シリシアンのお仕事③
うわぁ、すげぇ、なんだこれ!
「リアム」
シリシアンが、頭上を見上げたまま動かないリアムを呼んだ。
普通なら声の届く距離であったが、飛び交う妖精たちの光跡を目で追うのに忙しかったリアムはその声に気付かなかった。
それは一瞬のこと。
シリシアンがリアムの手を取って、自分の胸にその身体を引き寄せた。
急に腕を引かれたリアムは驚き困惑する。
気付けば、シリシアンの胸に頬をつけ、何故かすっぽりとおさまっているじゃないか。
背中にシリシアンの手のひらと温もりを同時に感じる。
「は、え?」
何がなにやら分からないリアムはシリシアンの顔を見上げた。
シリシアンとリアムの側を蜘蛛の行列が過ぎていく。
「良い月夜で!!」
「良い月夜で!!」
蜘蛛たちは口々にそう言って、シリシアンとリアムのすぐ側を通りすぎていった。
音もなく背後からやってきた無数の蜘蛛達にリアムは気付かなかった。
そのため、シリシアンが自分の手を引き、蜘蛛たちに道をあけたのか、と、そこでやっと事の次第をリアムは飲み込んだ。
「ここの書物は蜘蛛たちの糸で出来ているんだ。彼らの糸は丈夫で何百年経っても変化しないからね」
シリシアンの胸から響いてくる声を、耳と頬で心地良く聞いていたリアムは、ハッと我にかえる。
そして、何より繋がれたままの左手に視線をやり、度肝を抜く。
シリシアンはクロークで手袋を外していたから、だからそれは素手だった。
長く綺麗な指が自分の不恰好な指に絡んでいる。
ぬくもりが指を伝い、リアムの心臓を揺さぶる。
いや、正確にいえば妖精に心臓はないので、もっと別のなにか、どこか、である。
ご主人様はなんて、温かいのだろう……。
身体に血を持った種族、植物由来の自分とは根本から、文字通り根から違うんだ、と思い知る。
「は、にょ、あ」
そして、これが本日2度目の抱擁だった。
妖精生でも2度目ということになる。
「あ、ごめん。彼らは時々、そこらのものを食べるから」
「?!」
シリシアンは、リアムから手を外してそっと離れる。
「怒らないでね」
ブスッとしているリアムを見て、シリシアンは不安そうに困った顔をする。
「……怒ってなんか、いませんよ。あ、り……がと……ます」
リアムは行儀良くペコリと頭を下げ、下を向きながらゴニョゴニョとお礼を言った。
おおよそ、たぶん、妖精生で初めて、ありがとう、と感謝を言葉にした瞬間だった。
シリシアンは、どういたしまして、と言って微笑みリアムを見た。
まるで、初めて褒められた仔犬のような、純真無垢な喜びに満ちた瞳で。
「く、蜘蛛は、よ、妖精もく、喰らうのか?!」
リアムはそっぽを向き、わざとなんでもないように見せるが、口から出てくる言葉は上ずっていた。
('∇')/ !!!! {ク、クモ、か...}




