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レコルナス祭、二日目。
今日はロザリンと祭りを回る日だ。
……なんか、妙に緊張するな。
あと、ちょっとだるい。
昨日の朝に覚悟しろと言われたとおり、昨夜はすっごいことをされてしまった。私、もうお婿に行けない。
疲れて寝落ちたはずなのに、今日が楽しみすぎて、寝過ごさずに起きられた。いつもより多少遅いくらいの時間で済んだよ。
とはいえ、ロザリンよりは遅かったようで、彼女は既に着替えていた。
人族の体力すごい…。
さて、私も着替えようか。
いつも可愛いロザリンだけど、今日はなんだかいつもより更に可愛い。これからデート、って感じがする。
今日は髪も少し丁寧に結い上げていて、それだけで妙に特別に見えた。
先日の髪飾りがよく似合ってアクセントになっている。
……この美女の隣に相応しい格好をしろというのか。私に。
今まで年齢イコール御一人様歴だった男に厳しくないか。
うーん……。
「ロザリン、私何着よう?」
一番駄目な質問だというのはわかってるよ。
朱里さんの配偶者、通称いっちゃんの駄目なところナンバーワンだったからね…!
でも仕方ないじゃないか…!
下着姿のままベッドから降りて、マジックバッグからちょっとそれっぽいよそ行き服をごっそり出してみる。
ベッドの上に並べてみたけど、自分じゃどうすればいいやら。
昨日お留守番、今日もお留守番予定のポチさんは抗議なのかただ寂しいだけなのか、私をべろんべろんと舐め回してる。ちょっと勘弁してほしい。
「…あなた、意外と衣装持ちね。白か黒がやたら多いけど」
「合わせやすいんだよ」
「そうやって全部同じ色になるのね。あなたって、人の服を選ぶのはセンスいいのに…」
仕事着すら白黒だからね…!
残念って思ってる気配がする。
あんまり着るものに興味なかったんだよ……!
「今日は、そうね……これ」
ロザリンが選んだのは、淡い灰色のシャツと濃紺の上衣だった。
「勧められて買ったけど着てないやつだ……」
「似合うと思うわよ?」
どちらもやたら店主に勧められて買ったものの、マジックバッグの肥やしになっていたものだ。
「……濃紺か」
「嫌?」
「嫌じゃないんだけど…。私の中ではかなり冒険してるなって」
「その程度で?」
「私、冒険しない冒険者なので」
言ったら笑われた。
でもロザリンが似合うと思ってくれてるなら、それでいい。
私はロザリン好みの私になりたい。
実際に着てみれば、思っていたよりずっと悪くなかった。
着心地もいい。腕回りの動きも邪魔しない。
…うん? かなり良いな。
どこの店で買ったんだったか…。
「うん。やっぱり似合うわ」
「そっか。じゃ、今日はこれで」
着替えを終え、ロザリンと一緒に階下へ向かう。
休日だからか、部屋を出た瞬間から彼女は私に腕を絡め、既にデート出発みたいな雰囲気を醸し出してる。
食堂はお客でいっぱい。
混んでるせいもあって食事の時ですら部屋から出してあげられないポチさんが不憫だが、仕方がない。
朝は基本的に宿泊客ばかりで、わざわざ朝食のためだけに来る人は少ないのだけど、今日は祭りだからか混んでるみたいだ。宿泊客自体も多いしね。
いつも座る席は空いていなかったので、入り口近くの席についた。
入り口をぼーっと見てると、今朝のお客さんはやっぱり商人さんが多い気がした。
銀麦亭の宿泊客の三分の二も商人さんなので、不思議ではないんだけど。
エルフが珍しいのか、結構見られてる感じはしてるけど、認識阻害まで使うほど気になるわけじゃない。
それに、今日はケイティも店を出しているし、テオとノアも居る。できればエルフも見慣れておいてくれたらいいな。
今も、商人っぽい金髪の青年が入店して、私を見てる。
結構イケメンなんだけど、なんかすっごくびっくりした顔をしてるね。
びっくりしたあと悲壮な顔になってロザリンのことも見てる。ロザリンは背を向けているので向こうから顔は見えないはずなんだが。
知り合いだろうか?
そのまま席に案内されて特にロザリンに話しかけてくるわけではなかったので、気のせい?
まあいい。朝食を食べてこれから出かけるのだし。
「さ、アル。出かけましょう?」
「うん。どこから行きたい?」
「それはもちろん、ケイティのとこよ」
ゾフィさんにウィンクされつつ銀麦亭を出発し、広場へ向かう。
ロザリンはいつもよりどこか跳ねるような歩調だった。
昨日の朝とは打って変わって、広場はずいぶんと混んでいた。
…うん。混んでるのはケイティの露店が原因みたいだね。
人の密度はあのへんが一番だ。
よくよく見れば、一応列っぽい感じになっていて、ライリーがその列を整理していた。
昨日はなかった『傷薬はお一人様二包まで』の札まで増えている。
テオとノアも手伝っているようだ。
テオはひたすら薬包の封をしていた。お金のやりとりはノアがやってるっぽい。
もう十四歳だし四則演算はできるので、まあ適材適所だろう。客はびっくりしているが。
ちっちゃい手でお金を数え、お釣りを返していた。
「めっちゃ忙しそう…」
「そうね…あまり無理に声をかけないほうがいいかしら」
「そうだね」
帰ろうとしたところでケイティに気づかれたようで呼び止められた。
「アリー! お兄ちゃん! 助けて! ロザリンさんもー!」
なんなんだ。
近づいてみたら、薬草の在庫はないかと聞かれた。
もちろんあるけども。
どれくらい必要かわからないので、ひとまず私が作るときの三ロット分くらい出してみた。
「ありがとう! 借りるね!?」
ロザリンは商品の手渡しやお客を捌く手伝いを、私は販売の手伝いをすることになった。
あれよあれよという間に巻き込まれたな。
「すみません! お待たせしてます! 今準備しますので、そのまま並んでお待ちください!」
ケイティが魔法で薬草を刻み始めると、列の客が一斉にそちらを向いた。
うん。わかる。
飴細工とか、串焼きを焼いてるとことか、つい見入っちゃうのと一緒だよね。
今気づいたけどコレ、ケイティの調合が目玉みたいになってるな。
空中で薬草が高速で切り刻まれ、細かくなり、ペースト状になっていく。
「おお……」
列のどこかから小さく声が上がった。
ペーストを練って、使用者の回復を願う魔法をかけると、徐々に魔力を帯びていき、透明に変わっていくのだ。
私はこの瞬間がちょっと好きだったりする。
「できたよっ! テオ兄お願い!!」
「おー」
出来上がったばかりの傷薬を入れたボウルを手渡されたテオは、それを決まった量ずつ手早く薬包で包み、封蝋で封印していった。
そして仕上がった薬包は出来た端からロザリンの前へ運ばれていく。
水筒の実演販売をしながら見てたけど、完全に流れ作業の工場ラインみたいになってる。家内制手工業だけど。
ケイティの話によると、どうやら今朝の販売準備のためにここに来たら、既に行列が出来ていたのだとか。
なお、ノアとテオは一般的なエルフなので、この祭りの人混みをフォレストウルフや魔法での補助もなく歩き続けるなんて体力もなく、昨日サラっと見ただけで満足してしまったらしい。
それでこのケイティの露店で広場の雰囲気を楽しむことにしたんだそうだ。
結局五ロット作ったところで一旦落ち着いたので、私たちはデートの続きを再開した。
「なんかびっくりしたね。次、どこ行こうか? この辺も面白そうな店が結構あったよ」
「そう? じゃあ見てみたいわ」
食器や布小物の露店を見て、ついつい匂いにつられて買ったベニエを食べながら、二人で歩いた。
「レコルナス祭って楽しいのね!」
よかった。
それを聞けただけで、昨日下見までして一緒に来た甲斐があった気がした。
「ねえアル。お腹空いてない?」
「うーん。確かにベニエだけじゃちょっと足りてないかな。そろそろ第一商業区のほうに行こうか?」
まだ祭りデートは始まったばかりだ。
今日は、たっぷり楽しもう。




