016
「フェイさんとアルフレートさん?は知り合いなんですか?」
リリアナが興味津々な様子。なんかぐいぐい来るのはもしかしてアルフさんを狙ってるのだろうか。
黙ると畏怖の感情が湧き上がるような美貌でもこうやって表情があるとそれも和らぐから、いつも普通に格好良い人扱いで女の子も吸い寄せられていってるのを見かける。
アルフさん自身が相手に興味を持つことは稀みたいだけど。
「アルフレートって呼び捨てでいいよ。フェイと私は同じパーティに所属してるんだ」
「ほぼ同時期加入なので仲良くさせてもらってます」
「えっと、魔法使いじゃないなら、登録は?」
自由自在に魔法が使えるのに魔法使いではないというのがクレイには不思議なのだろう。
今日のアルフさんは冒険者にも見えないので更に不思議かもしれない。
「私は剣士でしか登録してないよ」
「えっ前衛!?」
剣を使うと知って親近感でも持ったのか、クレイの雰囲気が少し変わる。
「ウチは大剣使うリーダーと拳闘士と双剣のアルフさんが前衛、僕と弓使いが後衛なんですよ」
「双剣…」
短剣二刀流なディランはアルフさんの使用武器が双剣なことに思うところもあるようだ。
「……剣2本もブン回しながらでも簡単に魔法も使えるとかズルい」
種族間の不公平感に不平をもらしたのもディラン。リリアナとタリアも若干不満そうだけれども。
「そうかな?私は人族って魔法も使えて身体も頑丈で体力あるし何でもできてズルいと思ってるよ?どっちも無い物ねだりだと私は思うけれど」
アルフさんは本心からそう言ってるようだった。
みんな予想外だったみたいで驚いている。
「エルフは身体が人族よりもずっと脆いし弱いよ。体力続かないし筋力弱めだし骨格から既に華奢だし、多分魔法でガンガン身体能力上げてないと簡単に怪我するし、死ぬと思う」
「えっ」
「いろいろ工夫しててもまだ体力無さ過ぎてダンジョン攻略とか向いてないし、野営が必要な依頼もちょっと請け難いかな。昨日4時間位ダンジョン探索しただけで正直キツかったから、今日はこうやって街から出てないわけだし」
思い起こせばアルフさんの体力の無さはちょっと吃驚するレベル。
夕方近くになると歩調からしてダルそうにしている。
あれも種族特性だったのか。
仕事が長引くと剣が重くて腰がダルいとか歩き過ぎて足が痛いとか冗談混じりにライリーおんぶしてーとか言い出してぐだぐだになってたけど、半分以上本当にそう思ってたのかもしれない。
今度からもう少し気を使おうと思った。
骨格から華奢というのも納得できる。
確かにアルフさん、凹凸激しいというか大胸筋がやたら盛り上がってたり腹筋6つに割れてるくらいガッチリ筋肉ついてるのに、こうしてゆったりした服の上からだと一般人体型に見えなくもない。
横から見ると胸板とかちょっと厚めだけど、手首とか足首細いし、筋肉落ちたら相当華奢なはず。
「基本的に体力と攻撃力と防御力が最低値なんだよね…。現に昨夜パーティリーダーにアイアンクローやられて魔法で強化してんのに頭蓋骨がミシミシいってたもん」
「アルフさん…。リーダーにそんなことをされるような、何をやらかしたんです?」
パーティリーダーであるルドルフさんは滅多に怒らない大人な男性なのだけど。
アルフさんは時々大人な男性モードなことがあるかと思えば子供みたいなことを言い出してみたり、読めない人だ。でもリーダーも頼りにしてるのは明らかだし、意外と気が合うのかもしれない。
色合い的にもちょうど対になってて白装備のアルフさんと黒装備のリーダーが前衛として立って並んでると凄く格好良いとライリーも言ってたし僕もそう思う。
「ちょっと下ネタで誂っただけだよ」
「またあなたはそういう……。はぁ。とりあえずそろそろ講習を再開しましょうか」
再開を告げると、各自席につく。
次は暗闇で便利な光の魔法。
出来たところで順次、風の魔法、炎の魔法へと随時休憩を挟みつつ移行していった。
「最後に、地面を掘り下げる魔法です。野営のときに便利な魔法ですね。以上の五種が試験に出る魔法となってます。必ず覚えておいて下さいね」
「地面を掘り下げる魔法か…。私が苦手なやつだ…」
「どうせ苦手なだけで使えるんだろ?」
不貞腐れたように言ったのはディラン。
あまり良い傾向ではないなぁ。
「使えるけど異様に魔力を消費するから使いたくないかな」
特に気に掛けるでもなくアルフさんも答えてしまう。
「多分どこかで無駄が出ているんですね。詠唱文はこうです『土よ退け』」
「『土よ、退け』」
まずは受講者全員で復唱。発音も良くなってる。
続いてアルフさん以外で実際に魔力を流し、地面に穴を作ってみる。
「ねぇフェイ。土を、どこへ、退けるの?多分私そこで引っかかってる気がする」
「僕は、周囲の土のほうへ少しずつぎゅっと詰めるイメージでやってますし、そう教わりました」
「…なるほど。密度を上げるのか。そのへんに捨てるんじゃないんだな…」
まさか別の場所へ転移させてたんですか。
そりゃ魔力も大量に使うでしょうよ。
「ぉお…」
アルフさんは地面に穴をあけたり戻したりを繰り返しながら確認してるようだった。
「魔法の使い方を習うことって無いもんなんですか?」
「親から習う火魔法と学校で習う治癒魔法以外は正式に習うようなものじゃないからね。フェイ、魔力効率すごく良いよコレ!すごいね!」
すごく嬉しそうで何よりです。
「治癒魔法は学校で習うのか?」
「ああ、治癒魔法は失敗すると洒落にならないことになるから、身体の構造とか各部位の機能とかを重点的に先に習うんだ。身体がどういう仕組みなのか詳しく知らないと正しく治療できないでしょ?」
みんなよくわからないといった表情を浮かべてる。
治癒魔法についても話しておいたほうが良さそうな流れになってきたね。
「治癒魔法の基本的な詠唱は『癒せ』だけど、安易には使わないで下さいね。興味があるならギルドでも治癒魔法は専門講座をやってるのでそちらの受講をおすすめします」
「なぜですか?」
「間違った使い方で治癒魔法を掛けてしまうと、骨が曲がったままくっついてしまって結局後で脚や腕が動かなくなったり、血が行き届かなくなって腐り落ちてしまうこともあるからです」
実はそういうのが原因で冒険者を辞める人もそれなりに居たりする。
応急処置的な治癒すらもされずに死ぬよりはいいのかもしれないけれど。
駆け出しのFやEランクが主な受講者たちには衝撃の大きな話だったようだった。
クレイとアルフさん以外は衝撃大き過ぎてドン引きしてる気がしないでもない。
「ウチの実家辺りだと、治癒魔法をまだ習ってない子供は自分で使っちゃ駄目って躾けられるんだけど、つい怪我したのを親にバレたくなくて自分でやっちゃった後で今度は治癒魔法を使ったことまで結局バレて親にしこたま怒られる事案が発生します。大体正しく治癒出来なくて傷跡が残るせいなんだけどさ」
さすが深刻な空気クラッシャー。アルフさんが空気を読んだか読んでないのかわからないけど一瞬で一気に場を和ませる。
「ぷぷっ」
笑ったのはリリアナか。
「オーガのような形相の母に身体強化使ってまで折檻されたのがショックで、今だに治癒魔法使おうとすると尻の痛みを思い出しちゃう」
「アルフさんが治癒魔法使うとき、よく尻の辺りを触るのってそのせいですか、もしかして」
「えっ、知らない何それ。私そんなことしてた!?」
「後衛からだとよく見えるんですよ、そういうの」
「えぇー…マジかー…」
ディランとクレイとリリアナは笑いをこらえようとしているけど、失敗してる。
うんうん、と頷いてるのは弓使いのタリア。
前衛の癖とかわかっちゃうのは、後衛職にはありがちだよね。
「専門知識のない治癒魔法は、エルフでもオーガ顔になるくらいの危険行為だということですから、危険なのでくれぐれも注意して下さいね」
こうして僕のランクC初仕事はアルフさんの自覚の無さそうなアシストのおかげで成功に終わったのだった。
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なんだかすごく収穫の多かった講習を終え、現在ギルドの掲示板前にいるアルフレートです。
フェイの凄さにあらためて慄いてる。
やっぱり魔法の専門職でCランクまでいくような人って優秀さが違うね。
午後から簡単にできそうな依頼がないかをチェックしようと掲示板前まで来たのだけど、さすがに昼前ともなると殆ど冒険者の姿も無い。依頼票もあんまり無い。
着替えに戻るのも面倒くさいので普段着でいけそうなやつがいい。
C…いやDかEランクの依頼にしておこうか。
メタルローカストの討伐…冗談じゃない。
レッドヴァイパー…一匹あたりの依頼料の単価は安めだけど数は無制限。
ついでに狩場もガズヌ湿地外縁と近いから夕方には戻って来れそう。ただし狩場は虫多め。
雷キツネ…依頼料はレッドヴァイパーより高い。でも狩場が微妙に遠い。まぁポチさん居るし別にいいかな。
雷キツネの依頼票に手を伸ばす。
が、タッチの差で依頼票は剥ぎ取られていった。
適正ランクより下のランクの依頼に手を出そうとしてるっていう負い目もあって、何も言えない。
仕方がない。レッドヴァイパーにしよう。
「あ…」
依頼票に手を伸ばしかけたところで、先に伸ばされた手に気づいた。
「すっ、すみません、どうぞ」
「いや私のほうが遅かったし!」
慌てて手を引っ込める。
メタルローカストは請ける気が更々無いので今日は縁がなかったと思うことにした。
「あれ?アルフレート、さん?」
「え?あ、タリアさんだー。っていうかさっきのメンバー全員居るし」
先程一緒に講習を受けてた他のメンバーが揃っていた。
これはむしろ私がハブられてた状況だろうか。まあいいけど。
「あの、アルフレートさんも一緒に請けませんか?」
誘ってきたのはリリアナだった。
この依頼を請けるには些かGランクの彼女やFランクのタリアには荷が勝ちすぎるのではないかな?
規定の上ではランクより2つ上のランクまでは請けられることにはなってるけど、大丈夫かな。
レッドヴァイパー自体はEランクの魔物だけど、群れることもあるし、足場の悪い水辺では初心者には厄介だ。
おまけに生息地にはCランクのケルピーがたまに現れることがある。
ちょっと心配だ。
どうやらクレイもこの子達が危なっかしくて参加してるっぽい。
「報酬の分け方と条件、どうなってる?」
「えっと…まだ決めてません」
答えたのはタリア。
「その場限りのパーティを組むときは最初に決めといたほうがいいよ。大体後で揉めるから」
しまった、という顔をしたのはクレイだけだった。
クレイは報酬関係なく参加しようと思ったせいで、忘れたね?
こういうのは即興でパーティ組むなら最初に決めるべき条件。
これから学んでいくのだろうけど、わざわざ好き好んで無用なトラブルを経験する必要もないだろうから教えておこう。
「あと、今みたいに他のメンバーの意見を聞く前に誰かを誘わないこと。即興パーティの場合は何でも話し合ったほうがいいよ」
「あぅ、すみません…」
このパーティ、心配過ぎて落ち着かないのでいっそついて行くことにしようか。
「夕方までにここへ戻るのと、レッドヴァイパーの報酬は五等分、それ以外の討伐と採取物はそれぞれのものでいいなら一緒に行くよ」
一匹で二百五十ロフ、小銀貨五枚だから、全部で二十匹以上狩れば私の半日の採算ラインに届く。
ついでに傷薬とか回復薬の材料も採ってくれば無駄にはならない。
四人で話し合い、彼らもそれでよいと納得したらしかった。
「ではその条件で、行こう」
他のメンバーを見回してクレイが代表してそう言った。
「リーダーはクレイくんで良いんだよね?」
ハッキリさせとくべきことをさっさと確認する。
「え?アルフレートさんでしょう?」
「私、指示が出せないからリーダーには向いてないんだ。臨時パーティ組むときも他所様にご迷惑だから絶対ヤメロってウチのリーダーに厳命されてる」
ルドルフには「お前は、我が道を征ったっきりなタイプだから」と言われてる。意味が解らなかった。大体戦闘中に他人に指示できるほどの余裕なんて無いし、性格的に向いてない。
「じゃあ、経験はアルフレートさんに助言してもらう形で、俺が指示を出す」
「うん。頼むよ。⋯ね、ちょっと靴履き替えたりしていい?」
「ん?ああ」
「どーぞ」
フル装備じゃなくても、ある程度の体裁は整えよう。
壁際のベンチを使わせてもらおうかな。
まずは内ポケットから白竜革のマジックバッグを取り出し、いつものブーツを出して履き替えた。
普段着の上だけど、とりあえずいつものコートだけ取り出して着る。最後に剣帯を装着してとりあえずの準備が完了。軽い戦闘程度なら問題ない。
「一応準備出来た。いつでも行けるよ」
「じゃ、早速出発しよう」




