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ちぐはぐバンドのラブポップ  作者: 釈 余白
第一章:バンド結成は紆余曲折

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6.直前ドキドキ

 音大付属の学園祭は三日間ある。その二日目と三日目に行われる多目的ホールでの二十分間が俺たちの出番だ。


 出番を待つ間は控室で待機することになっているのだが、あまり他の生徒と一緒にいると正体がばれてしまう。なのでギリギリまで表で待っているよう言われていた。


 とは言え、出番を待つ間に他の四人が学園祭へ繰り出しているのに一人置いてきぼりなのは、いくら俺でも悲しくなってくる。


 そりゃ紅たちにとっては自分の学校なんだから楽しんで当然だ。だけどこんな植え込みの裏でじっとしていろと言うのはひどすぎないだろうか。


 そんな時に聞こえてきたいつもの声――


「龍君、もしかして泣いてるの? 紅に置いてきぼりにされて寂しかった?」


「バカヤロウ、いい歳して泣くわけないだろ。暇過ぎてどうしたらいいか考えてただけだよ。お前たちはちゃんと楽しめてるのか?」


「うん、ばっちり!だから一人で待ってる龍君のためにクレープ買ってきたよ。ここで一緒に食べようと思ったんだけどいいかな?」


「お、おう、もちろん、いいに決まってるだろ。こんな風に二人でお茶するのも久し振りだしな」


「そうだね、最近はみんな一緒で二人っきりは少なかったもんね。じゃあここでこっそりデートだね」


「デートって…… こんな植え込みの裏でか? 百歩譲ってもお茶してるだけだろ」


「じゃあお茶デートでいいじゃん。はい、龍君はアイスコーヒー、紅はミルクティーにしたよ。クレープはどっちがいい? とか言いつつ同じプリンカスタードだけどねっ」


 そう言って二人並んでしゃがみ込むと身体がぶつかって密着する。今更照れる仲ではないが、それでもこれだけ近くにいるとドキドキしてしまう。


 とても口には出せないが、好きな相手と同じ場所で同じことをする幸福感といったらもう最高だ。


 俺にとって紅は特別なやつだし、向こうも俺のことをそう思っていると信じている。だがいざ口に出そうとするとためらってしまうのは単純に照れなのか、それとも不安なのか。


 幸いにも今は周囲に人はいないし植え込みの陰で目立つこともない。記念すべき初ステージだし、ここで自分の気持ちを伝えとくのも悪くないだろう。


「なあ紅?」「龍君……」


「おっと、ごめん、紅が先でいいぞ……」


「紅が後でいいから龍君からどうぞ?」


「そ、それじゃ…… えっとな、俺はお前のことが好きなんだ! 産まれてこのかたずっと、そんでこの先もずっとだ!」


 よし、言ってやったぞ。こんな風に自分の想いを吐き出すのは初めてだけど、言ってしまえばなんてことなかった。だが紅のやつにとってはそうでもないようだ。


「うん、知ってる、龍君の話ってそれだけ? わざわざ言ってくれるのは嬉しいけど今更すぎない? ちっちゃいころは毎日のように言ってくれてたのにね。紅みたいにちゃんと口にしていいんだよ?」


「なんだよそれ、拍子抜けだぜ…… そりゃ別に隠してたわけでもないけど、こうあからさまに言われると情けなさが際立つと言うか……」


「龍君は情けなくなんてないよ! カッコいいし男らしいし勇気もあるし、それに……」


「そんなに褒めてもなにも出ないぞ? もったい付けてるのも絶対裏があるだろ……」


「裏なんてないよ…… 龍君……」


 ポツリとつぶやいた紅が俺を見上げてから静かに目を閉じた。えっ!? まさかこれってここでどうにかしろって合図なのか? いやいやいや、目立たないところにいるとは言え、他人の学校の敷地内でまさかそんなことできるわけないだろ!


「龍君、早く……」


 再び呟いた紅の唇は、うっすらピンク色に染まり少しだけ開かれている。別に紅とキスしたことが無いわけではないが、最後にそんなことをしたのは小学五年生だったと思う。


 その時に初めて紅の胸が膨らみ始めていることに気が付いて、それ以降あいつを女として見るようになってしまい距離を感じるようになってしまった。


 だが目の前にいる紅は、幼いころのような無邪気さを見せている。俺は吸い込まれるように紅と唇を重ねようとした。しかしその行動はクレープによってさえぎられる。


「ごめん龍君、他の子に見られちゃったから今はここまでね。ライブ終わっておうち帰ったら二人っきりになれるからさ。それまで我慢してね」


「我慢って言うか、別にそんなへんなこと考えてねーし。まずはライブを成功させような!」


「うん! 龍君大好き! ずっと一緒にいようね!」


 またこれだ、こうして恥ずかしげもなく簡単に言い切るところは尊敬に値する。だが言われたこっちは恥ずかしくて仕方がないということをわかってほしい。


 俺は火照った顔を冷やしたくて、アイスコーヒーを一気に飲み干し、照れ隠しにクレープを頬張った。



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