059
※恋人同士の性的な会話・欲情表現と、性行為後を示唆する描写があります。
「ちょっと遅くなっちゃったね。ロザリン、今日はもうここで野営しない? このままレコルナスに向かっても、つく頃には真夜中だし」
さほど強い魔物が居るような地帯ではないけれど、できれば暗い中進むのは避けたい。
何より私はもう、いろいろ我慢できない。
「うーん。そうねえ」
ロザリンはちょっと不安そう。
「大丈夫だよ。この辺りは危険もないし」
ポチさんも居るし。
「そ、そう? でも私そんなの初めてで…」
「んふ。あなたの婚約者はベテラン冒険者ですよ。全然大丈夫。快適な空間を提供するよ」
目で見て実感してもらえるように、魔法で円を描くように土を盛り上げて簡易な壁を作った。
入り口のほかに窓もいくつか作ろう。
土壁の内側に入ると、外からの視線が思った以上に遮られる。
テントも持ってるけど、こうしたガッシリした壁があったほうが見た目にも安心感があるかな、と思ったからだ。
その壁の上にふわりと天幕用の布を掛けて屋根代わりにして完成。
風下に穴を掘っていつもの衝立を立ててトイレも完成。
視界に頼らない警戒用の境界もしっかり決めておく。境界線内に侵入したら軽い警告も飛ばそう。
あとはテーブルと椅子、寝床にする予定のマットレスを出した。
いつもの折り畳み式の簡易寝台ではない。
あれは狭い空間用にしかたなく用意したものなので寝心地が悪い。今回のコレは広さに余裕があるとき用にと用意してあったものだ。
これなら二人で寝ても、たとえ上で多少激しい運動をしても、大丈夫なはず。
「さ。食事にしよう」
テーブルの上に適当に食べられるものを取り出して、カトラリーを添え、ロザリンに着座を促した。
びっくりしてるロザリン、かわいいな。
ポチさんには鹿肉を軽く炙ったものをあげよう。
「どうぞ召し上がれ」
「え…ええ」
スプーンで掬ったスープがロザリンの口へと運ばれていく。柔らかい唇がスプーンに当たり、形を変える。
あの唇に触れたい。舐めたい。キスしたい。舌を絡めたい。
……じゃないよ。どんだけ欲求不満なのだ私は。
ロザリンにバレないようにテーブルの影でポジションを直しつつ、自分のぶんを食べる。
これを食べて片付け終えて、焚き火の前でお茶でも飲みつつ、いい雰囲気になってさりげなく誘えたらいいなぁ。
そんなことを考えつつ、つい視線はロザリンの口元から食事を嚥下する白い喉、華奢な鎖骨、そしてその下方の豊かな谷間へと移ってしまう。
つい、ため息を吐いた。
「アル?どうしたの?」
「ふぁっ!?ななななんでもないよ!」
慌てて視線を他所に向ける。
…駄目だ。
ついそういう方向へと思考が繋がってしまうみたいだ。
考えないようにしないと。
なんとか食事を終え、食後のお茶を用意する。
焚き火の前だの考えていたけど、移動するような余裕が今の私には無い。むしろ現状、諸事情により立ち上がれもしないのだ。
いざという時の対応だけはできるようにしておかないと…。
エロいことばっかりに侵食されてる脳内の、辛うじて残ってる私の冷静な部分は、そう警戒を強めていた。
「ねえアル」
「…ハイ」
シたいときの私はいろいろ雰囲気にダダ漏れているらしいので、どう断罪されるのかとロザリンの言葉を待った。
「素敵なご家族だったわね」
くすくすとロザリンが笑い、私は拍子抜けしながらも、ほっと息を吐いた。
「…うん」
それぞれの受け入れ方で、受け入れられていた。
それがなによりありがたかった。
「ノアくんとの約束。ちゃんと守ってあげなきゃ駄目よ?」
「そうだった」
マジックバッグから通信機を出しておく。
入れっぱなしじゃ気づけないからね。
「ねえロザリン」
「なぁに?」
「私ね、ロザリンと結婚することにならなかったら、多分家には帰らなかったよ。…もしかしたら一生」
そうしたらノアの存在を知ることも、一生なかったかもしれない。
「ねえアル。私を連れて行ってくれて、ありがとう。家族にしてくれて、ありがとう」
「…うん」
精霊の樹の前で、この人と家族になります、と宣言したい。
信仰というほどでもない古くから続く風習で、今までは意識したこともなかったけれど、無性に、そうしたくなった。
気持ちを新たにしたところで、ロザリンがそっと私の手に、指を絡めた。
…折角大人しくなったところだったのに。
「アル」
「ハイ…」
「あなたって、誘い方が絶望的に下手よね」
「ひどいっ!!」
「あんまりひどいから、ちょっと練習してごらんなさい?」
「わぁん」
なお、その後ノアからのおやすみコールが入り、ロザリンから及第点をもらえるくらいには頑張って作った雰囲気は、みごとに霧散した。
ノアとの、男同士の約束は守れたので、良しとしよう。
……良しとしよう。
*
傍らにロザリンが居る幸せを噛みしめる。
朝になって、どうしても我慢できなかった私は、『ダンジョンから無事に帰ってきたら何でもお願いを聞いてもらえる権利』を行使した。後悔はしてない。
とても清々しい。朝から疲れたが。
朱里さんの記憶では、これだけで二キロくらい走るのと同じ程度には疲れるとか何とか。
なるほど。今なら信じられる。
「ここがまだ街の外なのが信じられないくらい、快適ねぇ……。アル、大丈夫?」
「……大丈夫です。もうちょっと休憩すれば、全然大丈夫」
自分でも馬鹿だとは思ってる。
頑張れば動けるけど、頑張らないと動けない。
身体は綺麗にしたけれど、私は動く気になれなくてそのまま寝台に転がっていた。
なお、ロザリンはとっくに起き上がって服を着て、なんなら現在お化粧中だ。
「アル。そろそろ服を着てちょうだい。このまま夜になっちゃうわよ?」
「ぅうう。…さすがにそこまで掛からないよ…」
怠い…。
のろのろと起き上がって、何とか下着を履く。
頑張りすぎて動きにくいので、今日はもう補助魔法全開で行こうと思う。どんどん使っていくよ。
とりあえずこの怠いのは事後の眠気と疲労なので、自分に補助を掛けるところからだ。
疲労と身体の仕組みの関係なんぞ知ったこっちゃないので、眠い、重い、怠い、痛い、動きにくい、みたいな要素をまとめて無理矢理減らし、整えていく。
やっぱり無理矢理行使すると魔力の減りが大きい。
ようやくなんとか動けるようになって、装備を整えていく。いつもの防刃繊維の黒い上下にミスリル補強の入った靴、白竜革のコート。
「さて…」
土壁をもとに戻し、天井に使った布や家具類を仕舞い、準備完了。
ポチさん。すまんね。追い出してしまって。
じっと見られると気まずいよ。
仕方ないじゃないか。見られてちゃできないんだよ…!
「昼までにはレコルナスに入れそう?」
「…ゴメンナサイ」
私が朝っぱらからサカってたせいですね…。
でも今はお陰様で、気分も爽快サッパリですよ。
なんとなく思ったんだけど、私って、朝できないと、そのまま夜とかにできるまで引きずる傾向がある気がする。
そのせいで実家に居る間中ずっと辛かったんじゃなかろうか。
一度満足してしまえば、多少のことでは全然その気にもならないんだけどな…。誘われてることにすら気づかないほどに。…その件はロザリンに怒られたけど。
「一応、昼前には着くよ。ね、ポチさん」
ふん、と鼻を鳴らされた。
どういう意味の反応なのー?
「…まあ、行こうか」
「そうね。ゾフィさんたちに早く会いたいわ」
ポチさんに乗って、レコルナスへの帰途につく。
たった二日しか経ってないのに、レコルナスを懐かしく感じているように錯覚した。




