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014

「ひあっ!?」


 翌日、目が覚めたら眼前にポチの顔があって、ちょっと吃驚した。


 私とルドルフの間に寝ていたはずのロザリンちゃんの姿はなく、どうやら夜間にソファへ移動したようだった。

 流石に狭かったね。申し訳ない。

 ルドルフはまだ寝てる。

 昨夜遅くに何やら二人で話をしてた気配があったからまだしばらく寝てるかもしれないね。


「ポチさん、おはよ」

「クゥン」


 ベッドに前足と顎を乗せて私が起きるのを待っていたらしいポチは、ぶんぶん嬉しそうに尻尾を振っていた。なんだこの可愛い生き物。

 撫で回したい。

 腹毛の柔らかさも素晴らしいけど、頭部を撫でたときに手に当たる耳の感触が好きなんだよ。

 わっしゃわっしゃと撫でていると、背後でルドルフが動く気配がした。

 知らん気配じゃないし自分に危険が及ぶものじゃないからと放置したのだけど、そのままその太い腕で抱き込まれてしまった。

 ルドルフの右腕、地味に重い。剣を振るう右腕は彼の商売道具だから、あんまり下手に跳ね除けられないのが悩みどころ。


「ね、ルドルフ、重い」


 腕をぺちぺち叩いてみるけど無反応。

 むしろ更に引き寄せられる。私そんなに軽くない筈なんだけどな。腕力すっごいね。


 元々私にはルドルフみたいに大剣を振るうほどの膂力はなかったけど、私が種族的に非力なエルフなことを差し引いても、こんなに違うとは思ってなかったよ。


 最初に遠慮なく腕を退かせばよかったかもしれない。今現在がっちり抱えられてしまって既に脱出不可能だ。


「そろそろトイレ行きたいし放してよ」


 膀胱が圧迫されるので腹は押さないでいただきたい。


「ん……?」


 待ってても埒が明かないと魔法を使っての脱出方法を考え始めるころ、ルドルフがようやく目を覚ましたようだった。


「ルドルフ、私ロザリンちゃんじゃないよ、アルフレートですよ?」

「…………道理でみっしり硬いと思った…」


 目を覚ましたなら、私の大胸筋を掴んでる手も退けてほしいです。


「さっきから私の尻に当たってるブツほど硬くないよ。トイレ行きたいから放してほしいな」

「……オウ」


 ここはあのセリフ、ゆうべはおたのしみでしたね、とか言ってみたかったけどルドルフの反応がいつも微妙なので躊躇われた。

 用を足してから軽くシャワーを浴びて、身支度を整えようとして、着るものに迷う。

 今日仕事をするか、休むかによって穿く下着から変わるからね。

 今日はまだパーティでの行動の日ではなく自由な日だから、どうしようと私の自由。逆に悩ましい。


「ねぇねぇルドルフー。今日のルドルフの予定とか聞いてもいい?参考までにー」


 バスルームの扉を開けてルドルフに尋ねる。


「今日は午前中は休む。午後から軽く仕事すっかな」

「そっか。午後からって選択肢もあるか…」


 ルドルフを参考にするどころか逆に選択肢が増えてしまったね。

 大した戦闘もしなかったけど昨日はダンジョンへ行ったし、今日は休もうか。それとも昨日はほぼ歩いてただけで大して動いてないから今日くらい働くか。


「どうした?」

「んー。仕事用か休日用かどっち穿くか迷って」

「あ?」

「下着の話だよ。まあいいや休日用にしておこう」


 迷った末の選択は、穿き心地のいい生地のボクサーパンツ。

 服はどうしようか。

 黒い綿素材のパンツとシンプルなシャツだけ着て完全な休日スタイルでバスルームを出る。


「今日は休むのか」

「うん。ポチと街をぶらぶら歩き回ろうかと」


 私の休む気満々な服装で今日のスケジュールを察したようだ。

 今日は全力で休むよ。

 靴も街歩き用のラフなものに変えて、いつものブーツはマジックバッグにしまう。

 メインで使ってる白竜革のマジックバッグは見えないところにしまい、予備のバッグを腰のベルトに取り付けて完了だ。


「完全に、一般人その一、みたいな格好だな」

「休む予定の日に全身フル装備でいたくないよ。剣だって重いし」


 そう言うルドルフは、いつもの黒飛竜装備ではないのに似た感じの見た目の服を着ていた。大剣はないのに、どことなく冒険者っぽい。

 なんか悔しいです。


「ね、ルドルフ。朝食はそのへんで済ませる?それとも宿戻る?」

「あー、戻るかな」

「だったらそろそろ出ないと間に合わなそうだよ」

「…もうそんな時間か」


 ロザリンちゃんはまだ寝てるけど、声くらい掛けたほうが良さそうだね。


「ロザリンちゃん。私達、そろそろ帰るね」

「…ごめんなさい。今日は見送れそうにないわ」


 ひらひら振られる手に見送られ、2人で部屋を出た。


「ルドルフさん、抱き潰すのはヤり過ぎだと思う」

「……シてねえよ。…アレは酔い潰れてるだけだ」

「えっ、じゃあちょっと待ってて治癒魔法掛けてくる」


 抱き潰されて起きて来れないならどこをどう癒やせばよいやらわからんので治癒魔法を掛けるのも躊躇われるのだけど、ただの二日酔いならどうにでもなる。

 急いで部屋に戻って、ロザリンちゃんに解毒の魔法を掛けた。

 これで少しは楽になるはず。


「ありがとう。アルフレート」

「どういたしまして?」


 部屋を出る前に、お礼のついでか、キスされた。

 やっぱり舌を入れてくるのは反則だと思った。






 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 朝食後、ライリーは他の冒険者とパーティを組んで出掛けたようだ。

 リィナは昨日のうちに単独で何かの依頼を請けてたみたい。

 フェイはランクアップ試験でギルドへ行くのだと言ってた記憶が。

 私とポチはとりあえず依頼票の確認にギルドへ向かうことにしたのだけど、それが日課なのはルドルフも同じわけで、一緒に向かうことにした。

 依頼を請けるのも早い者勝ちなので割の良い仕事を得るために休みだろうと一応毎日行くことにしてるのだ。多分ルドルフもそう。

 気の向くような依頼があれば請けてもいいしね。


「さて、女将さん、出掛けてきますね」


 ルドルフが席を立とうとしたので、食後に出してもらったお茶を飲み干し、私も席を立った。


「はいはい。いってらっしゃいなアルくん」

「私のほうが歳上だって言ってるのに。行ってきます」


 私たちが定宿にしてる銀麦亭はギルドのある大通りから程近い場所にある。

 その道程をポチとルドルフと並んで歩いた。

 目立つのかポチさんをチラチラ見てる人も多い。


「ルドルフは休みの日でも冒険者っぽいね」

「お前は異様に一般人感出るな。顔が違和感あるけど」

「なんか悔しい」


 ギルドが近いせいか周囲にはもう冒険者の姿ばかりだ。

 冒険者スタイルなルドルフの隣の一般人スタイルな私に違和感を覚えるのか、妙に振り返られる。普段の比じゃない。実はポチさんと同じくらい見られてるんじゃないかと思う。


「服装がラフ過ぎるんじゃね?」


 私を頭から爪先まで眺めたルドルフがそんなことを言った。


「セール中にまとめ買いしたんだよ」

「どう考えてもそのせいだ。服を買ってる店がそもそも違うんじゃないのか?」

「えええ?だって普段着に防刃とか耐火とかの機能要らなくない?普通の服屋さんで良くない?」


 なんだい?君は普段から防刃繊維のシャツなんか着込んだりしてるのか?

 いったい何と戦っているの?


「普通の衣料品店で買うのは下着と靴下くらいのもんだろ」

「休日用ならともかく仕事のときに穿く下着はちゃんと機能性考えて買うよ?」


 どうでもよさげな会話をしながらもギルドに辿り着き、扉を押し開ける。

 もうピークは過ぎた時間帯なせいか、けっこう空いてる。


「は?仕事用って何?」

「がっちり押さえてくれて動かないのとか、ガード用のカップ入れられるやつとか」


 昨日のは本当に痛かったから普段から穿くべきか考えちゃったよ。


「そこまで必要ねえだろ」


 今日は受付カウンターへ向かわず依頼票の貼り出されている掲示板のほうへ直行する。

 空いてるとはいえそこだけは数人の冒険者がうろうろしながら仕事をさがしていた。


「いや要るよ。脳みそ焼き切れる寸前で同時にいくつも魔法使いながら身体も全力で動かして戦ってんのに、その局面でズレたら嫌でしょ。絶対集中切れるでしょ。集中切れたら死ぬでしょ。魔法の同時使用は流石に集中しないと無理だもん。チ○コずれたのが原因とかで死にたくないよ私」

「お前は何と戦ってんだ。あとその顔でチ○コとか言うな」


 ルドルフが周囲の冒険者に視線を向ける。

 うん?アイコンタクト?

 とりあえずルドルフの示した周囲を見てみる。


「…おや、失礼」


 掲示板の前に女性剣士と駆け出しっぽい魔法使い女子が居たのを見落としてました。

 二人ともすごく気まずそう。下半身周りの話なんぞをこんな場所でしてすまぬ、お嬢さんがた。

 こんなオッサンのセクハラ発言のせいで魔法使いの子なんて口元押さえて真っ赤になってぷるぷる震えてる。恥ずかしがっているのか笑いを堪えているのか判別不能だが、私も非常に心苦しい。


「ご、ごめんね?」

「…あ、いえ…」


 謝罪するも、そそくさと去られてしまった。

 …気まずい。どうしたらいいのこの空気。

 ルドルフが知らない人のフリをしようとしてる。


「あっ。リーダーとアルフさん。来てたんですね」

「フェイ〜」


 私には上階から降りてきたらしいフェイが窮地を救うヒーローに見えたよ。


「これからか?」

「いえ、終わりました。今日は僕一人だったみたいで」


 ランクアップ試験を受けていたはずのフェイの様子は嬉しそうだ。なら合格したのだろう。

 フェイの実力からいっても落ちるとは思えないし。


「おめでとー。フェイ」

「まだ言ってませんよ」

「でも合格したでしょ?」

「はい!」

「なら合ってるじゃないかー」


 ポチにするみたいにフェイの頭を撫で回すとポチが嫉妬に満ちた目でフェイを見ていたのでポチの全身を撫で回しておいた。


「フェイ、何か依頼請けていくのか?」


 ルドルフは既に決めたらしく、もう依頼票を手にしていた。何請けるつもりなんだろう。


「僕に向いたのがあれば請けていこうかと思ってます」

「そうか。おめでとう」

「ありがとうございます」


 こういうときのルドルフの「落ち着いたオトナの男な雰囲気」がスゴイと思う。なんなの。私それ出来ないんだけど。

 振り返らず手ぇひらひら振って去っていくとか何か格好良い。いつかやりたい。


「アルフさん、これ一緒に請けません?」

「んー?なにー?私今日は遊ぶ予定なんだけど」


 フェイの指し示す依頼票を確認する。

 ええと…?


 対象:ランクC以上の魔法使い

 依頼者:冒険者ギルド


「フェイさんや。私、剣士で登録してんだけど」

「えっ?前に、そのうちに魔法使いでも登録する、って言ってたじゃないですか」


 まだだったんですか?と言いたげだね。


「うぐっ…!そ、そのうちには…」


 その時は軽い気持ちで「登録する」って言ったけど…。


「する気ないですね?」


 苦笑された。アカン完全にバレているよ。


「無理だよ私には!何なのあの試験!異世界の言語かよ!?」


 …そう、私には口述試験が難し過ぎた。


「コップの水を凍らせる魔法の構文とか、知らないよ!解んないよ!分子振動遅くすれば勝手に凍るだろッ!?」

「なんでよりによってそんな第一問目から引っかかってるんです!?」


 解んないんだもん。

 詠唱文の意味とか、どういう仕組みで魔法を発動させてるのかとか、知らないし。

 したいことを思い浮かべて魔力流すだけで魔法になっちゃう私には無理な芸当です。


「今回のこの依頼は、そういう試験に合格出来るように魔法使い見習いに指導するお仕事なんですよ…」

「私はむしろその講習を受ける側なんじゃないかな?」


 いっそ受けてみようか。

 このままじゃ「そのうち」が一生こない気がするし。

 フェイが初歩から丁寧に教えてくれるなら理解するとこまでいける気がするよ。気の所為かもしれないけど。





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