011
「まずはギルドだな」
仮登録証を発行して街のなかへ入れてもらったポチとルドルフと共に、ギルドへ向かった。
夕食の準備前、街中が活気づく時間帯。
正直道が混んでて歩き難いです。
ポチが居て周囲が避けてくれるからまだマシなのかもしれないけど。
うーん。ウチのポチさん、目立ってる。
こんなにデカいし格好良いし可愛いし、目立たないわけがないよね。
グレーの毛並みを撫でて手触りを楽しみながら、ギルドを目指す。
この時間帯にギルドへ行くのが久しぶりだ。
報告に訪れる冒険者で混み合うせいで地味に疲れるから、出来るだけ避けてたからね。
実際この時間帯に来るのは数年ぶり。
昨日はもう少しだけ早い時間だったのだけど、ほんの少しタイミングがズレるだけで、えらい混みようだ。
ギルドの建物がある通りまで来ると、一般人の姿はあまり無く、辺りは仕事を済ませて来た冒険者の姿でいっぱいだった。
手にした報酬でほくほく顔の人も、これから報告で緊張した面持ちな人も、結果が思わしくなかったのか苛立ってる人も、装備でも壊れたのかものすごく気落ちしている人も、みんな冒険者だ。
それぞれ武器を携行し、防具で身を固めている。
街中を歩くには少々物々しい鎧をつけてる人も多い。
金属製のフルプレートアーマーまでいかなくても革鎧や部分的に金属補強の鎧ってのはそれなりにいた。
コートやジャケットしか着てない私やルドルフみたいなのはかなり軽装の部類。
軽装なのは素材の品質にモノ言わせてる高ランクか、鎧が買えない駆け出しだけなのだけど、ルドルフは見ればすぐわかるような業物の大剣を背負っているのでどこからどう見ても高ランク冒険者のほうである。
対して私は量産品のお安い剣、しかも早いペースで替えるせいでかなり新品の剣を下げてるだけ。コートにしても傷まないし汚れないのでいつでも新品に見えるし極力飾りをつけずシンプルなデザインにしてある。トドメに外見がどう見ても十代。
なので、どうしても駆け出し冒険者に見えやすいらしく、絡まれやすくなるみたい、なのだけど…。
「ルドルフとポチが居るおかげでこの時間帯でも絡まれない…!」
「……良かったな?逆に狼が物理的に絡んでるけどな?」
ずっと私にすりすりと身体を擦り寄せてるポチを示すルドルフ。
うん。そうだね。でっかいのが押し寄せてきて、どんどん道の端のほうに追いやられるし。
絡みついてくるポチの脚に躓きそうになってその都度避けてるものだから、歩き難いし今にも脚がもつれそうだよ。
「ポチさんや、ちょっとだけ離れてくれない?あんまり近いとこ歩いていられると蹴ったり足踏んじゃったりしそうで怖いよ」
「…ガゥ」
ポチが下を向きながらちっちゃい声で鳴く。
そんな哀しそうな雰囲気を出されると、罪悪感が酷いよポチ!
「えっと、たしかギルド建物内は従魔は連れてっても良いんだよね」
屋内で可愛いツノウサギたちをつれてる人を見たことあるし。
この時間帯だけ出入り激しすぎて開け放ったままにしてあるらしい入口から、屋内へ足を踏み入れる。
予想以上の混雑具合にげんなりしつつも受付前に出来ている列の最後尾に並んだ。
「すっごい混んでるねぇ。こんなの初めてだよ」
「十五年やってるヤツのセリフじゃ無えな。もう少し遅いと更に混むぞ」
「……これ以上、だと…?」
そんな時間には絶対来ないぞ、と誓った。
ギルドでは、大抵来たら先ずは受付へ向かう。
受付で用向きを伝え、依頼の完了報告や報酬の受け取り等のありふれた用件であれば、そのまま判定などの処理へ移ることになっている。
若干複雑だったり、特殊だったりする要件だと、別のカウンターへの移動を促され、そちらでベテラン職員が対応にあたることになる。
今現在の混雑状況だからだろうか。
若い女性職員が受付待ちの列の、用件が明らかに特殊ケースっぽい人に先に声掛けして奥の特殊用件のカウンターへ案内していた。
「ね、ちょっといい?」
「ひゃいっ!?」
忙しなく動き回っていた職員さんを呼び止めたら、驚かせてしまったらしい。そんなに吃驚しなくてもいいのに。
あわあわしてる。忙しいのに声なんて掛けてすみません。
「あの、従魔の登録って特殊用件になるかな?」
「えっ、はっ、はいっ!ご案内しましゅ!」
なんか噛んだ。
とりあえず職員さんの後をついていくと、特殊用件のカウンターへ取次いでくれた。
「この子は怖くないよ?落ち着いて」
むにむにとポチの顔を弄ってみせる。
もちろんポチはそんなことで怒ったりしない。
ポチさんは優しい良い狼です。
「ありがとーございますっ!」
そう言って深々と一礼して、パタパタと列の整理に戻っていった。
「おや、アルフレートさんとルドルフさんでしたか。従魔の登録ですね」
「お久しぶりです。お願いします」
対応してくれたのは30代の男性職員さんで、たしか名前がフレイさん。私にとってキャサリンちゃんの次に話し掛け易い職員さんである。
勧められた椅子に私とルドルフが腰掛けると、ポチは足元に座って、私の腿に顎を乗せた。狭くないのかな。
とりあえずフレイさんに街に入る前にベテラン兵士さんに作ってもらったあの仮登録証を確認してもらう。
「ほう。ダンジョンの魔物ですか。珍しい」
「それ門のとこでも言われたよ。普通の魔物と違うことで何か注意点ってあるのかな?」
聞くの忘れていたので、この際フレイさんに聞いちゃおうと思ったんだよね。
「そうですね…元がダンジョンの魔物の場合、魔力を多く含んだものを食事として与えて下さい。生命の維持に必要です」
なんだって!?いきなり最重要事項!
聞き忘れたのをここで聞いてよかった!
「なお、排泄はしません。消化器官がありません。食べたもの全てが身体を維持するための魔力に変換されます。生殖能力もありませんので、魔物の種類と性別によってはダンジョン外の同種の魔物の発情期等にはトラブルに巻き込まれることがあるので守ってあげて下さい」
「思いのほか生き物っぽくなかった!?」
私もトイレいかない生き物みたいに思われていたようだけど、実際そういう存在を目の前にすると不思議生命体過ぎだよ。
「あと、長期に渡って契約者の魔力を与え続けると成長するそうですよ」
「普通の一角狼が、ボス個体みたいにランクB相当まで成長することもあるってことか?」
「ええ。そのような例があるらしいです。…さて、こちらが登録証です。無くさないようご注意を。こっちは従魔であることを示すプレート。必ず見えやすい部分に着けてあげて下さい」
従魔登録料だという金貨1枚を支払い、ギルドカードみたいなカード状の登録証と、青い縁取りのある銀色の金属製っぽい小さな板をもらった。
板には革紐がついていたので、ポチの首に掛けてやる。良く見たらミスリル製だ。すごいね。そしてポチの首に巻いてある青い布とも合うね。
「本日はご利用ありがとうございました」
「ごめんねフレイさん。今日は別件の報告もあるので聞いてほしい」
にこやかに従魔登録処理を終えようとしたフレイさんを止める。
私達としてはここからが本題ですよ。
「ギルドのほうでも目は付けてるかもしれないのだけど…」
そこまで言って、まだ外へは漏らすべきではないと思ったので、音を打ち消すように魔法を掛けた。
「Cランクのデイヴィッドとそのパーティ、やっぱり人身売買に手を出してた。販売相手は貴族らしいけど」
証拠品として記録用の水晶を提出する。
どういう仕組みかは知らないけど、記録された音や映像を後から改竄できない魔道具だよ。
証言だけでなく、誰がどんな状態で何を話したのかまで確認できるので、普通の記録より信用されている。
かつて冤罪で追い回されたことで懲りた私は常にこの手の記録用魔道具をいくつか持ち歩いているんだよね。今回はそれが役に立った。
嘘をつかないようにある程度の幻惑系魔法を使うつもりではあったのだけど、夢魔のおかげで催眠状態だったので手間が省けた。
フレイさんのふんわりした雰囲気が一気に切り替わるのが見てとれた。
*
ちょっとギルドの偉い人が出てきたりいろいろあったけど、なんとか報告を済ませてギルドを出た。
長かった。お腹がキューキュー鳴いてるよ…。
「あとはロザリンちゃんに相談かな…」
気が重いです。
ロザリンちゃんはデイヴィッドの本性含めて気づいているフシがあったけど、ヘレナさんは生きて帰ってくると信じ切ってる雰囲気だったし。
「ね、ルドルフ」
「ん?」
「…水蜜の館、一緒にいかない?」
「………こんな人通り多いとこでその誘い方ヤメロ」
おお。言われてみれば、これから娼館にしけこもうぜというお誘いにそっくりな文句でしたね。
浅黒い肌色のせいでわかりにくいけど、ちょっと顔が赤い。
「ごめん。でもひとりは心細い…。おねがいひとりにしないで!」
「ポチが居るだろ」
「ポチさんじゃ中までは一緒に来てもらえないんじゃないのかい…!?」
出来ればついて来て欲しいです。泣いてしまいそうなほど不安なんですよ。
「そういう顔もヤメロ。…メシ食ってからな」
そういう顔、ってどんな顔だろうね?
そして後半!なんですと!?
「いいの!?」
ルドルフのほうを見れば溜息吐きつつ苦笑してる。
「ありがとー! ルドルフあいしてるー! 夕食なにたべるー? 私、海老のオイル煮が食べたい」
「お前のそのすげえ緩くて自由なとこ、すげえなっていつも感心するわ」
「え?」
「俺、兎の香草焼き食いてえ」
「あ! それいいな! 私も海老よりそっちが食べたい。だったら鉄鍋亭がいいよ! 香草の配合がまた絶妙に好みなんだ」
ハーブって組み合わせ次第ですごく美味しくなるからね!
「食に関するお前の情熱も、中々すげえよな」
何が面白かったのかわからないけど、ルドルフが楽しそうに笑っていた。
ところで反対意見が無いってことは鉄鍋亭でいいってことだよね。
鉄鍋亭は水蜜の館に行く手前にあるから都合がいいんだよ。
「食い意地が張ってるって言いたいの? 認めるけども!」
美味しいものは大好きです。
行き先が決まるとつい早足になってしまう程度には。
雑談しながら歩いていれば、すぐに目的の店へ着いてしまった。
「そういえばこういう店って従魔はどういう扱いなんだ?」
「う。考えてなかったよ…」
ポチも入れるかな?
飲食店だし無理だろうか?
「ん?青いタグの従魔は一緒に入店可、だってよ?」
「へー。今までこんなの書いてあったの気づかなかった」
「自分に関係ないって思ってることってのは案外目に入らないもんだからな」
入って良いというなら遠慮なく入らせてもらおう。
「すみません、この子青いタグなんだけどいいかな?」
店内はまだ開店直後なだけあって空いていた。
「いらっしゃい。いいですよ。ただ、大きめな従魔なのでお席だけはちょっと限定させて頂きますね」
ポチが居ても他の人の邪魔にならない席へ案内してくれるらしい。
お気遣いありがとうございます。
座るのに邪魔になる剣は、マジックバッグにしまうことにした。
ついでに今のうちにと思い、メインのマジックバッグ自体をまた内ポケットにしまい、予備のを出してベルトに装着する。スリ対策だよ。
今日はルドルフが一緒だけど油断は出来ないからね。
害意を持つ相手からの接触を弾く魔法と併せ、二重三重に対策をとっておく。
「ご注文を承ります」
「んー。兎の香草焼き2人前と…」
「酒は止めとこうな?」
「そうだった。…じゃあ、炭酸水と胡桃のパンと、この子にファングボアを軽く炙ったやつ」
「俺は塩パンとスープでいい」
「あと適当に温野菜下さい」
「承知しました。少々お待ち下さい」
注文したら野菜があまり好きじゃないらしいルドルフが嫌そうな顔をした。
野菜も食べなさいよ。
*
気分よく夕食を食べ終えたあとは、ちょっと気の重い一仕事だ。
緊張しつつ開店直前の水蜜の館へ。
アルバートさんには話を通しておくから、ってロザリンちゃんに言われてたので、アルバートさんを捕まえてロザリンちゃんに言伝を頼んだ。
忙しいのにすみません。
「私が来たことはヘレナさんに気付かれないようにロザリンちゃんにだけ伝えて下さい。あと、ロザリンちゃんとヘレナさんでそれぞれ一泊お願いします」
「えっ、買うの?」
「こんな時に他のお客がついちゃったらロザリンちゃんたちだって大変でしょ。だから今夜はもう売約済ってしとけばいいかなって。あと呑みたいし」
お店としては客としてなら無下にもしないしね。まぁ、アルバートさんも、ロザリンちゃんあたりから何かしら知らされていて応対している気配もするけど。
それにお金払っちゃえば、お風呂も入り放題でお酒も飲み放題だし。
飲み放題ですよ。素晴らしい。
私と同じくらい酒好きなルドルフもそれには反応した。
「あー。そういう。じゃあ俺がヘレナって子の分を払う。ただ、俺が客だとは伝えないでくれ。会う気もねえ。今夜は休ませてやってほしい」
「承知しました」
ほどなく、ロザリンちゃんの部屋に二人とも通された。ついでにポチも通してもらえた。青タグ便利。
「あら?」
「おう。久しぶり」
ぅわあん。ルドルフもロザリンちゃんのお客だったのが確定したよ!
ソファに案内されてルドルフと並んでロザリンちゃんの向かいに座るけど、ちょっと居心地悪いね。
「ルドルフのことは知ってるみたいだけど、ウチのパーティリーダー。今回現場に居合わせたんだ」
「…そう」
「デイヴィッドは夢魔にやられて死んでたよ。ギルドにはやらかしたことも含めて報告済み。やっぱり真っ黒だったよ。多分デイヴィッドと共犯の疑いがあるパーティメンバーたちも拘束されて調べられると思う」
「………そう。ありがとうアルフレート」
ちょっと哀しげに笑う。やっぱりロザリンちゃんは全部、予想してたみたいだね。
遺体の所持品を確認した際に回収した指輪を、ヘレナさんへ渡してもらえるようロザリンちゃんに託した。
「私は、ロザリンちゃんの望むように、出来ただろうか?」
「…満点よ。完璧だわ」
「じゃ、ご褒美のちゅーを下さい。戻ってきたらしてくれるって言った。ルドルフ後ろ向いてて!」
唇を指差し、目を閉じて待機。
ぺちっと額でも叩かれるか、頬にキスで誤魔化されるか。どっちかな、とか考えてた。
そしたらむにゅっと唇に柔らかい感触が。
「んんっ!?」
想定していなかった箇所への口付けに、内心大混乱ですよ。
「ありがとうアルフレート。申し訳ないのだけどちょっとヘレナのとこへ行ってきていいかしら。すぐ戻るわ」
唇が離れていき、ロザリンちゃんが微笑んだ。
「……いや、ロザリンちゃんとヘレナさんには今夜はもうお客は来ないから、一晩でも慰めてあげて」
デイヴィッドの持っていた指輪をヘレナさんへ渡してもらえるように頼んでロザリンちゃんを送り出し、ヘレナさんに会わずにすみそうなことに内心ホッとする。
「…もういいか?」
ルドルフは律儀に後ろを向いていてくれたらしい。
「も…もういいよ。ありがと」
ルドルフしか居ないけど、顔が真っ赤な自覚はあるので、手で覆って隠した。
「……………うう…舌入れてくるとか聞いてない…!」
「…勃ってんぞ」
「……な、なんでわかるの!?」
「カマかけただけだ」
「酷いよー!」




