7.大盛り上がりのステージ
学園祭二日目、最初のステージは大盛況に終わった。なんといっても紅の圧倒的な歌唱力が観客の心をとらえたんだろうし、その歌声にミスマッチな魔法少女アニメソングを初めとする選曲のウケも最高だった。
そして迎えた三日目のステージ、魔法少女のOPらしく意味不明でキラキラポップな女児向けのキャッチーソング、そして少し前に流行ったCM曲を全力で演奏した後、本命であるナオ書下ろしのオリジナル曲だ。
春香のヴァイオリンソロから始まって、ナオのシンセと俺のベースで後ろを支える。要所ではトモのトランペットが素晴らしいアクセントになっている。そしてわざわざ作ってもらった俺の見せ場であるソロパートでは気分よくベースを叩きまくった。
しかしそんな俺たちはあくまで前菜、余興、刺身のつまに過ぎない。主役はもちろん紅だ。
広い音域と豊富な声量でどんな曲でも歌いこなし、その立ち振る舞いは歌姫と呼ぶにふさわしい。観客は完全に魅了され歓声を上げて大騒ぎである。
その魅了されている中にはもちろん俺も含まれていた。完全に紅の歌声に酔いしれた俺は、ノリノリでベースをかき鳴らしていた。
このステージは今まで立ったどのステージよりもアツくたぎって最高だ。もちろんアツいのは気持ちだけじゃなく、それは俺のパフォーマンスにも表れる。
最高で最高で最高過ぎてたまらねえ! といい感じで高まった俺は、ステージライトを踏みつけながらヘッドバンギングを繰り返した。だがその高揚した気分はトンデモない形で終演を迎えることになった。
「調子乗り過ぎなんだよ! 汚い音をデカデカとかき鳴らすな! 最初に言っておいたのになんで守れねーんだよ、このバカ!」
歌うのを突然止めた紅は、マイク越しに大声で叫びながら俺の頭へマイクを突き立てた。さらにステージライトへ乗せていた足を蹴飛ばされ、ステージ上へと転がされてしまった。
「紅! なにすんだよ突然! ちゃんと演奏してたじゃねえか!」
「どこがちゃんとなんだよ、独りよがりで自分勝手な演奏じゃないか! いい加減に自重ってもんを覚えろって言ってんだ!」
「そんな言い方はねえだろ! 俺だってノりゃ頭ぐらい振るってもんだ! 大体毎度毎度うるさすぎんだよ!」
俺と紅がステージ上でケンカをはじめてしまったことで客席の熱は一気に醒めたが、その直後には別の興奮が彼らを襲った。
「こらああっ! あなた達! 中止しなさい、中止です!
今すぐに控室へ戻りなさい!」
教師の号令が多目的ホールへ響くと、見に来ていた観客の中の大多数を占める生徒たちが怒号のような大声を上げて騒ぎ出した。
このホールで今日行われているライブはロックが中心だ。それを見に来ているくらいだから、理由はなんであれ騒ぎたくて仕方ない連中が集まっているのかもしれない。
そして、その騒ぎの原因となっていることの一つが俺だと気づかされるのに時間はかからなかった。そりゃ当たり前のことで、あれだけ怒鳴り合えば男の声だと一発でわかるに決まっている。
「ええっと、このバンドは責任者は剛田さんでしたね? もう一度言いますが、今すぐに控室に戻ってください。 後ほど生活指導の先生と行くのでそれまで待っていなさいね」
「は、はい……」
さっきまで大声で俺を怒鳴りつけていた紅は、すっかり静かになって落ち込んでいる様子だ。そりゃステージが強制終了になっただけではなく、外部の男子をバンドへ加えていたことでこれからたっぷり絞られるのだろう。
そんなことを心配しながら、俺たちは大騒ぎの客席を前に気まずい雰囲気の中ステージを降りて控室へと戻った。
「なあ、完全にバレタだろ、どうすんだよ。龍が騒いだせいで紅はきっと停学、アタシらも反省文くらいは覚悟しないとな」
「ふざけんな、なんで俺のせいだよ! 先に仕掛けたのは紅じゃねえか! 勝手にわめいて勝手に停学になりゃいいさ」
「智ちゃん、もういいよ、龍君を責めないであげて。私の考えが浅はかだったんだもん。あの時、私がもっとしっかりしていたらこんなことにはならなかったのよ……」
「あの時? 何のことだ? 俺に女装までさせたくせにこれ以上どうすりゃよかったってんだ!?」
「私は後悔してるのよ、あの時…… 龍君にちゃんと受験勉強させていれば、今こんなことで頭を悩ませることは無かったってね」
「そんなの今更過ぎるだろ、俺だって合格してここに通いたかったさ。でも落ちちまったんだからしょうがねえだろ? なのに全部俺のせいみたいに言われるのは納得いかねえ」
「まあまあ、智ちゃんも紅ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃないよ。龍君だってなにか言われても今更へこむほどやわじゃないでしょ? あんなにはりきっちゃったのは曲作った私にも責任があるしね」
「いやぁ、ナオは全然悪くないだろ。確かに俺が調子のり過ぎたせいだよ、みんな、すまなかった。後で一緒に叱られるからそれで勘弁してくれ」
「龍君は他校生だからそんなのダメだよ。ちゃんと説明したら許してくれるから心配しないで。今日はもう出番もないし、みんなで学園祭に繰り出しちゃおう!」
「そうね、怒られるのはどうせ決まってるんだから割り切った方が得よ。そうと決まったら捕まる前にさっさと行きましょ!」
「春香がそんなこと言うなんてね。紅ちゃんと龍君の夫婦漫才にもすっかり慣れたみたいで良かった良かった」
「ナオちゃんたらそんな恥ずかしいこと言わないでよ。紅はまだ龍君と夫婦じゃないもん。だってさ、いくらお願いしてもキスまでなんだよ? こんなんじゃまだまだ先は長そうだよね」
「だから小さい頃のことをつい最近のように言うのは止めろっての! め、夫婦とかそんなのもさらっと流せばいいだろうに」
「はいはい、こんなのはほっといてアタシらは三人で回ろう。紅と龍は二人でどこでも行っちゃいな」
トモに気を使われた結果、控室を出ていく三人を見送った俺と紅はステージ上よりもさらに気まずい雰囲気になりつつも、取り残された控室の中でさっきの続きをするようにお互いの顔を近づけた。




