041
アイツ再登場です。
※性感染症、売春、性的被害の示唆、セクハラ描写があります。
先日からケチが付きっぱなしだ。
支部長からも叱責され、キャサリンには蔑むような目を向けられた。
それがむしゃくしゃして連日街娼を買ってたもんだから誰からだったかもわかんねえが、病気まで貰ったみたいでむちゃくちゃ痒い。
丁度給料日前だったせいで金もなく、治療院にも行けなかったが、それも今日まで。
今日はとうとう給料日。早朝からの勤務だ。
ギルド職員の就業時間は3種類ある。
早朝勤務、朝から夕方までの勤務、夕方から夜の勤務だ。
俺はいつも早朝か夜の勤務を優先して選んでいる。早朝と夜の勤務は忙しいかわりに勤務時間が短くて給金が日勤と同じだけ貰えるところが良いのだ。
「はよっす」
ギルドに着くと、既に早朝出勤の職員が何人か来ていて、始業準備におわれていた。
「おはようキール。今日は体調どうだい?」
「昨日よりゃマシっすね」
嘘だ。むちゃくちゃ悪化してる。
時々我慢出来ない痒みがくるせいでその度にトイレに駆け込んでいたせいか、体調不良だと思われているようだった。訂正するつもりもないが。
「そうかい。無理すんなよ」
「へーい」
受付カウンターの自席について軽く準備をしているうちに規定の時間になり、ギルド正面口の扉が開かれる。
少しでも割の良い仕事にありつこうと、どっと流れ込んでくる大勢の冒険者達。
こんな時間にギルド前に並んでるようなのは駆け出しFランクやEランクが殆どなので、登録可能年齢である十三になったばかりといった年頃の男が殆どだ。
稼ぎも少ないせいでまともな宿にも泊まれず野宿同然な暮らしをしているのも多いせいか、どことなく薄汚れていて臭え。
頭角を現すやつってのはFランクの時点で大体わかるもんだ。
多少身綺麗にしているとか、読み書き計算が出来るとか、やはりどこかが違うようだ。
「これっ!お願いします!」
「少々お待ち下さい」
ひたすら依頼票の受付処理をして目の前のヒヨッコ冒険者たちをさばいていく。
気の短いやつらなのでしょっちゅう同業者同士のトラブルは起きるが少々の言い争い程度なら放置するのがコツだ。いちいち構っていられない。
「お前もウチのパーティに入れてやるって言ってんだろ。リリアナ、お前みたいな中途半端、入れてくれるパーティなんて無いぞ?」
「お構いなく!」
「毎日まともな宿で寝たいだろ?」
「あんたのとこに入らなくたって宿くらい泊まれるわよ!」
親切めかして言ってるが、どうみても身体目的で誘ってるDランクくらいの剣士と、駆け出しの女魔法使いが言い争ってる。
今までも宿に泊まりたいだろうとか言って女を引っ掛けてきたんだろうな。
女の冒険者は宿に泊まれるかどうかは死活問題になりがちだからそういうので釣れるやつも居るしな。
路上で寝てる最中に襲われて妊娠しそのまま稼げなくなって路上で餓死、なんてのも王都ではたまに聞く話だった。
Dランク程度でいい気になってFランク引っ掛けてるあたり、かなり小物なのだが、ハーレム気取りなのか剣士のパーティは他3人全員女だった。
ガキが色気づきやがって、女は女で全員剣士に媚びてやがる。
女の中でも序列があるらしく、剣士に腰を抱かれている女が他の女に何かと指示を出してたりする。
周囲の野郎どもの嫉妬に満ちた視線が剣士に集まるが、剣士自身は気にするふうでもない。
他所でやれよ。
「とにかく、お断りよ」
リリアナと呼ばれた魔法使いはそう言って俺とは別の受付カウンターへ向かって行った。
あの剣士よりかこの女のほうが上のランクまで行けそうだな、と思った。
…と気を紛らわしていたが、…痒い。痒い。痒い。
掻き毟りたい。
イライラする。そわそわと落ち着かない。
Eランク以下の姿が減ってDランクが増えCランクの姿を見かけるようになると、そろそろ俺の勤務時間も終わりに近づいてくる。
そうすると日勤のやつらが出勤してきて、やっと業務交代だ。
「お疲れさん。ほれ、お待ちかねの給金だ」
「あざーす!」
これはもう恥ずかしいだとか言ってる場合じゃなく治療院へ行くべきだろう。
ギルドを出て、家とは逆方向に向かって歩き始めた。
擦れて痛痒いし少し歩き難い。
ギルドから最寄りのソッチ系の治療院までは10分も掛からないほどの道程なのだが、半分くらいまで来たところでまた、酷い痒みがきた。
まずい。
サッと周囲を見回すと、高めの宿屋の看板が見えた。
ギルド周辺の宿屋には多い業態だが食堂としての営業もしているらしかった。
昼までまだ時間もあるためまだ準備中のようだったが。
「すんません、腹の調子がおかしいんでトイレ使わせてくれませんか」
店内で皿を運んで片付けていた赤い髪の女の店員に声を掛けた。
「どうぞ。ご案内します」
振り返ったのは、キャサリンほどじゃねえが美人。
ただ、キャサリンの巨乳でも比べものにならねえくらいの、すげえ爆乳だった。
見たことねえくらいデカい乳。
動くたびにたゆんたゆん揺れてる。本物か。
痒みを一瞬忘れるくらいの衝撃だった。
俺の視線の行方に気付いたのか、少しムッとしたような顔をしてはいたが、トイレまで案内してくれた。
おかげで助かった。
あんだけデカい乳してんのに太っているというわけでもなく、腰はキュッと細く括れてて随分高い位置にある。
ケツは程よくデカくてなんともいえない唆る丸みを帯びていた。
娼館にいた娼婦でも見たこと無えよあんなスタイルの女。
トイレから出ると、先程の女が宿泊客だろう冒険者に昼食らしき包みを手渡しているのが見えた。冒険者はスケベ面で女の胸をチラチラ見ていた。
礼を言って宿屋を後にし、治療院へ向かった。
程なく辿り着いた治療院は開院時間から間もないせいか、混み合っていた。
俺より悪化しているのかしきりにトイレに出入りしてるヒョロい男がいたり、堂々とその場で手を突っ込んで掻いてるオッサンがいたり、もぞもぞと動いて痒みを誤魔化そうとしてるやつがいたり様々だが、大体そういう症状のヤツばかりだ。お前らバカだな。俺もか。
待つのに飽きた頃ようやく俺の番がきて、医師の前に案内された。
「今日はどうされましたか?」
淡々とした口調の医師が、お決まりの文句で症状を問う。
診せる部位があれだから、これくらい淡々としていてもらえるとすっげえ気楽だ。
簡単な問診のあと患部を診て、医師が診断をする。
「局部の痒みと赤い発疹、尿道からの膿…。エフラミナ症ですね」
手元の紙に何かを書きつけながら医師が説明していく。
「軽い痒みだけの段階であればともかく、ちょっと進んでるみたいですし、症状緩和のための薬が追加であったほうが良さそうですね。ただ、痒く無くなったからといって薬を塗るのを止めたりしないでください。あと性交は相手にうつすだけじゃなく悪化の原因にもなりますのであと三日程、発疹が消えるまでは控えてください」
「…ハイ」
「毎日二回薬は忘れずに塗ってくださいね。痒み止めは要りますか?」
「おねがいします」
「処方しておきますね。では、水分も多めにとってくださいね。いっぱい小便をしたほうが若干ですが治りが早いです」
「…ハイ」
診察を終えて薬を受け取り治療院を出ると、既に太陽は真上にあった。随分時間を無駄にしたような気分になる。
昼メシでも食うか。
そのへんで適当に食おう。早速銀麦亭へ行ってみるのもいいかもしれない。
来た道を戻るようにして銀麦亭まで行ってみれば、かなりの行列が出来ていた。
「何だぁ?何でこんなに混んでるんだ?」
行列が店の外まで出ていることに驚いた。
「そりゃ、この店の日替わりメニューがめちゃくちゃ美味いって噂のせいだろ」
最後尾に並んでた中堅ランク冒険者っぽいヤツ、つまり俺の前のヤツが、俺の独り言に答えをくれた。
「あと一昨日くらいから美人でスゲェ店員が居るらしい!」
「馬鹿野郎。彼女に手ぇ出すと、ここを定宿にするような高ランク冒険者のオトコが出てくるって話だぞ。先月Cランクになったトランも、青い顔して逃げ出したらしい」
クソ、やっぱり男居んのか。
Cランクのトランってのは確か、威張り散らしてて嫌なヤツだが、それなりに実力もある冒険者だったように思うんだが…。
「あいつが?マジか。でも見るだけならいいだろ。ギルドのキャサリンよりスゲェって聞いたぞ!?」
「キャサリンって、あの制服はち切れそうな胸の?あれ以上って、お前そりゃ無いだろ」
「いや本当だって。見たヤツが言ってたんだからよ」
そこまで噂になってんのか。
今度はお返しに俺が野郎どもの疑問に答えてやるか。
「キャサリンよりデケェのは本当だったぜ。それでいて腰なんかこう、キュッとしててな」
「アンタ見たのか!?」
「今朝偶然な」
「くうぅ。高ランクなら女も選び放題ってか。羨ましいもんだな」
まったくだ。幸運な野郎も居たもんだ。
中堅ランクの冒険者っぽい2人組はその後もずっとやいのやいのと女の話ばかりしていた。
「お席にご案内します」
しばらく待って苛立ち始めたころ、ようやく席へとつくことが出来た。
案内してくれたのは別の女だったが。
噂の日替わりメニューを頼んで待っていると、外の行列とは違って、さほど待つことなくすぐに運ばれてきた。
目の前に置かれたのは、美味そうな匂いのパンと、冷製スープと焼いた肉だった。
メニュー自体はありふれているが、さすが高い店。焼いた肉はスパイスが効いてるし、なんとスープにも肉が入ってる。高い粉使っているんだろうパンは柔らかくて中身が白っぽい。
確かに美味い。噂になったり行列が出来るのも頷ける。
夢中で食っていたからか、気づいた頃にはもうあと一口のスープしか残っていなかった。
もっと食いたい。ここへはまた来よう。
それにしても、あの女は何処だろう。
周囲を見回すが、姿は見えなかった。
***
「行ってきます!」
「ロザリンさんお願いね!でも道中気をつけるのよ?」
「はいっ」
俺の勤め先である銀麦亭では、ここ数日ランチ営業の客が日増しに増えてる。
今日はとうとうそのせいで、用意してたぶんではパンが足りなくなってしまったのだと旦那さんが困っていた。
妙に冒険者の客が増えた。しかも元々のウチの客層より若い感じの。
銀麦亭のパンは、そこらで買えるようなものとは違う粉や製法に拘ったパンなので、ちょっと買い足して済ませるなんてわけにはいかなかった。
そこで、旦那さんがパンの製法を教えてもらった店なのだという中央商業区のパン屋さんまでロザリンさんにおつかいに行ってもらうことになった。
今のところお仕事を抜けても一番支障が少ないのはまだまだ役立たずな私だから、というのがロザリンさんの主張。
確かに慣れてないとこはあるけど、接客対応とかゾフィさん並みに凄いんですけど!?
特に客のあしらいかた。
戦力的には俺が行ってきたほうがいいのでは?
今日はゾフィさんが居ないので尚更。
ロザリンさんは長期宿泊客な冒険者アルフレート氏が先日連れてきた、二十歳くらいの女性。美女。
超絶イケメンが連れてきた女性だからなのか、当然のように美女。そしてオッパイすごい。奇跡のプロポーションな美女。
その美女にアルフレート氏が全力で好意をぶつけまくって愛を乞う姿を、たった数日なのに何度も見かけた。
エルフという種族皆がする求愛行動なのか、それともアルフレート氏個人だけなのかは判らないけど。
いつも爽やかイケメンなあのアルフレート氏でもそんなことをするのかと意外に思ったものだ。
いつもならイケメン爆発しろとか思うところ。
しかしアルフレート氏の場合は、あまりに一生懸命で必死な様子が涙ぐましく、その様子がまるで俺らと同じ側の男に思えて、イケメンなのに応援せずにいられない。頑張れアルフレート氏。
現在その二人は仲良く3人用の広い部屋にご宿泊中。ゾフィさんがロザリンさんに直接声を掛けて雇ったらしく、一昨日から一緒に働いている。
顔立ちは違う系統なはずなのにどことなく雰囲気がゾフィさんと似てる。
ゆったり優雅に動いてるように見えるのに仕事は遅くないあたりとか。
おそらくこの混みようはこの美女目当てな気がしてならない。
だってあいつらガン見してるし。
こんな美女をおつかいごときのために外へ出して良いのかとか思ったけれど、曰く、「アルフレートの作ってくれた護身用魔道具があるから!」とのこと。
あの人エルフですよね!?
息をするように魔法を使うとかいう種族が作った魔道具とかどうなんだ!?
一般的な護身用魔道具とは性能が違う気がしてならないぞ。
ロザリンさんはアルフレート氏に無条件の信頼を寄せているのか大丈夫としか言わず、そのまま出掛けてしまった。
旦那さんが一番安全な道の地図を書いてたけど本当に大丈夫なのだろうか…。
子供をおつかいに出すより心配になるが、心配ばかりしていられない。
残った者だけで現在の食堂を回さなければならないのだ。
料理を運んで行くと明らかに落胆するのは何なんだ冒険者たちよ。
なんだ男か、とか言うな。
目の前に皿を置くとすぐ新たな期待で目を輝かすが。
ウチの料理は旦那さんが作った絶品だからな。
ここ数年は時々厨房借りて何か作ってるアルフレート氏に刺激されてか、さらなる飛躍を遂げている。
人気のカツサンドもアルフレート氏のレシピなのだそうだ。
あの人の料理も不思議なんだよな。調理法も聞いたことのない謎な工程ふむものが多いみたいだし。
調理過程で魔法が必要なものも多いそうなので、レシピを教えられても再現出来ないのも多いらしいけど。
故郷の料理なのだろうか?
そんなアルフレート氏だが、一昨日から街を出ている。
俺の癒しのリィナちゃんたちと一緒に。
リィナちゃんは見た目十三歳くらいなのに中身は大人な女性という奇跡の存在だ。
まあハーフエルフってだけだが。
…どうやら同パーティのフェイ氏に好意を寄せている様子だがっ。
最近加入したらしいマデリーンさんはまだフリーらしいが、どうもルドルフ氏と出掛けることが多いように思えた。ライリー氏はフリーのようだが色恋沙汰にはまだ興味なさげな様子に思えた。
聞いたらまだ15歳だったらしいので、そういうこともあるか。
ルドルフ氏と同年代でもおかしくない大柄ガチムチなくせに、まだ十五の成人したてだったことのほうが驚きだ。
外見上まだ十五、六くらいに見えるアルフレート氏がゾフィさんより年上なのも驚きだが。
「只今戻りました」
「ロザリンさんお疲れさま。ありがとう。助かったわ。それだけあれば今日のところは多分大丈夫そうね」
やっと行列が伸びなくなった頃、ロザリンさんが無事に戻って来た!
「そうですか。よかった」
ふんわり微笑んでから手早く支度をしてすぐさま配膳の仕事に戻るロザリンさん、女神。
これでスピードアップだぁー!
ロザリンさんの戦線復帰もあり、やっと行列が減り始めた。
今居る人たちが居なくなればおそらくランチ営業は終了だろう。
しかしそれなりの時間になってしまっていて、そろそろ宿のほうの客が訪れ始める。
大体は商売のために遠くから来られた方々や、冒険者なわけだ。
値段的に、ここを定宿にするには冒険者でいうとCランクの平均以上の収入がないと難しいから、今まではあまり若い冒険者は来なかったんだけど。
「部屋空いてますか?」
またパーティだろう5人位の若い冒険者が宿泊受付カウンターのほうに来た。
本来なら客の要望を聞いて、ゾフィさんがどの部屋に案内するかを決めるのだが、今現在満室。
故に部屋の調整も必要なく、決まり文句でお断りするだけなので俺やロザリンさんでも対応可能。
「申し訳ございません、残念ながら本日は満室でお部屋をご用意することが出来ないのです。お客様のまたのご来店をお待ちしておりますね」
「………そうですか…」
ロザリンさんが決まり文句を本当に申し訳なさそうに言った後に「また来てくださいね」なんて優しく微笑むせいか、難癖をつけたり食い下がろうとするようなやつがほぼ居ない。驚異的。
ほぼ、ということは、たまには居るってことだ。
その客は昼間から飲んでるのか、酒臭かった。
その時点で嫌な予感しかしない。
二十代半ばといった年頃の、冒険者。
装備品からすると中堅ランクくらいかな?
銀麦亭をよく宿泊利用してる人たちのよりは安っぽく見えるから。
そいつは日替わりメニュー他、いくつもの料理を頼んだあと、ロザリンさんに絡み始めた。
酒は無いのか、とか。上に部屋は空いてるか、とか。
表面上接客してんのが女性とヒョロい男だけだからって、冒険者の多い地区で営業してる店なんだから対抗手段があるって何故思わないのかな。
実はウチの旦那さん、今は料理人だけど昔はAランク冒険者だったらしい。
先日のはアルフレート氏が脅して黙らせたが、今回は旦那さんの出番だろうか。
「当店は昼の営業での酒類販売は致しておりませんし、現在満室です。なお、お客様のおっしゃるような特別なサービスは当店では行っておりません」
前回もそうだったけど、全く怯えもせず笑顔で淡々と事実を告げるロザリンさん。
ゾフィさんもだけど、高ランク冒険者とお付き合いするような女性ってみんなこうなのだろうか。
俺ともうひとりの女性従業員はちょっとこの状況に緊張してたりする。
「お店をお間違えですよ?紅い札のお店をお探しでしたら、第三商業区へどうぞ?」
紅い札、っていうのは女給さんに気持ちいいことしてもらえる種類の店のこと。さらっと言ったねロザリンさん。
「いいからさっさと酒持って来い! 夜売る分が有んだろうが!?」
冒険者が舌打ちしてもロザリンさんは動じてもいない。
「夜売る分は夜の分よ。恫喝したからといって昼間から出て来るとでもお思い? これ以上コトを大きくするなら然るべき対応をさせていただきますが、よろしくて?」
反論の途中からスゥっと表情が消え去っていくロザリンさん。
美人の無表情怖え。
「ハッ。ただの給仕の女に何が出来る!?」
そんなふうに嘲りを向けた途端、ロザリンさんが微笑む。目が笑ってないけど。
「あらぁ。その女の婚約者や雇い主が高ランク冒険者かもしれないわよ? もしかしたら私に触れようとしただけで腕が吹き飛ぶような魔法が掛けられてるかもしれないわね」
やべえ。全部本当かもしれない。
ハッタリにしては信憑性もある。
確かにアルフレート氏は高ランク冒険者だし雇い主の旦那さんも元高ランクだ。
そしてアルフレート氏のロザリンさんへのあの溺愛、執着っぷりならそれくらいやらかしていてもおかしくない。
「煩え!」
「きゃ…」
男がロザリンさんの服を掴もうとした瞬間、パァン!!という音が辺りに響いた。
弾かれたらしい手は、軽い火傷を負っているように見えた。
「…あらやだ。最初の警告段階ならまだ怪我はしない程度の威力って聞いてたんだけど…。威力の調整に失敗したのかしら、あの人」
明らかに怪我してますよアルフレートさん!?
「…このイヤリングもいざという時は相手に向かって投げれば無力化できるから、ひとおもいにやっちゃいなさいって言われてるの。さあこっちは何が起こるかしら?」
ロザリンさん、片方のイヤリングを外して右手に握り込んでる。投げる気満々ですね!?
そしてそのイヤリング。物騒な魔法が掛けられている予感しかしなかった。
アルフレート氏をよく知る俺ともう一人の女性従業員が数歩後退ったせいで、ロザリンさんの言葉が真実味を増したらしく、男もたじろぐ。
「ご注文の品もまもなく出来上がります。お席について静かにお待ち下さいませ? それとも今夜は保安部の詰所か治療院にお泊りのご予定かしら?」
若干ソフトなだけで言ってることが先日のアルフレート氏と大して変わらない気がした。意外と似た者カップルなのかもしれない。
「……りょ、料理をさっさと持って来い…」
今までの勢いはどこへ行ったのか、それだけ言って男は静かに着席した。
「ハイ。少々お待ち下さいねぇ」
ロザリンさんも何事も無かったかのようにそう言ってその客の席を離れて行った。




