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023

※この話には、花街、女性冒険者の搾取、隻腕の街娼および人身売買を示唆する描写があります。


今話、不穏です。



※???視点


「あーーーー!! あいつですよ!!」


 対応していた冒険者、マルクとかいうEランクが叫ぶ。うるせえ。


 ある冒険者のせいで仲間が死んだとか、熱くなって主張していたが、所詮初心者同士のトラブルだろ。

 初心者は簡単に死ぬもんだし、そんなどうでもいいことまでギルドを頼るなってんだ。


 Eランクが指差した小会議室のほうを見ると、そこに居たのは先輩職員のキャサリンと、珍しいエルフの冒険者だった。


 特徴は、まずは息を呑むほどの美形。

 うわっ顔小せえ。


 陶磁器を思わせる艶のある白い肌に淡藤色の髪。

 目はぱっちりしたアーモンドアイを長い睫毛が縁取る。よく晴れた夏の空みたいな色の目だ。

 すっと通った鼻梁、薄めの唇、パーツも全部が芸術品みたいに整っている。

 それが文句のつけようもない絶妙なバランスで配置されている。


 腰に2本の剣を佩いていて、身を包むのは白い革のコート。

 質感からするとあれは多分竜種の皮革だな。

 露出は殆ど無い。


 ここへ配属になって半年経つが見たことのない冒険者だ。

 俺の居ない今くらいの時間帯で来てるヤツか?

 今日は休んだやつの代わりに昼間の勤務になったが、本来は早朝や夜とかのもっと混雑する時間帯担当なのだ。


「うーん?」

「アルフレートさん? 知り合いですか?」


 アルフレートってことはアイツ男か!?

 まぁ背丈からすれば男か。

 性別の判らねえ、お綺麗な顔だが、男だと判った途端に、無性に腹が立ってくる。


 キャサリンはこのギルドで一番の美女だ。

 胸もデカい。

 王都のギルドでもここまでの女はそう居なかったから俺の女にしたかったのだが、これがなかなか上手くいかなかった。


 もしかしてあのエルフが居たからか!?


 俺も結構顔は良いほうだが、エルフというのは次元が違うし勝ち目も無えと認識せざるを得ない。

 それが更に腹立たしい。


「んー…。わかんない。全然知らない子だよ」

「そうですか。では小会議室へお戻り下さい」

「はぁい」

「ガルルルル…」


 アルフレートとキャサリン、ついでに従魔登録証をつけた一角狼はこのEランクのことなど気にもせず小会議室へ戻っていく。


「ちょっ、待ちやがれっ!」


 無視された形になったEランクは声を荒らげて更にヒートアップ。


「キャサリンせんぱぁい…」


 助けてくれよ。

 大概の女はこれで俺を手助けしてくれるんだが、キャサリンにはイマイチ効き目が見えねえ。


「私は接客中です。自分で対処なさい」

「先輩、お願いしますよぉ」


 困ってます、と笑ってみせるが、キャサリンはこちらをまるごと無視しやがった。


「アルフレートさん、ギルド支部長を呼んで来ますので、掛けてお待ち下さい」

「はぁい」


 キャサリンは小会議室にアルフレートを押し込むと、扉を閉めて支部長室のある上階へ向かった。


「今のうちにアイツを捕まえたい! そっち側入らせてもらうぞ!?」


 偉そうにEランクがカウンターのこちら側へ侵入してくるが、丁度いい。

 冒険者同士のトラブルは双方から話を聞くべきだからな。

 あわよくばアイツにはキャサリンから手を引かせたい。


 Eランクは周囲の迷惑など知ったことかと一直線に小会議室へと向かう。

 妙に良い拵えの剣が狭い通路でいろいろなものにぶち当たり、その場の職員に俺が睨まれた。


 そうやって辿り着いたというのに、扉の前へ辿り着いた途端に、施錠された。

 ドアノブも回らねえ!あの野郎!


「チッ!」


 そうこうしている間にキャサリンが戻ってきてしまった。


 その途端にカチリと開錠された微かな音が。


「何をしているんです?」


 冷たく言い放つキャサリン。


「そちらのお客様に問い合わせをと思いましてねぇ?」


 苦しい言い訳だが、それを言わなければこのEランクをこちらに通したことを俺の落ち度にされかねない。


「アルフレート氏に? 後にしていただけますか? こちらの要件が重要案件ですので」


 支部長まで呼んだんだから重要案件だろうよ。だけどもっと言い方ってもんがあるんじゃねえか!?

 何なんだよその馬鹿にしきった顔はよ!


「へぇ? 随分庇いますねキャサリン先輩。羨ましいですね先輩とそこまで仲が良いなんて。そんなにあいつのって()()()()んですか?」

「勝手な妄想を周囲に撒き散らすのはお止めなさいド三流。そうやって相手を見ずに声の大きい方へばかり尻尾を振るから左遷されるのよ。さて退いてくれる? Eランクの…マルクさんだったかしら?」


 ちくしょう。この女…!

 絶対その澄ました顔を崩してやる。俺に縋るしかないようにして、二度と見下した目を向けられないようにしてやる。


「お待たせしました。支部長もまもなく参りますので先に軽く報告だけさせて下さい」


 扉を開けてキャサリンが入室していく。

 室内にはあの男が。

 そんなにその優男がイイかよ!


「キャサリンちゃん。申し訳ないけど、あちらの言い分を先に確認してもいい?」


 少しオドオドとこちらの様子を伺う感じでアルフレートから提案してくる。


「そうおっしゃるなら。ではキール、マルクさん。問い合わせ、とは? 時間も無いので手短にお願いします」


 上手いこと言ってこの場を凌ぐべく何を言うべきか考えているうちに、キャサリンに威圧されたくらいで尻込みしかけていたEランクが堪えきれずに自分の身勝手な主張をぶちまける。台無しだ。


「そ、そいつがダンジョンで一角狼をけしかけてきたんだ!」

「証拠を添えてご提出下さい。…で? 問い合わせはどこへいったのでしょう? 質問も無いようなので失礼しますね」


 話の持って行き方ってもんがあるだろうに手順を無視した結果、キャサリンにさらりと流される。当然だな。


「ちょっと待てよ!! そいつのせいで2人も死んでるんだぞ!?」


 Eランクはなおも言い募る。


「……ああ。思い出した」


 何でもないことのように、アルフレートが呟いた。


()()見殺しにしてダンジョンに置き去りにしてきた二人のうち一人は生きてるよ。一人は私が戻った頃には確かに死んでたけど、もう一人は足の治療はしたからね。私に露払いさせてついてきたからじゃなく自力であそこまで行ったという君たちの言葉が()()()()、怪我さえ治れば自力で戻れるでしょう? そもそも死んだのも、帰る途中で足滑らせただけみたいだったし? 自業自得だよ。それと、一角狼をけしかけた記憶は無いね」


 アルフレートの言葉に、周囲のギルド職員の視線が一気に集まる。

 その内容じゃ、Eランクのほうに落ち度があってただの言い掛かりでしかないことが判ってしまう。


「従魔だろ! お前が命令したんじゃなかったら俺たちのほうにだけ来るわけないだろ!」

「いや従魔じゃなければ尚更そっち行くでしょ、一角狼の習性的には。一角狼って自分より弱そうで、確実に狩れると思った相手にしか挑まないんだけど、知らない?」


 一角狼の習性からすれば、Cランク以上の実力があれば一角狼は遭遇しても襲ってこない安全な魔物でしかない。


「なるほど。事情は理解しました。では、キール。あとはあなたが適切に対処しなさい」

「マルク氏一人が騒いでただけなら、どうということもないけど、ギルド職員がここまで騒ぎ立てたんだから変な噂になりそうだね。不利益な噂は私も困るなぁ。被害者として。キールさん火消し頑張ってね? ()()()()()して下さいね?」


 何なんだよ!

 青くなってるEランクをひっ掴み、ギルドの外までそのまま出る。


「完全にお前らの自業自得じゃねえか! ふざけんな!」

「なっ!?」

「証拠も話の整合性も無えじゃ勝ち目無えんだよ!」

「…っでも!」

「一角狼は弱えやつしか獲物にしねえの! その時点で従魔だった証拠揃えて出さねえ限りお前の主張は通らねえよ。どうせダンジョン入口でアイツが一人で入ったのは控え取られてんだろ!? もう従魔登録されてるってことは従魔にした経緯までもう報告済みってことだよ! 上書きできるだけの証拠でも無きゃもうどうにもならねえよ!」


 そもそも希少なCランク以上と十把一絡げなEランクじゃ信用度からして違うしな!

 クソっ。イライラする。


「誰が聞いたってあっちの言い分のがまともだろうがっ! アイツにはお前らを助ける義務も義理も無ぇし、むしろパーティ組んでたお前に救護義務有んだろうが! 何見捨てて一人で帰って来てんだよ」

「おっ俺が悪いんじゃ無いッ!」

「はっ。そうかよ。じゃあ勝手に死んだヤツと怪我したヤツが悪いんだろ」

「…………」


 へたり込んでるEランクをその場に残し、業務に戻り、イライラしたままその日の仕事を終えた。


「お疲れっしたー」


 ギルドの通用口から出ると、例のエルフがヨロヨロと正面口から出てきたところだった。

 気怠そうに溜め息を吐いて柱に寄り掛かっている。


 ……やっぱり男にしとくのがもったいないくらいの美人ぶりだ。顔だけならキャサリンなど較べようもない。


 俺も初めて見たが、エルフは滅多に集落を出てこない種族だそうだから、希少価値もある。

 好事家の貴族にでも売ればさぞや高値がつくだろう。


 エルフは華奢だと聞いていたが、想像していた程ではなかったようだ。

 まだ成人したての未完成な細い身体だ。

 背は高いが足首や腰の感じは男にしては華奢なほうに見えるし、何と言ってもあの顔だ。

 どれだけの値がつくか。


 そんなことを考えられているとも知らないアルフレートは、ギルド前から移動することにしたようだった。

 つけてみるか。アルフレートの後ろを不自然にならない程度の距離を保ちつつ、追う。

 向かっているのは第三商業区方面か。

 腹も減ったし丁度いい。


 しかし一角狼が向かっていかない程度の強さはあるというのだからアレを()()するのは難しそうだな。


 装備も竜種皮革を使うなら最低でもC。俺と互角かそれ以上か。

 屋台が多く建ち並ぶ区域で暢気に串焼き屋の親父と立ち話してるが、油断は出来ない相手だろう。


 何か罠に掛けるか弱みを握りでもしない限りは無理かもしれない。


 給料日前なこともあって、そろそろ()()でもしなけりゃ遊ぶ金が無え。誰か見繕わねばならない。

 今回も低ランクの女冒険者となるとまた値下がりするかもしれねえな。飽きてきた様子だったしな。

 冒険者はいつ消えてもさほど騒がれないから楽だったんだが。


 低ランクってのは経験が浅い分簡単に釣れるが、ロクなもん食って無えから肉付きも悪くて商品価値が低い。

 駆け出しなだけあって金も持って無えからロクに手入れもされちゃいねえ。

 若いっちゃ若いが、年齢を誤魔化しているようなガキまで混じることがある。そういうのは後々面倒の種になるだけだ。


 …なんて考えている間に娼館の建ち並ぶ区域まで来ていた。

 アイツ、どこ行く気だ?


 薄衣を纏う娼婦が店の奥から手を振っている。

 なかなかの美人だったが、あのエルフを見た後ではそれほど美しいとは感じられなかった。

 街娼が薄暗い路地裏から手招きしている。

 そこそこ美人ではあるがあまり好みの系統の顔じゃねえ。


 アルフレートは周囲に目もくれず迷いなく奥へと歩いていった。

 目的地があるのか?

 そろそろ高級娼館のある区域だぞ?

 一晩で金貨が飛んでいく世界だ。

 周囲は大店の主人や、お忍びだろう貴族の姿さえ見かけるようになってきている。

 そういう客層の場所だ。

 俺ではそろそろ居心地悪くなってきているのだが、アルフレートはそのまま一角狼と共に歩き続け、奥まった場所に建つ娼館へと入って行った。


 チッ!


 つい舌打ちしてしまう。

 イイご身分じゃねえか。

 高級娼館かよ!

 こんなところ泊まったことも無えよ!


 来た道を戻りながら、頭の中で手元の金額を計算する。

 一晩小金貨数枚で済むような安めの娼館でも、今は少し厳しい。

 出荷する商品をまだ用意出来ていない現状じゃ買えるのは酒場の女給か街娼がせいぜいだ。


 路地裏の方へ視線を向ければ、Dランクくらいのオッサン冒険者が若い街娼と消えていくところだった。

 街娼ってのは娼館に入れない訳ありの女ばかりだ。

 少々薹が立っていたり、病気持ちだったりすることもある。

 あとは、仕事が出来なくなった元冒険者もいたりする。


「よぉ、閃光剣姫」


 路地裏に蹲っていた隻腕の街娼が、びくんと震える。


 銀貨を3枚、目の前に差し出す。

 無言で街娼は受け取り、靴の中に入れた。


 王都を拠点として活動していた冒険者、閃光剣姫マデリーン。Aランクだった女だ。

 一年程前、長期護衛の仕事中に番の黒竜に遭遇。護衛対象と恋人と二の腕から先の右腕を失った。

 護衛に失敗したことにより借金を背負い、墜ちた筈だった。


 低ランクの小娘には飽きていても、元高ランクなら別の値がつくかもしれねえな。





章っていうのを設定してみました。

私にはよくわからないよ!


30話までが第二章となります。



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― 新着の感想 ―
aランクでもそうなるのか 貯金もあるはずだろうし護衛失敗で借金するほどまで金がなくなるのだろうか
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