腕のなかの温もり
「ガァ、ガァラララ」
丸屋根の上でカラスが鳴いた。
シリシアンは、ふぅと小さく息を吐き笑った。
「やっぱり、リアムは面白いな」
「おもしろい、ですか?」
面白いことなど言ったつもりはない。
何も言っちゃいない。
おおよそ、他人の事など無関心なリアムが普段は考えもしないような、決して言わないような、むしろそれは極々まともな発言だった。
「いや、うん。ありがとうリアム、心配してくれて」
心配? だと?
何処まで甘っちょろい、ボンボンなんだ。
ちゃんと元気に長生きしてもらわなきゃ、少なくとも自分が生きている間はな。
もう腹を空かせたり、食いぶちの心配なんかをするのはごめんだからだ。
ただそれだけだ。
誰が自分以外の心配なんかするもんか。
みんな、自分のことしか考えてないんだぜ。
自分の幸せのためなら、なんだってするんだ。
嘘だって息を吐くようにつくもんさ。
「僕は誰の血も飲みたくないんだ」
なのに、どうして、この人は、いやヴァンパイアは!!
「そんなことを言って、いざ老化や死が目の前にやってきたら」
シリシアンはリアムの言葉を遮るように首を横にふった。
「僕は早く死にたいのかもしれない」
どうして、そんな。
バカ素直に自分の弱さを見せたり吐き出したりするんだよ!
「……そんなこと……言わないでください」
リアムの咽につまっていた塊がストンと口から抜けた。
「え?」
リアムは拳をぎゅっと握りしめ、シリシアンを真っ直ぐ見上げ睨む。
「ダメですそんなのは。……せめて、私が死ぬまでは生きていてくれないと!自分はどのくらい生きるか知らないですけど、自分がいなくなって、それから、この向日葵の隣に露草をたくさん植えて、露草は強いからきっと向日葵を侵蝕するだろうけど、それを見て腹立たしかったら、昔こんなヤツいたなって時々思い出すし、でも、思い出す思い出が少ないから、すぐに忘れるはずだし……露草は油にもならないし、役に立たないから」
シリシアンは肩を震わせ泣くリアムの頭を撫で、そして小さな子供をあやすように抱いた。
「そしたら……もう、花は植えないですむから」
ぐすん。
ズビズビ。
「うん。わかったよ、リアム」
ぐずん、ズズズ。
悔しくて泣いたことはあった。
ミシンで指を縫って痛みで泣いたことも。
だけど、これはどういう涙なんだろう。
シリシアンの腕の中は、ヴァンパイアの癖に温かく包容力に溢れていた。
そのせいか、リアムは発作のような嗚咽を抑える事が出来ない。
「大丈夫、泣かないで」
シリシアンの温かな手がリアムの背中をさすった。
リアムはシリシアンの胸を押し、その腕から抜ける。
フンっ、ズズズ。
リアムはシリシアンの胸ポケットから、シルクの黒スカーフを抜き取り、それで鼻をかんだ。
「泣いてましぇん」
「え」
「たぶん、向日葵アレルギーによる、過呼吸でしゅ」
「……あ、そうなの?」
「これ、貰いましゅね」
「……うん」
リアムは鼻をかんだスカーフをぐしゃぐしゃと丸めポケットに突っ込んだ。
※※(T^T)…~*"₩ 泣いてなんかねぇし




