044
ダリエンさん、ロニアスさん、クローヴィスさんのとこへ戻ると、ポチさんが尻尾をぶんぶん振りながら近寄ってきた。
私たちも朝食にしよう。
地面の上に直接座り、テーブル代わりに木箱を取出して設置した。
私はパンケーキを食べるけど、ポチさんは何食べるかなぁ。
「そうだ、ポチさん昨日狩ったメデプワーフ食べる?」
メデプワーフっていうのはでっかい猛禽類っぽい鳥。
ちょっと穴だらけになっちゃって素材としても肉としても売れないからどうしようかと思いつつ保管していたやつ。
「ガウッ!!」
ルドルフたちには捨てとけと言われたけど、ポチさんは喜んでくれたみたいで私も嬉しい。
自分の朝食を食べ終えて手持ち無沙汰でポチさんを何とはなしに眺める。
嬉しいんだか楽しいんだか、いつもより妙にテンション高い様子でガウガウグルグル言いながら映像にモザイクかけたい感じに喰い付いてる。
見なきゃよかった…。
解体してないものをあげたのは初めてだったからこんなふうになるとは思ってなかった。
さて、三人が起きる時間が早ければ、今後の方針を確認して彼らがまだ探索を続けるならルドルフたちと合流してこのフロアだけ共に行動するか、帰るならある程度上の層まで送ってあげよう。
なんとなくそのほうが彼らを裏切った奴らに対する嫌がらせになりそうな気がする。
無事に帰られてギルドに報告でもされちゃ困るんじゃないかな、あの対応だと。
私たち諸共にここで死ぬだろうと思ってたからあんな態度をとれたんだと思うし。
ならばダリエンさんたちには元気に帰ってもらおう。
食中毒だった二人には再度水分補給。
吐いたり下したりして失った分を、身体の状態を崩さないよう魔法で直接補っておく。
それくらいしかやること思いつかないや。なんか暇だな。
そうだ。何かアクセサリーでも作ろう。
ロザリンちゃんに似合いそうなブレスレットかアンクレットとかがいいな。
少量のミスリルをマジックバッグから取り出して、何本かの細いチェーンの形に成型していく。
自分のセンスに自信は無いので、デザインなどは朱里さんの記憶にあったようなものを真似てみる。
ただ、機械編みのチェーンなんて無いこの世界でならちょっと珍しいかもしれない。もし手作業でやったなら気が遠くなるほどの細かい鎖だから。
…鎖は少し長めにして、アンクレットにしようかな。
こんなの夜とかに着けててくれたら、きっとすごく興奮するよ。私が。
着けた姿を想像したらドキドキした。たまらん。
「ロザリン、着けてくれるかなぁ」
小さな青い魔石を雫形にカットしてから飾りとして取り付ければ完成だけど、せっかくだから魔石に魔法を込めてみよう。
魔力結晶と違ってあんまり複雑なことは出来ないけど、お守りくらいにはなる。
昨日渡しておいたイヤリングも魔石に拘束の魔法を込めたものだし。
「ぅ……」
出来上がったアンクレットをしばし眺めて悦に入っていたところで、うめき声が聞こえた。
目を覚ましたかな?
「おはよう。ええとダリエンさん」
「ガウ」
「うわああああ!?」
「…ポチさん、やめなさい。起き抜けに君の顔は少々怖いんだよ。あんまり人をびっくりさせると攻撃されちゃうよ? 君、魔物なんだから」
油断してたりするとちびりそうなくらいビックリしちゃうのは実体験済みなのですごく申し訳なくなる。
それも口元が血塗れとかどんなスプラッタホラーだよ。
「ごめんね驚かせてしまって」
ポチさんの首根っこ抱え込むように引っ張って退かせ、適当な布で拭く。
拭いても綺麗になんないよ、もう。洗ったほうが早いかな。
「ほら、ポチさん」
水球を作ってじゃぶじゃぶ洗う。
ポチさんは嫌そうな顔してるけどおとなしく耐えてるようだった。
よく見たら口元だけじゃなく喉元や足まで血塗れ羽根塗れじゃないか。
「右前足上げて。次左」
「きゅーん」
でもなんだか申し訳なさそうに鳴くものだから、つい許しちゃうよね。
「うん。綺麗になったね」
ポチさんに頬ずりしていると視線を感じた。
おぉっと。
「ダリエンさん、まだ寝てても良かったのに」
「いや、もういい。ありがとう」
まだ三時間程しか経ってないのに。
そんなふうに思ってたら、多少ふらつくもののロニアスさんとクローヴィスさんまで起きたようだった。
起き上がれるくらいにはなったみたいだけど、二人ともまだ顔色は良くない。
症状そのものは抑えたけど、消耗した体力まで一瞬で戻せるわけじゃないからね。
でも普通の冒険者って体力あるんだね…。
私だったら絶対睡眠時間足りないし起き上がれないよ。
「魔法…だったのだな」
「うん? ああ。そういうわけであの水筒も一時的な魔法で水が出るようになってただけだから、気にしないでって言ってたんだよ」
明日にはただの水筒になってると思うよ。
「ね、ダリエンさんって魔法使える人だよね?」
「あ、ああ。そうだが詠唱も丸暗記でさほど種類も知らないんだ」
「そういうことか。水は『水よ集まれ』って詠唱でイケると思うよ?多分」
見えなくても周りには水はあるのだということをなんとか理解してもらう。
そして冷水を注いだグラスに水滴がつくのを見せ、集め方の一例を説明。
「間違ってたらごめん、違ってたら本職の人に聞いて?」
「ああ。『水よ、集まれ…』っ!?」
「ダリエン…!」
魔法によって手のひらの上に創られた水球はすぐにぱしゃりと壊れてしまい、ダリエンさんの手を濡らした。
ロニアスさんとクローヴィスさん、驚いてる。
「水だ…」
「おお。ちゃんと出てきた」
良かった。嘘教えたことにならずに済んで。
ひとまず胸をなで下ろした。
「水を出す魔法なんて、今まで全然魔力足りなくて諦めてたのに…」
「あ、そうなんだ?」
魔法は何をどうするかを明確に考えられないと異様に魔力を持っていかれるから、もしかしてそのせいかな?
「魔力が殆ど要らなかったぞ…。それに詠唱だって確か『水よ出よ』って習って…」
「そうなの? ごめん古語詳しくなくて私全然わかんない…。ま、まあいいじゃない。使えるようになったんだからっ」
もしかして、またやってしまっただろうか。
「魔力の多い魔法使いでもないのに水を出せるようになるなんて…。ありがとう。この恩を俺はどう返せばいいのだろう」
「別に大したことじゃないんだからどうでもいいんじゃないかな?」
「大したことだぞ!? 冒険者にとって、水がいつでも調達可能っていうのがどれだけ優位か! パーティに一人でも居ればそのパーティは将来的に成功出来ると言ってもいい!」
「そ、そうなんだ?」
やっぱり私、またウッカリやらかしてしまったんだろうか。
でも、ウチのパーティ、少なくとも3人は自在に水が出せるひと居るんだけど。
「そのために魔法使いは引き抜きも多いんだが、君は……剣士だから免れていたのか…?」
「今のパーティ入ってからはそれほどお誘いも無いねぇ。その前はそこそこお誘いもあったけどそもそもソロだからだと思ってた」
パーティの話をしたせいで気になったのか、ダリエンさんが周囲を見回した。
「ところで、君のパーティの女性は?」
「あ…」
なんて説明しようか。
「あの、実はウチのパーティ、私含めて六人なんだ。リィナには他のメンバーと先に進んでもらったんだよ。だからここには今私とポチさんしか居ない」
「…っ! すまない! 俺達のせいで…!」
「こっちこそ、騙すみたいなことしてごめんね。でも女の子居ないから今なら水浴びとかし放題だよ」
うん。気づかないふりしてたけど、ダリエンさんたち結構臭うんだよね。
水が使えるかどうかって、確かに重要なのかもしれない。
「すっ、すまん…」
せめてものの目隠しにと衝立を立ててあげると、ダリエンさんたちは各自桶などを取り出して身体を拭き始めた。
「異性がパーティに居るといろいろ気を使うことも多そうだな」
「ああ。そうだね。やっぱり身体拭いたり洗うにも、見ないように見えないようにお互い気を使うね。あと、ギルドでちょっとキャサリンちゃんのおっぱい見てただけで非難されたりとかね。つい視線が行っちゃうんだから仕方ないと思わない?」
「ぶっ! あんたでも見るのか」
ダリエンさんに話し掛けられ、衝立越しに答えると、クローヴィスさんに吹き出された。
「それは、まぁ…。つい見ちゃうのは本能だと思うんだ。それと野営のときとか朝勃ちとか気付かれると気まずいし、戦闘後にこっそりポジション直してるのがバレると冷ややかな目を向けられて辛い。どうしろっていうの」
ボヤいたら何故かすごく笑われた。本当なのに。
ソロの頃は楽だったなぁ、そのへん。
「最近もう一人増えたから冷ややかな目も2倍だよ…。キャサリンちゃんを見ないようにするのって結構難しくない?」
手持ち無沙汰に思い、ブラシを取り出してポチさんをブラッシングしながら話を続ける。
ふわふわになぁれ。
「あー、見ようと思ってるわけじゃないのに見事にカウンターの上に乗ってたりする時あるしな」
「俺はキャサリンよりラリーサちゃんの尻だな」
ほうほう。尻派か。
ロニアスさんが言ったラリーサさんはキュッと上がったお尻がセクシーなおねえさん。
おっぱいはあんまり大きくないけどお尻と太腿が肉感的で人気のあるギルド職員、らしい。
たしか以前、酔ったルドルフが言ってた。
なお、ルドルフは尻派らしい。
お尻の大きな女性の魅力について語られた記憶がある。
ラリーサさんはカウンターでの受付業務はしてないみたいだけどよく依頼票を整理してたりしてる。その後ろ姿もつい目で追ってしまうので、ロニアスさんの言うことも分からんでもない。
身体を拭き終え洗濯まで済ませたらしいダリエンさんもそう思ったのか苦笑したようだった。
でも私はお尻も太腿もおっぱいも、ぜんぶロザリンちゃんが理想だな。
全体のバランスが良いんだよね、彼女。
早く帰って会いたいなぁ。
「あっ。ね、ところでダリエンさんたちって今後の方針どうなってる?進むの?帰るの?」
帰るといえば、と思いだして尋ねる。
「進むなら一旦ウチのパーティに合流するし、帰るならある程度上層まで送るよ?」
ダリエンさんがロニアスさんとクローヴィスさんの方を確認するように見ると、彼らは首を横に振った。
「助かる。ありがとう。俺たちは帰るよ。これ以上進もうとする意味はないだろうから」
「了解」
方針さえ決まればあとは気楽なものだ。
「さっさと帰ってアデルちゃんのとこ行きてぇな」
「帰るなり娼館かよ。お盛んなことで」
クローヴィスさんを茶化すようなダリエンさんの言葉に、ぎくりとする。
えっ。仲の良いお姐さんが居たら仕事帰りに寄ったり…するよねぇ?
「一仕事終えたなら行ったっていいじゃないか。それも生きるか死ぬかの大変な仕事の後だったら尚更会いに行きたくなるものじゃない?」
クローヴィスさんを援護する体で自己弁護。
ちょっと言い訳じみてるけど言わずにいられなかった。
「えっ、娼館行ったりするのか…?」
「なぜに皆そこで驚く!?」
私が行っちゃ駄目なの?
娼館って、お金さえ払えば手っ取り早くできるとこだから、他人と仲良くなるのが苦手な私には便利だったんだよ…。
「だって広いお風呂あったし話し相手にもなってくれるし、それに………………。私だって健康な成人男子なんだからそういうことしたい気分になるときだってあるよ…」
ロザリンちゃん曰く『全部顔と雰囲気に出ちゃってるから外でえっちなこと考えるのはやめなさい』って言い聞かされてるけど、これで思い出しちゃったのは不可抗力だと思う。
でも衝立で顔は誰にも見えてないのでセーフだ。きっと。
ポチさん、ひとの股間をじっとみるのはやめてもらえないか。
言いたいことは解るがそっとそこへ前足を置くのもやめてもらえないか。おかげでそこは落ち着いたけども。
「わざわざ娼館なんぞ行かんでもちょっと声掛けるだけで大概の女は抱かせてくれそうな顔してるのに」
「無理っ。無理無理」
簡単に言うけど私には知らない女性に声を掛けること自体が難易度高いんだよ。声を掛けることに成功したとしても、そこからどうやったら他人とそんなことするような深い仲になれるんだい?
「…どんな精神支配魔法だよ怖いな。そんな魔法は使えないよ…。世の中誰とでもすぐ仲良くなれるって人ばかりじゃないし私はそういうタイプではないから、お金さえ出せば相手してもらえる娼館が便利だったってだけだよ。あ、でも百年くらい先まではもう行く予定無いかな私結婚するから!」
私にはもうロザリンちゃんが居るからね!
そのロザリンちゃんと仲良くなれたのも今思えば奇跡的な偶然だと思うんだよ。ありがたいことだね。
「結婚!?」
「おめでとう…?」
「怪我に注意してくれよ」
「ふふ。ありがとう」
本当に、ロザリンちゃんに早く会いたい。
その後身支度を済ませたダリエンさんたちの朝食にとベーコンとテノーのスープを出したら涙ぐんで喜ばれた。
そういえば水が無かったんだもんね。
水も無しじゃ携帯食も食べ難いし、今まで何食べてたんだろう。
ちなみにロニアスさんたちのは具も減らして消化に良さげなものにしたよ。
水が自由に使えることのありがたさをちょっとだけ認識したよ。
「ね、5階層目くらいまで上がれば現状での3人だけでも帰れる?」
食事を終えて出発という頃合いで私は尋ねた。
体調悪いときは無理しないほうがいいからね。
「ああ。その辺りなら余裕をもって行けると思う」
「そっか。じゃ、そろそろ出発していい?歩くと日が暮れちゃうからとりあえず魔法で転移するけど、いいよね?」
日没のない階層で『日が暮れる』という表現もアレだが。
「え…?」
拒否されると困るので有無も言わさず転移。
階層をまたぐ転移はちょっとめんどくさそうなのでこの階層の階段まで移動することにした。
「ぅわあ!?」
バランスを崩しかけたクローヴィスさんを空気で作ったクッションで支えつつ、事情説明。事後承諾だけど。
「階段のみ歩いて移動、それ以外は転移魔法で省略するね」
私の場合、一度踏破したフロアであれば一応転移可能だからね。
「そ、それは助かるが…すごいな」
「さくさく進もーう」
上のフロアに続く階段を登っては転移して、転移しては階段を登る、というのを数回繰り返し、私達は5階層目まで戻ったのだった。




