グランディスの馬車
「馬車が来たようだよ、リアム」
シリシアンの視線の先を追うと、ひまわりの間にある坂道を二頭立ての馬車が上って来てくるのが見えた。
「ここから何処かへ?」
「ねぇ、リアム」
シリシアンはリアムを真剣な表情で見下ろし、やれやれと苦笑する。
「君は、僕がいつも、夜な夜な散歩や遊行で出歩いている、と思っていたのかな?」
え、そうじゃないのか?
だって、ボンじゃん。
何をしているのかは知らないし、正直別段特に興味もなく、それについて考えたこともないリアムだった。
「そう思っていた、って顔してる」
「他人のことはあれこれと詮索しない主義なんで」
二人の前に箱型のタウンコーチが止まった。黒い車体は艶々に磨かれていて月光を受け輝いている。
蛙の頭をした御者が、ピョコ、たんっ、と御者台から降りて来て、深々とお辞儀をする。
「今宵は素晴らしく良い月夜でございますね」
御者は、頭を下げたまま、額の横から付き出した金色の目玉をぐるりと回してリアムを見た。
「ありがとう、グランディス。今夜はリアムを職場へ案内しようと思って」
「ほほう、噂の……」
灰と黒色のツートンストライプのコートを着た御者は、頭の上の小さなシルクハットの端をつまみ、リアムにも軽く会釈をする。
「さぁ、足元に気をつけて」
グランディスは、紋章のついた扉を開き、地面に小さな台を置いた。
紋章はシリシアンの棺にあしらわれているものと同じ、蝙蝠と髑髏だ。
リアムは促されるまま、台を踏んで乗り込む。
シリシアンもその後に続く。
「それでは出発致します」
グランディスが扉を閉めると、間もなく馬車は走り出した。
「わ、わ、すごい!!」
リアムは窓を飾る朱色のカーテンを開き外を見る。
自分の足や羽を使わずとも移動が出来るなんて!
初めて馬車を体験したリアムはそれはもうハイテンションである。
窓の外を流れていく景色は向日葵から、白樺の林になり、やがて石畳が続く街並みへと変わっていく。
馬車が止まり、グランディスが扉を開ける。
シリシアンが先に降り、手を差し出し待っていたのだが、リアムは目前に聳え立つ建物に、すっかり目を奪われていたから、彼の手にはまったく気づかない。
シリシアンは差し出した手を気まずそうにひっこめ、後ろ手に組んだ。
「山みたいだ」
リアムは口をあんぐり開け、その円錐の連なる屋根を見上げる。
屋根は槍のように尖り、夜空に刺さっているのではないかと思う程高い。
リアムが育ち働いていた城下街では、こんな立派で背の高い建物を見ることはなかった。
そういえば、この国がどんなところかなんて、全然知らないや。
いったいここはなんだろう。
シリシアンは自分を職場へ連れて行くと言っていたっけ。
そんなことを考えていたら、シリシアンの姿を見失ったことに気付いた。
え、え、あいつ、どこに行きやがった?
ま、まさか捨てられたのか?
首か??
さすがに高級シルクを塵紙代わりにしたのがまずかったのか??
それとも、あれをくすねていることがバレたのか?
「リアム、おいで」
※※※(*_*)彡☆なんかいろいろすげぇ




