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 もうあと数歩でダンジョンともオサラバさ!と思ったところで、ふとある事に私は気づいてしまったよ…。


「ね、ルドルフ。ダンジョン内の魔物って外出られたっけ?」


 おそるおそる聞いてみる。


「見たこと無えな」


 マジか。


 なんてことだ。

 ルドルフの言葉にがっくりと膝をついた私を、一角狼が不思議そうに見ている。


「むしろ消えるのは見たこと有んな。追いかけて出たら外には居なかった」

「ぎゃー!」


 ダメ!絶対!!

 そういう事実はもうちょっとマイルドに教えてよルドルフ。


「やだやだやだ消えたらやだ!ダメ!この先来ちゃダメダメダメダメ!」

 慌てて一角狼に飛び付き押し戻す。

 あれ?わりと全力なのに私のほうが体重軽いのか、全然動かん。

 それどころか無邪気に私を押してくる。

 えっ?ちょっと待て。戯れてるわけじゃないよ!

 うぐ、角が腹に刺さる。


「ダメだってば!」


 瞬間、両足がふわっと地面から離れたのを感じ、酷く悲しくなった。足がつかない。持ち上げられて、そのまま明るい外へ運ばれてしまう。


「駄目!駄目!!」


 脚をバタつかせても下ろしてもらえない。

 考えが纏まらないまま発動した子供の魔法みたいな突風がゴゥと吹いただけで、何も出来ない。


 一角狼はゆっくりした歩調で私を運んでいく。

 急に出会ってからのあれやこれやが思い出された。


 アカン。本当に涙が滲んで何も見えん。


「消えちゃ嫌だポチーーーー!」


 うわぁん。

 私が地面に落ちたらそれがポチの消えたときなんだと思ったら、ものすごく寂しくて悲しくて、何十年ぶりかに泣いた。


 …のだけど。

 アレ?


「アルフレート、お前名前まで決めてたのか?そいつ飼いたいってマジだったのか…」


 いつまで経っても運ばれ続けるのでそっと目を開け涙を手で拭うと、既にダンジョンの外だった。

 とても明るくて眩しい。

 ルドルフのすぐ隣をポチがのっしのっしと歩き、それに変な格好で運ばれている私。

 周囲にはそれなりの人数の冒険者たちの姿が。

 そしてかなりの注目を浴びている。

 …滑稽だ。


「……は…恥ずかしい」


 顔が熱い。耳とか熱い。

 あまりの羞恥に顔を手で覆う。

 ダンジョンの入口から少し離れたところまで歩いてから、ポチは私を静かに下ろしてくれた。


「もう絶対飼う。離さない!」


 そう宣言したら、べろん、と顔を舐められた。泣いたし汗かいたししょっぱくないのかな?


 ぶんぶん振り回されている尻尾が愛しい。

 もう私のだ。はっきりと所有権を主張するよ!

 私のペットになったのだからと、マジックバッグから適当なサイズの布を取り出し、首に巻いて結ぶ。


 気に入って衝動買いしたものの何に使うか思いつかなかった鮮やかな空色の布だけど、可愛いじゃないか。

 これでどこからどう見ても私のペット。


 …と見做してもらえるだろうか。

 犬猫鳥までならともかく、魔物って街で飼えるんだろうか。


「……ルドルフ。街では一角狼は飼えませんって決まりとかってあったりする…?」


 エルフの集落だとわりとフォレストウルフとかメジャーなペットなんだけど。

 実家でも飼ってたよ。


「従魔としてギルドに登録すれば、狼系魔物も飼えるぞ」

「本当に!?」

「指示に従えるかとかの簡単なテストはするみたいだけどな」


 私のポチは賢いからきっと大丈夫だよ。

 きっとパスできるはずだ。一緒にいられる希望が出てきて、なんだか嬉しくなる。


「とりあえず帰るぞ」


 そうしよう、と同意しかけて、問題に気づく。


「あ、うん。ね、私来るときは飛竜便使ったんだけど帰りのことあんまり考えてなかったんだよね。ルドルフはどうする予定だった?」


 どうも周囲を見回しても乗り合い馬車か徒歩しか無さそう。

 街までは二十キロくらい。徒歩なら四、五時間、馬車でもその半分以下にはならない。

 車なら二、三十分くらいの距離だと思うと、もう歩いて帰る気にはなれない。

 それにポチは馬車乗れないだろうし。

 走ってついてきてもらう?


「来るときは俺も同じだな。俺は帰りは馬車でいいかと思ってた」

「そっかー」


 私の手を舐めたり袖を齧ったり、ポチは何やらご機嫌だ。

 このコート、白竜製じゃなかったら袖もボロボロになってたかもしれない。


「ガウッ!」

「ぅわっと?」


 袖を噛んだポチに引っ張られ、転びかける。

 背を向け座ったポチのお尻を跨ぐかたちで何とか踏みとどまったけど、危うくポチを踏んじゃうところだったよ。私のブーツは金属で補強されてるから痛いと思うんだ。


「ポチ、危ないよ、っと!?」


 ぐいん、と視線の高さが一気に上がり、両足が浮いた。

 ポチが立ち上がり、背に私を乗せたのだ。


「えっ?乗れと?」


 それなりに重いはずの私を乗せてもびくともしない。

 魔物だからこその力強さなのかな。


「ハハッ!いいじゃないかアルフレート。せっかく乗せてくれると言うんだからそのまま帰ればいい」


 ルドルフは面白いものを見たと言いたげに笑う。

 ポチはそんなルドルフを見て、ふん、と鼻を鳴らした。


「ん?なんだ?」


 じっとルドルフをみていたポチが、顎をしゃくり上げるみたいな動作をして見せる。


「…………いやいやいやいや無理無理無理無理!」


 引き攣った顔で本気で首を横に振るルドルフをよそに、その袖を噛む。

 お前も乗れ、と。


「……俺も乗るのか?」

「乗れ、だってさ」


 単車に乗るみたいに私の後ろへ乗ってもらい、腰のあたりに掴まってもらった。

 硬い雄っぱいが背に当たるのが実に嬉しくない。


 ポチさんのサイズ感が完全に大型バイクだ。車高が高すぎだけど。

 私自身はポチの首の後ろの毛を掴ませてもらった。


 邪魔なので武器は外してそれぞれのマジックバッグにしまったよ。


 街までの道はいまいち覚えきれてないので、かすかに出来始めている馬車の轍を辿ることにした。


 最初はタタタ、と軽く走る。

 私達を乗せているとはとても思えない足取りだ。

 ポチは私達の様子を窺いつつ徐々にスピードを上げてくる。

 わりとガタイのいいゴツい男2人乗せてどこまで走れるのかに、ついつい私が興味をひかれたのがきっかけだった。

 ほんの出来心で魔法を使い、重力を制御し私達の重量を軽くしてみる。

 次に、障壁の魔法でポチと私の目の前に風の抵抗を減らすための覆いを作った。イメージとしてはバイクのカウル。

 トドメに、ポチの脚に強化を掛けた。


 …………そしたらとんでもねーことになりました。

 一角狼の脚力、ナメてました。

 ちょっと素早くて魔法が当たり難いだけの魔物だと思ってたよ。

 ルドルフが無言で私にぎゅっとしがみついたまま目を開けないよ。なかなか息苦しいので私を締め上げてるその腕を少し弛めてほしい。

 今、コレ多分軽く80キロは出てる気がするんだ。

 対面通行な高速道路で走るくらいの速さで風景が流れていく。ヘルメット無しだし、事故ったら確実死ヌ感じだね。

 そんな速度だったので、たった20分程度の時間で街までの距離を走破してしまった。


 爆走したままでは斉射されかねないので街から少し離れたあたりでポチには速度を落としてもらった。

 そして現在門の付近まで来たところなのだけど…。


 ポチはハッハッハッと呼吸は早いがまだまだ元気そう。

 だけどルドルフが私にくっついたまま動かない。

 背中にぴったり密着してるルドルフの胸の鼓動速すぎ。

 ちょっと脈速すぎない?手汗すごくない?大丈夫?


「ルドルフ? ルドルフ? ついたよー」


 私のお腹の前でガッチリ固定されてる腕を、ポンポンと軽く叩く。


「……飛竜並みに速くね?」

「さすがにそこまでは無いよ。地面に近いから体感速度が速いだけだと思う」


 深く深く溜息を吐いたルドルフに離してもらいポチの背から降りた。

 わしゃわしゃと撫で回しポチを(ねぎら)っていると、馬に乗った兵士が2人、近づいてきた。

 落ち着かない様子の馬に手こずりつつ、馬上から声を掛けられる。


「一つ尋ねたい。それは貴殿の従魔か?」

「…登録はまだだけど、私のです」


 もしゃもしゃな首に腕を回し、抱え込んで見せる。


「くぅん」


 ポチも尻尾をフリフリ、甘えた声で私に擦り寄ってくるのが実に可愛い。

 ふんすふんすと私の匂いを嗅ぎ首のあたりに鼻先を突っ込んでくる。


「んあっ。くすぐったいって」


 ふにふにと押し付けられる湿った鼻がこそばゆい。

 どうやら登録前に連れて街に入るには仮登録が必要らしく、これから仮登録証というのを用意して貰えるらしい。

 親切な30代くらいの兵士さん、ありがとう。

 傍に居るもう一人は新人さんなのだろうか。15歳くらいに見えた。

 こちらをじっと見ているようだったので、手を振ってニコっと笑ってみたら目を逸らされた。難しい年頃なのかな?


「この一角狼はどちらで?」

「最近発見されたダンジョンで逢ったんですよ。よくわかんないけど懐かれちゃって」

「ダンジョンの魔物でしたか! それは珍しい!」

「え? なんか違うの?」


「基本的に、ダンジョンの魔物は外へ出られません。ただ、従う意思のある魔物が特定の相手から一定以上の魔力を受け取ると、魔力的な繋がりができます。そうなれば、その者との繋がりが保たれている限り、外でも生きられるようになります」


「一定以上の魔力って?」


「人族なら血を与えるのが一般的ですね。肉体ならどこにでも魔力はありますが、血が一番確実です」


 そういうものなのか……。

 そうだついでに詳しい飼い方が知っておきたいな。


「エサとかどうしたらいいの?」

「魔力を含む食べ物なら大概食べますよ」

「なるほど…」

「ええと、あとはそうですね主人の魔力を好みます。……肉体すべてに含まれていますので、概ね何でもいいんですが。髪や汗などにも含まれます。ただ、魔力量自体は少ないので契約には向きませんが。時々のご褒美とかにやるんだそうです。従魔は契約者の魔力を美味しく感じるそうですよ」

「美味しく感じるなら、私そのうち食べられちゃう?」


 ポチのほうを見ると、焦った雰囲気で首を横にぶんぶん振っていた。なんだか行動が人間じみてきたなぁ。なんだろう?言葉とかわかるようになってきてるの?


「十分意思が伝わる程度には既に契約者の魔力を与えられているようですね」


 なるほど。繋がり、ってそういうことか。

 渡した魔力の量は意思の伝達にも関わってくるのかな。


「まぁ、多分血だな。アルフレートの血なら少量でもかなり魔力含まれてそうだ」


 そうなのか。

 うーん。魔力を含んだ血液かー。あげたっけ?

 記憶を辿ってみる。


「あ…。いや、でも…うーん」

「ほらあの時のお前の鼻血?」


 そうだね。ぼたぼた垂らしてたもんね。

 きっとルドルフも驚いたよね。

 しかし腑に落ちない部分もある。


「でも鼻血噴くより前にもポチは私を助けてくれたんだよ」


 あの隙間にハマった時が私の最大のピンチでした。


「じゃ、その前になにした?」

「最初にあげたのは解体に失敗した霧兎の肉だったような気が…」

「アルフレート!それだ!前に霧兎の骨外そうとしてお前指切ってただろ!その時の霧兎やってないか?」

「………あぁ!」


 そうそう。あの頃しばらく傷口からの感染症が怖くて毎日自分に治癒魔法と解毒魔法掛けてたよ。


「わりと遭遇してすぐから私の従魔だったのか、ポチ…」


 また、べろん、と顔を舐められた。


「ねぇポチ、もしかして君、さっきから私の汗舐めてない?もしかして汗にも魔力含まれてる?」


 絶対そうでしょ。

 なに、滅相もありません、って顔をしているの?




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