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 十七階層は、普通の洞窟風だった。


「ウッ…。ひとまずこの階層も模型作っちゃうね」


 もはやお決まりの行動と化している3D模型作成だが、私は急いで作業に取りかかった。


 だって洞窟風だよ!?

 アイツらがいるかもしれないじゃないか。

 急いで終わらせて、急いで帰りたい。アイツらが来ちゃう前に立ち去りたい。


「ひぃ。やっぱり居るぅぅ…」


 3D模型作成のために展開している探査魔法に容赦なく反応を示してくる。

 存在感が強くて恐ろしい。

 十七階層は、構造だけなら素直だった。


 通路も分かりやすい。分岐も読みやすい。罠の気配も少ない。ただの洞窟迷路でしかない。


 ただし、虫が多め。


 それだけで、私にとっては十六階層よりずっと悪質な階層だった。二度と来たくない。


「おっと、デヴィルモス」


 接近してきたデヴィルモスをフェイの魔法が一撃で撃ち抜いた。

 助かるぅ!!

 なんて正確無比な魔法制御。ほれぼれしちゃうね!


 そうこうしている内に3D模型が完成する。

 階段の位置も、それぞれの分岐も、広めになっている休憩できそうな空間も、ひとまず確認はできた。

 よし。情報としては充分だ。

 私の精神衛生上も充分だし限界だ。


「帰ろ!もう帰ろ!早く上行こ!?」

「さっきまで大きな虫喜んで捕まえてたくせに今度は何なのよ」

「アレは虫じゃありませんー。ルドルフ、十七階層は模型だけ作ってすぐ帰還するって言ってたよね? ね?」


 十六階層で探索終わりって、帰還するって。ゆったもん。ルドルフゆったもんー!

 私は約束を守る者でありたい。


「まあ、十七階層はオマケだ。十八階層への階段の位置と大まかな構造が分かれば充分だろ」

「ルドルフ大好きー」

「気持ち悪いからやめろ。でも出てくる魔物の情報くらいは欲しい。何が居た?」

「思い出させるとか酷い!」


 探査魔法でわかる魔物の気配は大まかな形状と発してる魔力くらいなので精度は低いが、義務として情報を吐き出す。


「デヴィルモスとー。グリーンキャタピラーっぽいのも居たね。あとでっかい甲虫。足の多いやつ。あと、小さい羽虫が群れでいる。それからドラゴンフライ系と、アイアンローカストは居たな。ジャイアントホーネットも奥の方に居るね」

「雑だが充分だ」


 詳細に思い出したくないんだよ!


「よし。なら戻るぞ」

「わぁい」


 大賛成。もろ手を挙げちゃう。

 これ以上この階層にいる理由はない。

 少なくとも、私には全然ない。


「帰路も気を引きしめて行こう」

「ヨシ! ご安全にー」


 先程降りてきた階段をまた登り、私たちは帰路につくことになった。


「十六階層、水が増えてくの早いですね。こう急激だと焦っちゃうかも」

「案外それも狙ってるかもしれませんね。慌てて走って滑ってドボンって」

「えぐい」

「ま、私たちはこっちから帰りますけどねー、っと。渡ろう」


 空中に作った足場を通ってすぐ十五階層へ。

 地獄の虫階層から天国湖階層経由でまた地獄の長距離階層だ。十五階層はダリエンさんたちを送った時みたいに転移した方が疲労が少ないかな?


「ねえ、この階層、転移してさっさと階段まで行っちゃわない?」

「出来るのか?」

「いっぺん通ってきたところだからね。距離あるからかなり魔力使っちゃうけど充分イケる」


 ポチさんに乗ってるだけでもそこそこ疲れるので、スキップできるならそうしたいものだ。そう思って、十四階層へ続く階段の少し手前を探査する。


「……んっ?」


 階段付近に、大きな反応が二つあった。

 それはそれは大きな。


「どうした?」

「ちょっと十四階層に行く階段の真ん前にデカいのが…」

「っ…!? …アルフレート、少し離れた手前に転移できそうか?」

「あっちの階段前って、たしか森があったよね? 一旦、少し離れた木陰へ転移するよ」


 階段前のそいつから姿が隠せるように。

 あとは少々のナイショ話をする。魔法で消音して、ルドルフにだけ相談。


「ルドルフ、たぶん竜種だ」

「……やっぱりか。お前の反応から、そんなことだろうとは思ってた」

「ね、マデリーンさん、大丈夫かな」

「…あー…。あんま良くはねえな。多分」


 肩慣らしに入ったはずのダンジョンでいきなり古傷を抉るようなことにでもなったらと思うと、本当に申し訳ない。


「本人に確認だな。あと、竜種っぽいってのは今のうちに全員に情報共有しねえと危ねえな」


 ルドルフが眉根を寄せる。

 頭の痛い問題だ。

 消音の魔法を解き、私たちは全員に向き直った。


「全員、聞いてくれ。階段前に竜種らしき反応が二つある」


 マデリーンさんの顔からすっと表情が消えた。


「大きいのと、少し小さいの。親子っぽく見える、成体と若い個体」

「マデリーン」


 ルドルフが、少し低い声でマデリーンさんに声を掛ける。


「無理はしなくていい。駄目なら後ろに下がれ」


 マデリーンさんは一度だけ目を伏せた。

 それから、ゆっくり息を吐く。

 表情はいつもの穏やかなものに戻っていた。


「……大丈夫、とは言い切れないわね。でも足手まといになるつもりもないわ」


 フォローがあれば大丈夫、ってとこかな。

 まあ、ここまでで感じた彼女の技量的にもランク的にも、私たちのほうがフォローされる側なんだろうけど。


「転移する先は、階段の少し手前にするよ。森があったのって覚えてる?その木陰で、魔物の反応はない。足場も固い。竜種っぽいやつからは三百メータ以上離れてる」

「充分だ。全員、飛んだ直後に動けるようにな」


 ルドルフの言葉に全員が頷いたのを合図に、転移した。

 目の前の景色が一瞬で変わる。

 姿はまだ全然見えないけれど、竜種の大きい個体がこちらに気づいたのか、探査の魔法を向けてくるのが分かった。

 纏わりつくような感覚が鬱陶しいな。

 障壁をイメージして弾く。

 竜種の動きらしい動きはそれだけだった。

 竜種は何か行動に移るでもなく、階段前に留まり続けている。

 どっか行ってくれればいいのに。


「ね、今だけ私が一番前に行っていい?」


 ブレス撃とうが弾けるようにしておきたい。

 そう考えると私が一番前に居るのが効率いい。


 少しずつ森の中を移動。

 竜種からは既に察知されているけれど、平原を行くより余程良い。

 竜種の探査魔法は相変わらずこちらへ向けられている。まあ対抗して弾き続けてるが。

 竜種は身動ぎもせずこちらを注視しているようだった。


「ねえ、ここ、冒険者が居たっぽいわよ」


 そう言われて示されたあたりを見ると、なぎ倒された木々や焼け焦げた草のそばに、折れた槍と、それから地面に金属片などが散らばっていた。

 金属片はおそらく鎧の一部か。

 鎧の中身はない。ダンジョンは血や肉のような有機物から先に吸収する傾向があると聞いたことがある。

 まだ生きて逃げ延びているのか、それとも既に吸収されたか。


「階段前にも痕跡あるよ」


 よくよく探査魔法で調べると階段前にもいくばくかの荷物が散らばっている。


「あの竜種にこのあたりで遭遇して、階段に命からがら逃げ込んだ、ってとこか」


 迷惑な。竜種なんて落として行かないでよ。


「ギルドカードが落ちていますよ」


 Cランク以上のギルドカードはミスリルで出来ているからダンジョンに吸収されるにも時間が掛かるのかもしれない。


「ええと…ランクC、ゼップ。人族、槍使い…」


 フェイが先程拾い上げた金属板を読み上げる。


「ランクCに竜種はキツいですね…」

「そうよね…私の弓、通るかしら?」

「そこは大丈夫だと思うわよ…。Cって言うけどリィナもフェイさんもライリーさんも、あの実力なら、全然」

「あと水筒だな。おかしいな、革と木で出来ているのに残っているなんて」


 ライリーが拾い上げた水筒は…。

 うん。それどこかで見たことのある水筒だね。

 残ってたのは多分私が前に長持ちするようにって保護魔法を掛けた影響が少し残っていたせいかもしれないね。

 竜種は相変わらず階段前に陣取っている。

 もう少し移動してもらわないと階段に当ててしまいそうでろくに魔法も放てない。

 こちらの弱みに気づいている? さすが頭の良い竜種だな。


「アルフレート、姿が見えてきた」

「…黒竜だったかぁ。大きいほう、私が引き受けるよ。なんか、あの大きい方、さっきからやけに私を見てる感じがするし」

「大丈夫か!?」


 大丈夫かどうかを問われちゃったら、大丈夫じゃないよ!

 でもやるしかないしな。


「階段前から引き剥がせたら簡単なんだけどねぇ」

「なら、子竜は俺たちで抑える。アルフレート、お前は親を階段から離せ」

「了解。階段を壊さないように、できるだけ遠くへ誘導するよ」

「無茶はするなよ」

「善処します」

「その返事が一番信用ならねえな」

「ポチさんは子竜のほうに回ってね」


 大きい黒竜の視線が、まっすぐ私を射抜いた。

 階段前から、一歩。

 ゆっくりとこちらへ踏み出す。


 さあ、戦闘開始だ。













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