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さて、下見だ。
ロザリンも期待しているそうなので、できるだけ素敵なデートプランにしなければ。
ちょっとハードルの高さが上げられてしまった気がしなくもない……。
まずは今居る、ケイティの露店もある第二商業区の広場からだ。
周囲の露店では、高くはないがなかなかいい感じの意匠の手作りらしいアクセサリーを売っていたり、ちょっと美味そうな創作菓子を売っていたりした。
ケイティの店、
浮いてないよね?
客観的に見てみよう。そう思って振り返ってみた。
豹の獣人一人とエルフだらけの店、目立ち方半端ないな!
でっかい豹の獣人が奥に座り、その側に子どものエルフと成人男性エルフが居て、店先には成人女性エルフが店の商品をアピールしながら呼び込みをしている。
商品より目を引いてるな。
……まあ、客寄せにはなるだろうし、商品の傷薬の信頼性は増すだろう。
人が多くて視認性悪いのに、しっかり工夫して看板を上の方に掲げてあるおかげで、何の店かはよくわかるようになっていた。
ケイティの店は大丈夫そうだね。さて、次。
アクセサリー類はむしろ私の作ったやつをつけてもらいたいので、後回しだ。
綺麗な絵付けをされた食器類の店を見つけ、密かにテンションが上がる。
鮮やかな色で染められた帆布製の袋、というかバッグもある。
これから冬に向かうことを見越した、毛糸を編んだ帽子や手袋の店もあった。
あと、なんだかよくわからない置き物の店も。
愛嬌のある形状というのだろうか。要らないはずなのになぜか妙に心惹かれる。
……こういうのが一番危ないんだよね。
必要だから買うんじゃなくて、欲しくなったから買うやつ。
お祭気分で見ては危険なやつだ。
祭りで子どもがやたら光るおもちゃを欲しがる原理と同じだ。
第二商業区広場は雑貨を見るにはかなり良さそうだ。
明日はロザリンとゆっくり見ることにしよう。
「お姉さん、この皿十二枚ください。あ、包まなくていいよ。マジックバッグあるから」
「ありがとうございます! えーと、三千五百ロフにオマケしておきますね! 最初のお客さんなので!」
「わあ、ありがとう!」
祭りでの雑貨は出会い物なので、即買いしたが、あって困るものじゃないし。問題ない。
この人混みでは、流れによっては寄れない可能性もあるし。
次は第一商業区広場に行ってみよう。
例年、食べ物系は第一商業区広場が強い。
近づくにつれて、肉を焼く匂いと甘い菓子の匂いが混ざって漂ってきた。
呼び込みの声も威勢よく、第二商業区よりずっと大きい。
そして人も多い。
ちょっと立ち止まるだけで後ろから人が詰まってしまうくらいだ。
昨日までだって十分多かったのに、祭り当日はさらに一段増えてる気がするよ。
なんとなくなんだけど、グルメフェスみたいだと思った。
夏の名残か、今日は少し気温が高い。
毎年レコルナス祭の頃はよく晴れるし、秋にしては気温が上がる日が多いのだ。朝方や夜はさすがに冷えるけどね。
そんな日に、少し凍らせた果実水をクラッシュした冷たい飲み物がよく合う。
ベラォス味が売っていたのでつい買ってしまった。
とても美味しかったので、これはロザリンにもおすすめしたい。
「とっても美味しかったよ」
「ありがとうね!」
ガラス製の器を返し、いくらかの硬貨を受けとる。
商業ギルド発案らしく、飲み物の店はみんな同じ器を使っているのだけど、デポジット制になっているのだ。
食べ物の店の木皿も同様で、どこのお店に返してもいいルールになっている。
朱里さんの記憶にあるような使い捨ての容器は存在しないので、この仕組みは便利だと思った。
ふいに甘芋の蜜煮の匂いがして、つい匂いのもとを探す。
この目立つ看板の店は去年も出店していたような…。
そのときは長い行列になっていて買えなかったので、ここぞとばかりにまとめて購入。
後日食べるぶんも含めて。
器を返せなくなってしまうのもアレなので、マジックバッグから出した皿に入れてもらった。
私は出先で作り置きを食べるため、鍋や食器類の手持ちが多いのだ。
あと目を引いたのは色とりどりのキャンディの店。
大きなガラス瓶の中に丸いキャンディが入れられたものがいくつも並んでる。
中央商業区向けっぽい商品だけど、祭りなら財布の紐も緩むものだし、普段とは違う客に知ってもらう狙いもあるのかな。
これは綺麗なのでロザリンと来たい。
…どれも美味しそうなので、今日は全色五個ずつ買った。
中央商業区は例年、輸入品を扱う店が多数で、販売品目的には普段の中央商業区と大差ない。
見れば楽しいけど、祭りの下見として行くほどじゃないので、省略しよう。
あとは第三商業区。
第三商業区にも一応広場がある。
入り口側の第二商業区寄りなのだけど、そこもいろいろな催しや露店などがあったりする。
…大人向けの娯楽と嗜好品関連なんだけどさ。
下見というより個人的にちょっと行きたいだけだ。
さすがに明日は行き難い地区だ。
煙草は全く興味ないけど、酒は見たいし買いたい。
ちょっと珍しい酒とか掘り出し物も売ってたりするので、外せない。
賭けごとというほどでもないゲームなどもあったりする。
獣人の女性とアームレスリングをして、勝ったら賞金が得られる、とか。
女性で多少華奢に見えても獣人なんだから力は強いに決まってるのに、つい腕試しと挑戦してしまう男のなんと多いことか。
獣人のお姉さんが露出度高い服を着ているのもわざとだろう。
体勢によって胸がムギュッと寄ったり、際どい衣装から溢れそうになるたびに周囲から歓声が上がる。
ほんとにしょうもないな…。…うん。
今年の私にはロザリンが居るので、そんなことで惑わされたりはしないが。
ゲームに興じる人々を横目に、嗜好品の販売ブースへ。
ここで扱う酒は中央商業区にあるようなお高い酒ではなく、安いけどちょっと美味い酒だ。
好きな銘柄があったので二本ほど買っておいた。
この地区ならではだろうか?
ちょっと怪しいお店とかいろいろあって、面白い。ひやかしがてら眺めて回る。
ふむ。『惚れ薬』か。ただの興奮剤だな。
あとは、『アソコのサイズが成長する薬』と。
そんなもので大きくなるなら苦労はしない。
でも意味が違ってバイ〇グラ的なものだったら危ないな。そんなもん売って大丈夫なのか。
……さて。銀麦亭に戻ろうかな。
下見という目的は途中からだいぶ怪しかった気がしないでもなかったけど、明日の候補は十分見つかった。
*
「やあ。今日も来たよ」
「いらっしゃいませ」
親しげに話しかけてくるのは、王都から来た商人だという金髪碧眼の若い男性。
泊まり客ではなく、お食事で毎食銀麦亭に立ち寄られる方。
最初は銀麦亭に連泊されている大店の店主のお連れ様だったのだけど…。
三日前から食べるより私に話しかける時間が増えてきた。
「ここはいい店だね。君という美しい花が咲いているから」
アルじゃまず似合わない、そもそも出てこない気障な台詞だけど、この金髪碧眼の優男には似合ってるように思えた。
確かに、顔は整っている。
人族としては。
最近ようやく間近で見るのに慣れてきたあの美形には程遠いのだけど。
「ご注文が決まりましたらお声がけください」
「僕は君が欲しいな。今日も素敵だね。君の前ではどんな宝石も色褪せてしまうよ」
アルも一度くらいこんなことを言ってくれてもいいのに。
言ってくれたのがアルだったらと考えると、なんだか気恥ずかしく思った。想像したら顔が熱いわ。
「婚約者がおりますので」
「ふふ。王都じゃ断るために中古の契り飾りをつけるのも流行ってるんだよ?」
「中古ではありませんので」
アルの魔力が込められた青い魔力結晶が、指輪の中できらきらと仄かな光を放っている。
私が指につけている契り飾りはアルが作った指輪だけど、多分買ったら恐ろしい額よね。
普通なら他人の契り飾りでもなければ庶民には買えないほどの。それで勘違いされたのかしら。
「ご注文はお決まりですか?」
注文を促してそっと屈む。
案の定、男の視線が胸元へ落ちた。
私が屈まなければ見えない位置にあるそれにも気づいたようで、男は目を泳がせた。
「……あー」
「ご注文は?」
「……おすすめを、お願いします」
「はい。ありがとうございます」
わざわざアルに付けてもらった印は、とても良い仕事をしてくれた。




