031
「おかえりアルくん。空き部屋でき次第知らせてって言ってた件なんだけど、今いいかしら?」
銀麦亭に戻ると、ゾフィさんから声を掛けられた。
「あ、はい。空いたんですか?」
「空くには空いたんだけど、家族向けのちょっと広めのお部屋でね。3人用のお部屋なのよ」
「別にいいですよ。差額どれくらい?今支払います」
「あら。まあ」
計算してもらって支払った。ちょっとグレードも上がるらしく、いつもの部屋の三倍程度の値段らしい。
最近は満室が続いてたので、空いただけで幸運だ。
…ということはそこ以外は相変わらず空いてないということか…。
「また前みたいな部屋が空けば移るので、空室がでたら引き続き教えてください」
「え?あら?そうなの?意外だわ」
「うん?何が?」
「てっきりロザリンさんとうまくいったから一緒に泊まるんだと思ったのよ」
「ファ!?」
「躊躇なくお部屋変更してたし」
それはずっとルドルフのとこにご厄介になるわけにもいかないし、数日程度なら躊躇うほどの額ではないからで…。
「それにアルくん、帰って来たらちょっと大人な顔になってるし?うまくいったんじゃなかったの?」
「えと、……け、けっこんを前提にお付き合いすることになりました。二人で住む場所が確保できたら結婚しようかと」
「あらぁ。やっぱり!おめでとう!」
ゾフィさんの声に反応してか、旦那さんも厨房奥からこちらを見てる。
私に向けてサムズアップしてきた。
「あの、ゾフィさんと旦那さんに、そのうちいろいろ相談させてもらってもいいですか…。私、すっごい田舎出身なんで、ここらのことわかんないことだらけで」
集落と人族の街だと常識からして全く違うし。
「いいわよぉ!ワクワクしちゃう!」
妙に嬉しそうなゾフィさんを見てウンウンと頷く旦那さんは、嬉しそうだった。
仲の良い夫婦だな。いいな。
「で、一緒に泊まるんじゃないの?それとも、まだ婚前だからって離れとくの?あなた達の場合今更じゃない?」
…貞操もへったくれもないので確かに今更ではあるけど…。
「…い、一緒でもいいんでしょうか…。それは想定してませんでした。明日、二人で相談します…」
「それがいいわ。アルくん、夕食は?食べてきた?」
「いえ。食べます。おねがいします」
「はぁい。お好きな席へどうぞー?」
まだすいている食堂で、1人早めの夕食をとっていると、ルドルフとポチさんが戻ってきたようだった。
ルドルフは向かいの空席に座った。
「おかえり。どうだった?」
ポチを撫でて労う。
べろんべろんと手を舐めてるので、もしかしたら魔力が少し欲しいのかもしれない。
先日買ったポチ専用のお皿に霧兎を乗せてテーブルの下に置いた。
存分に食べてくれ。
「8階層目まで行ってから帰ってきた」
「ぉお。随分進んだね」
「途中でマデリーンに会った。マデリーンは9階層目まで行って帰る途中だったようだから一緒に乗せてきた」
「あ、そうなんだ?姿見えないけど」
「ポチの速度の衝撃で呆然としてる最中だ。メシも要らんそうだ」
「…なるほど」
最初はルドルフも呆然としてたもんね。
結構慣れたんだ?
「あ、そうだ、今夜から私、部屋移るね」
「空室出たのか」
「うん。1人部屋じゃないけど空室出たそうだから」
「これでお前が簡易ベッドから落下する音に驚かなくて済むようになるのか…」
「……思いの外ご迷惑をお掛けしていたようですね…」
夜中唐突に、べちっ、とか、ごんっ、という音がするのが、ダンジョン内で天井から魔物が落ちてきた音に似ていて怖かったのだそうだ。
それより更に、床に落ちてるのにそのまま眠り続ける私が怖かったそうだ。
「まぁ、今夜からゆっくり寝てよ」
「おう。明日は休む。惰眠貪ってやる。お前は?明日はダンジョンでも行くのか?」
「明日は近場でできる簡単な仕事をする予定。夕方用事があるから」
「ふーん」
「ロザリンちゃんと結婚しようと思うんだ」
「ブッ!!」
反射的に障壁を張ったけど、ルドルフが盛大に噴いて噎せた。
「噴かないでよ」
「ゴホッ、アルフレートの伝え方が唐突なせい、ゴフッ。まぁアレだ、おめでとう?」
「疑問形。ありがとう?」
「お前ら妙に仲良さげだったもんな。そうか結婚か…ああでもお前の場合普通と違うから、冒険者続けんだろ?」
「なに?普通結婚すると冒険者辞めんの?」
そういうのは気にしたことがなかった。
「辞めるきっかけにはなるだろ。普通は、結婚できそうな程度の貯蓄ができる頃になれば、結構ないい歳になってんだよ。で、引退するのが多い。稀に夫婦共に冒険者で2人で続けるなんてパターンもあるな」
「ふうん?」
「住む場所とか決めてんのか?」
「いや、まだだけど。このへんでどこか売家買おうかって相談してたとこ。住む家を確保できたら結婚する予定」
「祝宴すんの?」
「んー。多分する」
はっ、しまった。母さんに連絡してない。
「祝宴もだけど式を実家のほうでやるから近々実家行ってこようと思うんだ。実家にも報告しないと…」
「ほー。まあこれからしばらくバタバタ忙しくなるだろうが、頑張れよ」
「うん」
既に今日から慌ただしいので、それは実感してる。
頑張ろう。
とりあえず母さんに手紙でも書こう。
ああ、通信機的な魔道具とか欲しいな。
実家遠いからあっちとリアルタイムで双方向な通信が出来るようにしとけばきっと役立つ。
先日良い魔力結晶もいっぱい入手したし、ちょっと作ってみようかな。
夕食後、部屋を移った。
一人だというのも原因かもしれないけど、ずいぶん広く感じる。ポチさんと私だけで使うのがもったいないくらいの広さ。
さすが3人用のお高い部屋である。
内装がかなりグレードアップしてる気がするんだけど3倍程度で借りることができたのは幸運だったのかもしれない。
なんと、窓にガラスが入ってる!明るい!
製造技術などが発達してないので板ガラスは高価ということもあり、ステンドグラスだけど。
真っ平らで透明な板ガラスを知ってるからこその贅沢な不満だ。
ひとまず落ち着いて一息ついたところで、通信用の魔道具を作り始めた。
電話のように有線で繋ぐのも電波を飛ばすのも現実的ではない。
電気の代わりにこの世界にある魔力を活用するのが恐らく実現可能な手段なのではと思えた。
短距離なら拡声の魔法の応用でイケる。
空間転移のように途中の空間を繋げてしまえば長距離もイケるのではなかろうか。
携帯性を持たせると座標の指定に魔力を取られて無駄が大きくなるので固定式でどうだろう。
とりあえず筐体を作る。本体と、受話器。
本体と受話器は有線で結んでおく。
望んだ機能が電話なせいで、どうしても電話のデザインに引っ張られてしまう。しかも固定電話。
なんか悔しい。
いっそ近未来的映画でよくあるホログラム的な通信機とかどうだろう。
…アレ?電話みたいに音声だけ送るより思念を映像に変換して投影するほうが簡単そうだぞ…?
作りかけた筐体は破棄して、手のひら大の円盤状の透明な板にした。
映像を投影すると考えたら円盤状とかレンズ状とかそういうもののほうが私がイメージしやすかったからだ。
半永久的な魔法の持続を望むので、魔法をかけて終わりじゃなくて、筐体に直接魔法を刻んでいかなければならない。
円盤の表面ではなく側面に刻もう。
ん?もしかして魔法を使わない人でも使えるように出来ればロザリンちゃんとも通信できるんじゃない?
2時間後、私は銀麦亭の庭に出ていた。
光ったら前足でタッチしろ、と指示をしておいたのだけど、部屋のなかにいるポチさんにコールを掛ける。
しばらくすると、半透明なポチさんの大迫力なお顔が目の前に現れた。
「やった!」
『ガウッ!』
ひとまず短距離では成功したようだ。
部屋に戻り、母宛で手紙を書く。
実験がしたいので、同封の円盤が光ったら平らな場所に置いて手で触れてください、何も起きなければ、送り返してください、と書いて、封筒に円盤と共に入れて封をした。
あとは手紙を送るための魔法。
鳥に姿を変えて、上空まで上がった後は、ほぼ音速で飛ぶ。
空間転移ではなく高速移動なので若干のタイムラグがあるのが難点。
速度的にはこの世界では他に考えられないほどの高速なのだけど、所詮は音速でしかないのだ。
実家までは約120km強。6、7分くらいで着くかな?
この部屋には時計などないので地道に自分でカウントする。
そろそろいいだろうか。
「起動」
円盤のふちを一周撫でる。
目の前に現れた、人族だったら20代な女性の姿。
「母さん?」
『アリー!?』
『なに?どうしたの母さん。え?お兄ちゃん!?』
「やっほー。うわ通じた!やったー」
母の後ろに顔を出したのは妹のカタリーナだ。
「ケイティ?久しぶり」
『あ、うん久しぶり。10年くらいだっけ?ナニコレー!』
「いや15年かな。やった。さすが私!」
成功が嬉しい。
でもケイティ、その円盤を指で弾こうとするのは止めたまえ。
『アリー、あなたが作ったの?凄いじゃない。あなた魔道具師になったの?』
母さんは私が家を出た15年前と変わらない様子だ。
母さんにとっては15年程度などほんの一時。さほどの時間とは考えてもいないのだろう。
「いや、冒険者になったよ」
家を出てから今まで全く連絡などしていなかったので、軽く報告してみる。
『冒険者?』
「魔物狩ったり、薬草採取したりいろんなことして稼いで暮らしてる」
『なぁんだ。お兄ちゃん、せっかく街に住んでるのにこっちと同じことしてたら意味ないじゃない』
カタリーナは不満そう。少し街に対する憧れみたいなものが彼女にもあるのかもしれないな。
私のような混ざりものでもない純粋なエルフにしては随分と珍しい。
一般的にエルフは短命な他種族への興味が薄く、他種族への関心を持たない。
他種族に関わってもほんの短い期間でしか関われないからと考えているからだ。
「そうでもないよ。あ、母さん、あのね。私こっちで好きな人が出来たから結婚するね」
『えっ!?』
早速本題へ。
軽い口調で伝えたものの、内心すごく緊張してる。
『えええ!! お兄ちゃん結婚するの!? テオ兄なんて去年またフラれたとこなのに!』
『ケイティ、ちょっと静かにしてくれる? アリーと大事な話をするから」
母さんのいつものふわわんとした雰囲気から一転、少しだけぴりっとした緊張感を纏う。
「アルフレート、お相手はもしかして異種族のかた?』
母さん、察しがいいな。母親業を100年以上やってるだけのことはある。
「うん。人族。私が本当に困ってたときに、私を助けてくれたんだよ」
『その人のこと、どれくらい好き?』
探りを入れてきたね。
「父さんが、母さんのことを好きなのと同じくらい、好き」
『…きちんと、解ってる?』
「解ってるから、今結婚したい」
そう伝えたあと、なかなか母さんは口を開こうとしなかった。
すごく胃がキリキリと痛んだ。
『………………それじゃぁ仕方ないわね。それで?』
「一応、式くらいはと思ったんだけど、準備って何をすればいいのかと思って、来週あたりそっちに行っていい? って聞こうと思ったんだ。私、姉さんのときの記憶がうっすらあるだけで殆ど憶えてないんだよ」
『もちろん! 待ってるわ。お嫁さんも連れて来るんでしょう?』
「うん。そのつもり。ロザリンって名前の子なんだけど」
『そう。わかったわ』
『ねえねえ真面目な話終わり? ね、お兄ちゃん、コレってどういう仕組みになってんの?』
興味津々なカタリーナにひと通り仕様を説明し、ついでにあちら側の円盤のメンテナンスと管理を彼女に頼んだのだった。
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「寝過ごした…」
あのあとカタリーナの質問責めに遭い、なかなか眠らせて貰えなかった。
シャワーでも浴びようかと一旦通話を終えたのに、仕様を説明してしまったせいか完全に理解したカタリーナ側から寝る前に呼び出されたのだ。
寝不足では魔物と戦う必要のある仕事はまずいだろう。念の為町中の仕事にしておくか。
「眠いよぉ…ケイティのあほー」
ひとまず服を着て、目を擦りつつ食堂へ。
朝食の時間にはギリギリ間に合ったみたい。
目の前にお皿が並べられる。
「アルくん大丈夫?今日も具合悪いの?」
「大丈夫…。ただの寝不足です。話し込んでしまって妹が寝かせてくれなくて…結局寝たのが空が明るくなってきた頃で」
それでも4時間弱は寝たけど、欠伸が止まんない。
「妹さんと?昨日いらっしゃったの?」
「あ、遠距離でも話せる魔道具作ってみたんです。昨日。それでテストがてら実家に繋いだら妹が質問責めにしてきて…」
あんまり食欲もないなか、出された朝食をもそもそと食べ、私はポチと共にギルドへと向かったのだった。
「やっぱり空いてるギルドのほうが快適だな」
とりあえず依頼票の貼ってある掲示板へ。
おぉ。荷物の運搬業務、今日中に5件の配達で小金貨1枚。
悪くないな。
依頼票を剥ぎ取って受付カウンターへ。
「おはようございます」
「コレおねがいします」
「ディアネラ運送、…特急荷物の運搬業務ですね。ではこちらに書いてある場所へ直接向かって下さい」
「ふぁぁい」
返事と欠伸が同時に出てしまった。
ちょっと恥ずかしい。
貰った地図を頼りに、第二商業区の倉庫へ向かった。
「おはようございまーす。冒険者ギルドで依頼請けて来ましたー」
「コッチ!コッチ来て!助かったぁぁああ!ぅお、エルフ初めて会った!」
倉庫内は何人もの人が右往左往していた。
めちゃくちゃ忙しそうなんだけど…。
まだ午前中なのにすごく暑い。
かなり大きい倉庫なんだけど、換気も追いついてないみたい。
「荷物の運搬って聞いたんですけど」
「ああうん。鮮度落ちると駄目なやつが重なっちゃって。今日中にこれだけ配達しなきゃいけないんだ。せめて5件分頼みたい。もっと出来るなら5件につき小金貨1枚増額!ただし、丁寧に!ウチは非常に壊れたり傷んだりしやすいものばかりを扱ってるんだ」
なるほど。
運送料が高額なかわりに、安全に運ぶ業者か。
だから5件で小金貨1枚なんて額出しても商売になるんだね。
「……とりあえずここにある荷物全部に鮮度保持か、経過時間遅延の魔法、掛けましょうか?」
「本当か!?やってくれるなら今この場で小金貨2枚支払う!!」
「あとここの気温下げていいですか。暑くて…」
「小金貨3枚出しますぅぅぅぅ!!!救世主じゃぁぁぁぁ!!」
ちょっと魔法を使っただけで臨時ボーナス小金貨5枚を貰ってほくほく。
この仕事請けて良かったなぁ。
「すげー助かるわー。ところでエルフの兄ちゃん、名前は?」
「アルフレートです」
ここでようやくギルドカードを提示する。
本来、仕事を請ける際は、最初にギルドカードを提示するものなのだけど、着いて早々バタバタしてたせいで名乗りすらまだだったというグダグダっぷり。
「とりあえず5件行ってきますよ。マジックバッグは使ってもいいんですよね?」
「おー。全然問題ない!むしろ輸送中に傷まないから助かる!頼む!」
5個の荷物の届け先をメモしてからマジックバッグにしまって、出発した。
いくつかマジックバッグに入らない荷物があったのでそれだけ大切に抱えつつ、てくてく歩くポチさんに乗って行き先を指示するだけの簡単なお仕事です。
「おはようございます。ディアネラ運送です」
「はぁい」
1件目は薬屋さんに納めるガラス瓶だった。
「あれ?お兄さん前に来たことあるよね?」
「ごめんなさい憶えてない」
「ほら、傷薬売ってくれたじゃない!」
「…ああ!」
エルフの傷薬は効果の高さから高額取引されてるらしいんだけど、さほど手間のかかるものでもないので時々作って売っていたのだ。
最初は様々な薬屋に売ったりしてたのだけど、買い叩いてきたとこやトラブルがあったとこ、遠いとこを除外した結果、現在では3件ほどにしか売ってない。しかも気が向いたときだけだから不定期。
多分ここは私の生活圏から遠いせいで除外された薬屋だったんだろう。
「そのせつはお買い上げいただきありがとうございました」
「すごく評判良かったのよアレ。よかったらまた売ってね」
「あ、手持ちの薬売りましょうか?」
「あるの!?」
小さな薬瓶に2本分、金貨4枚で卸した。
「ええと次は…」
研究者さんのとこに希少な淡水魚の餌を届けたり、高級なお花屋さんに珍しい花を届けたり、ペット屋さんに卵を届けたり、また別の薬屋さんに薬を届けたりして、5件をクリア。
時間に余裕がありそうだったのでもう5件請けた。
そして通算10件目、お金持ちのお宅に希少な果物をお届けに。
執事っぽいおじさんに連れられ主の部屋っぽいとこに案内された。
荷物の受け渡しくらい玄関先でしてくれればいいのにめんどくさいな。
わざわざ持って来させることに意義を見出してる?
金と権力を持った人間は変なとこにこだわり始めるから厄介だ。
なお、この家は貴族家ではない。ただの金持ちだ。
貴族になりたい一般市民だ。
若干のトラブルの気配を感じるので、密かに記録用魔道具を起動しておく。
「ディアネラ運送からの依頼で冒険者ギルドから参りました。お荷物が届いております。ご確認後、こちらに受け取りのサインをお願いします」
「クロディウス、確認しろ」
「はい、旦那様」
わざわざ執事っぽいおじさんに開けさせるならここまで運ぶ意味無かったじゃん!絶対意味ないじゃないか!
「…問題ないようですね」
「では、サインを」
主人が頷くのを確認してから、執事っぽいおじさんがサインしてくれた。
これで仕事は完了だ。
「おとうさまぁ」
甘ったるい甘えた声だ。
13、4歳くらいの、まあまあ美少女に分類されるほう。
「ほらアティナ。欲しがっていたべラォスが届いたぞ」
我儘放題の娘への貢ぎ物か。
「すごい!いい香りねぇ!」
箱から取り出されたのは手のひらに乗るサイズの果物だった。桃みたいないい香りがする。
べラォスは桃。覚えとこう。ロザリンちゃんと食べたい。
でももう帰りたい。
執事っぽいおじさんのほうをチラチラ見るけど全然案内してくれる気配がない。
「では、配達完了ということで、私は失礼します」
「あっ、待ちなさい!おとうさまぁ、わたし次はあれが欲しいわ!」
「ほぉ、あれか。亜人だが、美しいな…」
主人、娘、執事の視線が私に集まる。
嫌な目だ。
「お前をアティナの護衛として雇ってやろう。1日金貨1枚でどうだ」
「私は今日の午前中だけで既に金貨四枚以上を稼いでいます。お断りします」
私を雇いたくば、そのくらい出したまえ。
Bランク冒険者としてはありえない価格だけど、私には稼ぐアテが他のBランクより格段に多いのだ。
「なんでよ!?アティナの護衛よ!?」
アニメの声優がわざと出してるみたいな高めな声が少し耳障りに思えた。
アニメは虚構だから良いのだ。現実にそのような声出されてもさほどときめかない。
私はロザリンちゃんのしっとり落ち着いた声が好きだ。
「それに何の価値が?」
「ずっとアティナのそばに居られるのよ!?」
「私にとって、私自身が心から愛する女性のもと以外に価値はありません」
「ごちゃごちゃ言ってないでアティナのものになるのよ!」
うーん。甘ったれさんだなぁ。
性格もよくて優しくて可愛くて美人で小玉スイカサイズなロザリンちゃんより優れているとでも?
「お嬢様。世の中には手に入れることの叶わぬものもございます。足るを知ることが、幸せになれるかどうかの分かれ道ですよ。無理に得ようとするならば、全てを失う覚悟もなさいませ?」
最大限の警告として、多少の魔力と威圧を混ぜて指向性を持たせて放出した。
以前これで白竜も一瞬怯んだので大概の相手には効くだろう。
コロコロと足元をベラォスが転がる。
取り落としたようだ。
「では。ご利用ありがとうございましたー」




