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感覚的な嫌悪


 自分と人とを比べることは愚かだ。


 ましてや、主様はヴァンパイアである。


 由緒正しき城持ち魔族と、蟻の子並の労働従事妖精とでは何もかもが違う。


 空に輝く星と、地べたに転がる小石くらい違う。



「今日は少し冷えるね、外套がいるかな? 」


 シリシアンが傍で控える世話係の妖精へ訊ねた。


「はい、ただいまご用意致します」


 世話係りの妖精が衣装部屋へと走っていった。

 大理石の床に蹄があたりコツカツカツっ、と軽快なリズムを奏でた。


 世話係の妖精は獣人形だ。

 鹿の四肢体上に人様の上体である。


 のっぺりと平たい顔には丸く大きな目が二つ、長い睫毛に囲まれた黒いそれを年中うるうる艶々と光らせている。


 額からは真珠のような輝きを放つ一本の捻れた角が生えていた。


 名前をウソラといった。



 その他の身支度を整えたシリシアンは、リアムが差し出した黒い皮の手袋に長い指先を順々におさめていく。


 背が高く細身のスタイルであるから、何を着ても似合う筈だが、常に黒いシャツに黒いネクタイ、上衣もズボンも黒という全身真っ黒な蝙蝠コーデ以外、リアムは見たことがない。


「どうかした?」


 シリシアンがぼんやり立ったままのリアムの顔を覗き込んで訊ねた。


「なんか……ダサいっすね!」


「!」


 ちょうど外套を持ってきたウソラとシリシアンが同じタイミングでリアムを見下ろした。


「だ、ダサイ……?」


 シリシアンはあらためて、自信の姿を見回し確認する。


 ウソラが慌てて首を振って否定した。

 ひとつにくくった尻尾のような銀髪がフワフワと揺れ動く。


「まったっく決してその様な事はございませんて!!」


 ウソラが半眼でリアムを睨んだ。


「いいえ、クソダサイです」


「な、なんてことを!!」


 ウソラがカツカツっと、前足を踏み鳴らした。警告のつもりである。


 毎夜毎夜、幾年月も同じ同じ同じ、シリシアンはずうっと蝙蝠スタイルが定番なのだ。


 それがお決まりでそれ以外はありえず、いまだかつてこれに意を唱えた者など、ましてやダメ出しをしてくる使用人なんてまず皆無だった。


 なんなら赤ん坊時代の産着からして、真っ黒くろである。


「いつも黒ばっかり。そりゃ黒って色は誰でも似合いますし、配色を考える必要もないですから、ちょう楽でしょうね」


 リアムはウソラをちらりと見た。


 ウソラは大きな(まなこ)でリアムを見返し口をへの字に曲げた。


「ここは絶望のクローゼット」


 リアムは衣装部屋の前で両手を広げた。


 シリシアンの衣装部屋には黒いアイテム以外存在しない。



「そんな野暮ったい格好で外出するなんて。その羞恥心のなさには脱帽と尊敬しかないですね」



「でも、ずっとこれだし。今まで誰もそんなことは言わなかったよ?」


「だからダメなんです」


 シリシアンのまわりにいるたくさんの世話人達、ルルベラもそうだ。


 あまりにも彼に関心が無さすぎる。



「ことなかれ主義で無責任」



 こんなに美しい人、いやヴァンパイアなのに……




 勿体無いじゃないかっ!!



***( ・ε・) { いや、だってねぇ?)


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