012
※ベッド上で騒いでおりますが、当作品はBLには発展しません。
「さて…お風呂入って来ようかな。ポチさん一緒に入る?」
ぷるぷる顔を横に振って全力で拒否されると寂しいよ。
そうか。嫌か。
「…ルドルフ入る?」
「とっとと一人で行ってこい」
「はぁい」
冗談にも律儀に返してくれるルドルフは良いやつだな。
シャンプーのボトルをマジックバッグから取り出しつつ、バスルームへ向かった。
脱いだものは片っ端からマジックバッグに放り込んで、いざ地上の楽園へ。
広いお風呂万歳。
身体と髪を洗い終えてバスタブに浸かると、部屋のほうからルドルフとポチの声が聞こえてきた。
いつもならもっと風呂を満喫するところなのだけど、ポチたちがどう過ごしているのか気になってならない。今日はさっさと上がることにした。
なぜだか背中が妙にぴりぴりするし。傷でもあるのかな?
髪と身体の水滴を魔法で除去し、マジックバッグから取り出したルームウェアを迅速に着る。
そーっと扉を開けて様子をうかがうと、ルドルフがポチに干し肉っぽいものを放り投げて与えていた。
ポチも楽しそうにそれをキャッチしている。
ポチさんめ。私というものがありながら。
私もあれやりたい。めっちゃやりたい。
「何楽しそうなことしてんの」
「おう、オカエリ」
「ただいま。ルドルフもシャワーでも浴びて来れば?」
「ああ。そうする」
ルドルフは私と入れ替わりでバスルームへ向かった。
ポチ、私とも遊んでくれ。
マジックバッグにしまってあったオークの干し肉を千切ってポチの頭上に投げる。
「ガウッ!」
天井ギリギリまで跳び上がり、難なくキャッチ。音もなく着地。
「うわぁ〜!」
すごいね。
今度は2切れ同時に投げてみようか。
ぽいっと投げると、一片を口でキャッチし、もう片方を尾で跳ね上げてから方向転換し、口でキャッチというアクロバティックな動きをした。
マジか。
ポチさんぱねえっす。
一角狼ってこんな動きしたっけ?
ポチと遊んでいると、すぐにルドルフが出てきた。
吃驚するほどのカラスの行水だな!?
ガシガシ拭いてる紺色の髪からはぽたぽたと雫が滴っている。
「ルドルフ。ちょっと魔法使うよー」
驚かせないように声を掛けてから、濡れた髪を乾かしてやる。上はなにも着ずに裸のままなのできっと暑いのだろうとついでに冷風を送った。
「お、涼し。ありがとな」
「ルドルフ、出てくんの早くない?」
「こんなもんだろ?」
「まあいいけど」
よし。ルドルフが戻ってきたならそろそろ開始しますかね。
「では、汗も流したし、そしたらすることは一つだねルドルフ!」
キャビネットのほうを指し示すと、ルドルフも嬉しそうににんまり笑ったのだった。
ひゃっほぅ!
「よし、始めるぞアルフレート!」
「ここのお酒どれも美味いから好きっ!」
ルドルフがキャビネットを漁り、めぼしいモノを掻っ攫い、私がグラスと氷をテーブル上に並べ準備した。
ついでにアテになりそうな料理もいくつかマジックバッグから取り出して並べる。
⋯もしかして、戦闘中より素晴らしい連携なのではなかろうか。
ちなみにウチのパーティではルドルフと私だけが毎日呑みたいタイプ。
フェイは時々参加するけどあまり強くないタイプ。
リィナとライリーは酒の味が好きじゃないけど飲めなくはない、というタイプだった。
「んー、昨日呑んだやつどれだろ。ロザリンちゃんに聞いとけばよかった…!」
グラスの中身を舐めてみて確認。
コレジャナイ。でも美味し。
ポチさん何か食べるかな?要らない?そうかい。
足元に寝そべってポチは休むことにしたらしい。
「片っ端から呑んでけばそのうち当たるだろ」
「ルドルフかしこい!」
「おいアルフレート、これスゲェぞゼメリダの12年ものだ!」
「なにそれスゴイの? ゴメン、私銘柄とか詳しくないよ」
ルドルフが持ってきた酒を味見する。
「ルドルフ! コレだー! 昨日呑んだやつ! うっま!!」
このアイラウィスキーそっくりなのはゼメリダっていうのか。覚えとこう。
煙たい。ピート香がたまらない。
ええと、これに合うツマミ、あったかな。
たしか前に作ったチョコレートとナッツと生ハムがあったはずだ。
「んまい…」
スモーキーな香りに炒ったナッツの香ばしさがよく合う。
「アルフレート、何だこの異様に美味いツマミ」
「中央商業区のお高いお店で買った取っておきだよ」
中央商業区は他国や遠くの地方から輸送されてきた珍しい品がいっぱいで楽しい区画。
貴族とも取引するような高級店が多く建ち並ぶ地区だ。
大概モノはいいがお値段も品質なりの額だったりする。
「武器に金掛けないくせにコレは買うのか」
「迷いなく買うね!」
「食に関するお前の情熱、本当にすげえよな」
しみじみ言わないでよ。
「食べることって生きることの基本でしょ?私だって衣食住には拘るよ」
快適に暮らしていくには重要ですよ、美味しいものの追求は。
「美味しいものを食べるのは昔から好きだよ。仕方ないじゃない。ウチの実家の辺りなんてなんにも娯楽無かったんだもん。おかげでウチは子沢山ですよ」
「ふはっ。お前って妙なところで下ネタぶっこんでくるよな。何?お前兄弟居んの?」
そういえばルドルフにも出身地関連の話はしたことなかったな。
「居るよ。兄が二人と姉一人、妹一人。もしかしたら更に増えてるかもしれないけど。気楽な三男なので私はふらふらして居られるんだけどさ」
「……意外に多いな。種族的に子供が出来難いんじゃなかったのか?」
「出来難いのは確かだと思うよ。百五十年毎晩のように励んで五人って少なくない?」
「親のベッドの事情なんぞべらべら暴露すんなオイ。なんでそんな開けっ広げなんだよお前は」
いい具合に酔っ払い掛けてるせいかもしれないね。
ほろ酔い気分が心地良い。
んー、そろそろ寝転びたい。
「ちょっと暑くなってきたね。温度下げていい?」
「おう。頼む」
魔法で気温を2℃ほど下げた。
ベッドのほうへ歩きながらシャツの裾を持ち上げて風を送って涼む。
涼しー。ルドルフしか居ないし脱いじゃえ。
「お前酔うと脱ぐタイプだったっけ?」
「いや?ひたすら笑うタイプだけど?ルドルフしか居ないからいっかなと思っただけだよ」
手に持ったままだったグラスをベッドサイドテーブルに置いてからベッドにダイブ。
酔ったとき特有のふわふわした気分が気持ちいい。
コレのせいで意味もなく無駄に笑いたくなってくるんだよね。
「んふふ。あははは」
「酔ってんじゃねえか」
そう言いつつなんでかソファのほうでくつろいでいたはずのポチと共にルドルフまでベッドのほうに来る。
「お前の背中、なんか凄え引っ掻き傷出来てんぞ」
「え、わかんない。見えないし。朝からずっとぴりぴりしてたし、なんかさっき凄く沁みたんだけど。背中って見えないから魔法も使い難いんだよね」
そんなに目立つなら治しておこうかとちょっと頑張って魔法を使ってる最中にやっと原因に思い至り、少し羞恥を覚えた。
目を逸らそうとしてくれるルドルフの様子はありがたいが、その気遣いに心を抉られる。
ポチは私の右隣に伏せ、何事も無かったかのようにまた目を閉じていた。
「ねえ。なんでルドルフまでこっち来てんの?」
「お前の近くが一番涼しくて快適」
ルドルフは手に持ったグラスの酒を飲み干し、サイドテーブルに、コン、と音をたてて置いたあと、私を挟んでポチと反対側の隣に倒れ込む。
ベッドのスプリングの反動でばいんと跳ねる感覚が面白くて笑ってしまいそうになった。
「温度はどこでも一緒にしてるよ?」
「無意識だったのか?お前の周りだけずっとそよ風が吹いてんだよ」
「ぷはっ!マジか」
私は扇風機か。
そう思ったけど、きれいな毛並みをそよそよ靡かせて気持ち良さそうにしてるポチを見れば、納得せざるを得ない。
その反対ですごくそっくりな表情で風に当たってるルドルフを見たら、もう駄目だった。
「あっはははは!ははは!げふっ、あーっはっは!」
アカン。ツボった。
苦しいって。息が。
「ふは、くるし…あー、プフッ!…はぁ…」
ベッドの上を転げ回って笑いの発作みたいのをやり過ごす。笑ったら涙出てきたよ。
また笑ってしまいかねないのでルドルフとポチの顔を極力見ずに落ち着くのを待った。
見ちゃ駄目だ。だってさっきと同じ表情で今も涼んでるんだもん。見たら絶対笑う自信があるよ。
「ふふっ。たのしい…」
この面白さはぜひ記念に取っておきたい。
一瞬だけそちらを振り向き、記録用の魔道具で激写する。
「ヨシ、撮れたっ!」
「ん?何がだ?」
ルドルフが背後から覗き込んでくる。
「ポチとルドルフ。ふはっ。スゴイ似た表情してる。あはははは!」
「アルフレートっ!? 変なモン撮んな! そんなことに魔道具使うな! コラ消せ!」
ルドルフが魔道具を奪おうと手を伸ばしてくるので、私は死守すべく身を捩った。
ひぃ。脇腹攣りそう!
「あっはははははは!」
「コノヤロふざけんな!」
笑いながら避けていたもののそのうちにルドルフに両手首を抑えられ、身動きがとれなくなった。
「ぅあっ」
これ以上前へ出られるとマズいので、足でルドルフの腰を挟み、固定する。
ルドルフが抑えてるのは手首だからルドルフも魔道具に手が届かず次の一手が取れないでいる。
でもルドルフに体重掛けられると流石に重いよ!
「んあ、背中に乗るな! 重いよ!」
俯せになった背に乗られたのを振り落とそうとするけど、酔ってても元の身体能力が高いせいで全然離れない。
「あはははは。重いって! なんか出る! 口から! ウッ…、さっき飲み食いしたもの全部出ちゃう! ひゃあああ!」
「飲み込め勿体無え!」
「酷い! あっはははははは!」
ルドルフの言い様が酷すぎて笑いがとまらない。
笑い転げてるのを隙と見たか、ルドルフが手首を離し素早く魔道具を払い落とそうとしてくる。
「痛った!」
スパーンと手首を叩かれるが地味に痛い。
これはやばい。そう何度もは防げない。
「痛い!やめてよルドルフ!壊れる!」
「むしろ壊れちまえ!」
この魔道具、結構お高いのになんてことを言うんだこの男は。
コレは壊れると私でも懐具合がだいぶ痛いんだよ?
「わぁん! ルドルフ本当にやめろって。優しく扱ってよ! ガチで泣くよ!」
「だったらどうすればいいか解ってんだろ、ぁあん!?」
「仕方ないなぁ…」
んもう。わかりましたよ、消しますよ。
消せばいいんでしょ?
面白いからリィナとフェイとライリーにも見せたいのに。
そう思ったところで部屋の扉が開いた。
「あ、ロザリンちゃん、オカエリー」
「………ずいぶん楽しんでたみたいねぇ?あなたたちの声が部屋の外まで丸聞こえよ」
「あ、煩かった?ごめんね」
少し目元が赤い。ヘレナさんのところへ行ってきたのだからそれもそうか…。
申し訳なさでちょっと身の置きどころが…。
「あなたたちのさっきのアレ、外でどう聞こえてたかちょっと考えてみなさいね?」
「うん?」
何か問題あったかな?
ルドルフを見上げてみたけどルドルフも、わからん、と仕草で伝えてきた。だよねぇ、とパーティ内ハンドサインで私も返す。
「部屋の外じゃ、私の客が男娼も連れ込んでる、って話になり掛けてたわよ。それは店の規定違反だし、誤解を解くのが面倒くさくなるような言動は止めてほしいわね」
「何故!?何がどうしてそうなった!?」
問題ありげな発言ってなんだろう、とか考えてたらルドルフが何かに気づいたらしく、慌てて私の上から飛び退いた。
ふぅ。重かった。
「…いや、あの、壊れるとか壊れちまえとか優しく扱えってのは魔道具の話で…」
ベッドの上で身を起こしながら思い出してみる。
痛いやめてよルドルフ壊れる、と、むしろ壊れちまえ…?
………………うっぷす。
「なるほど。ルドルフが、私を無理矢理陵辱してる人に思われた、と」
「やめい」
いつもよりだいぶ低いルドルフの声。
不穏な気配を察知したのか、いつの間にかポチは素早くベッドから降りていたよ。
おっと、からかい過ぎましたかね。
スゥ、っと手が伸びてくる。
「ん? あっ、あっ! 割れる! 痛い痛い痛い痛い!!」
「ははは。アルフレートは顔が小さいから、掴み易いなぁ」
「ミシミシいってて怖いから、アイアンクローは止めて!? 私の頭蓋骨ごときじゃ呆気なく逝く気しかしないよ!」
利手じゃない左手なので、ルドルフ自身は手加減してるつもりなのかもしれないけど、エルフは骨格が華奢なのでそれこそ優しく扱って欲しいよ!
魔法で強化した状態でもミシミシいってるし!
更に強化しておこう⋯。
種族差が考慮されてない気がしたので強引に外すことにした。
ベッドの上なので怪我はするまい。
とりあえず私の顔面を掴んでる手を手前方向に引っ張り、その腕を両脚で挟みつつルドルフを仰向けに倒す。
ベッドに座ってる状態だったのでわりとあっさり倒れた。
ルドルフが驚いてるうちにアイアンクローを無理矢理外して腕ひしぎ十字固めにもっていく。
「ギャー! 腕逝く逝く逝く! 折れる! アルフレート!」
「人族の腕はこれくらいじゃ折れないよ」
嫌がりつつ笑うとは随分余裕だな。一切筋力の強化もしていない素の私など、問題にもならん、ってことかな!?
「お前は自分の筋力を過小評価し過ぎだ阿呆! 痛え!」
「アハハ。それはルドルフもだ、ろッ!」
「あ"ーッ!」
少しだけ強めに締めたら面白いほど大袈裟にルドルフが叫んだ。でも声の調子は仕事のときみたいなガチな感じではないので、まだだいぶ余裕はありそう。
「くっそ、アルフレートぉ!」
視界の端でルドルフの脚が高く上がったのが見えた。
じゃらっという音の一瞬後、私の顔の辺りに冷たいものが降り注ぐ。
「ひゃっ冷たっ!?何!?」
「隙ありィ!!」
器用に足でひっくり返されたグラスから落ちてきた氷に驚いて力が緩んだ瞬間に、どすっ、と下腹部よりさらに下へ反撃を受けた。
軽く最小限の動作だったので避けようもなかったけど、急所を攻めるのは反則だと、後に思った。




