第二十一話 パーティー会場にて
前回のあらすじ:ケインとクーは第二王子主催の舞踏会前にお城を散策していた。
「はぁ~、結構人いるんだな・・・・」
「ん・・・人、いっぱい・・・」
パーティー会場についた俺とクーは人の多さに圧倒された。クーはこういったパーティーに参加するのは初めてらしいし(誕生日パーティーは身内だけでやっていたようだ)、俺に至っては前世も合わせて約三十年、こういった手合いのパーティーには参加したことがない。どういったパーティーって?そりゃ簡単だ。映画とかの『お貴族様』方がたびたび主催するダンスパーティーみたいな雰囲気のそれだ。
立食形式だからそこまでマナーに拘らなくてもいいのはまだ救いかもしれない。・・・もっとも、最低限のマナーくらいは当然あるわけだが。
俺はそんなこと考えながら立食コーナーの隅辺りでバクバク食ってる人間のことを意識の外へ置く。俺は何も見なかった、いいね?
さて、と周りを見渡したところで後ろから肩を叩かれた。誰だと思って振り向くと、そこには第二王子がいた。
「うむ、来てくれたようでなによりである」
「ああ、ガイアス殿下。はい、ご招待ありがとうございます」
「よいよい。此度は余と貴殿たちの親睦も兼ねているのである」
そう言って第二王子は周りを見渡した。
「此度に招待したのは王宮魔法使いに師事している十二歳以下の子供だけである。階級は貴族、平民などいろいろあるのであるな。故に、マナーなどは気にせずともよいのである」
「子供だけ・・・ですか?」
「うむ。まあ、余も軍に近い立場であるが故にこうやって親睦を深めておくのは後の損にはならんであろう?」
「そうですね。とてもいい考えだと思います」
つまり、今後も定期的にこの会は開かれて自分のシンパを増やしていこうという作戦だろう。
言わずもがな、戦争の大部分は歩兵や一部の腕の立つ戦士によって成り立っている。だが、その裏側ではそういった者たちを支援する魔法使い、あるいは一気に効果力で敵を討ち倒す魔法使いがいる。つまるところ、表向きは兵士たちが主だが裏では魔法使いが戦争のメインともいえるだろう。つまるところ、こうして『将来の王宮魔法使い』候補たちを自身のシンパにすることによって王位を確実なものにしようという魂胆だろう。先日、軍部に行ったときには兵士たちは皆第二王子を尊敬していた節があるから、軍部はほとんど彼のシンパといっていい。だが、それに王宮魔法使いまで加わればほぼ王位は確実だと思われる。
なるほどね・・・と俺は思った。相手を子供に限定するのも、子供相手なら懐柔しやすいからだろう。大人であれば歓待をうけたりパーティーがあって第二王子に話しかけられたとしても、様々な事情から警戒したりされて話もうまく進まなくなるかもしれないが、子供ならそこまでの考えに至ることは少ないだろう。
もっとも、俺はそれでもいいと思うけどね。飽くまで自由意志だ。たとえ、それが誘導された結果だとしても、それは変わるまい。
頻繁に出たり入ったりするメイドさんを見送りながらそう思った。・・・なんでこんなに食べ物を運び込む必要があるんだろうか、と思っていると・・・部屋の隅でバカスカ食ってる少年の姿が見えた。記憶から抹消。
「・・・とりあえず、今回は余との親睦よりも、他の者たちと親睦が深めた方がよいのではないか?」
「・・・そうですね。では、またあとで」
「うむ、あとで、な」
そう言って第二王子とは別れる。ちなみにクーはずっと俺の背中に隠れっぱなしだった。
「クー、そんなに第二王子が怖いのか?」
「・・・・・・・うん」
そうか、残念ながら第二王子がクーという癒しを得る日は遠いのか・・・。まあ、それはいいか。
そんなことを益体もなく考えていると背後から「やあ」と声をかけられた。
「・・・えっとこんにちは?」
「・・・こんにちは」
振り返るとそこにいたのは、一人の少年だった。緑髪を短く切りそろえて、目は赤色だった。彼はにこにこしながら言葉を続ける。
「初めまして、僕はヴァリナス。ヴァリナス・キリガだ。気軽にヴァーリって呼んでくれ。師匠は『氷冷の魔女』、シンシア・アーカー。よろしくね」
「あ、ああ・・・。えっと、俺・・・じゃなくて僕はケインジス・ラーデンス。ケインって呼んでください。えっと、師匠は・・・」
「知ってるよ。『燃える乙女』、レイ・スーラン、でしょ?」
「ええ・・・そうです」
俺の師匠の紹介にやや食い気味に反応する彼――ヴァーリに気圧されつつ俺は辛氏返事を返した。チラリと背後を見ると相変わらずクーは背中に隠れていた。
「あ、その背中の子は?」
それを見てヴァーリは質問してくる、がクーは答える様子がなかった。それに俺は苦笑して代わりに挨拶する。
「こっちは、僕の師匠の妹のクリス・スーラン。一応師匠は同じだから姉弟子?になるのかな」
「そうかい。よろしく、スーランさん」
「・・・ん」
なんとか返事をしたクーに俺はふう、と息をつく。
「しかし、まさか君に逢えるとは思わなかったよケイン君」
「・・・?僕を知ってるんですか?」
「何言ってるんだい、君」
キョトンとする俺に、呆れたように肩をすくめながらヴァーリは言った。
「年上の魔法使い相手に一歩も退かぬどころか終始押して勝つような四歳の魔法使いなんてそうそういるものじゃないよ」
ああ、この間・・・というか、昨日の話か。その後の魔法使いの訪問の方が頭に残っていて正直、数日前の記憶のようだ。いや、ほんと自身を仮死状態にするとかねえ・・・?
「ま、そんなわけだから君は注目人物なわけだ」
「僕がですか・・・?」
「実力はあるし、王宮魔法使いを目指す人からしたら強力なライバルだからね。聞いたよ、君も王宮魔法使いを目指しているんでしょ?」
「ええ・・・まあ・・・」
ヴァーリからの質問を受けて軽く肯定しておく。第二王子の前ではそういう旨の発言をしてしまったわけだしな。しかもそれが元で昨日の試合もあったわけだし下手すると関係各所に知られてしまってると思ったほうがいいか
「奇遇だね、とは言わないけど。僕も王宮魔法使いを目指しているよ。僕も師匠みたいに優秀な王宮魔法使いになりたいさ」
「魔法使いになるって時点でやっぱりそうですよね」
「ああ。ここにいる人もほとんどがそうだと思うよ」
そう言って周りを見渡すヴァーリ。というか、こいつ何歳なんだ?不思議に思ってよくよく観察するが、どう見ても小学校三年くらいなんだよな・・・。そんな歳でこんな考え方ができるよな。正直、先日の・・・えっと、喧嘩を売って来た彼の方が年相応だったと思う。立場相応とは言わないがな。
・・・え?俺?俺は中身が大人だから関係ないだろ。ある程度はこの体に引きずられているのかやや幼くなってる気がするけども。
「ま、今後君とはよく顔を合わせることになりそうだから声をかけたってだけさ。じゃ、お話はこの辺で」
「ええ。ありがとうございました」
「いや、いいさ。困ったときはお互いさま、だよ」
そう言ってヴァーリは踵を返して立ち去る。どうやら他の子に話しかけに行ったようだ。本当に顔見せが目的のようだな。この会合の表向きの理由は確かにそうなのだが。
「・・・ねえ」
「ん?なんだい、クー」
ヴァーリが立ち去ってから袖をくいくいとクーが引いていた。可愛いな、この子。
「・・・困ったときは・・・お互いさま・・・って、何・・・?」
「え・・・?あ、ああ。その意味は、まあ簡単だよ。困ったときはお互いに助け合おうねってくらいの意味だよ」
そこまで説明してから俺は待てよ、と思った。この世界のエテノック語という言語を俺は実に日本語のごとく操れているからこそ分かることがあるのだ。
「・・・ケイン?」
それは、そう日本語の言い回しとこの世界の言い回しが違うというところだ。もちろん、大体は似ている。クライモンキーが木から落ちる、サーペントの川流れなど、一部が違うだけのものがほとんどだ。そして、俺の知る限り『困ったときはお互いさま』という言い回しはこの世界にない――。最も、俺はこの世界で生まれそしてローズが帰ってからは一心不乱に魔法の修業をしていたので言語の方の成長はあまりないのだし、日常生活でそこまで使うような言葉でもないから聞いたことがないだけで実際は存在しているのかもしれないが・・・いったいどうなんだろうか。
「・・・ケイン・・・ケイン・・・」
やはり・・・彼は俺と同じ転生者なのだろうか・・・?
「・・・ケイン・・・」
「ん?え、ああ。クー、何?」
「・・・さっきから・・・呼んでも・・・返事・・なかった・・・」
「あーごめん。考え事をしていたんだよ」
どうやらクーは俺を呼んでいたようだが考え事に夢中で気づけなかった。全く全く。駄目な奴だな俺は。
「なにか食べに行こうか?」
そう言ってチラリと立食コーナーを見てみると・・・・全滅していた。
立食コーナーの近くでは妊婦のように腹を膨らませた少年が床に座っており、腹をとんとんと叩きながら「げふっ」っとげっぷをしていた。
その後ろではメイドたちが慌てているのが見えた。
「・・・」
「・・・」
俺とクーは無言になった。
「えっと・・・」
「おい、そこの」
やばい。会話が見つからない・・・。そう思って慌てていた俺に背中からかける声があった。
「はいっ!なんで・・・ん?」
捨てる神あれば拾う神ありか!と思って振り向くとそこに立っていたのはこの場に不釣り合いな人物だった。
その人物は、どこかどう見ても子供ではなかった。でっぷりと脂ぎった茶色の髪に太めの顔を「ニチャリ・・・」という擬音が尽きそうなほどに歪め、無造作に生えている顎髭を撫でつけながら、あまりに大きくなりすぎたお腹を抱えた男がそこにいた。
オークかよ・・・。
「ぶひひっ、お前はそこをどけ。ワシはそこの女子にようがあるだけじゃ」
鳴き声――もとい、笑いまで豚に似てやがる・・・。いや、違う。豚に失礼か。では、仮称オーク男としよう。
というか、そこの女子って誰のことだ・・・と思って目線をたどると、俺の後ろに隠れているクーと目があった。もう一度、オーク男の目を見る。その目は情欲の色に濁っていた。・・・おいおい、冗談だろ・・・?
「いやです」
気づけば俺はそう即答していた。
「なに・・・?」
その言葉にオーク男は眉を顰める。そして、だんだんと目が吊り上がり
「このワシを無視するか、この愚民め!!親衛隊よ、こやつを捕え・・・」
「何をしているのであるか?」
いつの間にかオーク男の後ろにいた面々にオーク男が命令しようとしていたところ、それをさえぎるように低い声が聞こえてきた。その声は聴いたことがある。振り返ると、やはり第二王子だった。
「ぶひっ、・・・兄上」
「・・・余は何をしているか聞いたはずであるが?」
「ぶひっ、ぶひっ。兄上には関係などないじゃろう!」
第二王子の詰問に、オーク男は答えるそぶりを見せず、さらに第二王子にむけてあっちに行けとばかりに「しっしっ」と手をはらった。ってか、こいつ今「兄上」とか言わなかったか・・・?
「関係など大いにあるのであるな。なにせ、この宴は余が主催である。問題が起きるのであれば、余が対処するのが当然ということであろうな」
だが、第二王子は全く応じずオーク男にそう返した。そして、「それに」と続ける。
「それに、そこの少年は余の賓客であるからな。特別目をかけるのも当然であるな」
「ぶひっ、これが賓客・・・?」
そう言ってオーク男は俺を見る。その目には隠し切れない恨みと怒りと殺意が宿っていた。
「さて、弟よ、これ以上何か問題を起こすのであれば強制退出も仕方なしと考えておるがどうなのであるか?」
「・・・ぶひっ、今日は帰ってやるのじゃ」
そう言ってオーク男はどすどすと会場から出て行った。
俺はそれを見届けて第二王子に頭を下げた。
「助かりました。正直、どうすればいいか分からなかったもので」
「仕方あるまい。貴殿もまだ四歳である、むしろおびえずに立ちはだかったのだ。ほめるべきである。しかし、厄介な奴であるな」
「・・・第二王子、つかぬことをお聞きしますが先ほどの・・・」
「あれは弟である。腹違いではあるが半分は同じ血であるな」
「ということは・・・」
「うむ。あれがこの国の第三王子、ギュースである」
そうか、あれが、と先ほどのオーク男の顔を思い出す。目の前の第二王子とは似ても似つかぬ姿だがあれが第三王子だったのか。ということは、第二王子の政敵ともいえるな。
とはいえ、あれでは話にならないような気が・・・。いや待った。この世界ではそんな考えは捨てるべきか。そう、他の候補者を消してしまえば唯一残った王位継承者として王位を継げるとも考えるべきか。もっとも、相手はそれを考えていそうだが。
「余とて同じ血を分けた兄弟と争うのは気が進まないのではあるが、この国をよりよくするためであるな」
そう言っている第二王子に俺は頷く。正直な話、あのオーク男からは嫌な気配がした。あの男には味方しない方がいいだろう。俺は・・・第二王子に付くべきと考えた。
しかし、まさか。この会場で第三王子と出会うことになろうとは思わなかった。今回のパーティーの目的はあの第三王子に対抗するためにシンパを増やすという第二王子の主催であったが、その場に堂々と出てくるとは・・・。意外とあいつは侮れないのかもしれないなと俺は思った。
第三王子の情欲の目の前に晒されて涙目になってるクーの頭を撫でながら、若き王宮魔法使い候補――弟子たちに演説している第二王子を見ながら俺は決意する。
「こうなったら、とことん第二王子に付き合っておくか」
国をよくするためには良い王が必要だ。そして、あくまでも今だけの印象となるが第二王子の方がいいように思える。だからこそ、第二王子の力になるようなことをやっておこう。
そして、俺は他の弟子たちに話しかけに行った。
####
「ぶひっ、ぶひっ!なんであのような子供が兄の賓客なんじゃあ!!」
ガシャン!!と音を立てて割れた皿が散乱する。その皿を床にたたきつけた人物である第三王子はその顔に怒りを露わに地団太を踏んでいた。
「ぶひっ、ぶひっ、ぶひっ!!!」
そうやって第三王子は地団太を踏み続ける。だが、しばらくすると飽きたのか、近くの椅子へ座り込んだが、その顔には怒りがまだあった。
「ぶひっ、あの子供め・・・どうしてくれようか・・・!!」
第三王子は、一応王子である。そのため兄の賓客というのが一体どういうものであるかを理解していた。王族の賓客というのはそんなにいるものではない。国最高の鍛冶師や、国で最強の傭兵団の団長が賓客とされることはあるが、魔法使いが賓客となった例は少ない。なぜなら、そういった優れた魔法使いは一部を除きほとんどが王宮魔法使いとなっているからだ。
だが、何事にも例外がある。今回もその例外というケースの一例というだけだ。
そして、例外という中でもある程度傾向があることもある。今回の場合、あの子供が第二王子の賓客ということは・・・あの子供、あるいはその親が第二王子の命を助けたということだった。
「ぶひっ、その者さえいなければ兄は今頃・・・!!!」
憎しみの念を以てその子供のことを思い出す。ギリリ・・・と奥歯が鳴った。
「まったくうるさいと思ったらご機嫌斜めだな」
「・・・!」
誰もいないと思った空間で突如聞こえた声に第三王子はバッと周りを見渡す。いつも通り見慣れた部屋だ。誰もいない・・・と思った彼の予想はすぐに裏切られた。
部屋の壁際においてあるテーブル、その椅子に座り込んでいる小さな影があったのだ。その影の目は闇の中でも爛々と輝いているように見えた。
「・・・貴様!」
第三王子はその影のことを知っていた。その影は彼に協力してくれている存在であったからだ。現に、今従っている部下は、前の者とは違いとても優秀な者たちだが、そもそもその影による紹介で雇った者たちである。
それに、幾人かの人間を葬ってもらったときがある。そのいずれもその影は成功し、彼は満足していたのだが、最後に依頼したことは失敗したようだ。
「・・・よくその顔を出せたものだな」
「何もやましいところはないからね」
第三王子の低く抑えた声を軽く流す影に第三王子の怒りは募る。だが、これでも大切な協力者だと彼は我慢をした。実際、他の協力者よりこの影の方が起こした効果の方が高いのだ。
他の者では説得できない者でもこの影は説得できたし、いろんな方面に伝手があるのか、いろいろな情報をもたらしてくれる非常に便利な存在ではあったのだ。
「だが、今回はどういうことだ!!ワシの兄は死んでおらんではないか!!!」
しかし、こればかりは許せないとばかりに彼は叫ぶ。実は、二、三週間ほど前に、彼はこの影に依頼していたのだ。兄を殺せと。いつも依頼は成功しているから今回も安心だと思っていたのに・・・と彼は怒る。
しかし、影はそんな彼の様子など意に介さないように答えた。いや、実際に気にしていないのだろうが。
「途中まではうまく行ったさ。現に第二王子の親衛隊は全滅しているだろ?」
確かに、と第三王子は考える。報告では、生き残ったのは第三王子だけでその護衛としてついていった者たちは全滅している。だが
「だが、ソレが一体何なのだ!!ワシは兄を殺せと言ったのだぞ!!」
そう、肝心なのは何人殺したかじゃない。特定の人物を殺せたのかだ、と第三王子は憤る。だが、その様子にすらその影は態度を変えなかった。
「仕方ないだろう、邪魔が入ったのさ。王宮魔法使いが相手では分が悪い」
そう悪びれることなく放った言葉に、第三王子はふむ、と唸る。
さすがのこいつも王宮魔法使いほどの力はないかと。いざというときは始末を考えている彼は、そういう情報を得れて安堵していた。だが、まだ利用価値があるなら利用するまでだ。
「ならば、今度は王宮魔法使いがいないときは見計らって兄を殺せ」
「・・・まあ、分かったよ」
そう第三王子が言うと、やれやれという雰囲気を醸し出しながら影は頷いた。そして、最初からそこには誰もいなかったかのように消える。
第三王子はその現れ方・消え方に慣れていたので大して驚くことなくベッドに横になる。
「クソッ、兄上め。見ておれ・・・王位を継ぐのはワシじゃ!」
そう叫んで彼はまた暴れ始めるのだった。
ちょっとスピード加速していこうかと思います。かきたいところまで全然いけてないので(キャラの暴走すごい)。
次回から(加速を)頑張るぞい!




