Side3 復讐鬼の誕生
前Side話まであらすじ:僕こと、ジェイスの住んでいた開拓村、『ジクンシャ』炎上。
泥沼の中から引きずり出されたような感覚で僕の意識は戻った。ずるり、と泥をまだ纏っているかのように思考にもやがかかっている。
ぼーっとした頭であたりを見渡す。・・・馬小屋のような建物の中にいた。だが、村の馬小屋はどこも知っているが、そのどこでも見たことない景色だし・・・そもそも馬のにおいがしない。
そこまで考えて僕は気付いた。そうだ、村はどうなった。ガバッと起き上がる。すぐ立ち上がり近くのドアへ行きドアを開けようとした。
「!・・・なんで!!」
だが、ドアは開かなかった。鍵なんてものはないから外から閂でもあるのか、あるいはその代わりの物で抑えられているのか・・・とにかくドアからは出られない。
すぐに周りを見渡す。だが、どの窓も板が打ち付けてあり脱出できそうにない。・・・しかたない。こうなれば、魔法を使うしかないか。どう決意し、魔力を操ろうとしてうまくいかないことに気付く。その原因はどうやら首元にあるようだが・・・そう思って首元に手をやってそこに首輪があることにようやく気付いた。
「なんだ・・・これ」
首輪の形を確かめようと触っていくと、ジャラジャラと首の後ろの方で音が鳴った。そこに触れると途中から、何かに引きちぎられたように無くなってる鎖であることが分かった。つまりこの鎖は僕をこの場に留めておくものではないということだ。・・・もっとも、この首輪のせいで魔法が使えず外へ出れないのだから一緒なのだが。
と、そのときだった。ドアが開きだした。
「!?」
今まで何の気配もなかったのに、いったい誰が、と思った僕はドアから離れて魔法の準備をする・・・そうか、今は使えないんだった!!
慌ててファイティングポーズをとるが、その前にドアは開ききってしまった。
そこに立っていたのは女性だった。体全体を覆うような黒いローブを身にまとって、耳に耳飾りをしている・・・控えめに言っても美しい女性だった。少し釣り目な赤い目で、すっとした鼻を持ち、色気を感じさせるような赤い唇を持ち、そして、死者のように不健康な青白い肌をしている女性だった。
彼女は僕が起きているのに驚いたかのように目を白黒させている。それを見た僕は自然と構えを解いていた。
「えっと・・・あなた・・・誰ですか?」
誘拐犯の可能性をも考えていたのに、目の前の女性がどうみてもそっちの方関係でないと思った僕は警戒もなしにそう問いかけていた。
「え?わ、私はアクルーシャ、・・・よ?」
相変わらず女性は動揺しているようでたどたどしく返答してきた。・・・この様子を見てもとても誘拐犯などではなさそうだよな。そう、僕は心の中で思った。
と、その時僕はここが見知らぬ場所だということを思い出した。そもそも、僕は何故こんな場所にいるんだろう・・・。そう思った
「そういえば、どうして僕がここにいるか知りませんか・・・?」
「・・・ッ!」
僕が問いかけた瞬間、女性――アクルーシャの目にあった困惑の色が同情の色に変わる。
「覚えてないのかしら?」
「え・・・?なにを・・・」
きょとんとする僕に、彼女は一瞬悲壮の色を見せたと思ったが、すぐに普通の表情になった。
そして、彼女は言い放った。
「あなたの村、燃えたのよ」
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「あああ・・・・あああああああ!!!!」
彼女の言葉を聞いた瞬間、まるでいままで開けられていなかった扉が開き、そこから風が入り込むかのように――あの日の記憶がよみがえる。
燃える家の熱さ。木っ端微塵になった家。僕に噛みつこうとした瞬間首が飛んだ吸血鬼。・・・そして、こちらを食らおうとして口を開けたグール。
「あああ・・・・・!!!!!!!―――あ」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶ僕はまるで、シャットダウンされたパソコンのように感情がフラットになる。
「・・・あ・・・?」
「落ち着いたか?」
そして気付くと僕は彼女に抱きしめられていた。女性特有の柔らかい母性に包まれた。そして、僕は安堵した。安堵・・・?
「すまない、今回は私の失態とも言える」
「なっ・・・」
だが、続く言葉に僕は身を強張らせる。
「すまない――同族の吸血鬼たちは殺しておいた」
「きゅうけつき・・・?」
同族の吸血鬼、その言葉が僕の心に突き刺さる。脳裏に浮かぶあの男吸血鬼の顔を捨てておく。だが、それはさておき、同族ということは・・・。
さきほどからこの女性、柔らかさはあるのだが、温かさというものはなかった。そう、体温が低い感じだ。
「ええ、私は吸血鬼。・・・真祖ってものよ」
「しん・・・そ・・・?」
ゴクリと唾を飲みこむ。
「ええ・・・、私が最初の吸血鬼ってことね」
バッとすぐにはなれファイティングポーズをとる。
それを見た彼女は一瞬だけ悲しそうな顔をして、すぐに表情を消した。
「恨んでくれもいいわよ。なんなら私を殺してくれてもいいわ」
そう言って手を広げてくる彼女の顔を見ると真剣な顔をして僕を見返していた。
変わらず僕は警戒して目を見つめ続けるが彼女の表情に綻びが生じることは無かった。…結局、僕が根負けした。
「失態と言いましたね…どういうことです?」
僕は質問をした。すると彼女は苦々しく顔を歪めて答えた。
「私が…私が動物の血で我慢していればこんなことにはならなかった…」
「動物の血……?」
「ええ…吸血鬼の真祖は動物の血でも食欲を満たせるのよ。…人間の血には敵わないけれども」
そこまで言って彼女はほう、と息をつき恍惚とした表情を浮かべる。
「・・・でも、それが原因でこの世に吸血鬼が広まってしまったのよ」
「・・・」
そう言って彼女はこちらに向き直る。
「そして、もう一つあなたにあやまらなければならないわ」
「・・・僕に?」
深刻そうに告げる彼女に僕は息を飲み続く言葉を待つ。
「あなたは吸血鬼の真祖になったのよ」
「・・・え?」
真祖・・・?
「真祖って、原初の吸血鬼・・・?でも、僕は人間で・・・」
「・・・あなたの治療をする時、損傷している部位を治すために私の部位を移植したのよ。本来なら、なんの影響も及ぼさないはずだったのだけれど・・・相性が良すぎたようね」
「相性・・・?」
「吸血鬼の因子とあなたがね。埋め込んだ部位からあなたの体へと影響を及ぼしてあなたは吸血鬼の真祖・・・そう、私と同じような存在になった」
「つまり、僕も吸血鬼の真祖ってことですか?」
自分の手元を見てみるといつもよりは血色の悪く見える肌が、見えた。
「そう、ね。だから、あなたが人を噛めば吸血鬼が生まれる。だけれども、真祖はただの吸血鬼とは違うわ」
「ただの吸血鬼とは違う・・・?」
彼女の言葉につい聞き返してしまった。
「ええ。普通の吸血鬼の弱点である、日光や十字架、聖水や流水などは真祖には効かず、血を吸わなくても死ぬことはない。それに、吸血鬼が血を吸った後に生まれるのは、遥かに劣化した食人鬼になる。そこからも吸血鬼とは違うのよ」
「・・・」
完璧な人外になってしまったようだ。だが、そんなことはどうでもいい。
「・・・つまり、殺すことはできないということですか?」
「いえ。いくつかあるわよ。吸血鬼にすべての血を吸われる。聖剣で心臓を貫かれたりしたら真祖も死ぬ。だけれど、それ以外では寿命で死ぬこともなく、首を飛ばされても死なず燃やされても死なない。そういうものなのよ」
「・・・つまり、今の僕でも殺せるということですね」
そう言って彼女の目を見るが、彼女の目は何の感情の色も浮かんでいなかった。ただ、すべてを受け入れるような表情をしていた。
「殺したいのなら、いいわよ。あなたにはその権利があるわ」
「・・・いや、殺さない」
「・・・へえ?」
僕の答えを聞いた彼女の顔には好奇心の色が浮かんでいた。
「あんたを殺しても意味がない。・・・どうせなら、他の吸血鬼を殺ってやる」
「ふむ、そうかな?まあ、あなたがそういうならそうでしょう」
「・・・じゃあな。世話になった」
僕は身を翻しドアに向かう。その背中へ声がかけられた。
「その気配だと『憤怒』に目覚めそうね。いいことよ――それでこそ、ニンゲンを刺激した甲斐があったってものというもの」
「――何!?」
その声を受けて僕は即座に振り向く。
だが、そこに既に彼女の姿はなかった。
「・・・ニンゲンを刺激した・・・?・・・どういうことだ・・・?」
最後に残された彼女の言葉を、脳内で反芻しその意味を考える。考えて考えて考えつくす。そして、僕は一つの答えにたどり着く。
「集団の中には吸血鬼がいた。・・・つまりそういうことか」
吸血鬼が人間に協力して僕の村は襲われた。それがきっと真相だ。
「・・・クソ!クソクソクソクソ!!!」
ということは、僕はまんまと敵の一人を逃したのか。目の前にいながら。そして殺すこともできる状況にいたのに・・・!
村にいた面々の顔が脳裏に浮かぶ。そして、顔が浮かび上がるたびに怒りもふつふつと湧く。
「殺してやる・・・・!!!吸血鬼も、その吸血鬼に騙された愚かな人間も!!!」
怨嗟の声を上げて僕は天を仰ぎ見る。そこには血のように赤い月が浮かんでいた。
相変わらずの遅筆すみません。ですが、今回は内容は少なめですが、どうしても掘り下げておく必要のある話だったので、書き上げました。次回からは王都編に戻ります。




