永遠の命
「ねぇ、すごく変な話なんだけど、例えば、あ、えっと、と、友達の話でさ」
「んん? 友達、の話?」
グランディスはあたふたと視線の定まらないリアムをじっと見た。
「変な魔法を意図せずに、ほんとに、なにも知らなくて、偶然にかけてしまったとしたら、それを解くことは出来ると思う?」
「変な魔法を意図せずにかける……そんなことが出来るかな。いったいどんな魔法だ?」
「えっと、『死』を遠ざける、ような、そういう願い的な。……あれは願いで、ただ、そうなったらいいなぁ、ていうそういう軽いやつで……」
「つまり、シリシアン様に永遠に生きる、『不死の魔法』をかけたって?」
「うん、たぶん。あれは、ただの言葉のあやってやつだったけど。言葉と願いと妖力があれば、それは魔法だろう? 魔法になっちゃうじゃんか!」
リアムは頭を抱えあちこち歩き回った。
グランディスはそんな様子のおかしいリアムを見て、グゥっと喉を鳴らした。
「リアム……魔法はとても奥が深くてね、魔法使いだって、そりゃ時々間違えることもあったりするんだ。あまり気にしなさんな。失敗することは誰にでもある。シリシアン様にかけた、否かけたかもしれない『不死の魔法』はそんなに意味がないだろう?」
リアムはふと動くのをやめ直立すると、冷静な眼差しをグランディスへ向けた。
「グランディス、これは友達の話なんだ」
「……ああ。そうそう、君の友達の話だったね」
リアムは真顔で大きく頷く。
「意味がない魔法ってどういうこと?」
「それは……そもそも、ヴァンパイア族は不死だから、そこにまた、妖力の弱い魔法をかけたところでなんの影響もないだろうってことだよ」
「全然違うんだって!!」
リアムは大きな声で叫ぶと、グランディスの頭からシルクハットを奪った。
「お?! やぁ。わたしの帽子をかえせ」
リアムはグランディスのハットを胸に抱いて真剣な面持ちで言った。
「ほら、ハットを被ったグランディスとハットを被っていないグランディスとじゃ、全然見え方が違うじゃないか!!」
グランディスは大きな口を左右に引きムッとした表情になる。
グランディスの頭の上で白いレースのリボンが揺れている。少ないフワフワの毛をリボンでひとつに束ねているのだ。
ハットの下にリボンがあるとはリアムも予想していなかった、が。
「シリシアンが永遠の命でも、魔女の呪いで死ぬかもしれなくて、だからまた永遠の命の魔法をかけて、それで、えっと。そのせいで、本人の意思とは関係なく成人の儀式が行われるとしたら、そこで老いがとまるわけで、やっぱり意思とは関係ないから、本人が傷つくというか」
「老いは……若いうちにとまった方がいいだろう? 」
グランディスは短い両手をのばして、リアムの腕からハットを奪い返した。
「違うじゃん!!」
「わからない子だなぁ、なにが駄目だって言うんだ」
ハットを取り戻し再び頭の上に戻したグランディスは、満足そうに笑った。
そしてすぐキリリとした顔になおってリアムを見た。
「だから、シリシアンは誰かを殺したくはないんだってば!!」
ひまわりの妖精の件で、シリシアンは自分を縛ったんだ。二度とそんな悲しいことが起こらないように。
棺に入って鍵を何重にも巻いて、自分が寝ている間に、無意識に棺から出てしまわないように。
また、誰かの命を奪わないために。
「……それなのに、自分みたいなやつの、下手くそな魔法のせいで、それが解かれちまった」
「老いたヴァンパイアか……そんな方は今まで見たことがない。シリシアン様は美しいから、このままの姿でいらっしゃったら、皆喜ばしいだろう。それに、いにしえの昔からヴァンパイアは人を襲うもの。善悪の問題ではなく、それが理だよ」
「そりゃ、そうさ、自分もそう思うよ!! いにしえからの伝統で代々みんなそうしてる……それにのっからない方がおかしいんだ」
シリシアンはおかしい、変なヴァンパイアなんだ。
リアムは悔しさともどかしさから思わず地団駄を踏む。ドンドン、と地面を踏みつけた。
「だけど、望んでないんだ。だから……止めなきゃ」
ふわり、とリアムは飛んだ。
地面を蹴り、その勢いのまま、空を上る。
「おーい、何処へいくんだって?!」
ひまわり畑の傍らでグランディスが叫んでいたが、リアムの耳にはもう届かなかった。




