シリシアンのお仕事②
建物内のエントランスは吹き抜けのホールになっていて、カラフルなステンドグラスが嵌め込まれている。
高い天井の中心から下がるシャンデリアは白い炎を放っていた。
そのひとつひとつが丸い目玉である。
沢山の燃える目玉が好き勝手に瞬きをするから、チラリチラリと明かりが不規則に揺れていた。
「シリシアン様、今宵は満月ですから、犬狼属はお休みでございます」
コートと帽子を預かる銀色狐のクローク係りがシリシアンへ告げる。
「うん、こちらはリアム」
「良い月夜で。リアム様」
「ども」
リアムは軽く頷き、ここでは「良い月夜で」っていうのが挨拶なのかな、変なの、と思う。
なので同じように真似て返すことはしない。
「……リアム様のお席もご用意致しますか」
執事の格好をしたリアムをクローク係りは、単なる付き人か送迎のお供、ぐらいに思っていたようだ。
当然だが。
「もちろん」
そう答えたシリシアンに、クローク係りの耳がピンと立った。
表情は変えないが、確実に驚いているのがその耳の動きで知れる。
「……畏まりました。お部屋に机をもうひとつご用意致しましょう」
机? 何のために。
時間的に身体が沈むようなふわふわの寝台だろう。
時はもう真夜中、良い子はもう寝る時間なんだからな。まさかシリシアン、ここまでわざわざ自分を連れて来たのは、仕事を手伝わせるつもりだったからか?
「そうだね、だけど……」
シリシアンはそこでリアムの顔を見つめ微笑んだ。
「やっぱり、いらないかもしれない。部屋にはいないと思う」
「?」
リアムは自分を見て意味ありげに微笑むシリシアンをきっと睨んだ。
また、自分だけ楽しんでいる。リアムは馬鹿にされたようで気分が悪かった。
睨まれたシリシアンは、途端にシュンと小さくなり、慌ててクローク係りの顔に視線を移した。
「お茶とお菓子を頼みます。ジャミロさん」
シリシアンはクローク係へ軽く頭を下げると、真っ直ぐ前を見て歩き始めた。
「仰せの通りに」
リアムもシリシアンの後について歩く。
名前のあるクローク係か。
リアムは横目でチラリと彼を見やりながら過ぎた。
二人は巨大な二枚扉の前に立つ。
扉は吹き抜けの遥か上の天井にまで届いている。
ぽかんと扉の上部を見上げていたリアムは、すぐ我にかえる。
この扉は絶対に開かない。
また、巨人属用のなんとか、そういう類いのただの飾りに違いないね。
リアムは近くに出入り用の扉がきっとあるはずだ、と左右の白壁を交互に見ている。
ギギギ……。
残念ながら、リアムの予想は当たらなかった。
天井まである巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。
「わぁ……」
驚いたリアムの口から声が漏れる。
扉の向こう側にもまた巨大な空間が広がっていた。
まず目に飛び込んでくるのは、大勢の妖精たちの姿だ。広い空間に飛び交う妖精たちの翅が金色に発光し、流れ星のような残光の筋を無数に作っている。
次に床から天井まで伸びる何本もの太い円柱。
円柱の側面は全て棚になっていて、そこには黒い背表紙の書物がぎっしりと詰まっていた。
妖精たちはその棚に黒い本をせっせと納めているようだ。
シリシアンは慣れた足取りでその中を進んでいく。
リアムは頭上を飛び交う妖精たちを見上げながら歩いた。
……(; ° ロ°)なんだここは!!




