9.次のライブに向けて
学園祭からひと月ほど経つと新曲も上がってきて、練習にはますます熱が入っていた。次のライブは俺が以前ヘルプで入ったことのある小さな箱で、主催はそこそこ人気のあるベテラン社会人バンドらしい。
そのバンドのリーダーによると参加バンドを集めるのに苦労していたらしく、直前の問い合わせにも快く対応してくれた。オリジナルを四曲やるというのも歓迎だと言ってくれた上に、チケ売りのノルマも不要で気楽に参加してくれとのことだ。
「ライブハウスでやるならやっぱりドラム打ちこみじゃダメかなぁ。ギターはヴァイオリンで代用できる?」
「ドラムはエレドラへ入力すれば大丈夫じゃないかな。以前ギター二人組がドラム打ちこみで出てたの見たことあるよ。ヴァイオリンは今みたいにマイクじゃなくてピックアップにすればいいだろ。エフェクターも使えるようになるしな」
「バンド編成は今のままでいい? ナオちゃんはキーボードとシンセのセカンドギター同時で平気なの? ドラムは打ちこみだからまだいいけど、大変そうなら紅がキーボードやるからね」
「うん、ありがとう。でも紅ちゃんがキーボードの位置で歌うのはもったいないよ。ショルキーがあればいいかもしれないけど。龍君、おじさんのつてで借りられたりしない?」
「ショルキーとか今時見ないもんなぁ。でもスクールにあるかもしれないし、父さんに聞いておくよ」
今日も放課後集まっての練習だが、無事にライブ出演が決まったので詳細を詰めるためのミーティングをしているところだ。編成は学祭とほぼ同じだけど、ナオのシンセでドラムとセカンドギターを追加することまでは決定事項である。
残念ながら俺はベースしかできないし楽譜も読めない。演奏はタブ譜と耳コピだけが頼りだ。
それだけにいつも脇役に徹しろと言われ続けているが、ノッてきて興奮するとついつい演奏や動きが激しくなってしまい紅に怒られてしまうのだ。
しかし今回はライブハウスにPAさんがいるから、ヤバくなったら絞ってもらうように伝えてあるし大丈夫なはず。そうしないと演奏中でも紅が暴れ出してしまいステージが台無しになってしまうだろう。
今までバンド活動がうまく行かなかったのはほぼそのケンカのせいだし、その責任は俺にあることもわかっている。それでも体が勝手に動いてしまうのだから仕方ないし、そもそもそれがロックと言うものだ。
とは言っても紅はポップなアイドルソングや魔法少女アニメの主題歌が好きだし、ナオは電子音全開のテクノ好き、トモはジャズで春香はクラシックとてんでバラバラなので俺の主張が通ることはない。
それでも紅やナオが気を使ってくれて、オリジナル曲にはベースソロを入れてくれている。もちろん追加の三曲にもバッチリ見せ場があるのでその時だけは全開で弾いていいと許可が出ていた。
「編成は大体これでいいとして、バンド名とか決めた方がいいのかなぁ。あんまり凝っても恥ずかしいし、かといってダサいのもヤダよね」
「そう言うのは春香に任せた方がいいんじゃないか? 俺たちの中で一番常識人って感じだしな。名前決まったらバンドTも新しいの作りたくね?」
「えー、紅は今のままでもいいけどなぁ。お店の宣伝にもなるからってパパが活動費出してくれるしね。なんといっても紅と龍君の名前が入ってるんだもん」
「はいはい、それでいいですー 聞いたアタシがバカだったよ。いっそのことノロケバンドでもいいわー」
トモの投げやりで棒読みの反応が出たところで、ナオが春香から連絡が来たと言った。俺たちの中で唯一部活をやっているため合流はいつも遅めだし、そろそろ年末へ向けて冬季演奏会の練習も本格化する頃で大変そうだ。
クラシックに興味の無い俺が年末と言われ想像するのはせいぜい第九ぐらいだが、音大付属のオケ部では毎年色々な曲に取り組んでいると聞いている。
「春ちゃん今から来るってさ。話もうまくまとまったみたい」
「そっかぁ、揉めたらどうしようと思ってたけど平気だったなら良かった。でも本当に良かったのかな……」
「本人がそうしたいって言ってたんだからいいんじゃない? アタシらにとっては都合いいんだから素直に感謝しておこうよ」
「お前らなんの話してるんだ? 俺にはさっぱりわからないんだが?」
「龍君は学校違うから知らなかったよね。春ちゃんがオケ部辞めてバンドに専念するんだって言い出したのよ。せっかく部内オーディションで選抜メンバーになれたのに辞めるのはもったいないけどね」
「だから先輩とかと揉めたら困るって話をしてたんだよ。顧問は絶対に引きとめると思うしさ。でもうまく辞められたみたいで良かった」
知らない間にそんなことになってたなんて知らなかったが、春香が部活を辞めてまでバンドに専念するのは意外すぎた。
オケ部がどういうものか知らないが、選抜で先輩を蹴落としたくらいだから上手い方なのだろう。
「あいつって確か小さいころからヴァイオリンやってるんだろ? そんな簡単にオケ部辞めちゃっていいのか?」
「別に推薦入学でもないしいいんじゃない? 春香自身が決めたことだからアタシらが口出すことじゃないよ。それにバンドにとっては好都合なんだからいいじゃん」
「まあそれはそうだけどよ。プロ目指すわけじゃないならあんま入れ込みすぎないようにした方がいいだろ。ヴァイオリンでプロ目指すのも相当大変だろうけどな」
「春香はそこまで考えてないと思うよ。もうすぐ来るから後でもっかいミーティングってことで」
「みんなプロとか考えてるなんてすごいね。紅は大人になったら龍君のお嫁さんになるって決めてるけどそれだけだもん。そうだ! プロのお嫁さんになろうっと」
「な、なんだよそれ、勝手に決めてんじゃねえ! どうしてお前はそう自分勝手なんだよ!」
「だって約束したでしょ? それとも龍君は紅のことが嫌いなの? 紅がお嫁さんじゃ不満なの?」
「そういうことじゃねえんだっていつも言ってるだろうが。なんでも自分勝手に話を進めるんじゃねえよ」
「紅の人生なんだから自分で決めて何が悪いの? いくら龍君でもそんなの横暴だよ!」
「マジであんたたち面白いよね、クッソウケる。両想いのすれ違いはよく聞くけど、二人は交差し過ぎ刺し合いすぎって感じかな」
なんか意味不明な言い回しだがナオにバカにされてるのだけははっきりとわかる。これもみんなトンチンカンなことを言いやがる紅のせいだ。
人の人生へ踏み込んでおいてそれを指摘されたら横暴とか意味わからな過ぎる。あれでずっと成績は学年一ケタなんだから納得いかない。
人間的には俺の方がかなりまともなのに受験には失敗するし、今の県立でも成績は中の中だ。このまま勉強しても音大へ行くのは無理だろう。
そもそも勉強は嫌いだから進学するつもりはなく、将来はベースで食っていくつもりだ。
だけどそれはまだ先の話、こいつらと一緒に楽しむことが今は最優先。俺がそんな気楽な気持ちなのに、他の奴らが何かを棄てるような真似はして欲しくない。
そのことを上手く伝える自信はないが、やる気がないなんて勘違いだけはされないよう注意しようと考えていた。




