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人間のまち


「おおーい、人間たちには気を付けろよー!! おまえさんは妖精なんだからなー!!」


 グランディスが飛んでいくリアムに向かって叫んだが、その耳には届かなかった。



 リアムの視線は真っ直ぐ人間たちの住む街へ向けられている。

 シリシアンが人を襲う前に間に合いたい、と全力で翅を動かしている。


 シリシアンの城が遠ざかりどんどん小さくなって行くが、リアムは後ろを振り返ることはなく、ひたすら飛行を続けた。



 人の住む地域は、魔物たちが居住する高台の裾野にあり、その背後は連立する岩山が壁のように立つ、その間の僅かばかりの平地だった。


 人々はその狭い平地で作物を育て、家畜を育てるなどして暮らしている。


 その全てはこのダークホラーファンタジー王国の頂点、魔王の城へと運ばれ財物となったり国庫に貯蓄されたりしている。


 そこから支配下にいる魔物たちへ、貨幣または妖力と引き換えて分配される。


 つまり、この国で人が生かされているのは、この国の魔物たちが程好く快適に過ごすために必要だからだった。

 人々は労働力であったり、魔物の慰めものであったり、ときには生け贄であったりするのだが、とうの人々は魔王の魔法によって洗脳されているから、不平不満を言うことも、逃亡することもない。


 それどころか魔王様のために働ける喜びに日々感謝し、盛大な祭りを行い生け贄を捧げていた。


 リアムが生まれ育った、いや労働していたファンタジー王国では、人々とは対等であり、どちらの存在も尊重しあうようなそんな絶妙なバランスでなりたっていた。


 リアムの眼下に月明かりのもと、青々とした麦の畑が見えてくる。


 シリシアンはどこへ向かっただろうか。


 麦畑を過ぎ、黒い陰影となる川を越え、いくつかの風車を見ながら、シリシアンを探した。


 夜の冷たい風に煙る火の匂いが混ざっていた。


 深夜を過ぎて、もうあと数時間で夜が明ける頃になっていた。


 リアムは牧場の大きな納屋のそばに下りた。


 囲いのなかで羊達が眠っている。暖かそうな毛に包まれ時々寝言のように短く鳴いた。


 リアムは柵のそばにいた羊の背に手を伸ばし、その厚みのある羊毛に触れてみた。


 羊毛は毛糸やフェルト、また敷物など様々な用途として使える。


 その材料のどれも見たことがあるが、こうやって羊そのものに触れるのは、リアムにとっては初めてのことだった。


 表面は絡まって固まっているけれど、指を差し込むとふわふわで柔らかく暖かだった。


「ぅぅワンっ!!!」


 その突然の声にリアムは驚いて振り返る。


 立ち上がればリアムの身長をゆうに越えるだろうという大きな黒犬がリアムを見据えていた。


「ウウウウ、ワンワンワン!!!」


 背後からも犬の声がした。

 やはり同じくらいの大きさの黒犬がリアムめがけて走ってくる。


 リアムは突然の強襲に体が固まり動けなくなった。

 すぐに飛び立てば良かったが、竦みあがり翅が動かない。


「なんだ、どうした!!」


 納屋の隣にある土壁の家から、斧を持った男が出てきた。


 男は手に持ったランプでリアムを照らした。


「こりゃ珍しい」


 犬はリアムのまわりで吠え続け、主人の次の命令を待っている。


「妖精か?」



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