第三十一話 決別
前回のあらすじ:気絶したケインを抱えた悪魔レアニスは、そのまま城内を駆ける
今回は少なめ(4000字程度)。切りのいい感じのところで切りました
「ん・・・あ・・・?」
体が揺れる感覚で俺は目が覚めた。腹が圧迫されているような気がするがそれは・・・担がれているせいか。・・・いったい誰が。
もぞもぞと俺が動いてると、俺を担いでいる人が気付いたようだった。
「ん?ああ、マスター。気付いたか」
あれ?この声、そしてこの呼び方は・・・。
「・・・レアニスか」
「おう、そうだ。俺だぜ」
「・・・体が動かない。魔力も少し減ってる気がする。何があったんだ?」
何か足りないような不足感と体中で感じる倦怠感が俺の魔力が減っていることを知らせている。そして、何があったか思い出そうとすると頭痛を感じた。
「何も覚えてねえか。まあ、仕方がねえ」
「仕方がない・・・?いったい何があった・・・?」
「おう。マスターは、死体が大量にあるところを見ちまった」
「したい・・・・?」
グッ・・・頭が痛い。したい・・・死体!?
「・・・いや、忘れてた方がいいだろう。記憶喪失に陥るほどだ。覚えてたってなんもいいことはねえ」
「・・・そうだな」
記憶を探るのはやめよう。あまりいいことがなさそうだ。
「まあ、それで裏の方も出てたからな。相当やばそうだった」
「・・・そうか」
裏。というか、俺の欲望が大きく出る方の人格が出たか。・・・だけど、あいつの封印は強固にしてたはずなんだが・・・。つまり、それだけの出来事が。
「ぐぅ・・・」
「おい、だから思い出すのはやめておけって」
「・・・。そういえば、師匠は・・・」
「・・・さて?どこか」
「死んではないんだな?」
「少なくとも俺は死体を見ちゃいねえよ」
「そうか・・・」
ちらりとあたりを見渡すとどうやらここは王宮の中の中庭の端の方だと分かった。ここの中庭には何度か散歩でお世話になったこともあるからだ。
「・・・師匠・・・いったいどこに・・・」
焦燥感に心をざわつかせながら、師匠のいそうな場所の心当たりを思い浮かべようとした瞬間、ドカンという音とともに城の一部が吹き飛んでるのが見えた。その爆発は明らかな魔力を感じて俺は直感でそこに師匠がいると分かった。
「師匠!」
俺は足に風を纏わせて『飛行』の魔法を使って空を跳ぶ。
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「これはひどい有様だね・・・」
吸血鬼と化していたガゼンを退けたあと、ボクと同僚のギジスは廊下を駆けていた。それなりに早い速度ではあったが、クーは起きていない。・・・ギジスの持っていた睡眠薬でしばらくは起きないだろう。
「・・・でも、ギジス、なんで睡眠薬持ってるんだい?」
ボクが疑わし気にしているのに気付いたのか、ギジスは慌てながら言う。
「待つのだ、スーラン。私は不眠症なのだ」
「不眠症・・・?」
「ああ、まあこれでも数々の会議を任されるわけだから心労があるのだ。・・・国王様の人選に文句を言っているわけではないがな」
「・・・ああ、なるほどね」
王都で開かれる会議の内、王宮魔法使い、もしくは軍がかかわるような会議では、ほぼギジスが議長を務めている。そして、ギジスはその役目上、どちらかに贔屓することはできないのでそれはもう心労を抱えているだろうことが予想できた。・・・まあ、納得した。
「まあ、そんなことより一体第二王子はどこにいらっしゃるんだろう」
ボクが話題を変える意味でそう言ったのだが、ギジスは「そんなことって・・・」と若干落ち込んでしまったようだ。おっと、気分を悪くさせてしまったかな?
「・・・ゴホン、とりあえず、第二王子の部屋に行ってみよう。もしかすればそこに避難されているのかもしれない」
・・・と思っていたらすぐに通常モードに戻ったようだ。なるほど、こういう切り替えの良さが彼を議長にさせてしまうのかもしれないな、といった雑念をボクは振り払って目的地を変更する。
「・・・しかし」
そうぽつりと言いながらギジスは当たりに目を配る。
「そこかしらに血痕が沢山あるのに、死体が一つもないというのはいったいどういうことだ・・・?」
そう、今、この城はまるで大虐殺にあったあとのように血が飛び散っている。・・・だが、死体や、もしくは一部などといったものは不思議となかった。まるで・・・
「多くの魔獣に襲われてしまった後のようではないか」
・・・魔獣の多くは肉食だ。とりわけ、人間の肉は好むといわれる魔獣であるから魔獣の狩りに行って失敗した冒険者たちの遺体とかは見つからないことが多いが、それにしたって残ってる血痕の量からするなら相当な数の人間が被害にあってるはずだ。つまり、それだけの数の魔獣が襲ってきたのかもしれないと推察できるわけだが、この推察には大きな問題があった。
そう、それだけの魔獣がいったいどこからやってきたのか、だ。
この王城は王都の中心にあるので、当然ここにやってくるまでには東西南北いずれかの街を通ってくる必要がある。だが、実際に通ってくるなら、その量もあって必ず巡回中の兵士、あるいは普通の町民に見つかり騎士団あるいは王宮魔法使いのところに報告が来そうなものだが、そういった類のものは一切受け取っていない。・・・あるいは、騎士団のところにだけ行ったのかもしれないが、そうだとしても相当おかしな状況である。
騎士団と王宮魔法使い、まとめて軍部は互いの協力を是としており、たとえ、どちらにも連絡が来ていたとしても何人かの連絡役を通じ、お互いに情報を確実に共有させて緊急事態に対応するといった訓練もおこなっていた。そして、騎士団の者たちは王宮に勤めるものが多いのもあって、それなり以上に腕の立つ者たちばかりなのだ。つまり、魔獣にそう簡単に後れを取るはずもない。ということはそれは、ほぼ確実に情報共有できてそうなのだがそうはならなかった。ならば、何か不測の事態が起きていると考えるべきだ。
そう、例えば・・・自分の弟子のケインのように、転移魔法を使える何者かが、大量の魔獣を城内に転移させた可能性。・・・正直に言って、レイはその可能性はほぼない、と考えていた。
なぜなら、転移魔法はとても魔力を消耗するのだ。一度、ケインに転移魔法を教わり使ってみようとしてその時、自分は倒れた。熱のように意識が朦朧とする感覚、それは久しく感じていなかった魔力枯渇の症状であった。
――仮にも彼女は、王宮魔法使い次席。その魔力量は国内でも上位に位置するものと自負している。その、自分が魔力枯渇――しかも一発の魔法――ということはつまり、この世界にこの魔法を使えるような魔力量を持つものなどそうはいないということだった。・・・弟子のケインは彼女よりも魔力量があるので問題はないが、あのような者がたくさんいるはずもない。
ただ、もちろん可能性は0ではない。極小のみ、存在する。ただ、そのような多大な魔力量を持ったような存在を自分が耳にしてないとは考えにくかった。
とんでもなく不測な事態だ。それも致命的なまでの。故に事は拙速を貴ぶ。
「ギジス、ここは一旦二手に分かれて――」
王族を探そう、と言いかけて彼女が振り返ったときに、不意に違和感がした。急に鉄のような匂いが強くなった気がしたのだ。
振り返ると、そこにギジスはいなかった。ただし、ギジスだったものは転がっていた。
「な――」
視界の隅で、丸っこいボールのようなものが落ちていくのが見えた。だが、彼女はそこに気を取られずに周辺の様子を把握することに勤める。――右人差し指にある、指輪に魔力を送りながら。
「・・・いや、なるほど。確かに君は王宮魔法使い次席なだけはある」
声がした方へ振り返る。そこには、いて欲しくない人がいた。
「・・・ザーギス・コノラー」
「アァ、俺だ」
王宮魔法使い筆頭、おおよそこの国でボクの魔法能力をすべて超えている存在。つまり、一対一じゃ、どうやっても勝てそうにもない相手がそこにいた。・・・今日の会議には出席していなかったというのに。
「・・・今日の会議に出席していなくて、今出てくるってことは、つまりそういうことなんだろ?」
「アァ、お前の考えているとおりだ。この謀反、いや国直しの側、新政府側の人間だ」
「・・・どうして、君が。君ほどこの国の存続を考えている人はいないだろうに・・・!!」
絞り出すような声でボクはそう言うと、コノラーは悲しい目をして答える。
「これが、残念だが、この王国の確実に残る道というやつだ。もちろん、王族は生き残る。――第三王子を次期王としてな」
「第三王子・・・?第二王子をどうした!?」
「・・・第二王子か。すでにお隠れになった」
お隠れ、これは言葉通りの意味の、どこかに隠れたという意味ではないだろう。――ということはつまり、そういうことなのだ。
「恨むな、とは言わん。だが、許せとも言わん。すべては王国の存続のために、だ」
「どうして・・・!第二王子の方が第三王子より・・・!」
「アァ、俺もそう思う。だが、もはや事態は覆せないほどなのだ・・・」
「こんな・・・こんなことをして立て直せるのか!?」
「立て直す他あるまい。もはやそれしか道はない」
そこで、気付いた。彼は先ほどから「これしか道がない」と言っているということを。彼とて望んでやっているのではないということを。
「君が・・・脅されているのか?君ほどの人間が・・・?」
彼はおよそボクの上に立つ人間だ。それこそ、この国の最も高い戦力と言い換えてもいい。そんな彼が命令を聞くのは、自らが恩を受けている王族くらいなものだったというのに、力ずくで彼に言うことを聞かせている人間がいるということは、つまりそれだけの化け物が裏に潜んでいるということだ。
「――いや、察しがいい。やはり、王宮魔法使い次席。そこまで気付くか」
未だに彼はボクを見ている。その視線はボクの手や足、顔など全身を収めており、ボクが何らかの動きを見せればそれに対応できるだろうことがうかがえた。――つまり、彼はボクを敵として捉えてていた。
「本音を言えば、お前にもこちら側に来てほしいが、どうだ?」
彼は、ボクを勧誘した。だが、ボクの答えは決まっている。
「そんなのお断りだ。恩人を無下にしてまで生き残りたくなんてないね!!」
「・・・そうか。まあ、お前ならそういうと思った。残念だ」
そう言って彼は魔力を練り始めた。ボクが魔力を練り始めているのに呼応するかのように。――そして、
「炎を司る炎神フィーアよ、わが前にあるすべてを焼き飛ばしたまえ、『大炎上・嵐』」
「炎を司る炎神フィーアよ、すべてを燃やし尽くし、召したまえ、『大炎上・全』」
お互いの魔法が相手を食らいつくさんと放たれた。




