのお店を飛竜便屋さんのセオドアにも教えてやりたいと考えつつ串焼きを堪能するアルフレートです。
フォレストシープ、ちょっとクセがあるけど臭みもなくて美味しい。
ファングボア、どうやってこんなに柔らかくしてるんだろう。
こっちはタレより塩のほうが美味しいな。
何かハーブが擦り込まれてて、いい香りがする。
冷めててこんなに美味しいってどういうことなの。何なんだあの店主。魔法使いか。
この串焼きならお茶じゃなくてお酒が呑みたい。
休憩していると、後方から物音がし始めた。ちょっと気を引き締めて耳を澄ませてみれば、どうやら魔物ではなく人間。多分冒険者かな。
しかしそれにしては出す音が大きいね。
ガシャガシャと金属同士が触れるような音もするし、話し声すら聴こえる。
このへんなら低くてもランクD以上の実力が必須なはずなのに、歩き方といい不用意な行動といい素人じみてる。
運良くここまで来れただけの低ランクだろうか。
休憩セットを片付けて立ち上がると、角を曲がった冒険者たちが姿を現した。
「あっ。追いついたね」
私が先に居るのを判っていたような物言い。私や他の冒険者に露払いさせて後をついてきたか。
入口で話し掛けてきた冒険者だ。
最初に絡んできたストーカーパーティよりもたちが悪い。
あぶないよぉぉぉ!なんでここまで来ちゃったのーーー!!
「自力で帰れるうちに引き返せ」
少しだけ威圧を込める。
「はは。大丈夫だよ」
「オレたち余裕だったし」
やっぱり。まだ何も判らないほどの駆け出しか。
まずいね。
「私は君たちを助けない。冒険者の生死は自己責任だけど解ってるよね?」
「ハァ?助ける必要無えし!」
「先に言っておくと助けて欲しければ即金で一回につき大金貨二枚先払いだよ。それ以外では何があっても助けない。近くに居たからといっていちいち無料で助けてたらキリがないからね」
「お、俺達は一角狼だって倒せる!」
「それ以上が出てきたらどうすんのさ?それにたくさん出てきたら?」
「倒せる!俺達には魔剣があるんだからな!」
ダンジョン内で運良く入手したか。
いや無駄な自信持たせた原因だから不運か。
武器の性能頼みは危険だよ。
それに危険はなにも戦闘中だけとは限らない。
まだ彼らはそれを学んでないのだろう。
「………ふーん」
引き返すのを確認してから立ち去ることにしよう。
世の中の世知辛さを学ぶ機会くらいあったっていいだろうし。
意を決したような面持ちで鍾乳石でできた細い道を剣士が進み始める。
細い道、というけど本当に細い。片足の幅しかない。しかも中央が山状に盛り上がってるしそれも均一じゃない。でこぼこしてる。
とてもじゃないけどまともに歩ける道じゃない。
剣士くんは腰に佩いた魔剣とやらが重いのか、時々そちらを気にしてるし少々よたよたしてる。
邪魔にならないように背中に杖を背負った魔法使いくんがその直ぐ後をついていく。
まさか同時に3人とも渡ろうとしてないかい?
誰も魔物への警戒とかやらないの?
無防備にも程がある。
「す、滑るから気をつけろよ!?」
「…う、うん」
「あと半分だ…。へへっ。これくらい何ともねえ!」
そうやっているうちに私の後方から一匹の夢幻蝙蝠がやってくる。
蝙蝠って音波で進行方向の様子を察知してる生き物って記憶があったので、音、つまり振動を操作して私を蝙蝠たちから見えなくする。
すると夢幻蝙蝠は私の傍をそのままキレイに素通りし、3人へと襲いかかっていった。
「ウワッ!夢幻蝙蝠だ!」
「な、なんで!?」
「くそ!迎え撃つぞ!」
おおかた蝙蝠の来る対岸側に私がいたのでアテにしていたのだろう。
助けないって言ったのに。
ヒトの獲物まで奪うほど強欲じゃないんですよ私。
がんばれよ。私は頑張りたくないです。
剣士と槍使いは無茶苦茶に各々の武器を振り回し、魔法使いは魔法ひとつ撃つこともなく青褪めてしゃがみこんでいる。
もしかして杖とか魔法発動体が手にないと何もできない初心者だったのか?
以前フェイに聞いた話なのだけど、人族の魔法使いは魔力発動体がないと微妙に威力や精度が落ちたりするし初心者だと発動すら怪しいらしい。
腕で顔を庇う以外何もできないままの魔法使いの腕に蝙蝠が喰らいつこうとしたとき、出鱈目に振っていた剣士の魔剣が偶然当たり、蝙蝠の腹を斬り裂いた。
斬撃と共に風の刃が出て攻撃が補助されるものらしい。
蝙蝠は辺りに内臓を撒き散らしながら落ちていき、そのまま石筍に刺さって絶命したようだった。
けれど今死んだ蝙蝠が呼んでいたのか、彼らの後方から新たな夢幻蝙蝠が姿を現した。
「うわぁ!また来た!」
なるほど。これが無限蝙蝠。
彼ら的には一難去ってまた一難だね。
「クソっ!お前も魔法撃てよ!」
「む、無理だよ!こんな場所じゃ集中できない!振り回せばいいだけの剣とは違うんだぞ!?」
「なんだと!?」
とうとう仲間割れまで始めちゃったよ。
でもこんなとこで大声上げないでよ。魔物が寄って来てるじゃない。
10メートルくらいのところまで何かが近づいて来てる。四足の獣のようなのでとりあえずデヴィルモスではないようだね。安心だ。さて何だろう。
光の届く範囲に現れたのは一角狼だった。
わりと大きな個体みたいで、私と目線が近い。毛皮も立派で昨日のとは比べようもないほどカッコイイな。角も長くて歴戦の王者といった風格すら感じる。
傷のない状態で持ってく仕事だったけど、コイツだったら剥製にするにも最適だっただろうなぁ。
一般的に一角狼は群れで行動するので1匹だけなのが珍しい。ダンジョンだからなのかな?
さて。
一角狼は、自分より弱そうな相手を狙う。何が判断基準なのかは謎だけど。
昨日も無手のフェイを囮にして引き寄せた。
だから、私を無視して三人の前へ座った時点で答えは出ている。
私とは目を合わせようともしない。
ほらね。私にとって一角狼は全く脅威ではないんだよ。一角狼は。
恐ろしいのはヤツだ。鱗粉撒き散らすアイツなのだ。明かりさえあればヤツは誰に対しても等しく襲いかかってくる。
「やったぁ!当たったぞ!」
「ぉ…おい、前見ろ!」
「ヒッ…」
「ぁああぁぁ…」
ようやく蝙蝠を倒し、今一角狼に気づいたらしい。
足場がコレじゃなければ既に狼に襲われていたんじゃないかな。
「自力で帰れるうちに引き返したほうが良いんじゃない?」
漏らしちゃうほど怖い思いしたんなら帰んなさい。
「ひ、卑怯だぞ!」
「うん?」
「ねぇ、帰ろうよぉ…」
「おいっ!今日は戻るぞ!」
彼らが退却を選んだらしいところで、私は先へ進むことにしたのだった。
ゴハンにありつけなかった狼がクゥンとか鳴いてて哀れだったので、去る前にマジックバッグから霧兎の肉を取り出して与えた。
解体にミスしたもので食べるとこが少ないけど、美味しく食べてくれ。
解体するとき盛大に指を切った曰く付きの霧兎だけど。
通路の先はしばらく、多分200メートルくらい直線のようだった。
罠のたぐいも無し。警戒させて無駄に疲れさせる通路?
警戒する必要がなければ何も無くて歩きやすい道だ。ただしデヴィルモスに出会いたくないので索敵だけは全力でするよ。
突き当たりを右へ曲がってすぐの深い穴を飛び越えれば、次のフロアへ続く階段だった。
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階段を降りると、道?が3つに別れていた。
うーん…。
道?
左はふつうの道。今まで通ってきたのと同じ通路が続いてる。
正面は、やたら広い道。両わきに柱が並んでて、装飾の石像のなかにガーゴイルくらい紛れていそうな気配がする。
そして右。マップを確認すると行くべき道?はこの右側なのだけど…。
ものすごく狭い。
つい道に「?」をつけてしまうくらいには道なのかどうか疑問を覚える。
道?っていうよりヒビとか隙間っていうやつだよねこれ?
どうみても私の肩幅以下。
身体を横向きにしても、胸板の厚みぎりぎりじゃないか?
それがマップを見る限りではかなり長く続いてる。
斥候だったデイヴィッドは、たぶん装備も軽く、私よりずっと身体も薄かったのだろう。
それに身長が違えば、引っかかる場所も違う。
私の肩や胸がちょうど引っかかる位置でも、背の低いデイヴィッドなら通れたのかもしれない。
現在の私は骨格と上背のせいで見ようによっては一般人体型に見えなくもないってだけで実際にはそうでもないのだ。
ふぅ。
とりあえず剣帯を外してマジックバッグへ仕舞う。
行きますよー。えい。
身体をその「道」というより「隙間」というのが相応しいそこへ、押し込む。
……アカン。ギリギリ通れるけどやっぱり胸が圧迫されて呼吸がものすごく苦しいよ!
たぶんもう少し背が低いか胸板薄ければ普通に呼吸できると思うんだけど、私だと全然空気が吸えなくて酸欠になりそうな気がしたので早々に諦めてすぐに引き返す。
…………アレ?
なんか引っ掛かって動けない。
このダンジョンに入って以来最大のピンチだよ!?
「うう…抜けない……」
ビジュアル的にも壁の間に挟まって動けなくなってるエルフの成人男性とかシュールすぎる。
なんか魔法でなんとかできないかと思ったけど具体的に何をどうするかが思い浮かばない。
敵を弾き飛ばす要領で圧縮した空気か何かで押せばいいのかな?痛そうなんだけど。
あと数十センチで手が縁に届くんだけど…!
個人的にものすごい窮地に陥っていると、トラブルというのは重なるものなのだろうか。
魔物の気配がした。
一角狼だ。
うん?さっきの個体かな?
綺麗だったのでよく覚えてるよ。
一角狼は「自分より弱そう」な者を狩る。
動けない今の私はどう見えてるんだろうか。
もし飛びかかってくるようなら遠慮なく消し飛ばそう。
しばし見つめ合ったあと、狼は尻尾を振って私に近づいてきた。敵意はない、という意思表示なんだろうか。
ちなみに狼的にもこの隙間はギリギリのようだった。エルフと狼が壁の間にみっしり詰まってさらにシュールな絵面になったよ!
近づいてきた狼に左手を舐められる。
撫でてやると、何度かこちらと隙間の出口を見比べるようにキョロキョロしていたが、そのまま袖を噛んで、引っ張ってきた。
おぉ!?
「ナイス、狼!ありがとー!」
ゴハンのお礼のつもりなのかな?
一角狼のおかげで手が掛けられる場所まで戻ることができた。
手さえ届けばあとは腕力と身体強化でどうとでもなります。
「ふんぬぅー」
できるだけ胸筋に力を込めず腕だけで引くのをイメージする。
「ガゥ!」
「ぬ、抜け、たあぁ!!ありがとー!!」
一角狼をわしゃわしゃと撫で回す。
なんて危険なんだ、ダンジョン。
やっぱりダンジョンなんて嫌いだ。会ったこともないデイヴィッドとやらへの怒りがふつふつと沸き上がってくる。
こんな細いこの道しかないとは思えないし、きっと正面か左手側からでも行ける気がするんだよね。
私は別の道を行くよ。
もしこの道からしか行けなかったら細身で小柄な人以外通れない。上背ある人や前衛職は通れない人続出で攻略が難しすぎると思うんだ。
私が通れないことは既にわかりきっているので、マップにバツ印を記入した。
左の細い通路より、広くて見通しの利く正面のほうがまだ逃げやすい。正面の広い道を通ろうかな。
広い道、バンザイ。
正面の道は広いせいで明かりが天井まで届かないようだったので、追加で数個の光球を打ち上げた。
柱の飾りのふりをしたガーゴイルが数体居るね。
ところで齊藤朱里の知識によればガーゴイルって西洋建築の「雨樋の排水口」だった気がするんだよね。
屋内なのに雨樋ってどうなの?降るの?まぁいいけど。
一角狼が鼻先で軽く腰を押したことで双剣を仕舞いっぱなしなことに気づいた。早速装備しなおし、足を踏み出した。
罠のたぐいは無し。ガーゴイル像自体が罠のようなものだからかな?
私が歩くと狼も歩く。私が止まると狼も止まって私を見上げる。
ついてくるつもりなの?
正直寂しかったから嬉しいですけど!
いいなぁ。なんだか可愛く思えてくる…いや、いかん。狼は流石に飼えない。
そもそも冒険者にペットとか無理。はぁ…。
「でもまぁ今だけでも一緒に居てくれると私嬉しいよ」
一定距離まで近づくと動く仕様なようで、一度に二体ずつ音もなく舞い降りて襲い掛かってくるガーゴイルを、風の魔法を纏わせた双剣で叩き斬りながらどんどん進む。
足元に罠が無いから普通の歩調で歩けるのがありがたい。
二十体ほど斬ったあたりでガーゴイルは来なくなり、広い通路の端に辿り着いた。
そして目の前には両開きの大きな扉。装飾の彫り物が美しい。
私の身長の三倍以上の高さ。幅も6メートルくらいある。
扉の向こうにはまるで大聖堂みたいな広い空間が広がってる様子だった。
竜でも居そうな広さだけど、とくにそういった脅威になるような敵の反応はないみたい。
扉自体にも罠はない様子なので、素直に押し開けて中へ入る。
大空間の中央に設置されていたのは全長七メートルくらいのイヌ科っぽい形状のゴーレムだった。
竜種より強いことはなさそうなので、脅威ではない。安心した。
ゴーレムに用はないので近づかず周囲を見回すと予想通り右奥に扉、すぐ左手側に通路があるのが見えた。
行きたいのは右奥の扉のほうだね。
あの辺りまで近づいてゴーレムが反応するかどうか判らないけど、とりあえず見てるだけでは埒が明かないので行ってみることにする。
「もしかしたらあのゴーレムと戦うかもしれないから、そうしたら離れて隠れているんだよ?」
賢そうだし解ってくれたらいいなと思いながら狼に言ってみる。
クゥン。
ぴすぴす鼻が鳴るのが可愛いな。飼いたい。駄目だろうか。
「それじゃ行きますよ」
ゴウッ!
一歩踏み出すと、風が鳴った。
尻尾を床に叩きつけ、威嚇してきたらしい。
意外と動きが早いみたいだね。なかなかの風圧。
ゴーレムにしては速い…!
こちらとの距離を詰められてしまう前に、走って私の一角狼から距離をとる。
ふふ。あの子の名前何にしようかな。
長い尾を振って方向転換したゴーレムの前足を剣で叩き折る。ここで右手の剣が折れた。
相手が石なので若干損耗が激しい気がするね。
予備の剣を出して持ち替えながらバランスを崩したゴーレムの反対の前足を、強化の魔法をかけた脚で蹴り壊す。
新しい剣の刃に纏わせる強化の魔法を少し強めにかけてから、首を叩き斬った。
ゴーレムってどこまで壊せば倒したことになるのかがいまいち判らないのでちょっと苦手。
予備動作なのか倒れかけてるのかが判らないから少しでも動きがある間は延々破壊し続けるはめになる。
胴体、後ろ脚、尻尾、とだいたいすべてのパーツをバラして一メートル角以下に砕いてようやく、多分これくらい壊せばもう起き上がってこないはずと思えた。無機物系魔物怖い。
距離をとって様子を見る。
うん。動かない。倒せたみたい。ゴーレム系はバランス崩れると弱いので速攻で脚を狙うと早いのだ。
「よっし!出ておいでー。行こ?」
剣を鞘に納め、一角狼を呼び寄せる。
怖かったのか股に尻尾を挟み込んでぷるぷるしてた。お前は私が守るよ!
バラバラになったゴーレムの側を抜け、奥の扉へ。
扉を開けると普通の幅の通路が続いていた。
罠がひとつ、大きめの落とし穴があるようだ。
わざと作動させてみると六メートル先くらいまでの床が抜け、穴の底には何か液体が満たされてる。
酸?
ちょっと刺激臭がするのであまり近づきたくないけど仕方がない。
「ねぇ、お前あそこまで跳べる?天井低くて跳びにくいから無理そうなら私が運ぶよ」
聞いたら、ふんっ、て鼻を鳴らされた。
気を悪くしただろうか。
数歩後退ってから助走をつけて一角狼は跳んだ。
飛距離すごい!
全く危なげ無く着地をキメた。
私の狼カッコイイ。素敵。
さて、次は私の番だね。
私は高さ的に厳しいので空中に数箇所足場を作って飛び移ることにした。
今思えば鍾乳石のところでもその方法をとっていれば消耗も少なかったかもしれない、と反省。
助走をつけて軽く跳ぶ。足が下に着く前に足場を展開、固定、蹴ってから解除。また次の足が下に着く前に次の足場を展開、固定、蹴ってから解除。
2歩ほど途中に入れて反対岸へ到達した。
順調に、最初の階層より罠が凶悪になってきてるなぁ。




