055
「アリー、確か結婚式について聞きたい、って言ってたわよねぇ」
「うん」
アルのご家族にご挨拶をしたあと、アルとお義母様は早速本題に入った。
なんとかご挨拶は済ませたものの、正直、まだ少し緊張している。
二人とも話のテンポが独特な気がするわ。
「しきたりみたいな決まりごととか、聞いておきたいかなって思って。ほら、私、姉さんの結婚式のころも小さかったから覚えてないし」
「そうねぇ」
「あたしも覚えてなーい」
お義姉さんは45年ほど前にご結婚されたと聞いていたから、当時4歳ほどだったと考えればケイティが覚えていないのも無理はないわね。
「ケイティはあんときまだ赤ン坊じゃん。母さんが抱いてたし」
アルのすぐ上のお義兄さん、テオドールさんは、アルよりかなり細身で、アルによればあのくらいが平均的エルフ成人男性なのだそうだ。
リィナさんがアルの体型はありえないと言うわけだわ。
「そんなに難しいものではないのよぉ。精霊の樹の前で伴侶として双方の家族に紹介するくらいねぇ」
「へーそうなんだ」
「でも、そのやり方に拘る必要もないんじゃないかしら?せっかく異種族婚なんだから人族のやり方だって取り入れたらきっと素敵な式になるわ」
異種族婚。
その言葉に少し身構えたけれど、お義母様の声には否定的な響きは一切なかった。
むしろ、とても楽しそうですらある。
「そっか。あぁ、そういえばあの花嫁さんが着るやつってさ、どんなのだっけ?」
「あれは新郎の家族が準備するのよ。これを着てお嫁に来てください、って」
これを着て、お嫁に来てください。
その言葉が、胸の奥にふわっと広がった。
「準備にも時間が掛かるから、採寸だけ今回の帰省中に済ませてしまってくれるかしら?」
「あたしも手伝うー。ねえ今測っちゃう?」
「そこまで急じゃなくていいのだけど。そうねえ……ロザリンさん、これからでもいい?」
「え、ええ。大丈夫です」
「じゃぁ、ふふ。こっちに来て。ロザリンさんの泊まるお部屋を用意したのよ」
受け入れられたみたいで、とてもくすぐったく、嬉しかった。
***
「…アリー。お前の嫁…。すっげえな」
母さんとケイティがロザリンを連れて行き、男だけが残されたと判断するや否や、テオがそんなことを言い出した。
「……何がとは聞かないでおくよ!?テオ!変な目でロザリンを見ないでよ!」
「みてませんー」
「腹立つなー!」
現役冒険者をなめるなよ。
テオの上に乗る。
「ぐえっ。重いぞ!?」
なお、喧嘩するなら魔法は使うな、がこの家の決まりなので、乗るだけである。
使えるのは肉体言語のみなので確実に私のほうが有利だ。
「ぼーくーもー!」
「うわっ!?」
途中から楽しそうにノアまで参加してきたので有耶無耶になったが、変わらないなと思った。
「私はロザリンのほうの様子が知りたいのに。邪魔するな、テオ」
「俺のせいじゃねえじゃん!」
テオのせいだと私は思います。
そのとき、玄関の扉がノックされた。姉さんか。
「姉さん久しぶりー」
「アリー!久しぶりねぇ!なんだかすっごい変わったわね!」
姉のマルガレーテは子どもにするみたいに私の頬を両手で包み、そのあと頭を撫でた。
「マギー姉さんどうしたの?」
「ノアは今日も可愛いわね!さっき母さんに呼ばれたのよ。採寸するからって。どの部屋?」
「こっちだよ」
ノアがマギー姉さんを部屋の前まで案内するのに合わせて、しれっと私もついて行ってみる。
入室はもちろんしないが、声くらいは聞きたかった。
「じゃ、行ってくるわね。アルとノアはここまでよ」
「「わかってるよ」」
ノアと声が揃った。
マギー姉さんはノックしてから入室していき、ぱたん、とドアが私たちの目の前で閉まる。
ノアと遊んでるフリでも装うか。
座ってノアと視線を合わせる。ちっちゃいな。1メートルくらいか。
「兄さん、兄さん」
ちっちゃい弟がちっちゃい声で私を呼ぶ。
「うん?なにかな?」
「兄さん、ロザリンさんのこと、すき?」
「あはは。うん。好きだよー。だからお嫁さんにするんだよ」
「わぁー。ちゅーしたの?もう、ちゅーしたの?」
出たよ!子ども特有の答えにくい質問…!
「ウッ。……したよ。ちゅーしたから結婚するの…」
「そうなんだ。ぼくもね、ナナちゃんと結婚したいの」
ぉおう。近所の子か?ナナちゃんとやら。
「そっかー。ノアはナナちゃんが好きなのか」
「うん。ナナちゃんね、おんなのこで一番かわいい!」
「じゃぁ、ノアはナナちゃんに優しくしなきゃ駄目だよ。ナナちゃんとお話したいからって、意地悪したり、イタズラしちゃ駄目。逆に嫌われちゃうからね」
どうやら本当に気になってる子らしいので、小学生男子にありがちなアレを予防してやろう。
「兄さん、意地悪してきらわれたことあるの?」
「私はないけども…!」
なんでちっちゃい子って、こう、答えに窮すること言うんだろう…。
室内では女性たちがにぎやかに採寸してるようだった。
「じ、人族ってすごいのね…」
「うっ。すみません…」
「私、かなり大きいほうだと思ってたのに。すごいのねぇ」
マギー姉さん、Bカップくらいあるもんな。エルフ基準なら確かに充分巨乳だ。
聞くつもりはないよ。
なくても、聞こえてきちゃうものは仕方がないよね!
「この下着の素材何?すごく綺麗〜」
「虹絹ですね。これはレコルナスの専門店で仕立てたもので」
「これ、ただ隠すためのものじゃないのね」
「支える作りになっているので、着けていると楽なんです。動きやすくなりますよ」
「私も欲しいわ…!」
「あたしも見たい!街に行ったら買える?」
「あらあらいいわねえ…!」
なんで母さんまで乗り気なんだよ…!
ノア!「オッパイ!」とか言わない!
「ねえ兄さん、そとで遊ぼー」
「いいよ」
さすがに気まずいのでそろそろこの場を離れよう。問題なさそうだし。
外へ出ると、ポチさんがフォレストウルフたちに囲まれていた。
別に喧嘩になっているとかじゃなくて、群れに馴染んでいるというか。
伏せた状態なんだけど、何匹もの雌フォレストウルフたちに匂いを嗅がれていた。
ハーレム形成し放題だな、と思ったところで思い出した。繁殖期はトラブルに巻き込まれたりするので助けてあげてね、という注意を。
繁殖期自体は終わってるから、いいかと思ってたんだけど助けたほうがいいんだろうか。
尻尾ゆらゆら揺らして寛いでいるみたいだし、大丈夫かな。
「兄さん、この狼、おっきいねぇ!かっこいい!」
「一角狼っていう種類なんだよ」
ノアがポチさんを乗り回して遊び始めた頃、森の方角から父さんの姿が。
どこ行ってたんだかこの人は。
ちょっとノアさんポチさん、集落からは出ないでくださいね?
「お帰りアルフレート」
「うん。ただいま父さん」
声の調子は十五年前と変わらないな。
「連れの娘は?」
「今は家で採寸中」
認識阻害魔法で窓の中が見えなくなってる部屋を指し示す。
「急に結婚だなんて、まさか子どもが出来たんじゃないだろうな?」
「ブッ!…出来てませんー!」
急に何を言うかと思ったら…!
「ならいい。……異種族とだと簡単に子が出来るらしいからな」
「15年ぶりの息子に言うこと!?」
信用がないな。何故だ。
「……シたのか」
どう答える…?
嘘はなぜかバレるしな…。
「…………シましたが、避妊してます…」
その日は当然のようにロザリンとは別室でしたとさ。




