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018

 アルフレートさんが左手に握った剣の一閃で大きなレッドヴァイパーの首を斬り飛ばす。


 男の人なんだけど、すごい美人。

 顔だけなら、今流行ってる劇のヒロインの男装のお姫様にだってぴったりだと思うの。顔だけなら。

 何をしていてもカッコイイひとだと思う。

 短くそろえた淡藤色の髪と真っ白なコートを靡かせて戦っている姿はもっとカッコ良くて、見惚れてしまいそう。

 ただでさえ、今まで見たこともないくらいの美形なのに。


 きっと剣にまで魔力を乗せてるんだろう。

 アルフレートさんが動くたびにキラキラと光が散って見える。


 他人の魔力を感じることのできる人っていうのもたまに居るのだけど、その感じ方は人それぞれ。

 私は視覚で見えるタイプで、人が魔法を使うときにその魔力がキラキラした光に見える。


 アルフレートさんは魔法を使うときに不思議な使い方をしてる。

 攻撃魔法を撃つんじゃなくて、自分や武器を強化する魔法を使うだけで普通に剣で戦ってるみたい。


「多い!」


 うんざりした様子でアルフレートさん。これでもう14匹目。ちなみにアルフレートさんだけでの14匹。

 私も氷の矢を飛ばして2匹倒せた。全員分合わせたら30匹近いかもしれない。


 背は高いけどディランと大して変わらない体型に見えるし、むしろクレイさんのほうが鍛えていそうに見えるのに、アルフレートさんはとにかく強かった。


 歳は私たちと同じくらいに見えるけどアルフレートさんはエルフらしいので実際にはもっと上なはず。


 やっぱりランクも高いのかな。

 ギルドではEランクの掲示板を見ていたけど、フェイさんがCランクだったしもしかしたらCランク以上なのかも。


 そのアルフレートさんの周囲にはまだまだ私の手首より太い赤黒い大きな蛇がウジャウジャと居る。

 このあんまりな光景にタリアとディランが青い顔をしてる。クレイさんも少し焦っているように思えた。

 どうしてこうなったのかというと、今を遡ること10分前。




~~~~~~~~~~~~~


「レッドヴァイパー、見つかりませんねー…」

「おっかしーなー。ここ、依頼が貼り出されるほど大量発生してるはずなのに」

「スティレットフロッグすら居ないわね」


 美味しいごはんを食べてからそれなりに歩いて、やっとレッドヴァイパーが大量発生したという湖の畔まで来たのだけど、肝心のレッドヴァイパーが見つからなかった。


「まあ夜行性だし昼間はじっとしてるはずだからねぇ」

「なあ、アルフレート、なんか便利な魔法無いの?」


 ディランが無茶を言い始める。なんだかディランは講習のときからずっとアルフレートさんを目の敵にでもしてるみたいで嫌な感じ。


「ないよそんなのー…。具体的に何をどうしたらいいのさ。いくらなんでもそんなふんわりした指示だけじゃ魔法になんないよ」


 従魔の一角狼の首に抱きつきながらアルフレートさんが愚痴をこぼす。

 ランクCの魔物である一角狼だけど、アルフレートさんに対しては凄く従順でおとなしい。初めて見たときは従魔だと紹介されても、恐ろしくて生きた心地がしなかったけれど。


「魔法じゃなくてもエサで誘き寄せることは出来ないものかしらね」


 タリアもちょっとうんざりし始めてるみたい。


「うん?エサか。そういえば小鳥やネズミとかの小動物を食べる…だったっけ?たしか熱感知器官があるタイプの蛇だったような……ちょっとやってみようか」


 タリアの言葉に何か思いついたのか、そう言って、アルフレートさんはまるで階段を登るみたいに片脚を上げた。

 何もない空中が一瞬キラッと光り、そこへ足を置き、更に反対の脚を上げて、登っていった。

 そうして私たちの遥か頭上まで登ってから、空中で立ち止まった。


 魔法で足場を作って空中を歩くなんて。さすがアルフレートさん。

 アルフレートさんの魔力がぐわっと大きく動く気配。何か魔法を使ったみたい。


 パッと遠くへ散った光が、しばらくしてしゅるしゅると不思議な軌道を描いてアルフレートさんに戻っていった。


「上手くいくかな…」

「何をしたんですか?」

「ネズミくらいの大きさの熱源を幾つか作って地面スレスレを走らせてみたんだけど…」


 エサだと思わせて誘き寄せるの?


「全然ネズミに見えねえんだけど?」

「レッドヴァイパーは目が見えてないから見た目まで似せる必要はないはずなんだよ」

「グルルルル…」


 アルフレートさんは登ったときより歩数少なく降りてきて、スタッと着地を決める。

 低い声でアルフレートさんの一角狼が唸り始めていて、怖い。


「ガウッ!!」


 アルフレートさんの隣に控えて吠えた一角狼の声に、私とディランとタリアはびくりと身を竦ませた。


「掛かった!?来るよ!!」


 低く油断なく構える姿はベテラン冒険者と呼ぶに相応しかった。


「ポチさん、頼むね!」

「ガウッ!」


 魔力で強く繋がっている従魔へは意思が伝わりやすいって聞いたことがある。

 この一角狼にはアルフレートさんの意思が完全に伝わっているように見えた。


「アルフレート、多くないか!?」

「う、うーん。実は私もそう思ってたとこだよ」

「えっ!?どういうことだよ?」


 敵の位置や数が気配で解ってるクレイさんとアルフレートさんが引き気味なことに不安を感じる。

 ディランはまだよく気配察知が出来ないみたいね。

 タリアはなんとなく判るみたいで、凄く緊張してる。


「ごめんね。予想よりちょっといっぱい釣れちゃったみたい。敵の動きが遅くなる場所を作るから、後衛は出来るだけそこに居てね」


 そう言ったアルフレートさんが示した辺りが一瞬で冷える。草も霜が降りたみたいに白く凍っていった。


「みんな危なくなったときもそっちへ行ってね。いいね?」

「助かる」

「レッドヴァイパーくらいで危なくならねーよ」

「そっか」


 ディランは本当にクレイさんやアルフレートさんとは対照的。言動が凄く子供っぽく見えるもの。


「来るよ!」

「ディラン、左だ!」

「お、おう!」


 慌てて左を向いたディランが飛び掛かってきたレッドヴァイパーを短剣で刺す。

 その間にクレイさんとアルフレートさんもそれぞれ1匹ずつ斬り伏せた。


 でもすぐに次がくる。

 タリアは矢を弓で射って、私は氷の矢を撃った。


 アルフレートさんの従魔は私たちを護るように立ってる。


「いくらなんでも釣られ過ぎだよ!」

「おい!あれ見ろ!」


 ディランの示す方向を見ると、小さなレッドヴァイパーを大きなレッドヴァイパーが捕食しているところだった。

 よく見れば他にも同じような光景が。


「そういうことか。どうやら大量発生し過ぎたせいでこの周辺には既にエサになるものがなくなってたみたいだね。それで私の疑似餌に食いついてきてたのか。ディランくん右斜後ろ!」

「スティレットフロッグが1匹も居なかったのはそのせいだな。ディラン、足元!」


 そんなことを話しながらアルフレートさんとクレイさんは新たなレッドヴァイパーを次から次へとスパンスパンとキレイに斬っていた。


 そういうわけで冒頭の通りなのよ。


「いくら何でも多すぎない!?ディランくん左斜め後ろ」

「いちいち言わなくてもわかってるッ!」


 ディランの背後に回ろうとしていた1匹の頭をタリアの矢が貫いた。

 私も一匹ずつ氷の矢を撃ち込んで一匹ずつ地道に倒していく。

 アルフレートさんならもっと大規模な魔法も使えるんじゃないのかな?


「アルフレートさんなら、魔法で一掃できますよね?」

「うーん。一掃しつつ程よく死骸を残す方法が思いつかないので、それをやっちゃうとメシのタネまですべてキレイサッパリなくなっちゃうね」


 思い切って聞いてみれば返ってきたのは意外な答えだった。


「私、こんなに動き回る小さなマトに魔法当てるの難しい。集中しないとリリアナみたいな精度では当てられない。小規模な魔法を個別に撃つくらいなら近寄って斬ったほうが早いんだよね」


 手首を反し剣をくるっと回して2匹を屠り、アルフレートさんはアハハと笑った。

 動きは無造作で簡単そうにやってるけど、それが簡単なわけがないことくらい私にも判る。


「でも、まぁ流石に飽きてきたよね。クレイ、そろそろ終わりでいい?もっと狩る?終わっていいなら呼んだときと真逆に誘導すれば追っ払えると思うんだけど」

「もう充分だと思う。追っ払えるならやってもらえるか?」

「了解」


 右手側の剣を鞘に納めたアルフレートさんが右手を地面にかざすと、ぽわっと小さな光が幾つか足元の草むらに灯って、小動物のように動き回りながら離れていった。


 それを追うようにまだたくさん残っていたレッドヴァイパーたちが、一斉にうぞりと動き始める。


 それぞれが我先にと動くものだから、他の個体を踏みながら踏まれながら一塊になって蠢く様が、本当に気持ち悪い。


「ぉおう、タタリガミ様のようだ…」


 なんのことやらわからないことを言いながら、アルフレートさんも引いてる。

 はぐれて残っていた数匹を駆除すれば、生きているレッドヴァイパーの姿はもうどこにもなかった。


「とりあえず、狩ったレッドヴァイパーを集めようか」


 クレイさんに言われてようやくハッとして意識がそちらへ向いた。


「おう」

「そうね」


 手分けしてレッドヴァイパーを拾い集め、アルフレートさんが貸してくれたマジックバッグに、数をかぞえながら片っ端からレッドヴァイパーの頭部をしまっていく。

 やっぱりマジックバッグって便利だわ。

 Gランクの私には中古のでも全然まだ手が出ないお値段なのだけど、やっぱり有ると無しとじゃ仕事の効率が違うというのも頷ける。

 しばらくすると、このマジックバッグがすごくいっぱい入るのに気づいて驚いた。みんなもそれに気づいたみたい。クレイさんが「えっ?」て顔をしてる。

 見た目は一番安いのみたいなのに、性能がすごい。

 頭を切ったあとの胴体はそれぞれが魔法で掘った穴に集めて埋めることにした。


「なんか疲れたよ…お願いポチさん、乗せて」

「ウォフ」


 アルフレートさんはというと、妙にぐったりしてる。従魔を呼び寄せその背によじ登り、だるそうにしてる。どこか怪我でもしたのかな?


「あの、大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと休めば大丈夫」 

「おい、サボってんじゃねえよ」


 ふう、と溜息を吐いて、儚げに微笑むアルフレートさんにそんな酷い言葉を掛けたのはやっぱりディランだった。

 一番いっぱい倒した人に何言ってんのよ。アルフレートさんはディランの4倍は倒してたのに!


「ごめんごめん。…ポチ、あっち行ってくれる?ヘビがいっぱい落ちてるほう」


 アルフレートさんはそんなディランにも怒るでもなくすぐに謝って気怠げに指先だけで行き先を指示し、従魔に乗ったまま移動した。

 ディランは、ふん、と鼻を鳴らし、自分の作業に戻っていった。


 全く気にする素振りもないアルフレートさんは魔法でレッドヴァイパーの死骸を空中に浮かせ、首をスパンと斬り、ある程度の数を貯めてから胴体は土に穴を掘って埋める。

 首のほうは浮遊させたまま従魔ごと移動しマジックバッグに突っ込む、という動作を始めた。


 歩いてるのは従魔だし、本人はぐったりと従魔の背中の上にくっついたままほぼ動いてないけど、流れるように使われる魔法の数々とその技術の高度さには感心するしかない。

 ディランは何が気に入らないのか、舌打ちした。


「いい加減にしたら?嫉妬は醜いわよ」


 きっと流石に腹が立ってきたんだろう。私もそうだもの。

 嫌なものを見るような目をディランに向けて、タリアが言い放つ。


「はぁ!?そんなんじゃねえし!」

「なら、何なの?」


 強い口調でディランは即座に言い返してくるけど、タリアは冷静。


「そっ、そいつがサボってたからだろ!?」

「種族的に体力がないって自分で言ってたでしょう?ちょっと休んでただけじゃない」


 あんまり喋らない人だと思ってたのに、タリアはきっちり言い返してる。すごいなあ。


「アルフレートさんは充分働いたと思うけど?その戦果で足りないなら私達はアルフレートさんの半分も働けない怠け者ってことになるわね?そう言いたいの?ディラン以下な私達まで捲き込んだ盛大な自虐なの?」

「おい、そこまででやめとけよ」


 険悪な雰囲気になりかけたところでクレイさんが止めに入った。

 やっぱりこういうところとか、この人すごくリーダーに向いてると思うのよね。


「タリアちゃんありがと。庇ってくれるのは嬉しいけど、私に落ち度はあったよ。動かなくても魔法使えば出来たことなんだからすぐにすべきだったはずだし」


 タリアに微笑むイケメンオーラが眩しい。


「ディランくんは、もうちょっと他のメンバーがどう思うかとか気を配ると余計なトラブル減って快適になると思うよ」

「…そういう上から目線が腹立つ…!」

「上からっていうか…うーん。ディランくん、もしかして私に対してずるいとかなんでこいつばっかりとか考えてるかな?」


 困り顔も美しいわ。


「ディランくん、多分君は私の見た目に騙されてるんだよ。そもそも私と君、比べちゃ駄目なくらい歳違うしギルド登録年もだいぶ違うよ」

「はぁ?」

「この見た目じゃそうは思えないのかもしれないけど、私も冒険者始めてから結構経つんだよ?…そうだなぁ、わかり易い例を見せようか。ちょっとこの魔道具に記録されてる映像見てくれる?」


 アルフレートさんが取り出した記録用魔道具に映っていたのは、多分20代半ばくらいの、いかにもベテラン冒険者といった風情の紺色の髪の男性だった。


 装備は全身一級品。

 筋骨隆々、という言葉がこれ以上なくぴったりなくらい鍛え上げられた身体と剣技で、大きな飛竜を下から上へと斬り上げて真っ二つにした。


 アルフレートさん以外の全員で、唖然としてしまった。


「すげえ」

「今ディランくんが私に思ってること、この人に対しても思ったりする?」

「…思わねえよ。こんな高ランクのベテラン相手に思うわけないだろ。そんなの俺と違って当たり前だっつーの」


 ディランの答えは当然と言えば当然だった。こんなベテラン相手に嫉妬するのもアホらしいものね。


「だよね?でも私には思っちゃうってのがディランくんの間違いだと思うんだよ」

「は?」

「そう見えないのかもしれないけど私だってランクBでその人とランクも同じだし自分で言うのも何だけど私も充分ベテランだと思うの。多分私は君が生まれたころから冒険者やってるし、実際のところさっきの映像の人より更に5年くらい長く冒険者やってる」

「え?」

「多分、私は君たちのお父さんより歳上だと思うんだよね。下手するとおじいちゃんと同年代な可能性すらある。私の見た目に騙されてない?自分と同年代とか思ってない?」


 言われて、エルフは長命な種族である、というのをこの時点でようやく実感する。

 多分、アルフレートさんの見た目とかに影響されて感覚的に勝手に同年代だと錯覚しちゃうのね。

 そうね。いくらアルフレートさんが成人してすぐにしか見えない見た目でも、実際の年齢が人族の成人年齢15歳なわけがなかったんだ。


「私と比べちゃ駄目だよ。ディランくんは根は素直なんだからもうちょっと他人の言葉を受け入れる姿勢になれたらもっと良くなるはずだよ。まぁ年齢的にそういう反発しがちな時期だから仕方ないと思うけど」


 なんとなく言ってる内容がよくお父さんやおじいちゃん世代が言いそうな内容に思える。

 そんな内容のことを10代にしか見えないアルフレートさんに言われるのが違和感すごい。


「年寄りの説教みたいだったらごめんねー」


 苦笑するアルフレートさん。気づいた途端にその苦笑が大人な雰囲気に思えるのだから不思議。


「実際のところアルフレートって何歳なんだ?」

「いま56歳だね。成人して6年経ったから」


 ディランは吃驚したみたいな顔で口を開けたままになっていた。







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