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「……状況を教えて頂きたい」
セシ公は静かに応じた。シートスの猛々しい視線に貫かれながら、1つでも多く、より有効な手を打てる情報を引き出そうとする。
「ご覧になれば良い」
シートスは冷ややかに続けた。
「外壁より外は預かり知らぬが、内側にはもう、我ら以外何人も残っていない」
「……っ」
周囲が息を呑み声を失った。イルファが目を剥き、リヒャルティが悔しげに外を伺う。放せよっ、やらねえよっ、と唸ってバルカとギャティから両腕を取り戻す。
衝撃はあったが想定内だ。セシ公は素早く頭を巡らせる。シートスは何をしに来たのか。何を求めてここから動かないのか。反乱ならばここで防がなくてはならない。入り込まれて、唯一残ったこの地も戦乱に堕ちれば、『人』には未来がないのだろう。
「再度お尋ねする。『太皇』はどこか」
「…伏しておられる」
セシ公の返答は周囲を再び狼狽させた。シートスも例外ではなく、微かに揺らいだ視線にセシ公は次の質問を予測する。
「…では、ラズーンの王はどこか」
アシャは身動きしない。正統後継者を手元に置きながら、なおも王の所在を尋ねるならば、アシャは既にその地位にないと言うことだ。
「私が、任された」
どよめきに深い吐息が加わった。安堵なのか落胆なのかは見極められないが、今はそう応じるしかない。シートスがしばらくセシ公を眺め、やがて告げたことばはさすがに思いもつかなかった。
「アシャの手当と処分をお願いしたい」
「…処分…?」
ではアシャは生きている。けれども処分とは罪人扱いの物言い、戸惑うセシ公を見定めたのだろう。無言で状況を見ていたユーノが、平原竜から飛び降りた。こちらも怪我をしているのだろう、苦しげに顔を歪めてよろけたが、そのままセシ公の前まで進むと、膝を降り、頭を下げた。
「…セシ公。ユーノ・セレディス、ただいま戻りました」
「ユーノ…」
何をふざけているのか、こんな崩壊の中で上下関係など無意味、何のために跪く。
混乱しかけたセシ公は、目の前のシートスが大きく舌打ちをしながらも平原竜から降りるのを目にした。ユカルも続き、2人ともユーノの後ろに膝を付く。
「おい!」
はっと息を呑んだリヒャルティの密かな声が命じ、リヒャルティと『金羽根』全員も急ぎ膝をつく。その波はみるみる周囲に広がった。イルファもレアナも膝を付く。民衆も慌てて地面に身を伏せる。
周囲には跪く民、眼前には崩れ汚れ切った大地、空だけが澄み渡っている。
「セシ公…ご指示を」
ユーノが僅かに顔を上げ、セシ公と視線を絡ませた。
間違いない。ユーノは、今ここに、無理矢理にでも動ける構造を作り上げようとしている、セシ公を1人を押し立てて。
これが報いか、欲望のまま情報を操り、人を駒として使い、誠意も真実も絵空事として扱う男への報復か。
セシ公はもう一度空を見上げ、ゆっくりとユーノを見下ろした。
何を守り、何のために、どこへ行こうとするのか。
「…急ぎ、命じる仕事がある」
飢えている自分を満たす。足りない情報を集める。
凝視するユーノの瞳が、僅かに細められ微笑んだように見えた。促されるように続ける。
「がしかし、報告ご苦労であった。まずは体を休め、傷を治すのに専念せよ」
まるで芝居を演じる役者のように、セシ公は威厳を持って振り返る。見渡して背筋を伸ばし口を開いた。
「門を閉じよ。混乱は続いている。しばらくは『氷の双宮』に籠城し、数日内に国内の状況を探査し、今度の国の行末について、『太皇』ともども取りまとめていく」
「御意!」
リヒャルティが声高に言い放って頭を下げ、『金羽根』が倣う。
「セシ公万歳!」「新たなる王、万歳!」
引きずられるように声を上げて民衆が応じる中、シートス、ユカル、ユーノは静かに一礼したまま動かなかった。




