5.偽装メンバー
いよいよ学園祭当日がやってきた。俺は他校から参加する『女友達』と申請してあるため校内の男子更衣室を使うのは無理だと言うことになり、家で準備を済ませてから学校へ向かうことになった、のだが――
「百歩譲ってメイクまではいいよ!? でも制服に着替えていく必要ないだろ? 現地でショートパンツの上にスカート履きゃいいじゃんか!」
「絶対ダメ! その辺でスカート履きだす女子なんていないっての。 アンタがおかしなことしたら紅もアタシらもまずいことになるってわかってんの!?」
「わかってるけど家から準備万全で向かうのはダメだ! いくらなんでも最後の一線だけは超えられねえよ!」
「最後って? これが初めてなのにもう最後って決めちゃってるの? 紅はもっとずっとずっと龍君と一緒にバンドやりたいのに…… いくら智ちゃんに冷たくされたからってそんな投げやりなのは酷いよ」
「紅、おい、ちょっと待て? 話がおかしな方向へ行くからお前はとりあえず黙っててくんねえか?」
すると紅は黙ってうなずいてからスマホを取り出し何やら操作を始めると、録音してあった音声が再生された。
『ピポッ』
『「紅に恥ずかしい思いさせない? 助けてくれるの?」
「あ、ああ、大切なお前に恥をかかせられねえからな。 任せろ、なんでもやってやるさ」』
「ね? 龍君はちゃんと約束してくれたんだもん。紅うれしいなぁ」
「紅! それは脅迫って言うんだぞ!? 俺に無理やり言うことを聞かせて、そんなんでいいのかよ!」
「うん、いいよ、紅は龍君と一緒にいるためならなんでもする! もう龍君ママも起こしてきちゃったし諦めて?」
「マジかよ……」
そう言ったか言わないかの内に奥の部屋から母さんが出て来て、メイク道具の入ったデカいカバンをダルそうに持ちながら紅のすぐ後ろに迫っていた。
「まったく朝っぱらからうるさいわねぇ。 龍ちゃんは一番最後ね、念入りにやるからさ。それで紅ちゃん、今日はどういう路線がいいのかな?」
「えっと、魔法少女っぽくお願い。 薫さんって等々力愛ちゃんのメイク担当したことある? あの子が魔法少女のドラマやってた時みたいなのがいいんだけど」
「ああ、直接担当したことはないけどあれならわかるわよ。ラメとかグリッターで盛り盛りにしていいのね。じゃあナオから順番にやっていこうかしら」
「薫さん、よろしくお願いします! 私はシンセだし地味目で平気ですから」
「だめだよ、ナオちゃんもかわいくしてね。目立たないパートなら余計に盛っておかないとダメだよ」
「えー、恥ずかしいから普通でいいよ。私は紅ちゃんたちみたいにかわいくないしさ……」
そんなキャッキャウフフを聞かされている俺はいたたまれない気持ちだが、それでもいよいよ紅と同じステージに立てると言う嬉しさが勝っている。
中学の時には文化祭にステージなんて無かったし、町内会の祭りで許可を出してもらった頃にはケンカしていてうやむやになっていた。
待望のステージに立てるのだから多少の…… 女装の我慢くらいできるさ。なんて考えながら母さんにされるがままメイクを施された。
髪はこの日のためにとずっと伸ばしていたからセットするだけで大丈夫だし、紅たちに言われた通り手足と―― ワキもちゃんと剃ってきた。
「うーん、みんなかわいいよ! Tシャツもお揃いでアガるなー 紅ちゃんは当然として、意外に龍君がかわいくなってるの驚いちゃった。龍君ママってば、さすがプロのメイクさんですね!」
「あらあら、智美はお世辞が上手ね。みんな、今日は楽しんで頑張りなさいね」
「「はーい」」
抵抗むなしくプロの手によりきっちりと女装させられた俺は、女子高生五人によるガールズバンドのベーシストとして学園祭へと向かう。
「ちくしょう、知ってるやつに会わないことを祈るぜ。それにしてもスカートってやつはスースーして落ち着かねえ。お前らはよくこんなもんいつも履いてるな」
「ああ、それには同意するわね。だから私は制服以外のスカートはほとんど履かないもの。紅ほどじゃなくても、せめて智美程度に似合うならまだしも、ね」
「春香と意見が合うなんて珍しいな。だったら明日はズボンにしようぜ? お前も賛成してくれるだろ?」
「ふざけないでちょうだい! どう見ても私よりもあんたの方が似合ってるじゃないのよ。男のくせにその細い脚…… 許せないわ……」
「あー、わかるー 龍のくせに色白だし、身体の線は細いし、おまけに髪の毛もサラサラなんて生意気。春がムカツクの当然だっての、よって龍は有罪!」
「ふっざけんな! なんで俺が有罪とか言われなきゃいけないんだよ! そんなこと言うなら男みたいなしゃべり方のトモだって有罪だろ!」
「ちょっと? あたしのどこがどう有罪なわけ? ちっちゃい頃から紅にベタ惚れのくせに告白一つできないヘタレが!」
「な、な、なにを言いだしてんだよ! そんなの今全然関係ねえし、べ、別に好きとかねえし!」
「紅は龍君のこと好きだよ? 龍君は違うの? 紅の勘違い?」
「だ、だからそう言うことを言ってるんじゃなくて…… 今はな、学祭のことを考えるべきだろってことだよ、そう、そんな感じ」
「あー、あほらし、ホントこのラブコメコンビはさあ。 そんなイチャイチャしたいなら終わってから好きなだけやってろっての。あたしなんてそんな相手一人もいないってのにさー」
「智ちゃんはさ、いろいろと乱暴すぎるんだよ。中学の時も吹部の先輩に告白されたのにひどい断り方したじゃん? あれで噂になっちゃったでしょ?」
「あれでしょ? 名前も忘れたけど練習真面目にやってなかった奴。女子率高いから吹部に入ってみたって感じで初めから気に入らなかったんだよ。しかもその後暴力女とかあれこれ言いふらされてサイアクだったわ」
「でもホントに殴ってなかったっけ? あれ? あんとき俺は停学になってたからあんま覚えてねえわ」
「龍君は智ちゃんがアレコレ言いふらされて激怒してるからやめさせようとしたんだよ。なんでかその時に先輩殴って停学になったんじゃない。それくらい覚えてないなんておじいちゃんだね」
うっすらとした記憶を思い返してみるとそんな気もする。たった二年ほど前なのになんで覚えてないんだろう。それも俺がトモを庇うようなレアケースだと言うのに。
「でもそれって紅ちゃんがけしかけたんだよね? 四人で三年の教室まで行ったから良く覚えてるもん。紅ちゃんが大泣きして智ちゃんがつられて泣いてさ。その後センパイの席を龍君が蹴飛ばして大騒ぎになったよね」
「ああそうだ、今完全に思い出した。紅がなんか知らんがめちゃくちゃ泣きだして、トモまで泣きだしちゃってな。ナオが慰めてるの見てたらなんか頭に血が上って暴れちまったんだった」
「あなたたちって中学のころからめちゃくちゃだったのね。仲がいいのはいいことだけど、今日は暴れないように頼むわよ? 特に紅はステージ上で龍のこと怒鳴ったりしないこと、絶対に!」
「わかってるってばぁ。私はそんなことしないよ、龍君が悪いことしたら別だけどね」
「ダイジョブダイジョブ、プリティスターもちゃんと弾くって。一曲目がOPで次がCM曲、次にオリジナルやって最後にEDだろ?」
「うん、メンバー紹介は私がやるから龍君は絶対しゃべらないでね。あとソロパート以外はボリューム絞ること、約束だよ?」
大人しく言うことを聞いていれば紅が暴走して凶暴化することはない。俺は演奏に夢中になり過ぎないよう注意することを改めて心に刻み、スースーするまたぐらに耐えながらいつもと違う学校への道のりを進んだ。




