第十九話 王宮魔法使い筆頭
明けましておめでとうございます(超遅刻)
今年もよろしくお願いします
「実に呆気ない『試合』であったな」
「ええ・・・そうですね・・・」
お互いに王宮魔法使いの弟子という立場同士の『試合』、その結果があまりにも呆気ないことに文句を言いいながら帰る者が多い中、会場の中央で俺は第二王子と喋っていた。
「もっとも、余にはこの結末は見え透いていたのであるが」
「え?そうなんですか?」
我ながら必死に戦っていたと思っていたのだが、第二王子からするとそうではないのだとか。理由を尋ねると
「以前に、貴殿の魔法を見たことがあったのであるが、既に貴殿の魔法の実力は王宮魔法使いの、それも上位に届きうるものである。なれば、あくまで王宮魔法使いクラスであったクルジンでは勝てぬのは道理である」
「――!!」
力強く言い放つ第二王子に俺はそれ以上の追及はできなかった。
「むろん、無詠唱を含めずともの話である」
「え・・・?」
ただ、それに続く言葉には疑問の声を返した。
「詠唱を短くできるものほど魔力操作に長けているものなのは常識である。また、経験の有無は戦闘に於いて勝敗を左右する。レイはあれでいて経験が豊富である。故に、貴殿との模擬戦も危なげなくこなしているのであろうが、今回は互いに経験なしの初心者同士である。なれば、ただの魔力操作の実力こそが勝負の決め手となる」
「つまり、俺は単純に魔力操作の観点に於いてクルジンを上回っていたと?」
「うむ。そうなるのであるが、・・・まあ、それ以外にもあるのであるな」
「それ以外?」
「うむ。貴殿は全属性を使えるであろう?」
「?・・・えぇ」
第二王子の言葉に俺は首を傾げる。それにどこか問題があるだろうか?
「・・・ふむ、ここで一つ言っておくことがあるのであろうな」
「なにをですか?」
首を傾げた俺を見て第二王子は、考え込むようなしぐさをしてから言った。
「全属性を同じ程度まで、それこそすべて上級まで使いこなせるような魔法使いは、ほぼいないのである。それも、貴殿ほどの年には」
「・・・え?」
第二王子の言葉を聞いてぽかんとする俺に続けるように言う。
「確かに、である。確かに、全属性を同じように扱えるものは存在した。しかし、それは過去の勇者や英傑を除けばほとんどいないのである」
「・・・」
「貴殿はその資質を十分に持っている。・・・無論、それは今までの努力の成果でもあるのであるが・・・だからとはいえ、それは万人に到達できるものではないのである」
「・・・そう、ですか」
俺は、手首から黄金の煙を出した。それは普通の出方とは違ったのだが、才能はあった、ということだろう。
「正直、幼い時より優れていたスーランと似ていると感じる時はあるのであるな」
「師匠と、ですか・・・?」
第二王子が言った言葉に影響され、俺はふと自分と師匠を重ねてみる。
・・・俺は得意属性がないのに対して、師匠は炎属性の魔法が大好きだ。俺には妹がいないのに、師匠にはいる。師匠はドのつくMだが、俺はどちらかといえばSだ。・・・共通点などないように思えるが。
「・・・いや、余が言っておるのは性格とかではなく境遇とかである。スーランは、貴殿と同じ様に平民の出であるし、幼いことより魔法の才を発揮しておった。お蔭で、同年代の友人も少なかろう。それは、貴殿もであろう?」
「・・・まあ、そうですが。しかし、顔に出てましたかね?」
「いや?顔を見ていたら大体わかるのであるな。これでも余は王族である。ポーカーフェイスでもないものの顔を見て、大体思っていることを推察できないのであれば、務まらんである」
なるほど、王族とは大変なのだな、と考えると同時にどうしてこんなにも第二王子が師匠について詳しいのか聞いてみると
「それは、余が軍部と親しくしておるからであるな。幼いことより優秀なものをスカウトするのも大事であるが故に、彼女のことはチェックしてあったのである。・・・まあ、あのような事件がなければ登用はもう少しあとのことであったろうが・・・」
「あのようなこと・・・?」
「・・・む?いや、なんでもない。こちらの話である」
「あのようなこと」と言われて気になって聞いてみたが第二王子は誤魔化すように言葉を濁した。あまり突っ込んでもいいものではないだろうと自然に察した俺はそれ以上の質問をやめた。
「・・・と、そうそう」
「?なんですか」
この話の流れを断ち切るかのように第二王子は言葉を発したので俺もソレに乗る。すると
「今日、貴殿をここに呼んだのには理由があったのであった」
「・・・」
そういえば、そうだったと俺は思った。口に出しては言わないが。そもそも何の用事だったんだろうか?
「今日は貴殿を王宮魔法使いの筆頭に合わせようと思っていたのであった。まだ、おればいいのであるが・・・」
「忙しい方なら会えなくても仕方ありませんよ。というか、そもそも僕は王宮魔法使いどころか、その弟子であって、候補ですらありませんよ。そんな僕を王宮魔法使いのしかも筆頭に会わせてもいいのですか?」
嫌な予感を覚えた俺が会わなくてもいいという旨の発言を婉曲的に伝えたが、第二王子にはその意味は届かなかったようだ。
「大丈夫なのである。貴殿は王宮魔法使いを目指しているのであろう。ならば、会いに行く方がよいのである」
この日ほど後先考えない、いい加減な言い訳を呪った日はなかった。
####
「こちらである」
第二王子の先導の元、軍部の建物へと入る。
「おお・・・」
そこで、俺は不覚にも感嘆のため息を漏らしてしまった。
正面を入ってすぐに、天井の高い部屋が広がっていた。高級ホテルなどのロビーのような広さだ。光景もその通りだった。ソファがたくさん並び、そこには様々な人々が腰かけていた。共通点は・・・誰も彼もが体中に傷を持っているような奴だということだ。
受付でお姉ちゃんと話している奴は、頬に傷を持ってて、そして受付のお姉ちゃんと腕相撲してる。
ソファで新聞を読んでいる紳士っぽく見える人は・・・、何故か短パンを履いてて細かい傷が足についていた。そして、読んでいる雑誌は、『月刊 筋肉』と書かれていた。
喫煙部屋というか、そんな感じの場所に於いて駄弁っているのは、割と普通の格好をした人たちだが、『腹に一発』だとか『メリケン』とか物騒な言葉が聞こえている。
感嘆のため息が、落胆のため息に変わるには、一秒もあれば十分だった。
「こっちである」
その脇を、第二王子に促されるままに進むと、今度は・・・地球で見たようなエレベーターのドアのようなものを見た。
「えっと・・・?」
「ふむ、初めて見るのであろう?これは『魔法エレベーター』というのである」
「『魔法・・・エレベーター』・・・」
名前までエレベーターってどういうことなんだ。
「これは、数年前にメイカ・レッドスターという名前の技術者が発明したものである。魔力の力で動く魔道具で、上下に移動するものである。階段を使うよりも楽に上り下りできるのでたいへん重宝しているのである」
「それは・・・なんというか・・・」
「乗ってみなければその楽さも分からぬものであるな。試しに乗ってみるのである」
「え…?僕ものっていいんですか?」
「本来ならば王族のみの使用が許されるが、今回は余が許可するのである。安心するとよいのである」
そう言いながら、第二王子はドアの横のボタンを押す。ご丁寧にも「△」のマークがついていた。しばらくすると、ポーンというような音が鳴り、ドアが開かれた。そこには箱と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた・・・つまり、普通にエレベーターだった。
「ほれ、乗るのである」
ファンタジー世界にあるエレベーターに、なんだかやる気を削げ落とされるような気持に陥りながら俺は乗り込んだ。それを見て、第二王子はパネルを操作する。・・・言うまでもなく、この世界での「開」「閉」、それに各階層を表しているのだろう数字の書かれたパネルがあった。第二王子が押したのは、六を表す数字だった。
「動くのである」
その後、なんとも形容しがたい無重力感に襲われて、俺はエレベーターが動いていることを認識した。・・・こんなとこまでそっくりでなくてもよかろうに。製作者には何らかの思い入れでもあったというのであろうか?
やがて、ポンという音がしてドアが開いた。そこには先ほどまでとは違う光景が広がっていた。さっきはホテルのロビーのような光景だったが、今はホテルの部屋がある階の廊下のようであった。左右に扉がついており、そこには様々な名前が書いてあった。
「ついてくるとよいのである」
そう言う第二王子についていきつつ、左右のドアに書いてある名前を見る。へぇ・・・いろいろな名前があるなと思ってみていると、さっき戦ったばかりのクルジンの師匠の名前を見つけた。「ダーリア・ガゼン」だった。
「む?ああ、そこは先ほど貴殿と戦ったクルジンの師匠の部屋であるな」
「ここが部屋?ですか?」
「む?部屋とは言えど、ここに住んでいるわけではないのである。ここは、あくまで仕事場である。王宮魔法使いは軍部の管轄でもあるが故に、ここにそういったものがあるのである。ここには、あまり表ざたにできない書類や、任務が保管されていた李するのである」
「へぇ・・・」
王子にそう説明されながら歩いていくと、奥にたどり着いた。正面のドアには「ザーギス・コノラー」の名前があった。ふと、左手にあるドアに目を向けてみるとそこには「レイ・スーラン」の名があった。
「そこは、貴殿の師匠の部屋である。スーランはかなり優秀であるが故に、ザーギスの部屋から見て右手にあるのであるな。実際、王宮魔法使いの間でもスーランほどの腕を持つものはザーギスのほかには数人しかいないほどであるが、一番戦果があるのも彼女であるゆえに」
俺が師匠の部屋へと目を向けたのが分かったのか第二王子がそう注釈を付け加えてくる。
「そうなんですか・・・」
その俺の返答を聞いた第二王子は、正面へと向き直り「ザーギス・コノラー」と書かれた部屋のドアをノックする。
「ザーギス、いるのであるか?」
第二王子が呼びかけているが返答はなかった。留守かもしれない。
「居るのは分かってるのである!!」
・・・え?いるの?
「・・・返答がないのであるな」
「留守なのでは?」
返答がないことにいら立ちを感じているような第二王子に俺は、留守じゃないのかと行ってみると、第二王子はスッと手を伸ばし、一点を指差した。
その先をたどってみると、そこにはドアに挟まれた紙片があった。つまり、このドアは開けられていないということだ。一体いつからだろうか・・・?
「この紙片は余が地方に出る時に挟んでいったものである」
つまり、それは一週間以上も前なんですけれど。・・・え、食事は?
「食事は、この部屋のなかに食事専用のエレベーターがあるのである」
あ、食用エレベーターがあるんだ。
「全く、この際は強硬手段も致し方ないのであるな」
「えっ?」
強硬手段といった瞬間、第二王子は懐から何かを取り出した。・・・鍵だ。
「これは、この軍部のマスターキーである。これを持っているのは余も含めて数人だけであるな」
「そんなものがあるんですね・・・」
そんなものがあっていいのかとも思ったけど俺には関係ないや、と俺は知らないふりをすることにした。世の中、知らない方がいいこともあるのだ。
「入るぞ、ザーギス」
鍵を開けた第二王子はそう言ってドアを開けた。その瞬間、モアッと煙が立ち込めてきた。
「む・・・?なんだこれは・・・」
「いや、吸わないでください!」
その煙を吸おうとした第二王子をいさめ、俺は風属性初級魔法『そよ風』を使い、煙を流す。毒性があったりしたらどうするんだよ・・・。
「って、この煙が充満していたってことは中の人は・・・」
俺が煙に充満していた部屋の中の人間の生死を心配して『気配感知』を使用したところ、生命反応があった。生きてはいるのか。だが、瀕死かもしれないと思ってその、生命反応をもとに居場所を突き止めて行ってみると、そこにはベッドの上で手を組んで眠る男がいた。
「くっ・・・遅かったか・・・」
これが、この世界の練炭自殺なのか。俺は男を救えなかったことを嘆く隣で、第二王子は・・・男の頭を殴打した。
「って、ガイアス殿下!?死者になんてことを」
「う、うぅ・・・」
「動き出した!?」
腕を組んでいた男はゆっくりと起き上がった。
「水・・・」
「シャベッタァァァァァァァ!!!!!」
しわがれた声で喋る男に俺はビビる。ゾンビか・・・、うわさに聞くアンデッドがこんなところに!!
「・・・収集がつかないのである」
####
数分後、第二王子の説得もあって、俺は正気に戻った。どうやら、先ほどの煙は安眠草なる植物を燃やした煙であったようだ。この煙を吸い続けると体が仮死状態になり、食べ物などが要らないのだとか。この世界での冷凍睡眠だろうか?
「しかし、もう一週間も経っていたのか。それは知らなかった」
「全く。貴様はもっと、外の世界に関心を向けるべきなのである。仮にも王宮魔法使いの筆頭であるが故に」
「おいおい。俺様はそんな位は要らねえって言ってるだろうが。俺は、王族を守れさえすれればいいって言ってんだろうがよ」
「素性の知らぬものを置くとそれは他派閥に付け込まれる隙になるのである。故に貴様は王宮魔法使いとなっておるのであろう。そも、この部屋も王宮魔法使いでなければ与えられないのである」
「だからって、筆頭なんて重い地位を押し付けんじゃねえよ。俺様はもっと自由になりたいんだよ。そんな面倒な地位、他の誰かにやっとけ」
「部下が自分より強いのに、王宮魔法使いの筆頭を名乗れるものはいないのである」
「じゃあ、適任がいるだろうが。スーランとか強いだろ?」
「何を言ってるのであるか。貴様との『試合』成績は、全て貴様の勝利であろうに・・・」
俺の目の前で口論を繰り広げる二人。というか、いくら王宮魔法使いの筆頭と言えど、王族にこのような口をきいていたら処刑とかされんじゃねえの?とか思ったら、俺の頭に眼帯男の顔が浮かんだ。
・・・ひょっとして、この王国って王族に警護とか使わなくていいのか?そう思ってみたが、よくよく考えると、師匠もグンダインたちも敬語を使っていたことを思い出した。どうなってんだ、軍部。無法地帯かよ・・・。
「・・・ふん、まあいいさ。で、今日は何の用事だ?ドラゴンでも出たか?」
「いや、今日は会わせたいのがいたのである」
「ほう、俺様にか?」
「うむ」
第二王子の言葉を聞いて、第二王子と口論していた男――この部屋の主で王宮魔法使いの筆頭であるザーギス・コノラーはこちらを見た。
逆立った金髪に赤い目で耳にはピアスをしている見た目からしてDQN男は、どっからどう見ても王宮でもかなりの重要人物には見えないが、これでもこの王国で一番の魔法使いというのだから驚きである。
そんなザーギスは俺をじろじろと見てからほう、という。
「俺様を見てビビらないガキは珍しいな。お前のガキか?」
「余の子供にはあったことがあるであろう。こっちは余の子供ではない」
「へえ・・・」
ますます、俺に興味を示したようにザーギスはじろじろと見てくる。その視線は遠慮がなさ過ぎて気分が悪くなりそうだ。
「その程度にしておくのである。スーランが怒るのである」
「は?なんであいつが??・・・・まさかこいつあいつのガキか!?」
「違うのである。そもそも似ていないのであろう?」
「・・・確かにそうだな。どっかで見た様な顔だと思うんだが」
第二王子の言葉に納得したザーギスは首を傾げながらこちらを見る。それを諌めようとしたのか第二王子が咳ばらいをすると、彼はそちらの方に体を向けた。
「じゃあ、こいつとスーランはどういう関係なんだ?」
「師弟である」
「へぇ師弟・・・ええええ!?」
第二王子の言葉にうんうん頷いた彼は急に大声を上げた。
「こいつが!?あいつの弟子!?」
「うむ、そうである」
「マジかよ、こいつ五歳くらいじゃないか・・・」
「既にルージュ・ベアーも単独討伐しているのである」
「Bランク単独だと!?こんなガキが・・・」
「そういう貴様も六歳か五歳の時にBランクの単独討伐やっておるであろうに」
「いや、だからって」
「つまり、先例があるということであるな」
「・・・」
第二王子にどうやら論破されたようだ。
「ま、そのくらいの戦績があるのならスーランが弟子にするのも納得か。あいつは弟子に求める理想が高かったきらいがあるからな」
「それは貴様にも言えることであろうに」
「・・・」
また黙り込んだザーギスを見て第二王子はため息を付ける。
「そろそろ貴様も弟子を見つけるのであるな。長期休暇でも取って」
「だから、それだとテメエらを守れねえっての」
「本当に守りたいのであるなら、弟子でも育てて永く守れと言うておるであろうに」
「まあ、たしかにそうなんだがよ・・・」
そんな感じで第二王子とザーギスが言い争いで一日が過ぎて行った。
俺?『試合』直後でもあったからつかれて寝てた。




