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036

 昼休憩後片付けをしてからまたいろいろ調理をして過ごした。


 ロザリンちゃんはゾフィさんたちに付いていろいろ忙しそうに働いていたようだ。

 今、初日お仕事を終えて部屋に戻ったところ。


「ロザリンおかえり。疲れたでしょ」

「緊張したわ」


 肩でもマッサージしようかと背後から触れると、ロザリンちゃんは私の手に頬ずりして振り返り、私に抱きついてきた。


 …うん。なんか幸せ。


「今日は何したの?」

「お洗濯とベッドメイクと、配膳と…、あとお掃除ね」

「やっていけそう?」

「うん。皆いい人だしゾフィさんたちが丁寧に教えてくれるから」

「そっか。なら良かった」


 手触りのいい髪を梳く。

 真っ赤な髪の毛にキスをすると、唇に触れたそのひんやりとした質感がとても気持ち良かった。


「やっぱりその制服可愛いね…」


 ちょっとメイド服的で。

 脛丈なのがまた、私の好みだ。


「でしょう?」


 ロザリンちゃんも気に入ってるみたい。


「アルフレート、料理上手なのね」

「ふふ。56年も生きてれば多少の料理くらい覚えるよ。ただ、習ったわけでもないからかなり適当だけど」

「それでも充分暮らせる程度には作れるわけでしょう?」

「ん?まあ…そうだね」


 食べるのが好きというか、食い意地張ってるせいだと思うけど。


「今日は、助けに来てくれてありがと」

「どういたしまして?」


 昼のあれのことだろうか。

 思い出して少し腹立たしさが戻ってきた。

 ロザリンちゃんは私のなのに。


「ねえロザリン、私は明日からちょっと出掛けてくるけど、あの護身用の魔道具は必ず身につけててね?」

「今日もつけてたわよ?」

「そう。私が居ない日は、夜寝るときも、シャワー浴びるときもつけててね。それ、できるだけ肌に触れる状態のほうが効果絶大だから」

「大丈夫よ」


 そう言ってロザリンちゃんは少し胸元を開けて小玉スイカの間からスルスルと雫型のペンダントを引っ張り出した。

 うん。そうだね。これ以上なく肌に触れてるね。


「ね、コレさっき作ったんだけどさ、私が街から出てる間だけでいいから追加で着けててくれる?」


 ポケットからイヤリングを出して手渡す。


「なぁに?」

「投げつけると相手を制圧できます。1回使い切りだけど、相手の身体を動かなく出来る。解除はロザリンちゃんが「動いても良い」と許可を出すだけ。何かあったら躊躇わずに衛兵さんが来るまで動けなくしちゃって」


 昨日みたいにめんどくさい客が来ないとも限らないからね。


「…わ、わかったわ。……アルフレートの方こそ、怪我とかしないでね?」

「危険には挑まず最大限避けるのがモットーです。大丈夫。気をつけるよ」


 まあそうだね。気をつけよう。

 まるで「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」っていう死亡フラグみたいだもんね。

 私なりに最大限の安全確保をしつつ行動する所存。


「…あなたって本当に冒険者だったのね」


 イヤリングを受け取ってスイカの間にペンダントを押し込みながら、ロザリンちゃんが呟いた。


「えぇぇぇ!?疑う余地がまだ有った!?」

「ううん。そういうのではなくて。実感したの…」


 そう言って、ギュッとくっついてきたロザリンが可愛くて、抱きしめ返す。


 夕食も食べてないんだけど、シャワーも浴びてないんだけど、まだ太陽も没んでないんだけど、今日はもういいかな……?


 ロザリンちゃんの顔を上向かせてから、触れるだけのキスをした。

 そしたら今度はロザリンちゃんから濃厚過ぎるキスを返された。

 これはもう了承ととらえて良いだろうか。


「ロザリンさんや…」

「なぁに?」

「…………いいですか…」

「いいわよ…」


 途中でハプニングはあったものの、その日のメイド服プレイは、とても素晴らしかったとだけ言っておこう。


 無事に帰って来て、と潤んだ目で情熱的にせがまれるのも悪くない、と思った。







 相変わらず朝のお誘いには応じてもらえず、内心かなりヘコみつつ、装備を身につけていく。


「ロザリンさん、本当に駄目ですか…」


 ベッドの上でケットに包まって座っているロザリンちゃんに再々度問う。


 いいかげんしつこいと自分でも思うのでこれが最後だ。


「き、昨日あんなにしたじゃない!」

「……そっか」


 あんなに、とか言われてるけど昨日は1回しかしてないんだけどな…。

 少々時間をかけてねちっこかったかもしらんが。


 これから数日できないと思ったら、つい。


 のろのろとコートを着込み、金属補強の入ったブーツを履いた。

 剣帯をつけようとしたところで背後からロザリンちゃんが抱きついてきて、剣ががちゃりと鳴った。


 ふんわりおっぱいが背中に心地よい。

 下着もつけてないので直に凹凸感を感じる。

 

「……無事にかえってきたら、何でも好きなこと1つだけ、していいわ」


 なんですと!?


「何でも!?」


 私が反応して振り返った途端にロザリンちゃんが微かに身構えた。無茶な要求すると思われてる?


「…だから無事に帰ってきて…」

「大丈夫だってば」


 不安なのかな?

 笑ってみせたけどロザリンちゃんの表情は晴れなかった。

 これからも冒険者は続ける予定なのでこればっかりは慣れてもらうしかない。

 そのかわり、全力で無事戻ってくる努力をすると誓うよ。


 しかし、なんでも、か。

 拒まれ続けている朝の一回をお願いするもよし、またメイド服を着てもらうもよし。ほかにも、普段は恥ずかしがって断られることをお願いしてみるのもいい。


 すごく楽しみだ…!

 お仕事としてしてたときと違って今現在のロザリンちゃんは恥ずかしがりやさんなので、させてくれないことがいろいろあるのだ。


「アルフレート、人前に出ちゃ駄目な顔になってるわよ」

「うっぷす」


 ロザリンちゃん曰く、えっちなことを考えてるときの私はいろいろ顔に出てるらしいので、人前に出られる顔に戻すべく、裸のロザリンちゃんから視線を逸らしてから真面目に今日からのお仕事について考える。


 予定としては、早朝、つまりこれから飛竜便屋に頼んでポチを含めたパーティ全員をダンジョン前まで運んでもらう手筈になっている。


 飛竜便屋には早朝割増料金で頼んである。

 そして今日1日で8階層目まで進むことになっていた。


 体力のペース配分を間違えなければ大丈夫だろう。

 先日自分の体力の無さを自己申告したせいか、ルドルフもそのへんを考慮してくれたっぽい。


 寛容なリーダーに感謝だ。


「2泊か3泊で帰ってくる予定ではあるけど、ちょっと帰りは読めない。ごめんね。行ってくるね」

「行ってらっしゃい、アルフレート」


 朝からするには少々熱いキスをしてから、ロザリンちゃんに見送られてポチさんと共に部屋を出て階下へ降りると、全員が揃っていた。


「私が最後だったんだね、ごめんね」

「いや、まあ、いろいろあんだろ。揃ったし、行くか」

「さくさく行きましょ。ほら早く」


 リィナに急かされ、そのまま私たちは銀麦亭を出発した。

 一度だけ振り返ると、窓辺からロザリンちゃんが手を振っていたのが見えて、嬉しくなった。

 頑張ろう。


 飛竜便屋の事務所に着くと、セオドアが待機していてくれた。


「朝早くごめんねセオドア」

「本当になー。朝のひとときを返せ。アルフレート今度奢れよ」

「はいはい。次どこか行くときは私が奢りますよー」


 そこまで言って気づいたね。


「…あれ?私もしかして前回払ってない?」

「ははっ。気にすんな」

「いやいやいや払うから!」

「いやあ、面白いもん見れたし。なあ、とりあえず急ぐんだろ?乗れよ」


 そうだった。

 飛竜の背の、本来なら荷物を積む場所に取りつけられた座席に各自座ると、セオドアの指示で飛竜が翼を広げ、舞い上がった。


 前回乗ったときはそれどころじゃなくて気づかなかったけど、竜って魔法で飛んでるんだね。

 羽ばたいているけど翼は単なる補助だったみたい。

 よく考えれば重量的にもこのサイズの翼じゃ無理だもんね。


「アルフさん、あの飛竜便屋さんと知り合いなんですか?」


 風の音がすごいせいか、フェイが耳元で言う。

 魔法で風だけでも防ごうか。


「うん。前回乗ったときに意気投合して。この前一緒に飲みに行った…。ぅああ、ルドルフ、フェイ、マデリーンさん、セオドア、ごめんね。五日前、私皆にすっごく迷惑掛けた!」


 芋づる式に駄目な記憶も思い出してしまう。

 あの醜態は五十六にもなってどうなんだと言わざるを得ない。


「もういいですってば!」

「俺は一緒に飲んだくれて先に潰れたアルフレートを宿まで送っただけだぜ」

「重ね重ね、申し訳ございませんー…」

「ははは。アルフレート、この前とはだいぶ表情が違うな。上手くいったんだろ?」

「うん。まあそうだね」


 内容が個人的なことに及びそうなので身を乗り出してから一部に空気の壁を作って音を遮断した。


「ね、セオドア。朝だと毎回拒否されるのって何でだと思う?全然させてくれないよ」

「おまっ、こんなとこで何言ってんだ」

「こんな話するんだから音の遮断くらいしてますー。流石に私そこまでウッカリじゃないよ。後ろに女性も居るのに」

「そうか?…うーん、そうだな。毎日してるとか、夜しつこいとか?」


 …思い当たるフシがあり過ぎるよ!?


「ど、ど、どのくらいからしつこいほうに分類されますかっ…!?毎日だと駄目なんですかっ!?」

「そら、個人の主観だろ。本人に聞かなきゃわかんねえよ」


 ロザリンちゃんが仕事を辞めてからのほうが格段に時間も掛けてしまっているので、やっぱりしつこいとか思われてるんだろうか。

 一か月に一、二回しかしてなかったのが急に毎日になるとかも駄目だっただろうか。


「なに?お前ねちっこいの?意外としつこいの?その爽やかそうな顔で?」

「爽やかかどうかは知らないけど……相手が本当に満足してくれるまで頑張ろうとすると、時間が掛かっちゃうんだもの。…私ってやっぱり下手なんだろうか……」


 難しいよ…。

 世の男性陣は、どうしてるんですか…。


「朝からすんのに時間掛かっちゃ駄目だろ。女の支度ってのは時間掛かるんだからよ。そのへん逆算してやらんと」

「わ、わかってるよ」


 あとはいくつかセオドアに相談したり、惚気てみたり惚気返されたりした。


「ほら、そろそろ話は終わりだ。もう着くぞ」

「はぁい」


 防音の為に張ってた空気の層を解除して、まもなく到着する旨をパーティメンバーに伝えた。


「うわ、噂に勝る大賑わいね」

「凄いな」

「初めて入ると思うと緊張します」


 このダンジョンが初見なリィナたちは興味深げにきょろきょろと周囲を見ていた。

 ライリーは表情こそいつも通りだけど、周囲の匂いや音を確かめるように、さっきから時折耳を動かしている。


 ダンジョンの入口付近は野営する冒険者たちの姿で大賑わいだった。


 朝一番で潜るために前日から野営している者も多いらしく、小さなテントや焚き火があちこちに見える。


 ちょっとしたお祭りみたい。


 商魂逞しく実際に食べ物や飲み物を売ってる屋台のようなものまであったりするけど。

 私たちは野営地から少し離れたところに降ろしてもらい、入口まで歩いた。


 邪魔になるからと飛竜に乗る前に外してた武器をマジックバッグから取り出して剣帯に取り付けたところで、ふと気づく。


 はて…?


「ね、ルドルフ」

「なんだ?」

「前衛多すぎない?」

「…ぉお…!?」


 私もだけど、君も今気づいたね?


 ルドルフ、ライリー、私に、マデリーンさんまで加わって、前衛は4人に。しかも剣士多め。

 戦場の混みっぷりがすごいよ!?

 対して後衛はリィナとフェイの2人。


「ダンジョン内狭いし、私、後衛行こうか?」

「味方巻き込むのだけはやめてくれ。まあそのへんは様子見て動いてくれるか?」

「わかったー」


 現在のメンバーだと私が1番自由度が高い。

 長いことソロでやっていたので大概のことはできるから、接近戦も遠距離攻撃も一応出来る……ことになっている。


 遠距離って結局魔法での攻撃だから、集中しないと命中率が微妙に低いんだよね、私。


 威力のほうはいくらでも上げられるけど、フェイみたいな正確無比な攻撃は出来ないし、リィナみたいな武器での攻撃の合間でも命中率高い攻撃、なんてのは無理。


 私が得意なのはせいぜい射線上に誰も居ないときに高出力でぶっ放すことだけである。

 規模が大きければ多少ズレても当たる、という考え方が駄目なのは解っているんだけど…。


「じゃ、とりあえず先頭はいつも通りライリー、マデリーンはライリーの後方、俺の隣あたり。その後ろにリィナとフェイ、最後尾いつも通りアルフレート、あとポチな」


 それぞれ返事をして、いざダンジョンへ。


「アルフレート、少なくとも午前中はポチに乗っとけ」

「うん?」

「今日、明日、結構歩くぞ。ずっと歩きっぱなしだとお前夕方頃にはぐだぐだになるだろ」

「…ぉお!?お気遣いありがとう!?」


 先日ルドルフに愚痴った内容がフィードバックされている!?


「マデリーンもデカい怪我した後も同然だし、しんどければ一緒に乗せてもらえよ」

「私は大丈夫よ。でもありがとう」


 マデリーンさんは髪を後ろで結い上げて、私のあげたユニコーン革のコートを着て、なんか良さげな長剣を腰に佩いている。


 装備は殆ど中古で揃えたと言ってたけど、いかにも格好良い女性剣士といった感じ。

 装備自体はCランクくらいの人っぽいんだけど、なんか強そう。

 まあ実際本人のランク的に私より上なんだけど。


 ここ数日でルドルフやライリーとは一緒に仕事請けたりダンジョン来たりもしてたらしい。

 

「午前中で7階層目まで行くぞ」

「ルドルフ、ペース早くない?」


 初めて入るダンジョンということもあり、リィナとフェイは少しだけ、不安そうだった。

 ライリーは相変わらず落ち着いて見えるけれど、尻尾がわずかに揺れている。

 警戒は解いていないようだった。


「そのへんまでは順路も判ってるし最短距離で行くからわりとサクサク進めると思ってる」

「なるほど」


 例の鍾乳洞っぽく石筍がニョキニョキ生えてるエリアとか酸のプールの辺りとか、各々の方法でクリアしつつ快調に進んで、4階層目と5階層目の間の階段で休憩をとることになった。





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