第二十八話 異世界人との邂逅
なつやすみ
ばいとざんまい
たのしいな
しっぴつのじかん
ぜんぜんないよ・・・
前回のあらすじ:この世界で急に普及したジャージ。
しばらく王都を散策してみるが特筆すべきことは何もなかった。いや、本当に。
「ヘイヘイ姉ちゃん、俺達といいこ・・・」
「黙ってろ」
「ぎゃぶ!」
「なあ、坊主?そっちの姉ちゃんと一緒にいいところへ・・・」
「却下」
「げぼぉ!」
・・・。何もなかった。何もないはずだ。うん。一応、リルンにかけたはずの『変装』のかかり具合を確認してみるがばっちりかかってる。鏡とか見たらちゃんと反映されていたから完璧なはずなんだが・・・なんでやろう?
いつもより声がかけられる・・・いや、気のせいか。気のせいだな。うん、そういうことにしておこう。
そんな無駄なことを考えながら通りを歩く。
「ヘイ姉ちゃん。林檎買ってかないかい」
「ん?林檎?」
ふと声をかけられて、そちらの方を見ると、少々横に太いおじさんがこちらを・・・いやちげえ。リルンの方を見ていた。
「ん?坊主、お前こっちの姉ちゃんの弟か?」
「え?ああ、まあそうです」
今まで俺の存在に気付かなかったかのような男の声に俺は内心愕然としながら、肯定を返す。
「そうか。なんか似てねぇな」
「ええ、まあ・・・ね」
似てないのも当然だろ。それは俺が作った像だし。とも思ったがばらすわけにはいかないので曖昧にしておこう。
「まあ、いいか。で、坊主、お前は林檎は好きか?」
「林檎って・・・それ?」
「おお、そうだ」
チラリと男の持ってるものを見た。それは全体的に細長く、そして全体的に黄色の果物――バナナだった。
「バナナじゃないの?」
「ん――なんだ、坊主。これがバナナとわかるのか」
「・・・おじさん、詐欺はダメだよ?」
「うるせえな、坊主。・・・まあいいや、俺の目的はバナナを知ってるやつだからな」
その言葉に俺の頭がスッと冷えた。そうだ、そもそも俺はこの世界でバナナを見たことはない。林檎なら普通に売り出してあるからいいのだが、バナナは売っていない。つまり、この王都にバナナを知っているものは希少だろう。俺は前世の知識経由だが・・・。だが、男は何故バナナを知ってる人を探していたんだ。
「・・・お前、何が目的だ」
「おっと、坊主。そう殺気立つんじゃねえよ。別に取って食おうとしてるわけじゃねえだ」
「・・・」
ぎろりと睨み付ける俺に、男はおうおう勘弁してくれやと言いながら指を一つ鳴らす。瞬間、男は小太りな姿から、精悍な顔立ちの青年へと変わった。
「な・・・」
「ああ、何も言わないでくれ。これは俺の特殊な能力ってやつさ」
「特殊な能力・・・?」
「ああ。あんたも転生者なら知ってるだろ?転生時に与えられる特典ってやつ」
「・・・!!いや、僕は」
「みなまで言うな。もう分かってる。何せ、俺に与えられた能力は二つ。その能力のおかげで、バナナはこの世界に存在しないって分かってるからね」
その言葉が真実かどうかはわからない。だが、しかし少なくともそのバナナは異世界のものではないのだろうという予測はついた。
「・・・何が目的なんだ」
「いや、特には何もないね。ただ、この世界に俺と同じような転生者、あるいは転移者がいるか気になっていただけさ。ま、こう案外簡単に見つかるとは思わなかったけど」
ニヤリと笑って彼は続ける。
「まあ、ご同輩は得ているものもあるみたいだし、俺はこの街を離れることにするよ。ま、どっかでまた会ったときは飲みかわそうか」
そう言ってふらふらと立ち去って行った。
・・・いったい何がしたかったんだ。しかし、奴に会えたことで俺にも収穫はあった。くしくもその収穫は奴と同じものだったが。・・・そう、転生者や転移者が俺の他にもいるのかどうかという疑問への答えだ。まさか、こっちから会いに行こうとした日に向こうから(目的の人物は彼ではないが)会いに来るとは思わなかった。
「・・・ケイン様、先ほどのは」
「気にしなくていいよリルン。さっきのはただの酔っ払い。・・・そういうこと」
その言葉に察したのかリルンは何も追及してくることはなかった。
そして、僕らはそのまま目的の店を目指すことにする。
・・・とりあえず、先ほど軽めに作っておいた諜報用使い魔—018をあの男に着けておいた。
####
「・・・ん?なんか人が集まってない?」
二人で歩くことしばらく、人が混雑している店にたどり着いた。俺は人混みが苦手な性分なので避けようとしていたら
「・・・ケイン様、ここです」
「・・・うそん」
リルンに言われて、違う方向へ向けていた足を、元の方向へと――混雑している店の方向へと向けなおす。
「ええ・・・あそこ?」
「ええ。あそこです。あそこが『フクショクテン』という名のものです」
「服飾店・・・ねぇ・・・」
じっと店を見ると、確かに店名に『フクショクテン』と書いてあった。この世界の人々からしたら珍しい名前だが、俺からすると捻りも何もないどころかそのままな名前である。・・・ちなみに、この世界では服を売る店を総称し『服屋』と呼んだりする。
「・・・しかし、人が多いな」
「ええ。あの店は庶民向けの安い服から貴族受けする高級な材料が使われた高価な服まで取り揃えていまして・・・端的に言いますなら、繁盛、しているかと」
その言葉を聞いて、もう一度店の方を向く。相変わらず盛況なご様子だった。・・・ここに尋ねるの、辛いなぁ・・・。
そんなことを考えていると、その店の裏の方からこっそり出ていく人影を見つけた。その人影は黒いローブを身に着け、明らかに人目を避けているようだったが、人混みの中の人はそれに気づいていないようだった。・・・逆に、外にいた俺には目についたが。
だが、店の中から出てきたところを見ると何かしらの手掛かりになるかもしれない。・・・今の状態の店の中に入るわけにもいかないし、もし万引き犯とかなら店主などに話をつなげる足がかりにもなるかもしれない。
「ククク・・・逃げ切ってやったぜ・・・ざまみろチョース」
「あの・・・」
「しっかし、あのヤロー・・・こき使いやがって・・・」
「ちょっと・・・」
「折角・・・転生してきたのに・・・休む暇すらねえな・・・」
「すみません!」
「あっはい!なんでしょうか!!」
ぶつぶつ呟いてこちらの言葉が聞こえて内容だったので、大声で呼びかけてみたが気付いてくれたようだ。ひょっとしたら耳が聞こえない可能性すらあったのでそこは一安心だ。
「いや、さっきそこの店から出てくるの見てしまったんですけど」
「・・・え?・・・あ、ああ・・・ま、まあシフトが終わったからね」
「シフト・・・?リルン、シフトってなんですか?」
「さぁ・・・?私は知らない言葉ですね」
目の前のフード男は「シフト」という言葉を使う。俺の経験だとこの世界で聞いたことはないので、確認の意味を込めてリルンに聞いてみたが、どうやらリルンも知らないようだ。ただし、あの店に転生者がいることは確定したようだ。
そして、それが目の前の奴だとも。
・・・いや、だってさっきボソボソと転生とか言ってたしね。確定じゃん。目の前にいる人物の言葉すら聞こえなかったことになる鈍感系じゃないからね?
「ま、いいです。とりあえず、あなたが別世界から来たということはわかりますから」
「・・・な」
「あれ、否定されませんね?まあ、否定も意味ないですけども」
目の前のフード男は俺の顔を見ていた。その目は黒。フードの奥にある髪の色は見えなかったが、風魔法を使って、フードをめくる。
「・・・なるほど、黒髪黒目。異世界人ですね」
この世界に黒髪黒目というのはかなり珍しい。ともすれば、異世界人のみの――『日本』から来た異世界人のみに多い特徴だ。
「な、ななななな・・・!!」
ズズッと後ずさりながらフードを被り、周りを見渡す異世界人。だけど、すでに対策は打ってある。
「すでに隠蔽魔法で周りの人からあなたの存在は希薄に感じられているし、フードをめくったことも気づかれていませんよ?」
「隠蔽魔法・・・?まさか俺を誘拐・・・?」
「いや、そんなことしませんけど・・・」
まさか隠蔽魔法ってだけで誘拐に結び付けるっていったいどういう経験送ってるんだと俺は思ったが、そこは追及しない。
「ま、少し話をしたいと思いまして」
「ま、まさか・・・お前も俺をこき使う気か・・・?!」
「こき・・・?」
なんだろう。目の前の人物にはこう、黒い系の会社に勤めてた前世の俺を重ねてしまう。・・・まさか、今黒系の仕事してるのだろうか。
「い、いや・・・そうでなく、ただお話を・・・」
「それがお前たちの手口だということはすでに分かってるぞ!!」
「え・・・えぇー・・・」
確信した。この人、黒系の会社でこき使われてた人だ。そして、現在進行形でそういう感じの場所で働いてる人だ。
「だ、大丈夫ですよ。そんなブラックな真似しないですし」
「ブラックな真似・・・?あれ、あんたも異世界人?」
おっとしまった。口が滑った。
「なんだ、あんたも異世界人か。言ってくれりゃよかったのに・・・」
「な、なんのことだね!?わ、私には覚えがない!」
「テンパりすぎだろあんた・・・。まあ、いいや」
慌てる俺を呆れた顔で見て、異世界人は言う。
「話をするんだっけ?いいぜ、付き合うぜ」
こうして、なんか納得できないほどあっさりと異世界人とのコンタクトをとれた俺達であった。
####
「ほぉん、つまりお前はこの世界に生まれたってわけか。こう、アメリカ人とかではなく」
「ああ。この顔はこの世界で生まれついてのものだ。・・・元の俺は日本人だった」
暗い雰囲気の酒場で、八歳ほどの少年と二十歳を超えた大人が話をする風景は日本からすると――いや、この世界においても犯罪臭しかしないが、それを気にする者はここにいなかった。ここは、他人の顔を見て見ぬふりするというのが暗黙のルール。ここで見知ったことは他に漏らせない。それがここの絶対的なルール。
「つまり、お前は転生者、俺はトリッパーってことか」
「そうだな」
転生者とトリッパーの違い、それはこの世界で命を受けたかどうか、と俺たちは定義した。つまり、こっちで新たな生命として生まれ落ちた(あるいは前世の記憶を保持した)俺のような者が転生者で、トリッパーが前世の姿を保持したままこちらに来た彼のような者のことであるということだ。もちろん、この結論に至るまでに議論を躱したりはしたが、まあそれはささやかなことだ。
「ああ、そういや自己紹介忘れてたな、俺は神谷。神谷誠二って言う」
「俺は・・・この世界での名前は、ケインジス・ラーデンスっていうんだ。よろしく」
「おう、よろしく。・・・いや、しかしまさか同じ世界の出身者がいるとはな」
「同じ世界かどうかはわからないけど・・・まあ、日本っていう国なのは一緒だな」
「あん?どういうことだ?」
俺たちは互いに日本から来たっていうことをすでに伝えている。だから同じ世界から来たものと判断しているのだろうけど、その判断は俺からすれば軽率なものと思えた。
「だって、昭和でも元年に生きていた人と63年に生きていた人じゃ価値観や科学の発展度合いなんかかなり違うものだろ?」
「・・・まぁな。でも、それはあくまで時系列の違いであって・・・」
「だけど、その時系列の違いで簡単に世界はわかれるものだ。だから同じ世界だと断じるのは軽率だと思う」
「・・・まあな。だけど、それって区別しなくてもよくねえか?」
「・・・確かに、そうだけど」
結局、違う日本でも今ここにいるのは変わらないのだから、区別するのは馬鹿らしいという彼の意見に俺は賛成でもある。だけど、
「もしかしたら、なんらかの常識の差異があるかもしれない・・・ていうのは覚悟しておくべきじゃない?」
「まあな。たしかにそうだな」
「・・・まあ、元の世界の話をしていても仕方がない。この世界でのことでも話そうか」
「おう。その方がいいぜ」
「神谷さんはいつごろこっちへ?」
「神谷さんってのはやめろ。誠二でいい」
「じゃあ、俺はケインで」
「おう。・・・それで、俺がこっちに来たのは・・・と。確か三か月くらい前か」
「三か月くらい前・・・」
俺は三か月前に何かあったかと頭を巡らせるが、何も思い出せない・・・何もなかったと思われる。
「おう。そしてそっからこっち、こき使われてんのさ・・・」
「こき・・・」
げっそりとした表情を見せる誠二に俺はなんとも言えない。・・・こう、苦しみはわかってる分生半可な言葉はかけ辛いと分かっているからだ。
「まあ、チョース――ああ、この世界での俺の雇い主だ――は、この世界に来たばかりで何もわからないまま魔物に襲われそうになっていた俺を助けてくれて恩があるから文句も言い辛え・・・」
「でも、こき使われてるって・・・誠二は何をしてるんだ?」
「あん?いや、これでも労働条件の改正をだな・・・」
「いや、そうじゃなく、仕事内容」
「・・・ああ~、そっちか」
俺の質問に誠二は考え込む。それは、俺のことを信用したものか・・・といった葛藤を感じる。だが、しばらくするとあっけからんとした様子で語りだした。
「まあ、簡単な話だ。俺は、服を作るのを生業にしていた。そしたら、この世界では糸とかを自在に生み出せ、かつ操ることができるようになった。だから、服が大量に生産できるから服を作るのが俺の仕事ってわけだ」
「糸を自在に・・・?」
「ああ、こんな感じでな」
そういって彼は人差し指を立てる。すると、指先から細い糸が飛び出して、それがにゅるにゅると宙を舞う。なるほど、糸を自在に・・・ね。
「この能力のおかげで服つくりは一層楽しくなったわけだ。まあ・・・楽しい服つくりもさんざやらされるとうんざりするわけだが」
「なるほどね・・・」
確かに、その気持ちはかなりわかる。いくら好きなモノでもやりすぎるとうんざりするものだ。イベントの周回とかも結構来るものがあったな・・・と俺は思った。
「いや、たぶんそれは違うと思うが・・・。まあ、いいか。で、お前はなにやってんだ坊主」
「いや、坊主って・・・。中身は二十歳超えてんだけど」
「・・・あ、そうなの?」
「そうそう。・・・まあ、俺は貴族の生まれだよ」
「貴族・・・か・・・。く~いいねぇ!」
「そんないいもんじゃないよ・・・」
「そうか?美人のメイドとかついたり、美人の先生とかいたり、美人な妹がいたりすんだろ!?」
「」
どうしよう。確かにリルンは美人だし、先生は(認めたくないけど)レベル高いし、クーはちょー可愛くて妹キャラでもあるしで全部当てはまってんだけど・・・。
「い、いやまあ・・・それでも、日々マナーの勉強や厳しい体術の練習とか魔法の特訓とか・・・」
よくよく考えれば、自宅の方針だとマナーなんてどうでもよかった気がするし、後半二つは俺が希望したことなんだけど。
「そ、そうか・・・。大変だな」
あ・・・でもなんかいい感じに話進んでるからいいか。
「そういや、誠二は戦闘系スキルとかないの?」
「あん?戦闘系?」
「ほら、こういうのってだいたい戦闘系のスキルとかもらって無双する感じじゃん」
「・・・。」
「あれ?」
話題を変えるつもりで振ったら誠二が何やら沈んでいる。
「ど、どうしたんだ・・・?」
「いや、そんなのあったら今頃俺は服屋やってねぇよ・・・と」
「あ、ああ・・・」
影を背負った彼に俺は苦笑した。
####
「ふぅ、行ったか」
ケインジス・ラーデンス――この世界の王宮魔法使い次席である『燃える乙女』の二つ名を持つレイ・スーランの一番弟子・・・か。
「・・・まぁ、流石に諜報部の資料にも転生者とは記述されてなかったが、まさかねえ」
チラリと手元を見ると俺の所属する諜報部の部下から渡された資料があった。それは、ケインジス・ラーデンスについてのもので、上辺の物しかなかった。
「『閃殺』ガランド・ラーデンスと『治癒士』エレナ・ラーデンスの第一子。男性。三歳にして、魔法の才を示し、『燃える乙女』に弟子入り。その後、王都にて王宮魔法使いダーリア・ガゼンの弟子のクルジンと試合をし、圧倒する。・・・ほんと上辺だけだな」
それを見て俺は決める。彼が転生者であることを上に言うか否かを。転生者は技術的にも、あるいは戦力的にもプラスになるものが多いため、どこの国も確保に勤しんでいるわけだが、正直、俺はケインについては勧誘を迷っていた。
「・・・ったく、あの馬鹿げた魔力量はなんだってんだ」
実のところ、俺がこの世界に来て能力は三つ授かった。一つは、あいつの前で披露した『糸を生み出し操る能力』。この能力、実は操るだけでなく、糸の切れ味を上げたり、耐久を上げたりすることもできて、諜報・・・及び暗殺にはかなり重宝している。
二つめは『能天気』。読んで字のごとく、はきそうなプレッシャーを与えられても耐えるし、かなり緩和することができるって能力だ。
三つめは『魔力視』。魔力の流れを追うことができる能力だ。この能力は脳にかなりプレッシャーを与えるのだが、『能天気』のおかげでかなり使いやすくなっている。
で、その三つめの能力を使ったときに、思わず『能天気』が発動していないのではと思うほどのめまいを感じたのだった。正直、魔力量だけでも、今まで俺が見た中で最大。それだけでも国が手元に抱える価値があるのはあるのだが・・・
「過ぎた力は身を亡ぼす・・・か」
強力な力を持った悪人や悪役はその力によって自滅するといった展開がなされることがある。実際、彼を手元に置けたとしても、彼に絶対命令を利かすための抑止力、のようなものはない。脅しをかけるにしても、彼ならその脅しを強引に解決するかもしれないし、場合によっては反発し、国を滅ぼしかねない。・・・また、運よく召し抱えられたとしても、他国がそのあまりの力に結集しこの国とほかの国の連合の戦争となってしまえばいくら彼でも押し返すことはできないだろうし・・・俺なら劣勢であると思ったら逃げる。
つまるところ、彼の存在はデメリットよりなのだ。だが、転生者という言葉に踊らされて彼を確保しようとする貴族がいないとも限らない。・・・つまり
「・・・彼が転生者であるということは俺の胸にしまっておくべきか。・・・はぁ、息抜きに服屋をしていたってのに、余計なことに手を出しちまったな・・・」
服屋は趣味と実益をかねて始めた。もともと、神経をすり減らすような職場なのでこういった息抜きも大切だと思って始めてみたが、要接触目標の彼の姿を見て行動に移ったのが間違いだったな・・・と彼は嘆息する。せめて、服屋に集中し、後日改めて接触すべきだったな。
「・・・今更悩んでも仕方ない。全く、嫌になるぜ」
そう言って俺は手元にあった犬の仮面を被る。すると、気配を感じていた部下がやってきた。
「カリア様、彼は・・・?」
「ああ、話は終わったので返した。・・・ただの子供だったぞ」
「そうですか。・・・では、失礼します」
俺と同じように犬の仮面をかぶった彼はそう言い残して去る。上に報告しに行ったのだろう。
「はあ・・・やれやれだ・・・」
そう言って俺、旧名神谷誠二――諜報部長として受け継いだ名前がカリア・セイビアス――は酒場から出ていった。
・・・よもや、夏休みに五連勤三昧とか思わなかった。今日から五連勤。
・・・あと、誠二さん・・・なんで諜報部になっちゃんったんだろ・・・。プロットではただの一般人の予定だったのに・・・。




