妖精の血と肉?!
「おまえたち、静かに」
男の号令で犬たちは吠えるのを止めた。
リアムは助かったと胸を撫で下ろす。
「怪しい者じゃありません。泥棒とかそんなんじゃなくて」
リアムは、へへへ、と愛想笑いをして男にちょいと頭を下げてみせた。
泥棒が自ら『そうです。私は泥棒です。えへん』などと胸を張って言う場面があるかどうかは知らないが、泥棒じゃないです、と言われるとかえって疑われるのが世の常だろう。
「なぜここに? ひとりか?」
「あ、ま、今はひとりなんですけど。実は自分、主様を探していまして。もしや見かけたりしていませんかね? 背の高さはこれくらいで、大きなコウモリみたいで、捻れた角がふたつ、この辺りから」
と、リアムは自分の額のあたりに指角をつくって見せた。
「捻れた角だって?」
「ああ、はい。ぐるんぐるんて感じで、毛むくじゃらの……化物です!」
相変わらず自分の主を化物呼ばわりするリアムであった。
「今はひとりというわけか」
「ええ、まぁ。そうですね。本当はもっと人手が欲しいところなんですけど」
「そうか、こんな夜更けに応援もなく、ひとりで、主を探さなくちゃならないなんて。そりゃ大変だ」
男は、にこっと口角をあげると、リアムへと近寄ってきた。
「そうなんですよ、どこを探せばいいのか、まったく見当もつかないし、わからなくて……」
リアムがにこっと愛想笑いを返したところで、男の手が伸びてきた。
そしてまるで鶏の首でも持つようにリアムの首を掴んだ。
「!!」
リアムは不意をつかれ、逃げる間が無かった。
「やっと俺にも運が向いてきたな」
男はそう言って笑う。
そして両手に力をこめ、リアムの首を力一杯締めあげた。
「!!」
リアムは男の手をほどこうと爪を立て、翅をバタつかせる。
リアムの身体が浮かび、男の両手はリアムの首を掴んだまま伸びる。
しかし男はリアムより大きく力があった。
リアムを引っ張り、自分の体重をかけ地面へ引きづり下ろした。
リアムを柵の板に押し付け翅を押さえた。
そんなふうに背を押しつけられては、翅を動かし飛んで逃げることが出来ない。
リアムの目の前には、恐ろしい形相をした人間の顔があった。
何故だ、なぜこの男が自分の首を締めているんだ?
リアムは突然やってきた死の予感に恐怖した。
「これで俺が、家族が、生きられる!! 妖精の血と肉を売って!!」
は?? なにを言ってるんだコイツは? なんのことだ、リアムには理解できない。妖精の血と肉って、誰がそんなものを欲しがるってんだ??
リアムは大きく見開いた男の血走った目を見た。
殺られる……。
この男は絶対にこの手を離さないだろう。
なら、自分だって必死に抵抗しなければだめだ。
シリシアンを見つけて連れ戻さなくちゃならないんだから。
それも朝までに。うっかり羊毛なんかに気を取られていたから、こんなことになったんだな。
リアムは男の手首を掴むと、短い呪文を心のなかで唱えた。
「草、はえ、ろ!!」
リアムが呪文を言い終えると、男の足元からするすると雑草が伸びてきた。
伸びた雑草は仁王立ちをした男の左右の足に絡まって、やがてその両足をひとつの所へ引きよせた。
両足が急に縛られたために男はバランスを欠き仰向けに倒れた。
男の手が離れたその隙に、リアムは急いで羽ばたき空へと逃げたのだった。




