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故に、青春とは脱出ゲームである。  作者: ナヤカ
【第三章】烏丸武人は詭弁を語る
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傍観する者たち

 土曜日。


 気持ちよくうたた寝をしていると、不意にインターホンが鳴った。どうせ、テレビの受信料に違いないと思いながら確かめもせずに扉を開くと、そこにはロンリー先輩とその仲間たちがいた。


「よっ」


 爽やかな笑みを浮かべる彼の腕には、麻雀の台がちらりと見えた。まさか、こんな朝っぱらから僕の部屋で麻雀をやるつもりなのだろうか。


「……今日は休みですけど?」

「お前はいつでも良いって言ったじゃないか」

「いや、言いましたけど流石に休みの日まで麻雀ですか?」

「いつもは誰かの家に集まるんだが、今日は下見と後輩との交流も兼ねて……な?」


 な? じゃねーよ。絶対下見だけが目的じゃねぇか。だが、そう言ったのはこの僕だ。だから、仕方なく先輩たちを招き入れる。


 そして結局、麻雀。室内には牌を混ぜる音だけが響いている。


「入宮に鍵は渡したのか?」

「いえ、まだ。というか、今は少し面倒なことになっていて……」

「面倒なこと?」


 少し迷いはしたが、先輩たちに事の成り行きを話すことにした。入宮の最終的な目的は屋上の鍵を奪うこと。だが、それは僕がこうして成し遂げてしまったのだ。別に話しても問題ないだろう。


「……それマジ?」

「マジです」

「ぶっ飛んでるとは思っていたが、まさかそこまでとはな……。あいつの頭の中じゃあ俺たちは悪者ってわけだ」

「まぁ、天文部なのに屋上で麻雀ばかりやっていたら、印象は悪いですよね」

「だからって、無理やり追い出そうとするかね? まったく、これじゃあどちらが悪者かわからないぞ」

「まぁ、確かに。」


 それから、ふと疑問に思ったことを口にする。


「そういえば、何故天文部には屋上の鍵の所持が認められているんですか?」

「あぁ……そりゃあ、先代の諸先輩がたのお陰ってやつだ」

「諸先輩がた?」

「あぁ。天文部の活動は観測が主だろ? だが、夏場は日の入りが長くてなかなか暗くならない。だから、どうしても夜に屋上へ残らなきゃならない」

「……まさか、その為に?」

「そうだ。お前に渡したのは合鍵だ。本物の鍵はちゃんと学校の職員室にある。先輩がたはそれをこっそり持ち出して合鍵を作った」

「バレたらヤバそうですね」

「まぁな。俺たちが屋上に立ち入ってるのは、職員室から鍵を借りてからということになってる。わざわざ鍵を取りに来ることを調べてる教師はいないからな」


 それから、その話の違和感に気づく。


「あれ? じゃあ、入宮は何故先輩たちが持ってる鍵を奪おうとしていたんですかね? 職員室にあるなら、それを持ち出せばいい話なのに」

「さぁな? 鍵というよりは、俺たちを屋上から追い出すことが目的なんじゃないのか? まぁ、それはお前が成し遂げてしまったことだが……おい、手が止まってるぞ」


「そういえば……」


「確か、鍵を先輩から受けとるときに聞いたんだが、その鍵はマスターキーになっていて、屋上の他に他の場所も開けることが出来るって言ってたな」

「他の場所ってなんですか?」

「わからん」

「分からないって……」

「鍵をくれた先輩も知らなかったんだ。だから、嘘かもしれん」

「……なんで嘘なんか」

「さぁな。だが、そう言ってたのは確かだ。俺たちも気になって調べたことはあるんだが、顧問のみなちゃんも知らないって言ってたし、デマかもしれん」


 みなちゃんとは、南川先生のことだろう。顧問も知らないのなら本当なのかもしれない。


「ところで朝礼の件だが、お前本当にやるの?」


 独り早く山を作り終えたポン先輩がそんなことを聞いてくる。


「やるというか、入宮がヤル気満々ですからね」

「どうしてそこまで? あいつのこと好きなのか?」

「まさか。僕は負けたんですよ入宮に。負けた者は勝った者に従わなければならない。勝ったら鍵をあげると約束した先輩たちと同じですよ」


 それに、ロンリー先輩は不満げな顔をこちらに向ける。彼も山を作り終えていた。


「……ふぅん、俺にはお前が負けるようには見えないけどな」

「正直、僕も負けるとは思ってなかったです。彼女の作戦勝ちですね」

「作戦勝ちねぇ……。それで今度は、演劇部の奴と勝負してるってわけだ」

「勝負というか、出来レースに近いですけどね。このままだと入宮の思惑通り部員募集は失敗する可能性は高い」

「そうなると、演劇部は瀕死。そこで入宮が天文部に引き抜くってわけか」

「それも上手くいくとは思えないですね。思ったより、相手も意思の強い奴なんで」

「もはや難解な迷路だな? お前たちはどこに向かってるんだ?」

「さぁ? 入宮には見えてるんじゃないんですかね。そのゴールってやつが」

「なんか不思議な事をやってるな? まぁ、俺たちにはもう関係ないことだが」

「関係ないって……先輩たちも天文部でしょ」

「俺たちは別に天体に興味があったわけじゃない。ただ、気の会う奴等とたむろするために天文部を選んだだけだよ」

「それでも、南川先生からは怒られるんじゃないんですか?」

「どうかな? 怒られるのはみなちゃんだろ。俺らも散々迷惑かけたし。教師の間で天文部は『グリニッジ』って呼ばれてるらしい」

「なんですか、その、世界の標準時刻を決められそうなカッコいい名称は」

「天文部には問題児が多いから略して天問題。そこから有名なグリニッジ天文台とかけてるんだと」

「……クソくだらないですね」

「俺らも思ったよ。だがな? それで南川先生が俺らに何か言ってきたことはない。あの人は良い顧問だよ。まぁ、少しヒステリックな所もあるがな」


 それには、思い当たる節がいくつかあった。


「……確かに」

「あんまりみなちゃんを困らせるなよ? あと、朝礼のことは事前に言っとけ」

「……言ったら止められますけど」

「大丈夫だ。あの人は止めないから」

「止めない? どういうことですか?」

「まぁ、言ってみりゃわかる。それに、その作戦をやりたくないならなおさら、な?」

「止めないなら止められないですけど?」


 だが、それには先輩たちは答えず麻雀を開始させた。


 一体何だというのか。だが、朝礼のことで南川先生に迷惑をかけるのは間違いない。僕は先輩たちと麻雀を何回かやった後、南川先生に会うため、学校へと向かった。


 休みの日にまで学校とは……いよいよ僕の日常は狂い始めているのかもしれない。


「――あら? どうしたの?」


 そんな南川先生は、思った通り職員室にいた。生徒は部活動生しかいないのに、職員室はいつもと変わらない雰囲気を見せている。まったく、ご苦労なことです。


「いや、南川先生に用事があって」

「私に……用事……?」


 南川先生は、キョトンと首を傾げて僕を見る。


「すいません。少し話しにくいことなので、二人きりで話せると嬉しいんですけど」

「……今、なんて?」

「だから、二人きりで――」

「保健室で良いかしら?」

「別の部屋でお願いできますか」


 なんで保健室なんだよ。


「仕方ないわね。……生徒指導室で我慢するわ。もちろん、私は指導できるほど詳しくないけれど」

「いや、我慢って何ですか。あと、あんた何の指導する気ですか。いかがわしいですから止めてください」

「いかがわしい話じゃないの?」

「いかがわしいといえばそうなんですけど、先生の言い方だとニュアンスがオカシイんですよ」


 そんなこんなで、僕と南川先生は生徒指導室へと移動する。そこはとても簡易な部屋で、机と椅子しか置かれていない。


「それで、話って?」

「実は……」


 それから、僕は向かいに座った南川先生に事の顛末を話す。彼女は、眉を潜めて聞いていたが、それでも口を挟むことなく全てを聞いてくれた。


「そういうことか。それで天文部に」

「はい。先輩たちに相談したら南川先生にも言っておくよう言われたので」

「そう……わかったわ」


 そうして、南川先生は立ち上がった。まるで、話はもう終わりだとでも言わんばかりに。


「止めないんですか?」

「どうせ止めてもやるんでしょ?」

「まぁ、そうですけど、先生の立場なら――」

「大丈夫よ。そんなことで揺らぐ私の立場ではないわ。生徒からは同年代のように扱われ、先生たちの間では『南川先生なら仕方ない』って言われてるくらいよ?」

「胸を張られてもリアクションに困るんですが」

「冗談よ。でも、きっと怒られるのは烏丸くんたちよ? それでも良いの?」

「良いですよ」

「なら、私は何も言わない。立場なんて関係ないわ。人としてダメなことはダメって言うし、本人たちが考えて出した答えなら応援してあげる。それで良いじゃない」


 そう言って、南川先生はおやゆびを立てた。その後に、ふっと表情を、緩め。


「……映画とかだと、そういうのは見て見ぬふりをするのがカッコいいんだろうけど、私にはそんな事出来ないし」

「南川先生は十分カッコいいですよ」

「そうかな? 本当は凄く無責任な事を言ってるよ私?」

「無責任?」

「だってそうでしょ? 見てみぬふりが出来ないなら止めてあげるのが教師としての役目。だけど、それすらしないで怒られるのを傍観しようとしてる」

「それは……でも、そんなこと誰にでも出来ることじゃないと思います。普通なら止めるんでしょうけど、それは何かあったときの責任を取れないからじゃないんですか? 生徒の為に止めるなんて、あまり今の時代ないと思いますけど」


 南川先生の為に反論したつもりだったのだが、彼女は悲しそうに微笑んだ。


「そんなことないよ。どんな先生たちも、生徒たちを一番に思ってる。そこだけ、否定させてもらうね」

「……わかりました」

「うん。じゃあ、君は君のやりたいようにやれば良いよ。それくらいの信頼は私から得られているから」

「……ありがとうございます」


 それに、南川先生は満足げに頷いて生徒指導室から退室していった。


 信頼は得られている、か。


 僕はそれほどの事を正直したつもりはない。だが、南川先生本人が言うのだからそうなのだろう。それは、去年一年間での僕が要因なのだろうか? だとしたら、案外ぼぉっと過ごした日々も無駄ではないのかもしれないと思えた。




作者の成長の為、忌憚のない意見をもらえると有難いです。

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