夜の丘
シリシアンは苔むした墓石の間を歩く。リアムは墓石に刻まれた文字をひとつひとつ眺めながら彼の後をついていった。
リアムには墓主の名前も捧げられている詞も読むことは出来なかったが、デザインの一部に刻まれているモチーフに興味を覚えた。
花束や小鳥、星空に音符に楽器、様々なものが描かれている。
やがて道は緩やかな上り坂になり、行き着くだろう場所には白いガゼボが立っていた。
六本の支柱に支えられた半球の屋根の上には大きなカラスがとまっている。
シリシアンはガゼボまでくると立ち止まり、後からくるリアムを待った。
ガゼボまで来たリアムはその眼下の景色に圧倒され息を飲む。
「うわ……」
地平線から視界の隅々までを覆う一面の太陽色。
月明かりに照らされた陽の色は、風が吹けば、ゆらりさわさわと波を打つのだった。
「ひまわり、綺麗でしょ」
シリシアンは目を細めそれを眺めている。口許はわずかに緩み、微笑んでいるようだった。まるで愛しい人をそっと見守るようなそんな眼差しだ。
「……ひまわり」
リアムは思い出す。昔、ここにひまわりの妖精がいたことを。
シリシアンがここは縁のある者たちの墓だと言ったことを。
これはきっとシリシアンがかの妖精のために作ったものだろう。
きっと花は永遠に咲き続け枯れることはないはずだ。
シリシアンが決して忘れず、または忘れないように、こんなふうに思い出のなかに閉じ込める程の者が、過去にいたのか。
毎夜、出かける度、眼下に眺め、目を細め微笑みかける花。
リアムは咽の奥に違和感を覚えた。
モヤモヤとした何かが胸を塞ぐ。
無意識に胸に手を当て俯くリアムへシリシアンはさらに投げかけた。
「ここは僕だけの場所なんだ」
「……」
リアムは惨めだった。
ただ黄色い花の風景を見せられて、大切な場所だと言われて、本当にそれだけなのに、なんだろうかこの込み上げてくる疎外感は。
ひまわりの妖精との思い出を、自分に見せつけて、なんのつもりだよ。
どうせ、自分は……いや、なんだろうか?
この気持ち悪さは。
この寂しさと怒りが混ざるようなざわつきは?
「花なんか見てたって、なんの腹の足しにもなりゃしない」
シリシアンは寂しそうに目を伏せ、そうだね、まったく君の言うとおりだよ、と頷いた。
そうさ、シリシアンは間違ってる。
もういない妖精のことなんか早く忘れればいいんだ、こんな感傷的なことに付き合わされたくない。
「全部刈り取って、油にでもしたらいいですよ」
「あぶら……」
「いいですか、シリシアン様。今はこんな花畑を眺めてる場合じゃないんです。早くファーストキルを決めて、時を止めなくちゃならないんです。そうしなくちゃ、どんどん老化が進んでしまいますよ!」
((>ω<)/。・゜゜・クソが。




