表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

021

「これで終いだな」

「久しぶりに大物解体した」

「さすがに疲れたわね」

「へとへとです…」

「みんなありがとー!」


 皆さんのご協力で見事ケルピーの解体を2時間という短時間で終えることができた。

 私には真似できない素晴らしい技術だね。

 羨ましい。


 皆の手や使用したナイフを洗浄してから、お礼の意図も込めて飲み物を配った。


「アルフレートは解体する時は補助向きだな。すごく解体しやすかった。多分効率が倍くらい良くなってる」

「うん?そう?私でも役に立てたならよかったよ」


 解体作業自体は出来ないからね。

 それにしてもクレイのナイフ捌きは凄かった。


 解体にもかなり慣れてるはずのウチのパーティメンバー(私以外)より更にワンランクは技術水準が高いように見えた。


「じゃぁ、これ。ケルピーの討伐部位」

「へぇ。牙なんだ?」

「ああ。上顎の牙だ」


 そのまま持ち込むせいで討伐部位なんて記憶する習慣すらなかったよ。

 ギルドへの報告にも必要なのを失念していた。ちょっと恥ずかしい。


「えーと。分けた報酬だけど、ナマモノだから傷みやすいだろうし街に着くまでマジックバッグにまとめて入れとく方向でいい?あんまり時間遅延効果は強くないけど劣化は1/5くらいに抑えられるよ。蛇と一緒にしとくの嫌なら私が預かるのでもいいけど」

「えっ?時間遅延!?特殊効果付きだったのかよ!?」


 …アレ?

 反応おかしくない…?

 場の空気が変わったぞ?


「アルフレートさん。そんなものをホイホイ人に貸しちゃ駄目ですよ」

「だ、駄目?」

「なんでアンタはそう浮世離れしてんだよ!?こんな金銭感覚も常識も無しでよく今まで生きてこれたな!?」

「えぇ!?常識無くないよ!?お金も自分で管理してるしちゃんと黒字だよ!?」


 ひとをそんな社会人失格みたいに言わないでほしいな!私だってあの街に15年暮らしてるんだから。


「そうじゃねぇ。そういうことじゃねえんだよ…。強いせい?腕っぷしのせいで危機感皆無なの?」

「…危機感あるもん。今は誘拐されないように気をつけてるもん…」


 失敬な。


「やっぱズレてるッ!」

「いくら見目好いエルフでも腹筋割れてるような成人男性を攫おうとは思わないんじゃ…」


 攫われるのは女性と子供だけ、って思うよね。

 でもそれがそうでもないんだよ。


 低ランクの細かった頃ならともかく、見た目が変われば危険もないと思ってたのに、今も半年に1、2回くらいで何かしら襲撃されるし。


「今でも路地裏歩いてるとたまに襲われるよ?」

「ど、どどど、どうするんですかそれっ!?」

「治安悪そうなとこ歩くときは、一回だけならどんな攻撃だろうとなんとか出来る程度の防壁を周りに展開することにしてるんだ」


 なかなかうまく行かないのだけど、今は過剰防衛にならない程度というのを探ってる最中。

 治安部の人たちに叱られ続けるのも悔しいからね。

 襲われてるのは私なのに何で私が叱られなきゃならないの。


「希少なものとか高価なものは他人に見せないようにしないと危ないですよ…」

「安物の剣、飾り気のない服装、これ以上私から何を削ればいいの。高額貨幣は殆ど使わないし、ギルドでも初心者より初心者っぽい装備と評判だけど」


 この白竜のコートもシンプルなデザインにしてあるから見た目だけだと然程高価そうには見えないんだよね。


 作ってもらった工房はもっと飾り立てたかったみたいだけど、冒険者の装備なんだから汚れてなんぼだし、時々魔法で丸洗いする前提で考えていたので、刺繍も宝石の縫い付けも断った。


「アルフレートは、希少か、希少じゃないか、の判断の部分が怪しいと思うんだが」

「…だよな。俺もそう思う」


 何やら言ってるクレイとディランくんに、タリアとリリアナまで、うんうん、と頷いている。

 むぅ。解せぬ。

 でも皆言ってるってことは、私がおかしいのか?


「アルフレート。アルフレートの持ってる物のうち、そのコート、剣、靴、俺達に貸したマジックバッグ、一般的に一番価値が高いのはどれだと思ってる?」

「コート。白竜だもん。もう一回殺れって言われても嫌だし。その次は靴かな。ミスリル入りの合金で補強してるし」


 身を護るものにはある程度お金掛けておかないと、この稼業危ないからね。


「…やっぱり。不正解だ」

「一番価値が高いのはマジックバッグだぞ?」

「えぇ!?なんでッ!?」


 靴もコートも結構な額で作ってもらったので、頭陀袋以下とか言われるとかなりショックだよ…。

 メインで使っている白竜革のマジックバッグならともかく…。


「竜種の皮革も高価だとは思いますが人気の素材だけあってお金さえ出せば買えるみたいですし…」

「えー?マジックバッグだって売ってるじゃない」


 魔道具を取り扱う店なら大概売ってる気がするんだが。

 何か違うの⋯?


「空間拡張と時間遅延効果両方がついたマジックバッグは竜種皮革より希少だと思う」

「有名工房の目立つとこに飾ってあったりするよな。非売品表示か、売る気無いだろうって値段付きで」

「それくらい希少なので、時間遅延効果が付いてることは言っちゃ駄目ですよ」


 そんな畳み掛けるみたいに…。

 でもクレイやディランくんだけじゃなくタリアもリリアナも口々に言うってことはやはりそうなのかも?

 両方がついてると希少なのか。

 覚えておこう。


「なんで一番安いのと同じ見た目になってるのか謎だけどな」

「それは私がテキトーに手持ちの袋を使って試作したやつだからだよ」


 瞬間的に、雰囲気が変わる。

 こういう雰囲気になるとき、よくルドルフが「空気クラッシャー」とか言ったりする。

 なんだろう。今のは私にもはっきり変わったのがわかったよ。


「し、失言だった?」


 ドキドキしつつ周囲の面々を見回すが、リリアナとタリアは微妙な笑顔を浮かべたまま固まってるし、ディランくんはぽかんと口を開けたまま固まってるし、クレイは俯いて眉間を揉んでる。

 頭痛?


「アルフレート……」

「ああ、アルフレートさん自身が一番高価だったんですね、やっぱり」

「攫われないように気をつけて下さいね」

「き、気をつけてるってば…」


 皆がそこまで言うのならきっと危ないのだろう。

 今まで以上に襲撃への対処も考えておこうか。

 あれか。ルドルフみたいに休日も防刃繊維製の服着ていたらいいのかな。


「なんか、気をつけるの方向も明後日の方向だったりしそうだな」

「短い付き合いな筈なのに俺も思うよ…」

「アルフレートさん、そういうのも言っちゃ駄目です」

「…そうなんだ…?」

「高性能なマジックバッグを作れるなんて言ったら、しつこく付き纏われたりするかもしれませんよ」

「…ふむ」


 うーん。付き纏いか。

 まあ大丈夫じゃないかな。


「まぁ大丈夫だと思うよ。私に付き纏うって結構大変だと思うんだ。物理的に。付き纏えるくらいの人ならマジックバッグくらい買えるし自分でも作れるんじゃない?」


 私は歩くのが面倒くさくなると空間転移もするし、最近はポチさんに乗せてもらったりもするしね。

 空間転移は詳しく知らないとこだと危ないから目視できる場所しかできないけど、逃げるためであれば充分だろうし。

 それに、この世界で時速80キロで移動するものについてくる人ってそう居ないと思うんだ。


「でも量産させようと囲い込まれそうになったりするかもしれませんよ。権力持った人たちだったりすると何考えてるかわかりませんし」

「それなら、ほとぼりが冷めるまで遠くで暮らすかな。せいぜい20年も経てば飽きるか諦めるだろうし50年程度引き籠もって待っていれば死ぬでしょ。そのくらいは仕事しなくてもいい程度蓄えもあるし」


 この世界の人族の平均寿命はだいたい65歳程度みたいだし。


「わぁ、さすがエルフの時間感覚」


 苦笑したディランくんに同意するようにタリアとリリアナも頷いていた。クレイはどう反応すべきか迷っているのか曖昧な笑みを浮かべている。


「そっ、そうかな…」


 私としては記憶があるだけに他のエルフよりは人族に近い感覚を持ってると思っていたのだけど、自分で思っているほど変わらないのかもしれないと思い直した。


 たしかに、記憶がある分「知っている」のだけど、「エルフの寿命長え」と思うより「他種族儚い」という感覚のほうが強いので、所詮人族の記憶は自分の感覚ではない他人のものでしかなかったみたい。


 ただ、知識として情報があるだけだ。

 私は人族の齊藤朱里ではない、エルフのアルフレートだからか。


「まぁ、アレだ。一人で白竜をどうにか出来るヤツをどうにか出来るようなのが早々居るとは思わんが気をつけろよ」

「うん。大丈夫だよ。多分。これからはポチさんも居るし」


 迂闊な言動に気をつけよう。

 マジックバッグはレアアイテム。

 今までみたいに人にあげるのも良くないのかな。

 マジックバッグをあげたことがあるのはルドルフと…


「はっ!?ロザリンちゃんが危ない!?」

「誰だよ」

「すっごく困ってるときに助けてくれた恩人かな。街に戻ったら会いに行ってみよう…」


 3日連続で娼館通いってのもどうなのと思うけど。


「あー…。とりあえず戻ろうぜ。ギルドが混む時間になっちまう」

「そうだな」


 そして私たちは報酬ぶんのケルピーの肉をマジックバッグにしまい、帰路についたのだった。

 さすがに途中で体力の尽きかねない私はポチに乗せてもらったけど。


 帰り道はディランくんと双剣を使うときに便利な魔法について話したり、ちょっとしたコツなんかのことを話したりしながらだったので、わりと楽しく過ごせた。







 街に着いたのは人通りの多くなる時間帯より少し前。ギルド周辺はそろそろ冒険者の姿が増え始める頃合いだった。


 さっさと依頼を終える手続きをしようと扉を開けて屋内へ。

 幸運にもキャサリンちゃんの手が空いたようで、すぐにカウンターに案内された。


 報告は慣れてないということでクレイに代わり私がすることになり、キャサリンちゃんの正面に座らせられた。


「レッドヴァイパーの駆除5匹以上ですね。…アルフレートさん、先にお聞きしますが、討伐証明部位はここで出せる範囲の量ですか?」


 ちらりと私を見てキャサリンちゃんが先回りする。

 なぜ察した。

 いつもながらこの子は察しがいいというか何というか。


「むり。カウンターから落っこちちゃう」

「ではいつもの場所へお願いします」

「はぁい」


 さっと席を立って奥のほうにある小会議室へ向かうキャサリンちゃん。


「いつもの、って…」

「よくあることみたいな対応だな」

「いつもなんですね…」

「私、あの部屋何だろうって今まで思ってたのよ」

「あの部屋は小会議室。カウンター窓口での対応が難しいときにも使うことになってる部屋みたいだよ」


 キャサリンちゃんの後について部屋へ入り、いつものように机を二つくっつける。

 キャサリンちゃんが机の上に防水加工の施されてる布を敷いた。


「クレイ、レッドヴァイパー全部出してもらえるかな」


 声を掛けて促す。クレイが代表してマジックバッグを持っていてくれてたのだ。


「ああ、わかった」

「58匹くらいだったと思うんだけど…」

「ええと…59匹ですね」

「ごめんまた数え間違えてたよ」


 大雑把に数えてるせいなのかよく申告数と実数が違うのだけどさすがキャサリンちゃん、私の申告を全然真に受けないあたり、慣れてる。


「1匹250ロフですので…14,750ロフですね」

「一人当たり2,950ロフか。キャサリンちゃん、報酬なんだけど五等分してもらってもいいかな」

「数え間違えるくせに計算はいつも通り正確で早いですね。それぞれにお支払いすればよろしいのですね?」

「そうそう。細かくて申し訳無いんだけど…」


 あと1匹多く狩っていれば端数も無かったんだろうけどね。

 目の前にじゃらじゃらと硬貨の山が5つ作られていく。


「…すげえ」

「いっぱいです」


 リリちゃん、タリアちゃん、ディランくんの目がキラキラしてる。クレイはそんな3人を見て苦笑していた。

 帰り道いろいろお話ししつつ来たせいか、呼び方が変わる程度に仲良くなりました。


「それぞれ2,950ロフです。確認してください」

「ありがとう」

「このあとアルフレートさんだけ残ってください。昨日の件で質問と報告があります」

「あ、うん。わかった。4人の見送りだけさせてもらえる?」

「構いません」


 ことわりをいれてから、他のメンバーと共に会議室を出る。扉付近で別れることにする。


「今日は世話になった。ありがとう。あの湯で戻る面白いスープも。あと親父の店も贔屓にしてもらえたら嬉しい」

「多分肉持ち込みで行くと思う。親父さんによろしく。一昨日串焼き買った白いコートのエルフが言ってたって伝えて」

「ああ」


 しばらく通いそうな気がするんだよね。あの屋台。


「…いろいろ迷惑掛けた。すみませんでした。またいろいろ話聞かせてもらえたら嬉しい」

「うん。私もディランくんといろいろ話せて楽しかったよ。だいたいいつも銀麦亭に泊まってるから何かあったら声掛けてね」

「……ありがと」


 水蜜の館に行ってなければ銀麦亭に居ます。


「お世話になりました。今日あったいろいろなこと、すごく勉強になったわ」

「タリアちゃんは魔法と弓、両方を同時に使えるようになればパワー不足とか気にならなくなるよ」

「私が気にしてたの気づいてたの?」

「そういうとこで行き詰まりがちって知ってただけだよ。同じパーティに魔法も使う女性の弓使いが居るからね」


 この辺じゃCランク以上に女性弓使いが少ないのはだいたいそのへんにも原因があるっぽい。

 筋力の無さを補えるギミック付の弓はこの街じゃ買えないからってのもあるかもしれない。


「アルフレートさん、いろいろ勉強になりました!ありがとう!」

「リリちゃん、なるべく危険を避けて死なないための行動を忘れないで」

「はい!危険を冒さず死なない努力をするのが一番近道、ですね!」


 ちょっとだけ私にも慣れてくれたらしい彼女が安全にこの稼業を続けられることを祈った。


「ポチも、じゃあな」

「ガウッ!」


 別れ際にディランくんに首を撫でられ、ポチもご満悦だった。


「あーーーー!!あいつですよ!!」


 カウンター側からそんな声が聞こえるまでは。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ