032
「終わりましたー」
昼を少し過ぎたところでディアネラ運送の倉庫に戻れた。
「すげえ! こんな早く2巡目終えてくるとか、すげえ! 最初ヒョロいの来たもう駄目だーとか思ってごめん!」
なにげに酷い言われようだ。面白い人だな。
荷物が減ってきたせいか、働く人たちの表情が生き返ってきた。
来たとき死んだ目してる人がいっぱいだったもんね。
「10件目、もしかしたらトラブルあるかもしれません。記録用魔道具でばっちり記録してあるんで、何かあったら冒険者ギルド通してお知らせ下さい」
さすがにトラブルは報告しなければならないだろう。
そう思い、例の件について伝えた。
「マジかー。何?」
「届け物はワガママ娘ご所望の果物で、果物の次にと私を欲しがりまして。さすがにお嬢様の所有物になる気はないので警告として威圧を思いっきりぶっ放して来ました」
「おー。見た目に反して意外と武闘派? 穏やかそうなのにやっぱ冒険者なんだねー。わかったよ。気をつけとく」
「ハハハ。冒険者に喧嘩売るとかバカだな。前にゴロツキが軽く威圧されただけで小便チビってたぞ。高ランクが本気でやると竜すら怯むらしいけど」
「竜だと一瞬しか怯まないですよ?」
「出来るんかーい。マジか。やったのか」
「アハハ。威圧したら私を襲うの止めてどっか行ってくれないかなーって駄目元でやったんですけど、煽っただけになっちゃいまして。……死ぬかと思った」
尚更頭に血の上った白竜さんが猛ラッシュ掛けてきて、避けるのに必死だったよ。
「…アルフレートくん、ランク何だっけ?」
「Bですね」
「うわぁ…充分高ランクの部類…。なんで荷運びの仕事請けたのか謎なランクだな」
「……オイ。もしかしてお屋敷で阿鼻叫喚地獄絵図になってないかい?」
「…さぁ?」
もうどうなっていようと、知らんな。
「ねえねえ、アルフレートくん、もう一巡しない?しちゃわない?」
「ごめんなさい。夕暮れ前に用事あるから、もう一巡は難しいかな」
もう一巡する場合、急げばなんとかなるけど結構ギリギリっぽいんだよね。
余裕のない仕事は仕損じやすいので出来れば避けるべきだと私は思ってる。
「ぐぉお。お断りされたぁ。しかたねえお前ら死ぬ気で頑張れやおらぁああ」
「ぃやあ、2巡もしてもらって、助かったよ。ありがとう! たまに依頼出してるんで見掛けたら請けてもらえるとありがたい」
「タイミングが合えばぜひ。じゃ、私はこれで失礼するよ」
ディアネラ運送をあとにして、ひとまずギルドへ。
依頼の完了を報告して依頼料の小金貨一枚を受け取らなくては。
ちなみに追加料金な他のお金は既に受け取ってある。
お腹が空いたので道中でサンドイッチを食べた。
ギルドへ着くと、ひとまずカウンターに居るキャサリンちゃんに依頼完了の手続きをしてもらう。
ついでにギルド所有の図書閲覧室への入室許可申請をした。
魔道具を作るときに、人族の魔道具師のように術式を書き込むようにすれば更に効率よく運用できるのでは?と考えたから。
それ関連を調べたかったのだ。
図書閲覧室は空調の魔道具が作動していて快適だった。
お腹いっぱいで、ちょっぴり疲れてて、ちょっぴり寝不足で。
ついウトウトしてしまって。
「また寝過ごした…!!」
気づけばそろそろ夕食のための買い物で食料品店が込み始める頃合いだった。
本を片付けて閲覧室を飛び出し、水蜜の館へ向かう。
低速ならともかく、街中でポチに乗って速度出して走っちゃうと通報、捕縛されかねないから自分の脚で走った。
「まにあわないー!!」
あかーん。
通行人を避けながら普通に走ってたら絶対間に合わない。
「ポチ!ついてきて!」
脚に強化を強めに掛けてから一旦路地のほうに入り、跳ぶ。
空中に足場を作って、更に上へ。建物の屋根の上まで上がる。
あとは屋根伝いに走るだけだった。
ほぼ直線でひたすら真っすぐ走った。
ポチさんもよくついてきてくれた。
最後は浮遊の魔法で落下速度を下げてから飛び降り、ゴール。
「ごめん、…遅れた…」
着地した先にはロザリンちゃんと数人のお姐さん、そしてアルバートさんが。お姐さんたちはみんな美人さんだ。
「予想外な登場の仕方するわね。息が上がる程急いで来なくたっていいわよ」
「だって来るって約束したし」
「ちゃんと時間には間に合ってるわよぅ。やだちょっと、ロザリンの旦那ってば、本当にすっごいイケメン…」
「異種族からはそう見えるってだけだよ。ただの種族特性だよ。同族同士から見ると十人並みどころか確実にモテないほうです」
まず体型でドン引きされるからね。初見で避けられちゃう。
好意的に受け入れてくれる人族の女性は優しいな。
Dランクだった頃、別の町で偶然会ったエルフ女性には、完全に引かれてたもんね……。
「えぇー。アタシもエルフかハーフエルフのダンナ欲しいー」
「アルフレートさん、ロザリンを幸せにしてね」
ヘレナさんは涙ぐんでる。本当にロザリンちゃんと仲が良かったんだね。
「鋭意努力します」
「そこは一言、はい、って言えばいいのに。本当にロザリンの言ってた通り、残念なイケメンね」
ロザリンちゃん、私のことを残念なイケメンって言ってたのかい?いいけど。
「ロザリンはそこが可愛くて大好きって言ってたんだから残念さが無くなっちゃ駄目でしょ」
「は!?何言ってんのよ!やめてよマリー、本人の前で言うとか!!」
「真っ赤になってるロザリンちゃんかわいい!!」
この流れとノリなら抱きついても許されるのでは?と思い、ぎゅうっと抱きしめる。
今日もいい匂いする。
どさくさ紛れにポチさんまでロザリンちゃんにすりすりと擦り寄ってる。
すぐに離れたのだけど、ロザリンちゃんは恥ずかしそうにぷるぷるふるえてる。やっぱり怒られるかな?
「もー。アルフレートくん、そこは抱きしめるよりキスでしょー?」
「そうそう!」
「しっ、しないわよこんなところでっ!」
お姐さんたちにイジり倒されてますねロザリンちゃん。
「ロザリン、幸せにね」
「アルフレートくん、もうこの辺来ちゃ駄目よ?来たらすぐロザリンに言っちゃうんだから」
「大丈夫です。この先100年はロザリンだけですよ」
「キャー!」
「も、もう!みんな準備で忙しい時間なんだから、さっさと店に戻りなさいよ!」
「照れてるロザリンかわいいー」
うんうん。可愛いよね。
私もそう思う。
「可愛いですけどあんまりイジり倒すとロザリンが泣いてしまいそうなので、そろそろ行きますね」
「なんであなたまでそういうこと言うのよー!」
私だけ怒られて耳を引っ張られた。
「みんな、ありがと…」
「じゃあねロザリン!」
「ロザリン様。お幸せに」
「みんなも、アルバートも、ありがとう」
賑やかな別れを済ませたあと、私達はそのまま銀麦亭へと向かった。
「あの、ロザリン…。銀麦亭の空室の件なんだけど…」
「空き部屋あったの?」
「…それが、昨日1部屋空いたんだけど、昨夜から私がそこに泊まってるんだけど…元々3人用の広めの部屋でね?一緒に、使うのとか…どうかなーって。……もちろん別でもいいんだよ!?その場合別の宿屋だけど…。私も女将さんには1人用の部屋の空室でたら移るから教えてって再度言ってあるし…!」
「アルと一緒の部屋…?」
「……嫌かな?やっぱり結婚するまでは別々の部屋がいいかな?」
セオドアの言ってた、毎日寝顔見て時々朝から一回くらいして、という生活に憧れます。
もしかしてあふれる下心が見え見えでしょうか。
「それは今更なんじゃないかしら? 今まで何度も抱いてたのに今更結婚するまでそういうことしなくなるとか、ないでしょ? 私は一緒でいいけど、あなたは?」
いいのか。
「私は一緒が嬉しいです…」
「なら、それでいいんじゃない?」
「…うん」
顔がニヤけそうなほど嬉しい。
「アル、すっごくえっちな顔してる。…前から言おうと思ってたけど、あなたの場合男女問わず誘惑しちゃってるから外でその顔するの止めて」
「ファ!?」
「下手な娼婦より誘ってんのよその顔」
「初耳だよ!?」
休憩中とか密かにエロいこと考えてるときに限って妙にギラギラしたおっさんに話しかけられる率が高いのは、まさかそのせいなのか…?
「普段は、まるでそういうこと興味もありません、って顔してるくせに」
「そ、…んな顔してる?」
ぺたぺたとつい自分の顔を触ってみるけど、触ってわかるもんじゃないよね…。
「してるわよ。あなた私のとこに来るとき、ただ遊びに来たかっただけの日としたい日と、すっごくわかりやすかったもの」
そんな顔に出てるのかい…?
いろいろ見透かされてたのかい…?
「何にも隠し事出来ないね…」
「そうよー。覚悟しときなさい?」
「はぁい」
胸を張るロザリンちゃん、可愛い。
そして大迫力ですね。
「ロザリンが可愛い過ぎてつらい」
「可愛いのは今のうちだけだから、よーく憶えておきなさい」
「可愛い人は歳をとっても可愛いんですよ。ゾフィさんなんて未だに旦那さんを魅了し続けてるし」
「ゾフィさん?」
だれよ?という顔で若干不穏な雰囲気。
誤解しないでね?
「銀麦亭の女将さん。旦那さんは元冒険者で、彼女は」
「娼婦?」
「あ、そういうのやっぱり判るんだ?私全然知らなくて」
「やっぱりそうなの?なんとなくそうかしらって思ったんだけど。じゃぁ私のこともきっと全部解ってるわね」
「…うん。さっさと結婚申し込めと言ってくれた人のうちの一人だね」
「他にも居るの?」
「飛竜便屋のセオドア。私と歳が近くて仲良くなって。一緒に飲みに行ったの」
そうだセオドアにも報告しよう。
散々嫁自慢されたので今度は仕返ししてやろう。
「さて、ロザリンさん」
もうすぐ銀麦亭、というところでロザリンちゃんに話しかけた。
「なぁに?」
こちらの緊張が伝わったのか、柔らかい口調とは反対に少し声が固い。
「まだ仮住まいの宿屋暮らしですが、今日からよろしくおねがいします」
「こちらこそ。よろしくおねがいします」
気持ちを新たにそっと扉を開けば、先程のお姐さん達そっくりな表情のゾフィさんが、待ち構えるようにそこに居た。
「おめでとーう」
「わぁっ!?何ですかゾフィさん」
結構吃驚した。
「一緒に帰ってきたってことは、一緒に住むんでしょ? 住むんでしょ!?」
「まあ、一緒の部屋に泊まりますけど、なんでそんな嬉しそうなんですか…」
「幸せなコが増えるのはイイコトよ。嬉しいわ。あらためて自己紹介するわね。私ゾフィ。ここの女将。ここの主人は私の旦那で、料理人なの。銀麦亭にようこそ!」
「よろしくおねがいします。ロザリンです」
なんかロザリンちゃんも、キラキラした目のゾフィさんに気圧されてる。
「さぁさぁ、お部屋に案内しようかしら? それよりアルくんが案内すべきかしら!?」
「私が案内するよ…」
「だったらちょっと待って。ロザリンさん、これお部屋の鍵ね。アルくんが同じの持ってるけど、あのお部屋は3人用のお部屋だから人数分あるの。これはあなたが持つ鍵よ」
「…はい」
ロザリンちゃんは手の中の鍵をじっと見つめていた。
「ロザリン。部屋に行こっか」
「ええ…」
階段を上がって自分の部屋へ。
代わった位置に早く慣れないといけないね。
カギを開けて入る。
私が泊まってるのも昨夜からだし、元々大概のものはマジックバッグに突っ込んでしまう癖があるせいで殆ど物がない。
見られて困るものも、当然ない。
「いいお部屋ね。窓もガラスで明るいし」
「そうだね。クローゼットに服とか仕舞う? ちなみに私は全部マジックバッグに入れっぱなしだからクローゼットはロザリンだけで使ってもいいよ」
「そうねぇ。何着かは出しておこうかしら」
服や靴を取り出したりハンガーに掛けたりしてるロザリンちゃんの楽しげな様子を見てると、こちらまで楽しくなってくる。
夕食まではまだ時間がある。20分くらい。
チューくらいしてもいいかな?いいよね?
「ねえ、アル?」
「はっ、はいっ!?」
「あなたがくれたマジックバッグ、すっごく便利だったわ。ありがとう。お引越しも簡単に済んじゃった」
「うん。喜んでもらえて私も嬉しいよ」
可愛く笑ったロザリンちゃんの手が私の頬に触れる。
耳を掠めるように撫でながら首筋のほうへ流された。
実はその一連の動作も気持ち良くて、好き。
腕が首の後ろへ回されて、ロザリンちゃんの身体が密着する。
…とは言っても実際には凹凸激しい体つきなロザリンちゃんなのでお胸だけがぎゅむっとくっついてるだけなんだけど。
腰を抱き寄せてぎゅっと抱きしめ、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
…めちゃくちゃ舌入れたいんだけど、タイミング的には今しちゃ駄目っぽい?
自分の流され易さ、意志の弱さはよく知ってる。
今止めないとあとは最後までノンストップに間違いない。
ものすごく名残惜しく思いながら、唇を離したのだった。
「夕食、食べに行こ」
「…そうね。ちょっと待って。お化粧ついてる」
「マジか」
ぐいと手の甲で拭うとロザリンちゃんに笑われた。
「取れたけど、雑ねえ。あなたらしいけど」
「いいじゃないか。ね、今なら食堂空いてるから早く行こ?」
「はいはい。わかったわよ」
早く食べ終えて早く寝たいんですよ。
「アル。後で、ね?」
あれ?…もしかしてこれも見透かされてた…?
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