054
昨夜初めてロザリンから誘われ、爽やかな目覚めを迎えたアルフレートです。
私に気づかせることを諦めたロザリンにあまりにも直接的なお誘いをさせてしまった件については、謝り倒してなんとか許してもらった。
なお、今朝も誘ってみたがそれは断られた。
昨日は誘ってきたくせにぃぃぃ。
今日は朝食後に実家へ向けて出発予定。
「っていうわけで、前に言ってた通り実家へ行ってくるよ」
「おう。わかった」
以前から軽く伝えてはあったけれど、銀麦亭の皆さんのほかルドルフたちにも改めて不在を伝え、いざ出発。
今日はロザリンも白い靴にファー付きのケープと全身可愛い装備で固めている。
街の外までは二人と一匹で歩いて進み、門を出てすぐポチさんに乗ることにした。
「私が前に乗るから、私のお腹辺りに腕を回してしっかり掴まっててね」
「わかったわ。ポチさん、よろしくね」
「わふ」
ルドルフを乗せてるときのような爆走はできないので、ポチさんにもゆっくり進んでもらう。
しばらく時速20kmくらいで走って、慣れてから徐々に速度を上げる計画だ。
最速でも時速40〜50kmくらいまでに抑えるけど。
「け、結構速いのね…」
「速度落とそうか」
「ううん。大丈夫…」
そう言いつつ私に掴まる腕に緊張が見て取れるので、いまのところこれ以上には速くしないほうがよさそうだ。
私としても、これ以上ぎゅっと掴まられてしまうといろいろ困る。小玉スイカの感触的に。
手の位置が5センチもズレればアウトだ。
「外套、本当にあってよかったわ。ありがとう、アル」
「でしょう?」
1時間ごとに休憩を入れる算段で移動する。
街を出てすぐの頃こそは街道を走っていたが、今は完全に道なき道を走っている。
エルフの集落まできちんと整備されたような街道があるわけもなく、これに関しては仕方がない。
これも悪いことばかりではないんだよ。
馬車に近づいてしまって馬を驚かせることがないし。
何より二人きりだ。
ちょっとドキドキする。
ロザリンがドキドキしてるのもそういう理由だったらいいのにな。まぁそれは違うんだろうけど。
ロザリンは私が留守にしている間に実家への手土産などを購入していたらしい。前世の記憶的には準備の良い出来た嫁である。さすがだ。私は思いもつかなかった。
1時間くらい経って、最初の休憩をとる。
ポチさんをわしゃわしゃと撫で、水をあげた。
ロザリンと私には何にしようか。
「ロザリン、疲れたでしょ」
慣れないうちは不必要に緊張して力が入るので疲れやすいからね。
「そうね。ちょっと足がすくむ感じがするわ」
「そっか。緊張してたんだね」
交感神経の過剰な興奮が原因なんだったなという記憶はある。カフェイン入りなカフェオレはまずいな。白湯か、薬草茶か。
温かい飲み物を淹れて手渡す。
「ゆっくり息をしてごらん」
素直に実行するロザリン。信じてくれてはいるのだ。
「ありがとう。落ち着いてきたわ」
「うん。…ね、ロザリン。私もポチさんもロザリンを落としたりなんてしないから、大丈夫だからね」
「ええ。信じてないわけじゃないのよ」
うーん。子どもにする場合の対処をロザリンにしていいものか迷うね…。
子どもの場合なら、撫でるのが一番なんだけどな。
「ね、ロザリン。手を繋いでもいいかな?」
「どうしたの?」
「…繋ぎたくなっただけ」
繋いだ手はやや冷たい。
温めたくて指を絡める。
「アルの手、温かい」
「そう?」
「ありがとう」
しかし何だね。こういうときにアレな気持ちになってくるのは、私が煩悩まみれなせいなのかね。
深呼吸でもしておこうか。
水を飲み終えたポチさんはロザリンに近づき、ぺろりと顔を舐めた。
「あはは」
ロザリンもポチさんに抱きつき、撫でていた。
なんか楽しそう。
ちょっとポチさん!?ロザリンを押し倒していいのは私だけだよ!?
ロザリンの隣に寝転び、奪い返すように抱き寄せた。
少し驚いた様子だったけれど、くすくすと笑ってそのまま私に背を預けてくれた。
「ねえ、アル。私、街を出たのって初めて。水蜜の館から出てから、毎日新鮮で楽しいわ」
位置的に私には彼女の表情は見えないけれど、本当に楽しそうな弾んだ声だった。
私も嬉しい。
連れてきてよかったと思えた。
「さて、出発しますか」
起き上がって休憩終了。飲み終えたカップを洗って収納したら出発だ。
ポチさんに乗っても、ロザリンは最初とは違い、ずいぶんと緊張も解れたようだった。
道程の半分に差し掛かる頃、ロザリンが身動ぎすることが多くなった。
そろそろまた休憩を入れよう。
そう思って止まると、ロザリンは何かに躊躇いながら恥ずかしそうにしていた。
「あの、あのね、アル。……お花を摘みに。行きたいのだけど…」
「わぁごめん!」
小休憩くらいだとリィナたちもいつの間にかそのへんで済ませてるようだったので気づかなかった。
私の落ち度である。
急いで魔法で地面に穴を掘り、野営時にトイレ用として使っている衝立を設置した。ついでに遮音の魔法も掛けておく。
「ここ使ってっ!手を洗うなら、そこに浮かべといた水球使って!」
「ありがとう〜!」
ついでに私も今のうちにしちゃおう。私の場合は、さすがに衝立で周囲が見えない状態でするわけにもいかない。
ポチさんは居るけど、一応周囲の警戒人員がゼロはまずい。
でも私だって音は聞かれたくないし。ロザリンが遮音の魔法の範囲内に居るうちに少し離れた場所で済ませる。
こういうとき男は便利だと思う。
なんだかパーティに入る前の、ソロだったときを思い出すよ。
ん…?
見落としてる気がするよ…?
……ヒトというのはなぜか排泄時にいろいろとひらめくものである。
「実家のトイレ事情やべえ。というか他にもいろいろやべえ…!」
思い出したのが今で、良かったのか悪かったのか。
実家はエルフの集落にあり、家族は全員エルフである。エルフというのは魔法を使う生活が基本。
その結果。
トイレはただの窪みである。
済んだら分解するなり燃やすなり消すなり、好きなように各々処理する。
私は分解する派だった。年頃の娘は消臭処理もする。
トイレには鍵もない。使用中は魔法で閉めとくからだ。
風呂どころかシャワーもない。私がよくやるように各自で自分を丸洗いすればいいからだ。
洗濯場もない。キッチンもない。以下略だ。
思いのほかエルフの家ってエルフ以外に優しくないのではないかな?
これは早急に対応が必要だな。ロザリンの尊厳に関わる。
実家に着く前がいいだろう。魔道具でも作るか。
「アル、ありがとう〜」
「いや、なんか、ごめん」
ロザリンが使ったあとの穴を埋めてから衝立を収納し、早速魔道具作りを始めることにした。
「ロザリン、さっき重大な問題を思い出しました」
「なぁに?」
「エルフの家、一般的に他種族が想像するようなトイレがない」
「エルフはトイレ行か「行かないわけじゃないの知ってるよね」…ええ。そうね」
エルフの一般家庭のトイレや風呂事情についてを話すと、ロザリンも問題の深刻さを認識したようだった。
まずは鍵だな。
魔力の通りの良いミスリルを取り出した。判別しやすくするため、南京錠みたいな輪のついた錠を模した形状にしてみる。模してるだけで錠ではない。
錠型魔道具には施錠と解錠の魔法を込めておく。錠のツルをはめ込むと施錠、下に差し込んである鍵みたいなのを回すと解錠。
形状にこだわるのは、魔法の発動には使う人に効果を多少イメージしてもらう必要があるからだ。
次。一連のトイレ内での諸々用。これはただの小箱型でも大丈夫だろう。
スロットに魔石を置くことで魔法が発動する構造にしよう。
出したものを分解して窪み内をきれいにする魔法、どこをとは言わないが洗浄する魔法、手を洗う魔法、消臭のために換気をする魔法…。これくらいだろうか?
お風呂やシャワー代わりの魔法は、私がすればいいかな…。
…いや、親兄妹の住んでる家で、それは気まずい。銀麦亭の部屋での事後にきれいにするのとわけが違うのだ。
そういうことしてよそのお嬢さんを孕ますなとか言って送り出された手前、身体の関係が既にあるのは気恥ずかしいし、気まずいので知られたくない。特に父母。
「最後に、身体の洗浄用魔道具」
一回ごとに使い切りのタイプが使いやすそうだ。ふたを開ければ魔法が発動する小瓶にしておこう。
「…とりあえずこれでなんとかなるはず…」
「何を作ったの?」
ロザリンに使い方をひと通り説明し、次のトイレ休憩のときに実際に使ってみることになった。
「なんだか、文化もかなり違うのね」
「うーん。そうだねぇ。なんていうか、同じような生活様式のままいつの間にか何千年も経った、みたいな設備だよね」
今思えば設備面では、原始人の竪穴式住居生活とどれだけ差があるのさと言いたいくらいだ。
不便さを感じなければ発展などしようもないことの証明みたいだね。
「さて、とりあえずの準備もできたしそろそろ行こうか」
結果からいうと、トイレ快適セットはロザリンに好評だった。
その後はロザリンもだいぶ慣れ、最終的にはポチさんのスピードも時速50kmくらいに到達していた。
そしていよいよ。まもなく集落である。
私にとっても15年ぶりの帰郷だ。
集落に入る前に私たちはポチさんから降りた。
集落は見た目上は普通の村だった。設備面は貧弱だが見た目上は綺麗な家々である。
街で見た建物が綺麗だなと思えば真似くらいはするからね。
自宅まで歩く間、それぞれのご家庭で飼われてるフォレストウルフたちがポチさんの様子を窺っていた。
「帰ったよー」
ちょっと気軽すぎたかもしれないが、まずは帰宅を知らせた。
隣のロザリンの背筋が伸びた。
「おかえりなさーい」
***
今日は朝からお母さんもお姉ちゃんもそわそわしてるみたいだった。
変わらないのはテオ兄ちゃんだけ。
兄ちゃんはお昼もとっくに過ぎたのに、まだ寝てる。
昨日はいつもつるんでる友達と一緒に遅くまでお酒を飲んでたらしい。ダメエルフめ。
「ねえケイティ、ゲストルームの準備ってもう大丈夫よね?」
「んもー。何度確認すんのよ母さんたら」
「お料理、気に入ってもらえるかしら」
「大丈夫だってばー」
先週からずっとこの調子なせいで、お姉ちゃんもちょっと呆れてる。
15年ぶりに兄さんから先週連絡が来たらしく、浮かれたお母さんが聞かせてくれた話によると、どうやら僕が生まれる前に家を出てった兄さんが帰ってくるらしい。
パウル兄さんとテオ兄ちゃん以外にも兄がいたことを初めて知ったよ。僕が三男なのかと思いきや実は四男だったとは。
名前は、アルフレートというらしい。
このエルフの村を出て人族の街で暮らしてるんだそうだ。
いいなぁ。楽しそう。
「ねー、お姉ちゃん、兄さんってどんな感じのひとー?」
「アリーは、そうねえ、ちょっと変わってるひとかな」
「それは知ってるよ。そもそも変わった人じゃなきゃ村を出て行ったりしてないよ」
「あはは。それもそうね」
そんな変わり者の兄さんが、今日、お嫁さんを連れてくるらしい…!
お母さんがそわそわするわけだよ。
お父さんなんてそわそわし過ぎて緊張に耐えかねて散歩に出かけてしまった。
「アリーは変わった道具とか作るのがすっごく上手でね?いろんな面白いことをよく思いつくひとなのよ」
「そうなんだ」
「ノアだってそうだけどね。離れを作ってくれなんて突然言うから作ってあげたのにその中にノアが小さな池作り始めたときは何事かと思ったもの」
「池じゃなくておふろだよ。ああいうのを夢で見たんだもん」
以前、変わった夢を見たので、その時に興味深くて目が覚めても憶えてたものを再現してみたんだよね。
最初は不思議そうに見てた家族も、今では気に入っちゃって毎日使ってる。
そっかー、アル兄さんはものづくりが得意な人なのか。楽しみだな。早く帰って来ないかな。
まだ会ったこともない兄が帰ってくるのが待ち遠しくてたまらなくて、僕は何度も外を確認してしまった。
「あれ?アリーまだ帰って来ねえの?」
しばらくするとテオ兄ちゃんが、欠伸しながらのそのそと起きてきて、ソファにだらりと寝そべった。
テオ兄ちゃんはもう大人なのにいつもこの調子だ。駄目な大人の見本みたいだ。
半裸でだらしない格好なせいかお姉ちゃんが眉をひそめる。
「ちょっとテオ兄ぃ。お客さんも来るって言ってあったでしょ!?やめてよ!」
「あ?そうだっけ?」
「さっさと着替えてきて!」
「へぇい」
お姉ちゃんに返事をしたものの、テオ兄ちゃんはなかなか動こうとしなかった。
「テオドール」
お母さんが静かにテオ兄ちゃんの名前を呼ぶ。
めちゃくちゃ怒ってるよ!
「ファ!?はいっ!」
テオ兄ちゃんは慌てて姿勢を正して自分の部屋に逃げてった。
「ノアもいいわね?お行儀よくしてるのよ?」
「うん。僕できるよ」
「いい子ね」
僕はテオ兄ちゃんとは違うからね!
「兄さんのお嫁さんってどんなひとかなぁっ」
「ロザリンさん?話した感じだとすごくいい人だったわよ?優しくて健気で」
「えっ?お姉ちゃん会ったことあるの!?」
「会ったっていうか、ちょっとお話しただけよ?お兄ちゃんの通信機弄ってたら偶然ロザリンさんに繋がって」
「ええっ?お姉ちゃんずるい!ずるい!」
ひどいよー!
憤りのままにお姉ちゃんの手を引っ張ったところでドアからノックの音が。
「帰ったよー」
「おかえりなさーい」
とても15年ぶりとは思えない軽い挨拶をしたのが、おそらく兄さんなんだろう。
玄関で出迎えるお母さんの返事も負けず劣らず軽い。
「こ、こんにちは」
「いらっしゃいロザリンさん!」
で、続いて聞こえてきた声がお嫁さんなんだろう。
母さんの声はすごく嬉しそう。
「さぁ、二人とも早く入って」
「ぅわー、すっごい久しぶり」
「おじゃまします」
兄さんとお嫁さんが僕らの居る部屋へ入ってきた。
僕と同じ色の髪の男の人…。
なんかすっごいでかい!?
身長はテオ兄ちゃんより少しおっきい程度なんだけど、なんか全体的にゴツい!上半身とか逆三角形なんだけど!?
びっくりして固まってしまったけど、兄さんも僕を見て固まってた。
「か、母さん、なんか増えてない?」
「あっ。……んふ。ノアよ。今14歳なの」
あっ、てお母さん…。
「おぉ⋯…。離れて暮らしてる間に弟が……。ノア。はじめまして。アルフレートだよ」
兄さんは僕を抱き上げてそう言った。
た、高い!
「僕もう赤ちゃんじゃないよぉ…」
大人に抱っこされるなんて、ちっちゃくて軽い6歳くらいまでの赤ちゃんだけなのに。ちょっと恥ずかしい。
兄さんは見た目通り力持ちさんらしい。
「兄さんすごいね!」
「会えて嬉しいよノア。母さんひどいよ教えてくれないなんて」
「アリーに言ってなかったことをうっかり忘れてたのよー。やだ恥ずかしい」
「ごめんねロザリン。この通りそそっかしいのが私の母、エレオノーレ。こっちのはわかると思うけど前言ってたカタリーナ。で、こっちのちっこいのが弟、ノアっていうらしい。私ら兄弟に無茶苦茶似てるからどう考えても弟ってのは疑いようが無いんだけど、私も知らなかった弟。なんかすごく今嬉しい…!わー弟だー!」
「お兄ちゃん、弟だーじゃなくて、ロザリンさんを紹介するとこでしょうそこは。ロザリンさん、本当にコレと結婚するの?」
「ええ!?や、やめてよケイティ!ロザリン結婚やめるとか言わないよね?ね!?」
「ふふっ」
兄さんのお嫁さんらしい女のひとは、人族のひとだった。
真っ赤な髪で、すっごくかわいい!
あと、すっごくおっぱいおっきい。
そう言ったら兄さんに黙らされた。
兄さんのお嫁さんは、ふふふって可愛く笑った。
すんません。投稿忘れてました。
そろそろ手動やめようかな。
ごめんなさい。今日はもう、どうぞお好きに作者を笑って小突いてやってください。
今日の小田薪は、小田サンドバッグ薪に改名しときます。




