017
先頭にクレイとディラン、その後ろにリリアナとタリア、私とポチは最後尾を歩く。
目的地のガズヌ湿地外縁は既に目前とはいえ、かれこれ四十分以上歩いてきてそろそろ疲れてきたよ。
途中で多少魔物にも遭遇したし。
あと、もう昼だしお腹空いた。もしかしてみんな出発前に食べたんだろうか?
しばらく我慢しつつ様子を見よう。
ちなみに魔物の気配は半径五十メートル以内には無い。虫はいっぱい居るけど。アイツらに関しては視界に入ってくる度に瞬時に排除しているけど。
あ、セージっぽい葉っぱ見っけた。
この世界での名前は覚えてない。齊藤朱里はハーブにも興味があり植物を育てたりしていたけど、残念ながら現在の私にはそんな趣味は無いのだ。
知ってる植物に香りも形も似てるから判別ができるというだけのことでしかない。
これは毒消し系の回復薬の材料になったはずなので採取しておく。
マジックバッグに収納すると、パラパラと虫が地面に落ちた。生き物は入らないという機能上、虫を取り除くには非常に便利だけど、この光景は私の心の平穏には害悪でしかない。
みんなに遅れないように注意しつつ、いろいろ採取。
私の作る傷薬の主原料になるヨモギっぽいのとドクダミっぽい葉っぱも採取する。
むちゃくちゃいっぱい生えててちょっと嬉しい。
魔法で一気に刈って、刈った端から収納する。
なお、よく街で売ってる回復薬の原料になるメネル草は採取された痕跡があるだけで、あまり残っていないように見えた。
ダンジョン発見の影響でこの先起こるだろう回復薬の高騰を見据えて刈り始めた人が居るようだ。
「アルフレートさんはさっきから何を採取してるんですか?」
「んー、回復薬の材料とか」
振り向いたリリアナに聞かれ、答える。
なんだかこの子はフレンドリーだね。話しやすくて助かるよ。
「この辺のメネル草はもう誰かに刈られちゃってるね」
「えー?メネル草の採取なんてしてもあんまりお金にならないじゃないですか」
君、何気に贅沢言うね。
メネル草の採取はG〜Fランク冒険者なら誰でも通る道だよ?
「ダンジョン行く人が最近多いから、多分もう少しすると回復薬の高騰が始まるし、回復薬の原料だって高騰し始めるよ?」
そう言った途端、リリアナ、タリア、ディランが目の色変えてメネル草を探し始めた。
だからもう殆ど無いってば。
「オイ、お前ら周囲の警戒を忘れるなよ!?」
「あんまりメネル草に夢中にならないようにね。危ないよ」
クレイにだけ周囲50メートル以内に敵は居ないことを伝えておく。このままじゃ彼の負担が大き過ぎる気がしたからだ。
なお、私に対しても指示は出せ、敬語は取っ払え、と言ってある。
ポチさんは私が先程採取してたヨモギっぽい草を憶えてたのか、咥えて持ってきてくれる。
その草、苦くない?
「ポチ、ありがとう!でも苦そうだから無理しなくていいよ!」
礼を言って撫でると尻尾をぶんぶん振って喜んでくれた。可愛いなあ。
「とりあえず、一仕事前に休憩する?」
「…そうだな」
「君ら、食事は?私達はまだだったんだけど」
「俺達もまだだ」
そうだったの!?
もっと早く言えばよかった!
「ポチ、おいで。ごはん食べよう」
ポチにはドラスアイセというシカとヤギの間っぽい魔物の肉をあげてみる。
Dランクの魔物だけど魔法を使ってくるのできっと魔力もありそうだしポチさんも気に入るかと思うんだよね。
「座って食べてもよさそうだね」
「そうだな」
周囲が危険なときは座って食事なんてとっていられない。ずっと立ったままで咄嗟に武器を掴めるように片手だけで持てるもの限定。
慌ただし過ぎてあんまり好きじゃないので、今回みたいに余裕があるのはとても喜ばしい。
「みんな各自持参?」
「ああ。それぞれ宿で用意してもらったのを持ってきてる」
頼んでおけば昼食用にと持ち歩けるようにした食事を準備してくれる有料オプションのある宿屋は多い。
以前は私もたまに頼んだりしてたけど、普通に料理作ってもらってマジックバッグに入れとけば良くね?と気づいてからは頼んでない。
なお、私のマジックバッグには私自身の作った料理も入っている。
銀麦亭に頼んで暇な時間帯に厨房の片隅を貸してもらったりして作ったものだ。
料理人をしてる宿屋のご主人さんに珍しい魔物の肉や果物などを賄賂として渡しているうえに出来た料理の一部をあげたりしてるので関係は良好。…だと思いたい。
毎回快く貸してくれるのでそうだと思いたい。
マジックバッグから玉子サンドとカツサンド、それからスープの素とカップとフォークを取り出す。
このカツサンドのレシピは銀麦亭のご主人が大層喜んだので渡しておいたのだけど、今では銀麦亭の準備してくれる昼食メニューとしてなかなか人気らしい。
玉子サンドのほうは傷みやすいのでレシピは渡さなかった。
スープの素は、齊藤朱里の記憶を元にフリーズドライ食品を目指して実験的に作ったもの。
完成はしたものの、これもマジックバッグあるんだから要らないよね?と気づいてお蔵入りになったというブツだ。悲しかった。
手間を惜しんでまとめて作ったせいで在庫が大量にあるのでこういうときこそ消費せねば。
「クレイ、スープ要る?いっぱいあるからあげるよ」
「貰うよ。ありがとう」
キューブ状のスープの素を予備のマグカップに入れてから魔法で沸騰させた湯を注いだものを予備のフォークと共に手渡した。
「さっきの四角いの、何だ?」
「日持ちと携帯性向上のためにスープの水分を抜いたものだよ。水か湯を注ぐと戻る」
「凄いな!便利そうだ!」
そう言ってもらえると作った甲斐があるよ!
自分では活かせなかっただけに、嬉しい。
他のメンバーのぶんも準備し終えた頃になってようやく、私たちに気づいたディラン達がこちらへ向かってきた。
「あー!もう昼飯食ってる!」
「声くらい掛けてくれればいいのに」
「お腹空きましたねー」
ディランとリリアナはさほどの収穫は出来なかったようだったけど、タリアは凄いな。
殆ど取り尽くされてると思ったのに随分状態の良いものをそれなりに採ってきている。
きちんとルールも知っているようで根からではなく上の方だけ摘み取っていて今後も収穫が望める状態にしてあるようだった。
「なあ、コレってどこに行けば買える?」
「ごめん、それ私が作ったのだからどこにも売ってない」
クレイは興味津々の様子なのだけど、申し訳ないことに自作なのだ。
「何だコレ?」
「なんだかいい匂いがするわ」
「食べ物?」
「保存食。お湯を注ぐとスープになるキューブだよ」
説明するより見たほうが早かろうと思い、湯を沸かして3人の前に置いたカップに注いで見せた。
「売ってないのか……」
「なんかごめん。製法売っても作ってくれる業者も無さそうなんだよ」
濃く作ったスープを具材ごと一旦凍らせてから空気抜いて真空にして水を取り除くとか、なかなか理解してもらえる気がしない。
「熱ッ!」
「…美味しい!」
「作りたてみたいな味がします!」
ファングボアが入れてあるからね。ファングボア、美味いよね。
凄く美味しいのでファングボアは見つけたら積極的に狩るようにしてる。
「メシ食ったらいよいよレッドヴァイパーたちが潜んでいる辺りに突入するぞ。お前らこれまでの行動でまずかったこと、何か思い当たるのあるか?」
クレイが全員を見回して、尋ねる。
実に導き手としてのリーダーに相応しい行動だ。
リリアナは全く問題に気づいてないようだった。
タリアは聞かれてから思い返し気づいたようだった。
ディランは最初から問題に気づいてはいたけれど、今回は大丈夫だと思ってやった、といったところか。
「私個人としては、ここまで歩く程度なら身体強化しなくてもいいかなとか甘く考えてたせいで体力的なペース配分を間違えて既に若干疲れてきてることと、周囲五十メータ内に敵が居ないからって素材採取しまくったのと、あわよくば在庫を減らそうとみんなに半強制的にスープ食わせたことかな」
他のメンバー全員が「えっ、もう疲れたの?」という顔で私を見てる。疲れたよ。同族と比べるならともかく他種族と同列に考えないでいただきたい。
「まぁ、体力的な問題も改善していったほうがいいとは思うけど…。アルフレートの場合なら移動中の採取も問題無いんじゃないか?スープはありがたかったよ。在庫があるなら後で売ってほしいけど」
「じゃ交渉は後で」
そんなにスープを気に入ったのかい?
値段の付け方がわからないんだけどどうしたらいいんだろう。
「……索敵もしないで薬草探すなって言いたいんだろ?」
「あっ…ごめんなさい」
「…すみませんでした」
ディランは不満そうに言い、リリアナは失敗に気づいて謝り、タリアは素直に謝罪した。
「自分よりランクが上のが居るからって索敵に手を抜くのは危ない。次からは気をつけたほうが良いだろう」
リリアナとタリアは素直に頷いた。
ディランは納得出来てなさそう。何がどう危険なのかが実感も想像もできてないんだろうな。
「ディランくん。自分で索敵せず進むってのは自分の命を相手に預けてるのと同じだよ。今日会ったばかりの詳しい素性も知らない人なんかに任せていいことじゃない」
「ッ…!」
「命を預けられるほど信頼して貰えたというなら光栄なのだけれどね」
「何も、一切の採取が駄目というわけじゃない。今回のやり方が悪かったんだ。アルフレートは採取中も常に索敵はしていたし、歩く方向を変えてまで採取していないだろう?」
索敵は嫌いな虫を逸早く発見する為だし、頻繁に方向変えたり歩くペースが変わったりすると疲れるから、直進してただけなのだけど。
いい方向に誤解してくれているので無言を貫くことにして、玉子サンドの最後の一欠を口に放り込む。
次の機会にはチーズたっぷりのホットサンドを作っておくのもいいかもしれない。
「あと、今採取してしまったら荷物に困らないか?アルフレートは個人でマジックバッグも持ってるが個人の所有物だ。パーティのものじゃない」
「あ…」
基本的にマジックバッグを持ち始めるのはランクEからDのころが多い。それもパーティで一つ、とか共有財産のような扱いだ。個人で持ち始めるのはだいたいランクBくらいかららしい。それでも全員じゃないみたい。
私がお礼としてあげるまではルドルフも容量がごく小さなものしか持ってなかったみたいだし。
「マジックバッグなら貸すよ。私、予備のやつあるし」
いつも小銭入れ代わりにしてるのじゃなくて、最初期に作った試作品を掴み出す。
見た目は本当にただの頭陀袋なのだけど。
容量はせいぜい二百リッターで、時間経過は五分の一程度にしてある。
自作出来るかどうか、出来たとしてどれくらい魔力を取られるか、を確認するために有り合わせの袋に魔法を掛けてみたものだ。
もう少し見た目とか選べば良かった。
これだと新品でも一、二万ロフ、中古で五千ロフくらいで売っててもおかしくなさそうな安物感が漂う。
元手が頭陀袋の五十〜百ロフ、ランチ一食分程度の額しか掛かってないから無理もないけど。工房の見習いが作ってる習作そっくりだ。
「荷物の運搬に関わることというのも本来は貢献度に加算される。荷物を率先してたくさん運んだ、とかもな。今回報酬は均等に5等分と先に決めてしまったが…本来はもう少し話を詰めるべきだった」
ぉおう、そうなのか。
リリアナとタリアは真剣な表情でクレイの話を聞いてる。
そういう貢献度とかをちまちま話し合う時間が面倒くさくてつい等分に報酬を分けるのを今まで提案し続けてたんだけど…。
新人育成にはあまり良いことではなかったみたいでクレイの邪魔をしたみたいだね。
「私が原因みたいなものだし、とりあえず今回はコレ使おうよ。私物は入ってないから今日だけパーティのものって扱いでいいよ」
皆がだいたい食べ終わった頃合いで立ち上がり、尻についた土や葉を払う。
レッドヴァイパーの棲家の近くだけあって地面が湿ってるみたいだった。
こうジメジメしてるとスティレットフロッグとかも出てきやすくて、いつもリィナとかが嫌がるんだよね。
ちなみにスティレットフロッグはEランクの魔物なんだけど、だいたい複数一緒にいるのでDランクの魔物と同じ程度には厄介。
今の所気配もないけれど水辺のほうへ向かえば確実に居ると思う。
「さて、メシも食ったし、そろそろ行くぞ」
後片付けをして全員が立ち上がったところでクレイの声掛け。
それぞれ意識が切り替わったようで、顔付きも変わった。




