第二十話 クーの来訪
前回のあらすじ:王宮魔法使いの筆頭、「ザーギス・コノラー」と対面
「くぁ~、朝か」
昨日は本当に疲れたな、と思いながら俺はベッドから起き上がった。窓まで歩いていき、カーテンを開ける。すると、暖かい日光が部屋に差し込んできた。そんな窓の前で一伸び。ん~、これが至高だよな。風呂の後の一杯の牛乳みたいな!・・・うん、なんか風呂に入りたくなってきたが、この世界の風呂は割と貴重だ。毎日入るのは王族くらいなものだ。
もっとも、俺はMPを尽くして水を出し、それを沸かせて入ることが可能なのだが牛乳が未だに手に入らない。なんか他に至高な行為があったかな。
「まっ、いっかぁ」
もう一つ伸びをしてあくびをし、振り返ると、そこにはミリアがいた。
「おわっ!?・・・いたっ!」
思わず飛び退ると壁にぶつかった。
「お目覚めですね」
「え?え、ええ・・・」
壁にぶつかったまま固まっていた俺は、ミリアの言葉で元に戻ることが・・・いやできてないけど。とりあえず、再起動をすることはできた。
「では、お着換えとまいりましょうか」
「まって、いつの間に服脱がせたの・・・?」
だからと言って、服脱がしの早業を見切ることはできていなかったが。
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「ん?・・・あれ?なんですかこの服?少し・・・かっちりしているというかなんというか」
「それは、パーティ用の正装だからですね」
「パーティー・・・?なんでです?」
「それは、ラーデンス様が参加なされるからです」
「えっ?」
早脱がしからの早着せに文句を言う暇もなく、新しい服・・・というか映画とかでよく貴族が来ているようなパーティ用の服を着ていた。そう、タキシードだ。
「本日の午後三時より、ガイアス殿下の主催となるパーティーの招待状があります」
「三時って、これまた急ですね」
ミリアから受け取った招待状に軽く目を通してみると、たしかに開催日時は今日の午後三時だし、主催者は第二王子の名前になっていた。印も押されているし確かに第二王子のものだろう。よりにもよって王城で王族の名前を語るとは思えないが、まあ確認できたのはいい。・・・だが、つまり断れないってことだな。体調さえ良ければ・・・。
「ごほっ、ごほっ、ミリアさん、実は僕、調子が・・・」
「ミリアです。それと、ケイン様仮病はよくないかと」
「即ばれした・・・」
「当たり前です。先ほど、お召し替えの際には体温の異常などありませんでしたから」
触るだけで体温を把握できるって完璧超人かよ!?それともメイドにとっては必須技能なのか・・・?生前は、上司にメイド喫茶に連れて行ってもらった覚えはあるが、そんなものなのかって、あれは違うか。
「あっ、そうだ。ミリア」
「はい、なんでしょう?」
「ここにこういうものがあるんだが」
そういって俺はポケットの中から――と見せかけて『狭間倉庫』からクッキーを取り出し、それをミリアに見せた。
「これ、クッキーていうおかしなんだけど」
「クッキーでございますか?聞いたことがありませんが・・・」
「そりゃそうだよ。僕が作ったんだから」
「お菓子作りができるのですか?」
「まあ、簡単なものだけどね」
ミリアはクッキーに興味を示したようだ。しめしめ・・・。
「一個いるかい?」
「はぁ・・・」
とりあえず、一つ渡してみて食べるように促すと、やや迷いつつも食べると決めたようだ。クッキーをかじる。
「!・・・これは」
「気に入ったかな?」
「はい、非常においしいものですね」
うむ。味も気に入ったようだ。よし、そうなればあとはこのクッキーを材料に・・・。
「これがラーデンス様なりのチップなのですね」
「・・・はい?」
キョトンとして俺は瞬きをする。一体何を言っているんだ。
「本来、王城に仕える私にこのようなものは不要ですが、ラーデンス様の広い心に甘えとうございます。ありがとうございます」
そう言ってミリアは去って行った。・・・あれ?クッキーで買収ってか、その相談すらできてないんだけど・・・。
・・・。あれ、これ本格的にパーティーにいかなくちゃいけないパターンなのでは・・・?
「抜かった・・・!」
こうなった以上は覚悟を決めるか、そう思ったとき部屋のドアがノックされた。
「はい、どちら様でしょう?」
とりあえず、誰かわからないのでそう返しておいた。すると、短く返事が返ってきた。
「クー・・・だよ?」
「え、クー・・・?まあ、いいや入っていいよ」
そう言ってドアから入って来た人物に目を向けた瞬間、俺は心奪われた。銀の髪が映えるような青いドレス。唇には紅を塗り、ソフトな化粧をしてある。たったそれだけなのに目が引き付けられる。たった・・・?いや、師匠もたびたび言っているがクーはこの世界に舞い降りた天使だ。そう、このくらい普通だ。
・・・あれ?
「ひ、ひさしぶりだねクー。三日ぶり、かな?」
「ん・・・そのくらい」
そう、彼女とはこの王都に来て以来あっていなかった。というのも、俺は第二王子の賓客ということで城に滞在していたのに対して、彼女たちは王都にあるスーラン家の別邸に滞在しているというのもあるし、俺は日々第二王子に連れまわされたりしていたからだ。
「でも、あれ?なんでクーがドレスを・・・?」
「それはお嬢様もパーティーに出席なさるからです」
俺の質問に答えながら室内に侵入してきたのはスーラン家のメイドにして俺のお付きでもあるリルンだった。その姿は最後に見た時とは寸分違わぬ様であった。・・・と言いたいところだが色々突っ込みたいところがある。そも、最後に会ったのも三日前ではあるのである。そして、なんでメイド服そのままなんだ・・・!
「・・・それでリルンさんはなんでここにいるんですか?」
そう、そもそもメイドというか召使と言った人々は、王宮で直接雇われている人々以外は王宮に入れないはずだ。
「ああ、それはこの度臨時募集枠に採用されましたので」
「臨時募集枠?」
「ええ、今回のパーティーは臨時募集という形で各家のお嬢様御曹司様にお付きという形で召使が一人付く形になるのです。王宮の人材をすべての方に付けることは難しいので、家のメイドを王宮が『雇う』という形で王宮への進入が可能になるのです」
「理由づけってわけですか・・・」
リルンから理由を聞き俺はため息をつく。まあ、確かにこの王城のことだ。さぞかしそういう『理由づけ』は必要に違いない。『臨時募集』に飛びつく人とかいないのだろうか・・・?
「『臨時募集』に応募してくる外部の方は結構おられますが、採られる方は稀です」
「稀にはいるのか・・・ん」
リルンから理由を聞き改めてため息をつくと、袖をくいくいと引かれる。クーが袖を引っ張っていたのだ。
「早く・・・いこ・・・?」
「うんそうだn」
「いえ、少しお待ちください坊ちゃま」
クーに言われるまま部屋から出ようとしたところ俺はリルンから制止をかけられた。ムッとしてそちらを見て口を開く。
「なんだよ折角いいところだったのに」
「いえ、本来ここには私のほかにももう一人のメイドが応募していたのですが、なぜかそちらの方は落ちまして・・・」
「選考に漏れた。・・・ふむ?」
「そして、私はお坊ちゃまの専属希望だったのですが・・・お嬢様の専属だったのです。一体お坊ちゃまの専属は誰なのでしょうか?」
つまるところ、そこなのだ問題は。どうやら先立ってたくさんの召使を入れる準備をしていたが俺の分の招待状はあったから、いくらなんでも準備万端なこの状況でありえないぐらいの失態な気がするが・・・。
「それは簡単です、私がラーデンス様のお付きを務めさせていただきますから」
そう言って部屋に入って来た人物はまたもや女性であった。というか、王都に来て以降お世話になっているメイドのミリアだった。
「・・・まあ、ここでは俺の担当だから適任と言えば適任なのか」
「ええ、その通りでございますラーデンス様」
俺のつぶやきにそう肯定の返事を返したミリアとリルンが見つめ合う。バチっと何かがはじけたような気がした。
「あらあら、これは『王宮』でお坊ちゃまのお付きをされているミリア様。ですがお気遣いは結構ですよ?私一人でお坊ちゃまもお嬢様も満足させることが可能ですし」
「いえいえ、『スーラン家』のメイドのリルン殿。ここは私にお任せしてもよろしいのです。なにせ、私仕事がら王宮に慣れていますからね」
なんだ、この威圧感。っていうか、なんで二人はお互いの名前を知っているんだ・・・?
「・・・ねー、早く・・・いこ」
「お、おう」
バチバチと二人の視線のはじけ合うような幻が見え始めた俺は、待ちかねた様なクーの声につられてこっそりと部屋を出た。
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王城には当然ながらパーティーを行うためのホールが存在する。そこでたびたび舞踏会などを開き貴族などと関係を強めたりあるいはただ交流を行うこともある。そして、今回は若き王宮魔法使いの弟子たちの交流会という形で開催される。開催者はガイアス第二王子だ。彼は軍部との結びつきが強いため、こういった軍部の面々が関係するような(王宮魔法使いは一応軍属)イベントでは彼が表立って行動することが多い。そして、その第二王子の賓客として訪れている俺にはかなり注目が集まっていた。主催者の関係者とも言えなくはないからだ。これから王宮魔法使いになりたい奴らは俺に接触してくるものと予想される。・・・やれやれ、面倒なことだ。
そんなことを考えながらクーと城中を練り歩く。今はまだ時間ではないのでこうして散歩していてもおとがめはないだろう。もっとも、服を汚したりしないように気を付けなければいけないのだが、まあいざというときは魔法でなんとかするからいいか。
守衛さんに挨拶し、メイドたちに挨拶される。・・・一応俺は貴族だしあってるのか、とも思うがメイドさんたちは基本、貴族の子女であるということを考えると若干複雑な気分だ。なにせ、俺の実家は騎士爵家に対して、ここで働くメイドの実家はそれ以上のものだったりするのだからなんか恨み買ってないか気になる。一応四歳児だし、思い過ごしかもしれないけどね。
「・・・きれい」
そういってクーが立ち止まったのは歴代の王妃の肖像画が飾ってある場所だった。さすがは王妃、画家に金を使ったのかあるいは金を使いまくったのか素人目でも綺麗だと思う絵ばかりであった。多分相当に美化されていると思うのだが・・・。
「あ・・・」
ずらっと並ぶ肖像画を一枚ずつ眺めていくとやがて端へと、初代王妃の肖像画へとたどり着いた。釣り目の女王でこの人だけ帯剣した姿で描かれていた。
「なんでこの人だけ帯剣してるんだ・・・?」
「?ケイン・・・知らない・・・?」
そう言ってクーが語りだしたのは初代王妃にして姫騎士として勇者パーティーに参加していた女性の話だった。サキュバスに惑わされた勇者を正気に戻した逸話や、数々の魔王軍の幹部を破った武勇伝に王女となってからの素晴らしい政治の話など色々な話題があった。というかサキュバスに惑わされたのか勇者。そしてどうやって正気に戻したのか。そこが滅茶苦茶気になるのだが。
しかし、そうか。この人は割と武闘派なのだな、と俺は納得して眺めるとなるほど武人といった雰囲気がある気がする。腰に差してる剣もおそらく魔王との戦いで使用した伝説に名高いキュリースだろう。・・・さっき初めて聞いたが。
「勇者を除けば一番の実力を持っておったのが彼女であった・・・と伝えられているのである。元は他の国の王女であったがあまりのお転婆ぶりに彼女の父も持て余して勇者に面倒を見させたという逸話もあるのであるな」
急に声をかけられて驚いて振り返ると、そこには第二王子がいた。
「第二王子、どうしてここへ?」
「いやなに。余もたまにここに来るのである。そうしたら先客がいた、というだけの話である」
第二王子は今日はタキシードでびしっと決めていたが、武闘派な彼のこと、ちょっと似合ってなかった。・・・オリジナルの服でも考えた方がいいと思った。
「さて、そちらの少女は初対面であるな?余こそはサイトニス王国第二王子、ガイアスである!」
「・・・わ、わたしは・・・・く、クリス・スーラン・・・っです」
第二王子のあいさつに対してクーは俺の背中に隠れながら自己紹介を行っていた。第二王子が怖いのだろうか?
「・・・ふむ。そこまで余を怖がらずとも良いのだが・・・?」
「・・・お、お姉さまが・・・第二王子は・・・怖いって・・・」
「何やってんだ師匠・・・?」
クーの第二王子の怖がる理由が雰囲気とかじゃなく師匠からの言葉だったと知り俺はため息をつく。いや、ほんと、自国の王子を怖い呼ばわりするとか何やってんだよ。
「・・・ケインよ」
「なんでしょう、第二王子」
「・・・なぜ、レイは余のことよ怖いと評したのだろうな?」
「大方第二王子にクーを取られるとでも思ったのでは?第二王子と一緒に行動していた時もクーとは会わせないように徹底的に配慮していましたからね」
だが、まさか第二王子が怖いなどと吹き込むまでやっていたとは・・・妹可愛がりの師匠なれど予想をはるか斜め上へといったな。
「レイを罰しても問題なさそうであるな」
「そうですね」
「・・・?」
第二王子の言葉に俺は即答するがクーはよくわかってないようだ。いや、まあ罰といってもゆるっとしたものだと思われる。表向き、批判したわけでもないし、ただの第二王子のやり返しだし。
「ふむ、余は急用を思い出したのである。また会おう」
「ええ」
そう言って第二王子は部屋を出て行った。
「・・・あの人・・・何をしに・・・来てたの?」
「さあ?」
ただ肖像画でも鑑賞に来たのだろうか?そんなことを考えながら俺とクーは部屋から出た。
三週間ぶりの投稿すみません!先週はインフルエンザを発症してしまっていて投稿できずに今週はテスト週間で平日は忙しくあわあわしているうちに今日へと・・・。
今後は気を付けたいと思います。皆さんもお体に気を付けて。インフルエンザで追試とかマジで洒落にならないので・・・。




