表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
故に、青春とは脱出ゲームである。  作者: ナヤカ
【第三章】烏丸武人は詭弁を語る
20/34

別れた心。反逆の狼煙

「遅い!」


 LINEで送られてきた駅施設の喫茶店へと向かうと、開口一番に入宮が怒気を放った。


「悪い、用事があったんだ」

「もう、あなたが居ない間に終わってしまったわ」

「……え?」


 告げられた言葉には固まるしかない。


「なによ? まさか、あなたがいなければ何も決められないとでも思っていたのかしら?」

「いや、そうじゃないが」

「もしかして、遅れてきたヒーロー気取りだった?」

「違う……というか、何が決まったんだ?」


 すると入宮が得意気に鼻を鳴らす。対し、葉加瀬は飲み終えたコップの氷を我関せずいじっている。


「ぶっつけ本番よ!」


 時が一瞬止まった。……いや、それ何も決まってないだろ。


「ぶっつけ本番って、それで上手くいくのか?」


 そう確認をする。主に葉加瀬に向けて。何故なら入宮にとっては上手くいかないことこそ、策のうちだからだ。


「さぁね? でも、意見が合わない人と協力するよりは上手くいくんじゃないかな?」

「……はっ?」


 葉加瀬は、もうどうでも良いとでも言いたげに、尚も氷をいじっていた。


「とにかく、このまま来週の朝礼に望むから」


 そう言うと、入宮は立ち上がった。


「……臨むところだよ。どちらが良い部員募集が出来るか勝負だね」


 そう答えて、葉加瀬も立ち上がる。


「おっ、おい! なんだよ、勝負って」


 だが、それに答えることもなく二人は睨みあい、やがて示し合わせたようにフンとそっぽを向く。どこかで見たことあるなと思ったら、小学生の時喧嘩した奴等がそんな感じだったことを思い出した。


 それから二人は、相手を見ることもなく出口へと向かう。それを僕は見ていることしか出来ない。


「ありがとうございましたー」


 そんな店員の言葉に見送られて彼女たちは店を出ていった。残された僕はただ呆然としていた。


「なんなんだよ……一体」


 ふと見れば、机の上に一枚の紙が置かれていた。手に取ってみると、それはA4サイズのルーズリーフであり、全体的にボツを示すバッテンが強引に書かれてあった。


 ……これが原因か。


 そのバッテンの前に書かれていた文字を読むと、一番上には『議事録』と書かれてあった。どうやら二人の話し合いは、当初スムーズに行われたらしい。そこから読み進めていくと、『部員募集を成功させるために』とあり、『漫才』『演劇』『演説』と書かれてあった。どうやら、ここまでは葉加瀬の出した意見だと分かる。その下に大きく『バカ』とあり、それに二重線をして上に『ボツ』と書かれてあった。


 どんな間違いだよ……。葉加瀬、怒ったろうなぁ。


 もう、そこから二人の険悪なムードが想像できる。


 それから議題は移ったのだろう『失敗する要因』と書かれてあった。つまり、成功させる為ではなく、失敗する要員を洗い出して潰していくという考えにシフトチェンジしたことが分かる。


 その下には、『早々と捕まる』『生徒に声が届かない』の二つが上げられていた。『早々と捕まる』に関しては矢印があり、何故かその先には烏丸とあり、『生徒に声が届かない』には、同じように矢印があってメガホンと書かれてあった。そして、その下には『失敗しない、つまり成功率百パーセント』とある。


 うん、この強引な意見は入宮だよな……。


 そして、これだけで成功率百パーセントを掲げた彼女の頭はお花畑なのだろうか? そう思わざるを得ない。きっとそれは葉加瀬もそうだったに違いない。その下には何の言葉もなく、一番下に『勝手にする』と乱雑に書かれてあるだけだった。


 話し合いは上手くいかなかったのだ。結果、それぞれのやり方をするという最も協力性のない結論へとたどり着いてしまったのだろう。


 大丈夫なのか、これ。


 今日は金曜日だった。彼女たちは来週の月曜にある朝礼で部員募集を行う。ということは、ここで行われた話し合いが最後。まぁ、休みに集まって話すのなら別だが、先ほどの雰囲気から察するにそれはないだろう。ホントのホントにぶっつけ本番。呆れるというかなんというか……彼女たちはそれで臨むことに恐怖はないのだろうか? それは、僕には分からない感覚だった。


 何はともあれ、幸いにも僕のやるべきことは決まっている。なら、それをやるだけのこと。


 ふと、ポケットから鍵を取り出す。それは先輩たちから奪った屋上の鍵。普通は学校に保管されているものらしいのだが、なぜか天文部には所持を許された鍵。もしもこれを入宮に見せれば、この作戦の目的は崩れ去ってしまうだろう。


 だが、それは最後に取っておくことにした。彼女の悔しがる顔を拝んでやりたいと考えたからだ。その浅ましい自らの考えに嫌でも顔が引きつる……が、口元が引きつったのは別の思いがあったから。


 僕は、入宮をコテンパンにしてやりたいと思っていた。これまで散々貶され、やりたい放題やられ、心は反逆の狼煙を炊こうとしていた。その黒い煙が脳内を満たし、なんとも言えない快感に浸る。


 僕は聖人君子でも馬鹿でもない。


 だから。


 彼女を倒すための切り札を、そっとポケットにしまいこんだ。



 



作者の成長の為、忌憚のない意見をもらえると有難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ