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泊める場所も確保し、ちょっと一安心したアルフレートです。
急に来ると受け入れ側も大変なので勘弁してほしい。
ケイティよりマシだったけど。
テオなら、人族の街でやっちゃ拙いようなことはしないだろうという安心感はある。
「テオとノア、このあとどうするの?」
一息ついたら気になった。
まだ昼下がりといった時間だし。
「特に考えてねえかな。そういえばケイティどうしてる? 親父から見てこいって頼まれてんだよ」
置いとけば何かしら使うだろうと思って出しておいた椅子に腰掛け、テオが聞いてきた。
「ケイティは広場のほうで祭りで出す露店の準備してるよ」
「なあアリー、祭りって何する行事だ?」
うっぷす。
そうでした。
ケイティへ説明したときに見せた記録用魔術具を手渡し、映像を見せてみた。
「へー。こういうことか。ノアの話だといまいちわからなくてな」
たどたどしい語彙で一生懸命説明したんだろうな。
それでも実際連れてきてもらえてるあたり、ディベートとネゴシエーション能力は、そこそこ高いんじゃないだろうか。
少なくともケイティより優れてたりして?
「ぼくも見る! 見せて!」
ノアの背丈じゃテオの手元は見難かろうと抱き上げてやると、ノアはじっと魔術具を覗き込んでいた。
「夕食は銀麦亭で食べるよね? それまで街を見て回る?」
「それもいいな。ケイティも気になるし」
「お姉ちゃん? どこ?」
ケイティの話題に敏感に反応してる。
生まれたときからずっといたのが離れてると、やっぱり寂しいのかな。
「行ってみる?」
「うんっ!」
たしかケイティに割り当てられた露店予定地は、第二商業区にある広場の端のほうだったか。
端っことはいえ広場自体は銀麦亭からも近いし、そこそこ人も集まる場所だ。
当日閑古鳥ということもないだろう。
ノアもだいぶ疲れていたので、フォレストウルフに乗せて行くことになった。
テオに目配せすると、テオは苦笑し頷いた。
私たちの予想通り、途中からノアはこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。
身体は幼児だから仕方がないよね…。
落ちないように魔法で支えながら、広場まで歩く。
程なく、見慣れた薄藤色が見えてきた。
作業が楽しいのか、元気にぴょこぴょこ動いてる。
ノアは完全に眠ってしまったのが残念だけど。
ケイティはああでもないこうでもない、と木箱を移動したり、台の高さを変えてみたりと余念がないみたいだ。
「ケイティ!」
声をかけると、ケイティもすぐ気づいたようだった。
「アリー! なんでテオ兄とノアまで居るの!?」
「俺はノアがうるせーから連れてきただけだぜ?」
うっかり私が口を滑らせたせいだな。
ノアの行動力までは知らなかったし。
「あっ。ノア寝ちゃってるのね」
「家からずっと、はしゃぎっぱなしだったからな」
テオが言うには、前日までに両親の許可自体は取り付けていたらしい。そのうえで早朝からテオを叩き起こし、泣き落とし、ここまでやってきたのだそうだ。
なんだか目に浮かぶよ!
「で、これがお前の店?」
「そうよ! まだ並べ方決めてる途中だけど」
「かなりいいじゃん」
商品以外は今日のうちに並べておき、明日の朝、商品だけをならべるのだそうだ。
どうやら近隣の区画の人たちが親切に教えてくれたらしい。
ほう。近隣のお兄さん方が。
まあ当日はライリーが居るから大丈夫だろう。
「ケイティ、どういう機能があって、どんな効果があるのかを分かりやすく描いた紙なんかも用意しておくと便利だよ」
店内POPは重要だ。
「あと、小さな見本とかね。コップ一杯ぶんの水が出るように調整してさ」
POPと同じで、視覚に訴えるものは効くと思うんだよね。
いちいち十五リットルも出して説明なんて何度もしていられないし。
「それいいじゃん!」
そう言うなりケイティは帳面を取り出し、何かを書き付けていた。
ネタ帳みたいなものか。
真剣にPOP案を練りはじめたようなので、邪魔をしないよう、私たちはその場を離れた。
「テオ、あとはどうする?」
「アリーが普段行動してるあたりが見てえかな」
私の行動範囲…?
…ギルドはさっき行ったし、銀麦亭行ったし……。
あれ?思い返すと私ってさほど行動範囲広くない…?
「ごめん、全然思いつかないよ!」
ケイティの店を離れて、どこへ行くべきか考えながら少し歩いたところで、見覚えのある冒険者たちが目に入った。
大きな荷物を抱えて、何やら困った、というより途方に暮れた顔をしている。
「おー。先日ぶり。どうしたの?」
先日の講習参加者の新人くんだ。
努めて明るい口調で話しかけてみる。
「や、宿が、見つからなくてっ…今朝も普通に出たんです。でも戻ってきたら、もう空きがないって……」
「予約とか、連泊分の支払いは?」
「そこまで金がなくて……。最近、飯も高くなってるし、門も混んでて仕事できる時間が減ってて……」
あー……。
食費が上がって、門待ちで稼働時間も減って、それが全部じわじわと効いてきちゃったのか。
宿屋としては、支払いがない場合、部屋は空いている扱いになる。そこへ別の客が来てしまったら断ることも難しいだろうな…。
「よし、困ったときの曲がり煙突だ! あそこなら観光客はまず選ばない!」
レコルナス一番のクセ強宿屋、曲がり煙突へ連れて行くと、「満室だが空きはある」という謎の返事をもらった。
案の定、泊まれはするらしい。
「なんだそれ…」
テオも不思議そうに小首をかしげている。
私もそうしたい気分だよ。
「大丈夫だ。寄せればまだいける!」
何をだ。
やっぱり曲がり煙突は本当に曲がり煙突だな。
「え? 泊まれるんですか…? どこも混んでて無理って…」
「おう! 大丈夫だぜ! メシはもう食ったか?」
安心したのか今にも泣き出しそうな声の新人に対し、曲がり煙突民はもう既に適度な雑さで対応し始めてる。
ここはもう任せて大丈夫そうだな。
なんだか私には馴染めないけど、曲がり煙突は良い宿なんだろうと思うよ。
「なあ、アリー。いつもこんなことしてんの?」
「いつもってわけじゃないよ。困ってたけどどうにかなりそうだったからだよ。私じゃ手出しできない困りごとだってあるし」
むしろ私じゃどうにもならないことのほうが多いしね。
「そっか」
テオに静かに微笑まれると、つい身構えちゃうよ。
みんなで食べてくれとファングボアの肉を押し付けて、曲がり煙突を出ると、空はもう少しずつ夕方の色に変わり始めていた。
秋って、夕方の空が綺麗だよね。
祭り当日の明日も、よく晴れそうだな。
フォレストウルフの背では、ノアが相変わらず気持ちよさそうに眠っている。
「そろそろ銀麦亭戻る?」
「そうだな。腹減ったし」
遅い昼飯でカツサンド食べたきりだもんね。
私もそれなりにお腹は空いているし。
銀麦亭までの道程で眺めた祭り前日の街は、昼よりもさらに騒がしくなっていた。
あちこちで明日の準備をする声が飛び交い、食べ物の匂いも混ざってくる。
なんだかんだ、明日は楽しみだな。
テオと並んで歩きながら、そんなことを思った。




