第二十九話 炎上する王城
やっと、バイトは通常勤務に戻った。
前回のあらすじ:商業区で異世界人二人と会う
注意!今回の話は割と心臓が悪く、創造たくましい方にはとても気分が悪くなる描写があります。お気をつけて。
シュッ、シュッ、シュッ!
「・・・。ふぅ、千回終了」
日課の一部ともなった素振り千回をこなして俺は空を見上げる。青い空とまぶしい太陽が俺を労わるように迎えてくれる。・・・いや、暑い。全然労わってなかったわ。
びっしょりと額にかいた汗を手で拭って、ふぅ、と一息つく。と後方から飛び道具が飛んでくる気配を感じ、移動する。
「ぬぬ・・・!!よけられたでござる!」
「そこか」
声の下方向に『炎球』を四つ飛ばすと、慌てたように人型の何かがいるかのように風景が歪む。そして、少しすると人物の姿が浮き出てきた。黒い装束に身を包み、目以外の一切の部位を露出しない奴は一人しかいなかった。
「キンゾウ・・・いい加減懲りろ」
「否でござる。拙者にはおのれを殺さねばならぬわけがあるのでござる!!知っておろう!!」
「ああ・・・まあな」
こいつと俺の間には浅からぬ因縁があるわけだが、その話は今は割愛しておこう。とはいえ、このままというのもお互いに消化不良だし・・・
「じゃ、一つ遊んでやるか」
「何をぉぉ・・・」
俺の発言にスイッチが入ったらしきキンゾウの雰囲気が変わった。それを見て俺はしめしめと笑う。・・・遊ぶといってもただワイワイ遊ぶのじゃ物足りないし、そもそんな仲でもない。
「食らえ、竜の刃!!」
そう言ってキンゾウは手裏剣を放つ。それぞれ別の方向に飛んで行った四つの手裏剣は途中で大きく弧を描き、俺に向かって飛んでくる。
「・・・ま、何回か見たことあるし、対処は簡単なんだが」
『風衝』でまとめて地面に叩きつける。カランカランと金属特有の音を立てて手裏剣は地面に落とされた。・・・だが、もちろんこれでキンゾウの攻撃は終わらない。
「ぬぬぬ・・・分身!」
バフン、と煙が立ったあと、キンゾウは五人にふえた。
「「「「「行くでござるよ!!」」」」」
そう言って一斉にかかってくるキンゾウ。その軌道は直線と大変読みやすいが五人もいた。
「・・・前より確かに増えてるけども、だからって精度が落ちてちゃ意味ないじゃん」
上級炎魔法『業火』。魔法によって生み出された高火力な炎により相手を焼き尽くす魔法だ。当たればただじゃすまない。・・・
「ぬぬ・・・!なんと!!」
だが、キンゾウは一瞬で判断をして『本体』だけ退避する。『業火』に飲まれて分身は消えた。残ったのは本体のみ。
「ええい!!ならば『業炎牙』!!」
そう言ってキンゾウは懐から無数の苦無を取り出してそれを投げつけてきた。それはキンゾウの手元を離れた瞬間発火し、燃えながら俺のもとに飛んでくる。・・・しかも、途切れなく。
「初めて見るな。なら・・・『闇の腕』」
瞬間、俺の左手――ひじから下は黒く染まっていた。そして、その手を苦無の方へ向けると、その苦無は全てその左手に吸い込まれた。
「なんと面妖な・・・?!」
そう言って驚くキンゾウに俺は肉薄し、右手でキンゾウの腹を掌底で穿つ。
「ごふっ・・・」
呻きを漏らしてキンゾウは地面に伏した。
「・・・しっかし『闇の腕』を使う羽目になるとは」
地面に伏したままのキンゾウを見下ろしたまま、俺はつぶやく。
『闇の腕』は左腕を軸にブラックホール・・・というか重力場を発生させる・・・という仕組みだ。とうぜん、俺の体が吸い込まれないようにプロテクトをかけたり指向性を持たせたり(あるいは方向を制限したり)とかなり制御に気を遣うので魔力も気力もかなり使うのだ。・・・あくまで、他の魔法に比べて・・・だが。
まあ、本当に気を使わないと自分が餌食になってしまうので大変な魔法である。諸刃の剣というものだ。
さて、と地面に伏せたままのキンゾウを見て俺は、運ぼうと身を屈めた。と、その時、ドォンという音とともに地面が揺れる。
「うおっ・・・だっ!!」
急に揺れたことでバランスを崩してしまった俺は尻から地面に倒れこみ、思いっきり尻もちをついた。・・・かなり痛かった。
「あいつつつつ・・・」
尻をさすりさすり俺は立ち上がる。しかし、今のはとても大きい地震だ。・・・しかし、地震なんて前世の日本でくらいしか体験してない・・・と思ったとき、俺は王宮から煙が上がっているのが見えた。
「煙・・・?なんで煙が・・・」
日の立たないところに煙は立たぬという。つまり、これはそういうことか・・・?そう思った俺は一つ嫌な予感がして、屋敷に戻る。
「ジール!!いるか!?」
「はっ、おぼっちゃま。ここに」
俺の呼びかけに応えジールはすぐそばに参上する。・・・気配を全く感じさせなかったが、それは今はあまり重要じゃない。
「師匠とクーはどこだ!?」
俺は普段の子供っぽい口調を捨てて素で問いかける。今は仮面を被る時間も余裕もなかった。
「・・・王宮に向かっていたかと」
「クソ!やっぱりか!最悪だ!!」
思わず悪態を吐く俺。だが、ジールは全く反応しなかった。それすらも気づかず俺はジールに命令を下す。――師匠がいない時のこの屋敷の命令系統トップは俺なのだから。
「師匠とクーを連れて戻ってくるからその時に被害が分かるように、被害状況をまとめておいてくれ。じゃあ、行ってくる」
「お気をつけて・・・」
ジールの言葉にうなずくこともなく俺は『転移』を使う。これは、今まで行った場所になら使える魔法だが、消費魔力が莫大なのと、行き先を思い浮かべながら行使しないと「石」の中に転移したりする結構危険な魔法だ。俺は安定して使えるのだが。
・・・そして、一拍ののちに俺は王宮の中に転移していた。
「…!げほっ」
煙に一瞬で包まれた俺はせき込みながら上級風属性魔法『エアカット』を使う。これは自分の周囲の空気と周りの空気を分ける魔法だ。主に毒ガスとかから逃れるために使う。
続いて煙を吸ってしまったので肺の治癒も開始する。そして治ったときにようやく中級風属性魔法『風払い』で周りの煙を飛ばす。そして、目の前に見えた景色は――
「な・・・・・」
――燃え盛る王城だった。
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「ふわぁ・・・。眠い」
馬車の中であくびを一つ。今日は眠い。
「ふぉふぉ・・・眠気覚ましにいっぱいどうですかな?」
御者をしている老人がそう言ってくるが・・・運転中に酒を進めてくるのはどうなんだろう?
「いっぱい・・・って・・・何?お姉さま」
「ん?いやいや、クーは気にしなくていいよ。酒癖の悪い老人の戯言さ」
「これはこれは手厳しいですのぅ・・・ふぉふぉふぉ」
そうボクは言って、クーを抱きしめる。・・・外で外野がなんか言っているよな気もするけど。ボクは気にしない。
「まあ、それはさておきましてそろそろ王城に着きますよ、ふぉふぉふぉ」
「ようやくか・・・・。ふわ・・・ボクはちょっと眠いよ」
御者に言われて窓の外を見ると、ボクの職場が見える。相も変わらず立派だな・・・くらいの感想しか浮かばないね。ボクは特に王族に忠誠を誓ってたりはしないから。・・・まあ、守ろうとは思うけどね。
「・・・ふぉふぉ、船着き場ならぬ馬車着き場に着きましたぞ」
「馬車着き場ってなんだよ・・・。ま、いいや。ありがと」
「ふぉふぉ、では」
御者と短く挨拶を交わして王城に向く。よこにいるクーがきゅっと手を握るのが微笑ましくてボクは笑みを浮かべる。
「クー」
「・・・なぁに?」
「緊張しなくてもいいんだよ?」
「・・・ん」
緊張したようなクーにボクは再び笑みを浮かべて、王城の中に入ろうとして――
「お~やおやおやおや、これはこれは・・・王宮魔法使い次席と名高い、レイ・スーラン殿ではないですか~」
――声をかけてきた男に目を向ける。
「ダーリア・ガゼン」
「お~やおやおやおや、私の名前を知っておいでですか。こ~れはこれはこれは、ありがとうございます」
「・・・そんなことはどうでもいい。ボクに何か用か?」
ギロリ、と僕が彼をにらむと、一瞬ダーリアは一歩下がりかけたが嫌味な笑みを浮かべて続ける。
「い~やいやいやいや、別に何もないですけれども。そ~れそれそれそれよりも、そちらが貴女の妹さん、ですか?」
ダーリアがチラッとクーの方を見るとクーがぎゅっと一層強く手を握ってきた。ボクは妹をかばうように前に出る。
「そうかい。特に用がないならどこへなりとも行ってくれないかい?ボクの妹はね、人見知りなんだ。あまり負担をかけてくれるな」
「・・・・。えぇえぇえぇ。わかりましたとも」
そう言ってダーリアは去っていった。
それを見届けてからクーを見る。
「大丈夫だよ、クー。ボクは、何があってもクーだけは守る。・・・守ってみせる」
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「ししょーーーー!!!!クーーーーー!!!!」
師匠とクーの名前を呼びながら城内を走り回る。・・・どこもかしこもひどい有様だった。
「なんだこれは・・・クソ!」
廊下に飾ってあったいくつもの肖像画や、壺や、像が燃えているのを見ながら俺は走る。・・・だが、不思議と人の姿は見えなかった。・・・人であったものですら。
「クソッ、どうなってる!?全員無事に脱出したのか!?それとも・・・ウッ!?」
ある一室の横を通り過ぎた時、濃密なにおいを感じた。・・・それは俺がかつて嗅いだこともないくらい濃いものでありながら・・・どこかで知っているような匂いだった。
「・・・」
ドクン、と一際大きく心臓が跳ねる。ドクンともう一つ。行くんじゃない、と頭の中で誰かの声がした気がした。
ドクンドクンドクン。心臓が三つなる。俺はドアに近づく。ドクン。見るんじゃない。誰かの声が頭の中で響く。
トン、と軽くドアを押す。周りがうるさいくらいに燃える音を出しているくせに、このときは、このときだけは、キーというドアの開く音しか聞こえなかった。
ドアが開いた瞬間、むわっ、と一気ににおいが漂う。そうして、ドアの中から液体があふれ出した。
――ナンダコレハ?
その液体は・・・炎に照り返され赤く染まっていた。・・・。
――チガウ、コレハモトカラアカイ。
「ア―アアアアア――」
元から赤いならそれは・・・もしかして。
――ユカニコロガッテイルノハナンダ?ナニカラメヲソラシタ?
血ならばそれは・・・。
――ソウ。ユカニコロガッテルノハシタイダ。
「アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
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「・・・あ~。あらららら。マスター。《反転》しちゃってるじゃねえの」
煌々と燃える炎が照らす王城の中、ソレは呟く。その言葉は非常に小さなものだったが、その言葉を聞きとがめたようにその人物は振り返った。父と母から受け継いだ金の髪を持ち、日々鍛えた肉体を持つ八歳の少年――ケインだった。
ただ、その少年はケインであって、ケインでなかった。その瞳は、髪と同じように父母から受け継いだ碧眼であったはずなのに、今の瞳の色は赤、だった。
「・・・しかし、この醜悪な文様はアイツのもんか。やれやれ、めんどうなのが召喚ばれちまったな」
そんな、普段とは違う様子のケインから目を逸らしソレは壁に描かれた召喚陣とその傍の床に横たわる複数の死体を見やった。
「この中に、マスターの知り合いがいたか。なるほど、憎悪が濃いな」
ソレに向かって歩いてくるケインに、ソレは語りかけたが、返答はなかった。
「ま、今の意識は十対一で裏マスターか。どうよ、裏マスター、久々の表は」
だが、ソレが「裏マスター」と語りかけた瞬間、ケインは反応した。
「・・・あぁ。誰かと思えばぁ、レアニスかぁ」
ようやく、ケインが反応を返す。それを見て、ソレはため息を漏らした。
「・・・その様子だと俺様のことに気づいちゃいなかったか。まったくあいつといい、今回はめんどくさそうだ。ほんと、悪魔界に還りたいくらいだぜ」
「おいおいぃ・・・お前はぁ俺の手下だろぉ?働けぇ」
「あ?冗談言ってんじゃねえぞ?」
「?」
ソレ――悪魔レアニスの言葉に首を傾けたケインにレアニスは威圧を込める・・・が、ケインはそれを受けても何の反応も返さなかった。それにレアニスはチッ、と舌打ちをする。
「俺様が、あくまで仕えてるのは裏マスターじゃなく、マスターだ。消し飛ばすぞ、てめぇ」
「そぅ?俺からしたらぁ、俺もケインも変わらないぃ」
「は?ちげぇよ。てめぇとマスターじゃ天と地ほどの差があるね」
「・・・あぁ。そうだねぇ。俺とケインはぁ、正反対だからぁ」
「そういう意味じゃねえよクソ。あぁ、もう。てめぇなんかと会話してる俺様が馬鹿だったぜ」
そう言ってレアニスは立ち上がって指をぱちんと鳴らす。瞬間、何もなかったはずの空間に一斉に魔法陣が出現した。
「とっとと、深層に戻れ。表はマスターのものだ」
「えぇ。折角の表だからぁ楽しみたいよぉ。これみたいにぃ」
そう言ってケインは後ろに転がるあまたの死体を見やる。
「・・・。あぁ、よくわかった。てめぇはマスターとはやっぱちげぇわ」
「えぇ・・・?」
「だから、てめぇはここで封印しなおす!!」
轟、と音を立てて魔法陣からいくつも魔法が飛び出す。炎が、水が、風が、土が一斉にケインへと向かう。だが、ケインにあたりそうなものは全て、ケインの左腕に吸い込まれて消える。
「・・・なんだその黒い腕は」
「これはねぇ、ケインが作ったモノでねぇ。まぁ見ての通りだねぇ」
「チッ・・・厄介な・・・」
そう悪態をつきつつ、レアニスは再度魔方陣を多数展開する。
だけど、それは全てケインの左腕に吸い込まれた。
「無駄だぁよってねぇ、まぁ、やられっぱなしは性に合わないしぃ」
そう言ってケインは右手を上げる。・・・すると、先ほどレアニスが展開したものより広範囲に、そして数も多くなった魔法陣が展開された。
「・・・おいおい、この城を壊す気かよ」
「まあねぇ・・・俺の本質は破壊衝動・・・でもあるからねぇ」
「そういや、そうだったか」
そう受け答えをしながらレアニスは汗も流さない体だというのに背筋がヒヤッとする感覚を覚えた。
「じゃあねぇ、レアニスぅ。楽しかったよぉ」
「・・・!!まだか!」
次の瞬間、魔法陣が煌きそこからおびただしい数の魔法が飛び出す。圧倒的な面の制圧力によりレアニスは逃れることはできずにその魔法をすべてその身に受けるのだった・・・。
####
「・・・以上で今回の会議を終わる。ご苦労」
「・・・はー、やっと終わった」
「スーラン・・・少しは慎め」
「・・・はーい」
会議が終わったあと、ボクは盛大に息を吐いたが、隣にいた進行役のギジスに注意を受けた。・・・むぅ、気を抜くくらいいいじゃないか。
「・・・せめて、この議場から出るまでは、な」
「えぇ~・・・」
と、文句を言いながらボクはギジスと一緒に出ようとした。その時
「・・・!?炎神よ、守れ『炎の守り』」
咄嗟に、会議を見せてあげようと連れてきていたクーを抱き寄せて、一応隣にいるギジンも囲むように上級炎属性魔法、『炎の守り』を張った瞬間、会議室は爆発を起こした。
炎属性の攻撃。それはボクに対して風に次いで意味のないものだ。なにせ、生半可炎属性魔法ではボクを傷つけることもかなわないのだから。
「・・・一体誰の仕業・・・?」
呆然とボクは呟くけれど、その言葉に答えるものはない。当然だろう、だってボクたちは奇襲を受けた側なのだから。
――ただ、今回会議をしていたのは城の中。当然外には大量の兵士たちが警備していたはずなのだが・・・。
「――!陛下たちは!!」
――そうだ、王族の方々はどうなったんだ!?
そう言った思いが伝播したのかみんなして会議室出口へと向かおうとしたときに、それはやってきた。
「おーやおやおやおや、皆様はどこへお急ぎですかな?」
「・・・ダーリア・ガゼン!」
王宮魔法使いの一人、ダーリア・ガゼンだ。先ほどあったのに会議にいないから不思議に思っていたが・・・。
「何を言って居る貴様。城が襲撃されたのだぞ!!王家を守らずして何が王宮魔法使いか!!」
「そうだ!それに、そもそもこんな襲撃を受けている時点で緊急事態だろう!?お前も助けに向かえ!!」
口々にそう言いながら先を急ごうとする王宮魔法使いの前に立ったままのダーリア・ガゼンは首を傾げた。
「は~てはてはて?王家の方?・・・あぁ!とりあえず、陛下の居場所なら知っていますよ」
「なに!?ならば早く陛下の元へと案内しろ!!」
そう言って先をせかす王宮魔法使いを前にしてもダーリア・ガゼンの顔に焦りの表情は一切ない。
――その時にボクは少し嫌な予感がして、会議の時から傍にいたクーの体を抱きしめる。
王宮魔法使いたちがわめいている声が聞こえるが、ボクの中でそれらは一切意味を為さなかった。・・・ボクは脳裏が警鐘を鳴らしている対象であるダーリア・ガゼンをただ見ている。――小声で詠唱をしながら。
「あ~あああああ、安心してください。陛下ならここにいらっしゃいます」
そう言って彼は――懐から陛下の首を取り出した。
その付け根からは未だにどろどろと血が流れて目は白目を剥き、浮かべる表情は苦悶のそれだった。
「な――!!」
そして、それを見せられて王宮魔法使いたちの動きが止まった。そして
「あらあらあらら、皆様止まりましたね。なら、死んでくださいよ?」
そうして、会議室はもう一度爆発した。




