057
※下ネタ、妊娠に関する会話があります。
やっぱり風呂、いいなぁ。
自分の家を持つなら、風呂は要るね。
絶対要るね。
パウル兄さんも出て行ったあと、私はゆっくりと広い浴槽を堪能した。
一人じゃないのが若干不満だが。
「なあアリー、なにおっ勃ててたんだ?」
「やめてくれるかな!?」
大したことがなくても反応する年頃なことくらい、わかってるだろうにこの兄は…!
「人が誤魔化そうとしていることを蒸し返すんじゃないよ!?」
原因は石鹸だが、知られたらさらなる揶揄いのネタを提供するだけである。「こいつ石鹸の匂いで勃起してたー」とか言いかねない。きっと言いふらそうとする。絶対言わないからな!
「いやー、弟が順調に成長してんなーと思って」
「白々しいぃぃぃ!」
「だってお前あんまり女に興味なかったじゃん」
「別になかったわけじゃないし」
確かに、実家にいる頃は女の子より趣味が大事だった自覚は、あるけれど。
貧乳なエルフに興味がなかっただけである。
「まあ、エルフにはいない感じだな。ロザリンさん」
「……おう」
どこ見て言ってんだよ、それ。事と次第によっては許さんぞ。
「好きなのか?」
気まずくて出ていきたかったが、この兄にしては真面目な声に、つい留まった。
「……好きだよ」
「胸が?」
「全部だわ馬鹿たれ!」
なんてこと言うかな…!
……。
……うん? 今、私、テオの前で何言った?
「なら、大事にしろよー」
テオは軽い言い方をしたけれど、たぶん、茶化しているだけではなかった。
「わあああぁぁぁぁ!」
「叫ぶな煩えー!真っ赤だな!!」
やかましいよ。
昔からこの兄には翻弄されっぱなしだ。
だから近づくときはつい身構えてしまう。
「ロザリンさん、いい人そうだな」
「うん。私が一番困ってるときに助けてくれた人だったんだよ…」
そうだよ。
ロザリンがいい人なのは百も承知だよ。
「お前にはもったいないな」
「急に失礼だなテオ」
「いや、割と本気で」
「そういうとこ、本当に失礼!」
茶化したかと思えば、こちらを気遣ったり、的を射たことを言ったり、また茶化したり。
この兄の相手は非常に疲れるのだ。
「なあアリー」
「うん?」
「何で結婚しようと思った?」
唐突だな。
「その…いろいろ違うだろ? …生きる時間、とか……」
「…うん。他人の嫁になったところを想像してみろ、って人に言われて。…短い時間しか一緒にいられないなら、できるだけ近くに居なきゃだめだ、って、思ったんだ」
「友達か?」
「うん。友達」
「…そいつも人族?」
「……うん」
終わりだけ見て始めないんじゃ意味ないだろう、と言ってくれた友もまた、人族だ。
「なあアリー」
今度は何だよ…。
「お前、デカいね」
「うるさいよ!?」
*
「アリーが叫んでるわねぇ」
「えっ?」
「まぁ大したことじゃなさそうだわ」
「はあ…」
お風呂から上がって、マギーさんと私が今いるのは、私にと用意されていた客間。
ベッドの上に、持ってきている寝衣や下着を並べている。ちょっと恥ずかしい。
採寸の際身につけていた下着にマギーさんがとても興味を示したため。
数枚、お店に居た頃に入手したものもあって、マギーさんが特に興味を示しているのがまさにそれだった。
「こっちのは?」
「これは王都の服飾工房のものですね。これも同じ工房のものです」
「まあぁぁぁ! こういうの、やっぱり私も欲しいわ……!」
マギーさんがここまで興味を示すのには、理由があった。
ここ数年、密かに悩んでいたことがあったらしい。
なんでも、早めに子どもが欲しい、と。
アルが以前言っていたことがある。
健康な若い夫婦が毎日しても30年に1人生まれるかどうか、と。
クラウスさんは、頻度としては普通のエルフ成人男性そのものらしい。
とても標準的、とのこと。
気が引けたものの聞いてみたら、人族だったらだいぶ淡白なほうだったみたい。
一応、結婚して二百年、三百年は夫婦二人きり、というのはエルフには珍しくないらしい。
けれどマギーさんは、実家が子だくさん家系でもある。
子どもも好きで、できることなら、もっと早く欲しかったらしい。
クラウスが悪いわけじゃないのよ?まだ結婚したばかりだし、私がせっかちなだけ、と笑って話しているけれど、その声の奥には、想いをひとりで抱えてきた寂しさがあった。
おかしいわね。私が一番よく知ってるエルフとはだいぶ違うみたい。
……と、思ったのだけど。少し心当たりはあった。
婚約前! そうよ、婚約前!
あのひと、やたらよく来るくせに、いつもお風呂に入ってお話して寝て帰るだけの、特殊な人だったじゃない…!
もしかしたら。
実際には、その気になるまで時間がかかるというか、切り替わるまでが遅いだけなんじゃないかしら。
しつこいくらい誘っても気づかず、もう直接的過ぎるほど直接的に誘わなければ、全然その気にならなかったくらいだったし。
「もしかしたらなんですが…。きっかけがあって、誘っているって気付いてもらえたら、変わるかもしれませんよ?」
だってアルったら、私が着てるものにかなり反応するもの……!
あの人、何に反応してたかしら。
順に思い出してみる。
今日も浴室で使ったあのいい匂いの石鹸もそうだし、シユラーデ風の寝衣も、そうね。
「…どうしたらいいのかしら」
「香りとか、普段と違う髪型とか。あと、下着や寝衣でそういう雰囲気になることもあると思います」
マギーさんの望みが叶いますように…!!
***
「お父さんあのね」
「うん?なんだいノア。小さな声で、ナイショ話かい?」
「うん。あのね、兄さんね」
「ちょっとまてノア。何を言おうとしてるの!?」
「兄さんね、お母さんよりおっぱいおっきいね」
「ぎゃはははは!」
「テオ!? 人の大胸筋のことで笑わないでくれる!?」
「母さんは……あれでいいんだ」




