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第二十六話 師匠との試合

前までのあらすじ:五年後の王都でケインは順調に育っていた。

***一か月も開けてしまってすみません・・・!すべてはテストが悪い・・・そして、遅筆な私も・・・。

 師匠の使い魔(ベルフィン)に連れられて俺は屋敷に帰ってきた。・・・まあ、大仰な言い方をしているわけだが今朝出たばかりだし、毎日出たり入ったりしてるから今更新鮮味もないのだが。


 そこまで回想して、俺は屋敷を改めて見る。立派なもんだ。下手なほかの貴族の家よりでかいし、間違いなく俺の実家よりでかい。


 とか、そんなくだらないことを考えていたらベルフィンに嘴で突っつかれた。


「いててて・・・。やめてよベルフィン。すぐ行くって」


 そう言ってベルフィンのつつくから解放された俺は門をくぐった。

 と思った瞬間、俺に向かって何かが投げつけられた。


「ん?」


 そちらに視線を向けると同時に、炎魔法、オリジナル魔法の『燃視』、見た対象を燃やすなんて単純・・・に見せて結構制御が難しい魔法だ。・・・って、そんな魔法ではない。いや、ないことはないが、つい使ってしまうと視界内全焼してしまう危険なものだからな。封印してる。

 じゃあ今のをふせいだのはいったい誰なのかって話だが、それは俺の黒猫と同じように俺の魔力で作り上げた使い魔――ボディーガード役の闇に棲む者(カゲヌシ)さんだ。名前の通り俺の影の中に潜んでいる。だが、その中にいても魔法の行使は可能なので、こうやって俺の気付かない危険に事前に対応してもらっている。


「っと、燃えちまった。一体何を燃やしたんだ・・・?」


 そう呟いて俺は地面に落ちた燃焼物を、いやこれは燃えきってない。ということは金属か。手のひらサイズの先が刃物になってる十字架のようなもの・・・言い換えたら手裏剣だ。俺の知り合いに剣とかそういった者を投げてくるやつは数人いるが、そのうちの一人はこの屋敷にもいるし、手裏剣も使う・・・つまりは、そいつの仕業ってことだな。


「まったく。キンゾウ。出てこい!」


 俺がそう声をかけると、突如近くの木の中から人間が飛び出してきた。そいつは手元に短いナイフを持っていてそれを突きささんとばかりに構えながらこちらに突っ込んでくる。


 だが、俺は慌てない。伊達に場数は踏んでないからな。


 そいつの直線進行上に無詠唱で土壁を一つ、作り上げる。


「ッ・・・!!」


 だが、奴の反応速度も然るものだ。その壁を見て、自身の突進が妨害されていると悟った瞬間、直角(・・)に曲がり、再び直角に曲がってこちらへと突っ込んでくる。


 ・・・ふむ、奴の身軽さからしたら飛び越えてくると思っていたが、まさか壁を普通によけてくるとは。まあ流石に速度出して走ってるのに急に直角に曲がれる人間なんて普通いないけども。あては外れたな。


「覚悟ッ!!」

「するわけないだろ、カゲヌシッ!!」


 すさまじい速度で迫ってくる奴に対して、俺は使い魔を呼び出した。奴が木から飛び出してきた時のように影からすぐに飛び出してきたカゲヌシはそのまま俺をかばうように前に出る。そして、突っ込んできた奴を受け止めて、拘束した。


 カゲヌシは、魔力から作られたという出自から、実体ある存在ではない。もちろん魔力をいじれば実体を作り出すことも可能だが、今回は必要なかった。なにせ、自分に突っ込んでくる人間を、さながらとりもちが突っ込んできた獲物をくっつけて捕らえてしまうように、拘束してしまうだけなのだから。結果、俺の目の前で、俺にむけてナイフを刺そうとした奴が全身にとりもちを食らったかのような姿で拘束されるという絵が繰り広げられた。・・・カゲヌシさんは全身黒一色の、赤い二つの瞳をもつだけだから黒いとりもちに捕まえられたかのようだが。


「さて。今回も俺の勝ちだな、キンゾウ」


 そう言って俺は目の前の少年――俺の一つ下の七歳児、キンゾウを見下ろす。

 黒い装束に身を包み目以外の肌をほぼ露出しない恰好をした、忍者のような七歳児を。


「クッ・・・!今回も拙者の負けでござるか・・・!!」

「あぁ、そうだな。・・・ってか、真剣(マジ)に殺しに来てんじゃねえよおっかない」


 そう言って俺はキンゾウが握ったままのナイフを叩き落とす。全く、人に危ない刃物を向けちゃいけませんって親に習わなかったのか、という軽口をたたこうとしたがやめた。こいつにはそもそも両親がいないのだ。

 いや、別にこいつも俺が作った使い魔とかいうわけでなくこいつは孤児なのだ。・・・暗殺ギルドで暗殺者として育成されていたという但し書きがつくが。・・・なんでそんなのが身近にいるって?それはまた別の機会に話そう。


「・・・で?お前がここに来てるってことは師匠はもう試合場に行ってるってことでいいのか?」

「・・・むぅ・・・そうでござる。拙者は所謂めっせんじゃーというお役目を承ったのでござる」


 こいつが襲ってくるのはほぼ日課となっている。・・・だが、それは俺の師匠の前では決して行われない。なんでかというと・・・まあ、師匠の怒りを買うからだな。暴れるなとかいって超火力を叩き込まれるかもしれないのでだ。


 ちなみに、普段、試合がある日の普段は師匠が門の近くで俺の帰りを手ぐすね引いて待ち構えていることが多いのだが、俺の帰りが遅れたりするとせっかちな師匠はあっという間に試合場に行ってしまう。そこで俺は師匠と試合をするのだ。・・・実践的魔法訓練とも言う。


「・・・。というか、お前も懲りないな」

「・・・拙者は、絶対におのれを殺してやるのでござる!」


 キンゾウの返事に俺は辟易しながら俺はカゲヌシにしばらくの間の捕縛を指示して奥に向かう。キンゾウの「逃げるでござるか―!!」「この卑怯者―!!」「それでも男でござるかー!!」とか言ってる声は無視する。・・・卑怯とかって、いきなり手裏剣投げてきたあいつには一番言われたくなくて結構イラッとしたが我慢して足を進めた。


 目指すは、試合場だ。


####


「やぁ、遅かったね」


 試合場に着くと、半そで半ズボンという大変動きやすそうな恰好をした師匠がそこにいた。俺の教えたラジオ体操をやりながら。


 師匠曰く、ラジオ体操は準備運動に最適なのだそうでかなり気に入っていらっしゃる。体を動かしまくるような特訓をする時は特に念入りに行っている。・・・まあ、俺も今からするけどね。


「ちょっと途中で色々ありまして、遅れてしまいました。すみません」


 そう師匠に謝ってから体を動かし始める。・・・しかし。チラリと師匠のある一点を見て思った。


「揺れねえな」

「おっと、ケイン君。ひょっとして死にたいのかい?」


 やべえ、声に出てた。だが、そんなことを俺はおくびにも出さずに答える。


「何のことです・・・?」

「ほら、ボクの胸が小さいとか貧乳だとか激しい運動してても揺れないなとか・・・」


 たらり、と俺の額に一筋の汗が。や、まったく鋭すぎる。


「い、いや。気のせいでは・・・?」

「そうかい・・・?」


 俺をうさんくさげに見る師匠だが、どうやらごまかされてくれたようだ。さて、と。と体操を終えた師匠は、腰に手を当てて首を一回回す。


「・・・それじゃ、お仕置きタイムかな」


 ・・・ごまかされてくれなかった。


####


「炎神よ、仇なす敵を焼き尽くせ、『豪炎』」


 短縮詠唱された『豪炎』を師匠は最初っから使ってくる。・・・つか、これ大技じゃん!?

 流石に当たったら洒落にならないレベルの攻撃なので俺はその攻撃を避ける・・・のではなく受けた。無詠唱で展開された水の壁によって『豪炎』は容易く掻き消さ・・・れない!?


「うおっ!!」


 水の壁を貫通してきた『豪炎』が俺に襲い掛かる。だが、俺はその前に移動していたため、当たることはなかった。


「チッ」

「ちょっと師匠!?いきなり攻撃的すぎません!?」


 繰り返そう。一応これは訓練だ。間違っても戦争や、相手を殺す殺し合いなどではない。試合だったら試合だ。っていうか、弟子を殺そうとする師匠とかやめろ!


「攻撃的・・・?先に口撃してきたのはそちらだろ?」

「いやいやいや!俺何も言ってない!?」

「やられたら五十倍返し。それがボクの掟だ」

「そんなの聞いたことねぇ!」


 思いっきり叫ぶ俺に対して師匠は静かなものだった。・・・そう、嵐の前の静けさのように。


「煩い。とにかくこれはお仕置きタイムだ」

「違いますよ!?試合ですよね!?」

「炎神よ、撃ち抜け『炎矢』!!」


 師匠が詠唱をすると今度は・・・大量の炎の矢が空中に浮かび上がる。その矢先はこちらに向いていた。

 この五年、成長したのは俺ばかりではない。もちろん、師匠も成長・・・というかスキルアップしている。五年前よりも魔力の扱いが熟練した師匠は、なんと一度の詠唱で、同じ魔法を複数回発動できるようになった。・・・上級魔法のほとんどはまだ無理だが、中級程度であれば十数回分重ねられるようだ。・・・つまり一回の短縮と十数回の無詠唱のようなもので、十分凶悪である。


「あぶなっ!?」


 とはいえ、こちらは無詠唱の使い手なのだ。ど派手にでかい壁を作り出して防ぐことは造作もない・・・と言いたいが、師匠の魔法は生半可な壁など余裕でぶち抜いてくるのでそれなりに魔力を込めつつ・・・かつ、師匠も魔力を込めていたときに備えて回避も同時に行う。


 はたして『炎矢』は・・・壁を貫いていた。


「やっぱり魔力込めてんじゃん!死ぬとこだったよ!!」


 俺はそう毒づきながら無詠唱で『光学迷彩』を使う。光を歪曲させて姿を隠す。と、同時に『短距離転移』を使用して位置をわからなくさせる作戦に出た。


「・・・!そこ、炎神よ、撃ち抜け『炎矢』!」

「・・?!」


 だが、いつもなら居場所が分からなくなるはずの師匠が的確に俺のいる位置に『炎矢』を放ってきた。そのことに気付いた俺は瞬時に『短距離転移』をしてしのいだ。だが、またその位置に『炎矢』が打ち込まれてきた。再度の転移、その先にもまた。

 三度も偶然が続くはずがない・・・ということは、


「まさか、師匠・・・この魔法を見破ったのか・・・?」


 その俺の呟きに返答するかのように俺に飛んでくる『炎矢』。俺はそれを躱す。と、同時に『光学迷彩』を解いた。そして、師匠に向かって『炎矢』を放つ。


 「炎神よ、撃ち抜け『炎矢』!」


 しかし、十分な距離があるために師匠には対応されてしまった。まぁ・・・炎魔法が得意な師匠ならこのくらい当然だろう。・・・続いて、

 無詠唱で数十個という『炎矢』を出現させる。


「なっ・・・!」


 師匠が息を飲むのが見えたが、正直今の俺はこの魔法を制御するので精いっぱいだ。


「射出!」


 集中を途切れさせそうになる自分を叱咤するように大声で叫ぶ。そして・・・数十の『炎矢』が師匠に飛びかかっていく。


「炎神よ、我を災厄から守り給え!『炎の加護』」


 刹那のあと、師匠の体は炎に包まれた。


「やったか・・・?」


 あとから思い返せばあまりにもあまりなセリフをつぶやいていた俺だったが、その時は必死だった。

 だが、やはりフラグというのは回収されるようだ。

 炎に包まれたままの師匠は何故か・・・無事なようだった。全身が火傷したわけでもなく、まるで炎を纏っているかのように。


「え・・・!?」


 その光景に愕然とした俺は次の師匠の行動を見逃してしまう。師匠は自身の足元から炎を射出して、まるでロケットエンジンに火がついたかのような勢いでこちらへと高速で接近している。

 それに気づいた時には師匠のこぶしが俺の胸をたたいていた・・・。


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