追憶のひまわり
シリシアンとリアムは地下への階段を下り、赤く錆びた鉄扉の前にいた。
扉は蔦に覆われその半分も見えない。
子供の掌のような無数の青い葉が風もないのにザワザワと不気味に動いている。
「案内を頼みます」
シリシアンが言うと、葉の中から一匹の甲虫がブンっと、飛び出してきた。
甲虫は青白く発光しながら、シリシアンの周りをぐるりと飛び、彼の外套の胸のあたりにとまった。
蔦が扉を開ける。
分かりやすく正確に言うなら、蔦から伸びた枝の先が、扉の鍵穴へと入っていき、鍵を外し扉を開けた、と言えば良いだろうか。
扉の向こう側、そこは一点の光もない闇に埋もれた場所。
ブンっ、と甲虫がその暗闇へと飛んでいく。
虫は白く発光し上下しながらゆっくり舞うように進む。
シリシアンはその光の後ろを歩きはじめた。
地下の洞穴は静かで甲虫の羽音と二人の足音だけが響いている。
湿り気を帯びた冷たい風がリアムの首筋を撫で過ぎていった。
なんともいえない気持ち悪さが寒気を誘い、リアムはブルッと肩を震わせた。
人ならまったく何も見えないところだが、シリシアンはそこを慣れた足取りで進んでいく。
道は途中何本かに別れたり、行き止まったり。
かと思えば行き止まった壁に突然扉が現れ開いたりした。
なんて恐ろしい迷宮だ。
うっかり迷い込んだら(滅多にないと思うが)途中で進むことも戻ることも出来なくなるだろう。
出口も入り口もあの虫だけが知っているのだ。
ヴァンパイア達の神経質な程の用心深さが伺える作りに、リアムは感心すると同時に恐怖を覚える。
シリシアンとあの虫を見失ったらこの迷宮の土になっちまう、そう思ったリアムは彼の後を早めの歩調で必死に追いかけた。
蔦の絡まる赤く錆びた鉄扉がまた現れた。
甲虫は蔦の葉に着地すると、葉の下側へと潜り込みいなくなった。
そして入ったときと同じように扉はギシっと錆びた音をさせ向こう側へと開く。
螺旋の階段をぐるぐるあがっていくと、やがて地上へ出ることができた。
天には夜空が広がり星らが瞬いている。
月はちょうど丸く、二人を白々と照らしていた。
「はぁ」
と、リアムは思わず安堵する。
「地下の道は、僕も少し緊張するよ」
シリシアンはそんなリアムを見て、穏やかに微笑んだ。
「ここから出るのは久しぶりだったし」
いつもは上から飛んでいくはず、なのに今日は……リアムは後ろを振り返り城の搭を仰ぎ見た。
そこで気づく。
あの高さからだと、自分は落ちるだろう、墜落だ、と。
自分の小さな羽ではとてももたない。
シリシアンはリアムのために、わざわざ地下道を使ったのだ。
「あの……」
「ここは、僕らと関わりのある者たちのお墓なんだ」
シリシアンが目で示した先には、無数の墓標が遥か地平線の先まで無秩序に並んでいた。
₩(´Д`)……待て、置いていくなよ??




